第2部 潜在力の発揮と中小企業の役割 

6 海外展開後の課題・リスク

 第3項では、海外展開を開始するために、乗り越えなければならない障壁について見てみたが、本項では、中小企業が、海外展開を継続する際の課題・リスクについて分析する。

■輸出企業が直面している課題・リスク
〔1〕商取引面
 まず、輸出企業が直面している課題・リスクについて見ていく。第2-2-26図は、商取引面の課題・リスクを示したものであるが、4割を超える企業が「現地ニーズの把握・情報収集」、「現地におけるマーケティング」と回答しており、輸出開始時と同様、販路開拓に関する課題に直面している企業が、多いことが分かる。
 
第2-2-26図 輸出企業が直面している商取引面の課題・リスク(複数回答)

第2-2-26図 輸出企業が直面している商取引面の課題・リスク(複数回答)
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〔2〕事業環境面
 次いで、事業環境面の課題・リスクについて見ていくが、始めに、輸出における取引通貨について従業者規模別に見ると、円を利用する割合が最も高く、従業者規模の小さな企業で、その傾向が顕著となっている(第2-2-27図)。
 
第2-2-27図 従業者規模別の輸出における取引通貨(複数回答)

第2-2-27図 従業者規模別の輸出における取引通貨(複数回答)
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 第2-2-28図は、事業環境面の課題・リスクについて示したものであるが、中小企業では円建て輸出比率が高いにもかかわらず、「為替の変動」と回答する企業の割合が最も高い。
 
第2-2-28図 輸出企業が直面している事業環境面の課題・リスク(複数回答)

第2-2-28図 輸出企業が直面している事業環境面の課題・リスク(複数回答)
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 これは、大企業に見られる為替差損だけでなく、第2-2-29図20に示されるように、円高環境下での「海外で他国企業との競争激化」、「取引先からの値下げ要請」等の事業環境の変化が、収益を悪化させているためとも考えられる。

20 集計結果のもととなる調査は、中小企業庁が、2011年8月に、輸出製造企業を中心に、中小企業93社(製造業83社、非製造業10社)に、現場の「生の声」を聴取したもの。
 
第2-2-29図 円高環境下における減益の原因(複数回答)

第2-2-29図 円高環境下における減益の原因(複数回答)
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 それでは、輸出企業は、為替リスクにどのような対応策を取っているのだろうか。第2-2-30図によると、対応策としては、「取引の円建て化」を挙げる割合が高く、従業者規模の小さな企業ほど、その傾向がより顕著に現れている。他方、従業者規模の大きな企業では、「原材料・部品の調達方法の変更」、「経営努力・設計変更等によるコスト減」等、より多様な対応策が取られていることが分かる。
 
第2-2-30図 従業者規模別の輸出企業の為替リスクへの対応策(複数回答)

第2-2-30図 従業者規模別の輸出企業の為替リスクへの対応策(複数回答)
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 第2-2-31図は、円建てのみで輸出を行う企業の効果的な海外販路開拓の取組を示したものであるが、「現地向けの商品開発」、「研究開発を通じた自社製品の差別化」、「低価格品の充実」等の製商品面の取組を挙げる企業の割合が高い。
 
第2-2-31図 円建て輸出企業の効果的な海外販路開拓の取組(複数回答)

第2-2-31図 円建て輸出企業の効果的な海外販路開拓の取組(複数回答)
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 円建て輸出企業にとっては、海外での製商品価格の上昇をもたらす円高環境下においても、海外販路を開拓していくために、商品開発・研究開発等自社の製商品の魅力を高める不断の取組が重要であると考えられる。
 
コラム2-2-3 中小企業の海外展開における知財支援策

 中小企業の海外展開におけるリスクとして、海外での知的財産の侵害、模倣品の増加に対する懸念が挙げられているが21、こうした懸念に対する方策として、海外出願が有効である。

21 前掲第2-2-28図、後掲第2-2-36図を参照。

 近年、中小企業の国内特許出願件数は減少傾向にあるが、2011年の、中小企業の海外特許出願件数は、前年比8.9%増の2,806件となっており、事業の海外展開を踏まえ、海外出願を重要視していることがうかがえる。
 
中小企業の海外特許出願件数の推移

中小企業の海外特許出願件数の推移
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 2011年度に、47都道府県に開設された知財総合支援窓口には、これまでに1,380件(2011年4月から2012年1月までの実績)の海外展開に関する相談が寄せられた。相談内容としては、海外出願手続、進出先国の知財制度情報、模倣被害への対応方法等が多い。以下では、知的財産を戦略的に活用し、海外展開に成功している中小企業の事例を紹介する。

【コラム2-2-3事例 立体包装容器「パットラス」で海外展開する農業ベンチャー】
 茨城県水戸市の農業生産法人である有限会社水戸菜園(従業員10名、資本金300万円)は、野菜を栽培しており、軟弱野菜であるベビーリーフの流通に最適なテトラ型の立体包装容器「パットラス」を開発し、特許の取得によって農業の枠組みを越えたビジネスを展開している。
 同社は、大手企業に模倣されないように、当初から特許化を意識して立体包装容器の開発を行った。パッケージの中央から開封すれば、舟形の皿として使用できることをポイントに、特許を取得し、海外特許出願も行っている。「パットラス」は、そのデザイン・機能が評価されて、これまでに、2007年グッドデザイン・中小企業庁長官賞、2008年世界包装機構ワールドスター賞等を受賞している。
 現在、国際展示会で同社に関心を示したキプロスのハーブ農家に向けて、「パットラス」を輸出しており、売上は好調であるという。
 
立体包装容器「パットラス」、開封状態の「パットラス」

■直接投資企業の現地法人が直面している課題・リスク
〔1〕商取引面
 続いて、中小企業の現地法人が直面している課題・リスクについて見ていく。まず、商取引面の課題・リスクとして、販売拠点を保有している中小企業(以下「販売拠点保有企業」という)は、「現地におけるマーケティング」を、生産拠点を保有している中小企業(以下「生産拠点保有企業」という)は、「現地における品質の管理」を挙げる企業が最も多い(第2-2-32図)。
 
第2-2-32図 現地法人が直面している商取引面の課題・リスク(複数回答)

第2-2-32図 現地法人が直面している商取引面の課題・リスク(複数回答)
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 次に、前掲第2-2-15図において、直接投資の開始に当たって最も必要な条件に、資金的な余裕が挙げられていたことから、現地法人が直面している資金面の課題・リスクを、明らかにしていきたい。
 生産拠点保有企業の約3分の2が、資金面の課題・リスクを抱えており、具体的な内容としては、「現地における資金需要が増加している」、「現地金融機関からの借入が難しい」が、上位に挙げられている(第2-2-33図)。現地においては、企業間信用取引が少なく、現金決済が多いことから、恒常的に運転資金需要があるものの、現地の金融機関からの借入が難しいこともあって、資金繰りに余裕がない可能性がある22

22 海外展開に伴う資金調達支援措置については、第3部第2章第2節コラム3-2-4を参照。
 
第2-2-33図 現地法人が直面している資金面の課題・リスク

第2-2-33図 現地法人が直面している資金面の課題・リスク
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 第2-2-34図に示される対策を見ると、資金調達面では、「親会社からの借入」、「親会社等からの増資」が挙げられており、親会社からの支援に頼る構図が浮かび上がる。
 
第2-2-34図 現地法人が直面している資金面の課題・リスクへの対応策(複数回答)

第2-2-34図 現地法人が直面している資金面の課題・リスクへの対応策(複数回答)
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 また、投資回収年の設定状況を見てみると、投資回収年を設定している企業の割合は4分の1弱となっている(第2-2-35図)。
 
第2-2-35図 生産拠点における投資回収年の設定

第2-2-35図 生産拠点における投資回収年の設定
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 設定年数別に見てみると、5年と回答している企業が、全体の約4割を占め、6年以上の投資回収年を設定している企業も全体の約3割を占めている。適切な投資回収年の設定は、事業の収益性、継続性を見極める上で重要であるが、十分な投資計画を策定しないまま直接投資を行っている企業が、多数ある現状が見て取れる。
〔2〕事業環境面
 また、事業環境面の課題・リスクについて見てみると、販売拠点保有企業は、「為替の変動」と回答する割合が最も高く、生産拠点保有企業は、「人件費の上昇」と回答する割合が最も高い(第2-2-36図)。
 
第2-2-36図 現地法人が直面している事業環境面の課題・リスク(複数回答)

第2-2-36図 現地法人が直面している事業環境面の課題・リスク(複数回答)
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 さらに、各国・地域によって異なる事業環境が、中小企業の現地法人が直面している課題・リスクに、どのような違いを生じさせるかを分析するために、生産拠点設立先として、最も重視されている割合の高い上位6か国について、国別の事業環境面の課題・リスクを見ていきたい(第2-2-37図)。
 
第2-2-37図 国別の生産拠点が直面している事業環境面の課題・リスク(複数回答)

第2-2-37図 国別の生産拠点が直面している事業環境面の課題・リスク(複数回答)
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 為替変動リスクについては、各国に共通して比較的上位の課題として捉えられている。人件費上昇、法制度等の不明瞭さ等差し迫った課題・リスクが、相対的に少ないことの反映である可能性があるものの、韓国、フィリピンでは最大のリスクとなっている。
 人件費上昇や人材確保については、中国やベトナムでは大きな課題となっており、タイやインドネシアでも比較的上位に挙げられている。フィリピンでは、人件費上昇は大きな課題でないが、人材確保には課題がある。
 法制度等の不明瞭さ等は、中国、ベトナム、インドネシアで上位に挙げられている。また、ベトナムやインドネシアは、物流や産業インフラにおける課題が比較的高くなっている。
 
コラム2-2-4 海外事業活動基本調査に見る中小企業のアジアにおける製造業現地法人の財務状況
 
中小企業のアジアにおける製造業現地法人の財務状況(2009年度)

中小企業のアジアにおける製造業現地法人の財務状況(2009年度)
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 前掲コラム2-2-2図〔1〕及び〔2〕で示されたように、中小企業の海外子会社はアジアに位置する割合が高く、海外子会社の業種は、製造業の割合が高い。そこで、経済産業省「海外事業活動基本調査23」により、中小企業のアジアにおける製造業現地法人の財務状況を各国・地域で比較してみたい。

23 海外に現地法人を有する企業を調査対象としている。

【現地法人数・売上高経常利益率】
 現地法人数は中国が最も多く、アジア全体の過半を占めている。売上高経常利益率は、韓国の現地法人が5.1%と最も高い。

【売上・仕入状況】
 売上状況を見ると、現地販売比率は韓国の現地法人が最も高く、日本向けの輸出はほとんど行われていない。他方、ベトナムの現地法人は、日本向け輸出比率が最も高くなっている。
 また、仕入状況を見ると、現地調達比率については、現地販売比率と同様、韓国の現地法人が最も高く、日本からの輸入比率はフィリピンが最も高い。

【利益回収状況】
 国内本社の利益回収状況について、日本側出資者向け支払額(中央値)を見てみると、タイ、インドネシア、シンガポールに現地法人を保有する企業の利益回収額は大きいが、中国、ベトナム、韓国に現地法人を保有する企業は少ない。出資者向け支払額が少ない理由としては、海外から国内への送金に係る制度運用上の問題や海外での再投資、あるいは、回収するほどの利益が出ていないこと等が考えられる。なお、中央値では日本側出資者向け支払額がゼロの国でも、第3四分位値はプラスとなっており、いずれの国・地域でも、比較的上位の企業では、国内への利益還流が行われていることが分かる。
 
コラム2-2-5 直接投資先から国内への資金還流に係る規制・障害

 投資先から適正な利益配分を受けることができるかどうかは、投資決定に係る重要な判断材料の一つであるが、直接投資においては、当該国・地域の規制・障害等により、国内への資金還流が困難となっているおそれもある。
 以下は、直接投資企業の保有する海外の販売拠点及び生産拠点から、国内への資金還流に係る規制・障害の有無を示したものである。販売拠点設立先として、最も重視されている割合の高い上位5か国・地域の中では、中国やベトナムに資金還流に係る規制・障害があり、影響を受けていると回答する企業が多く、生産拠点設立先としては、インドネシアや中国に規制・障害があり、影響を受けていると回答する企業が多い。
 また、「直接投資先に規制・障害があり、影響を受けている」という回答割合が高い3か国についての、アンケート回答企業からの意見をまとめたものを見ると、現地当局の制度運用が、問題となっている可能性が考えられる。今後、国内へ適正な利益還流を行うために、恣意的な制度運用については改善されることが望まれる。
 
直接投資先から国内への資金還流に係る規制・障害
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直接投資企業からの意見
●中国
・国内本社へのロイヤルティ支払に関して、行政側と交渉しているがなかなか認められない。
・行政指導によるロイヤルティ送金規制がある。
・行政側からロイヤルティ料率を引き下げるように要求された。
・地域や担当者によって対応が異なり、ロイヤルティ等の送金が認められない場合があると聞く。
●インドネシア
・ロイヤルティの承認をめぐって、行政側と係争中である。
・行政側からロイヤルティ料率を下げるように指導された。
・昨年まで配当、ロイヤルティを受け取っていたが、ロイヤルティについては合理性がないとして行政側から指摘を受けたため、今年から配当金のみ受領することにした。
●ベトナム
・ロイヤルティの承認手続が長期化することがある(窓口の担当者によって対応が異なる。)。

(注)中小企業庁委託「海外展開による中小企業の競争力向上に関する調査」(2011年11月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株))に回答した、上記3か国のいずれかに販売拠点又は生産拠点を保有する中小企業からの意見。

 前掲第2-2-37図で示した、生産拠点が直面している事業環境面の課題・リスクとしては、人件費の上昇や現地人材の確保等が多くの企業から指摘されていることから、以下では、現地人材の確保状況を詳しく見てみる。職種別では、「熟練工」、「設計技術者」、「生産管理者」について、過半の企業が不足していると回答している(第2-2-38図)。
 
第2-2-38図 生産拠点における現地人材の確保状況

第2-2-38図 生産拠点における現地人材の確保状況
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 中小企業の生産拠点においては、現地人材を数多く雇用しているが、生産管理者として業務に従事している現地人材は、まだ少数であると考えられる。今後、現地人材の活用を一層進めていく上で、現地の生産管理者の確保は、より重要な課題となっていくのではないだろうか。以下では、生産管理者の確保、育成、定着の各段階における対応策について見ていく。
 第2-2-39図は、生産管理者の確保策について示したものであるが、「社内での育成」と回答する割合が最も高く、育成による確保を志向する企業が多いことが分かる。
 
第2-2-39図 優秀な生産管理者の効果的な確保策(複数回答)

第2-2-39図 優秀な生産管理者の効果的な確保策(複数回答)
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 育成策については、「日本人技術者を付けての現地でのOJT」と「日本での技術研修」を挙げており、現地人材による育成は、まだ少ない状況である(第2-2-40図)。
 
第2-2-40図 生産管理者の効果的な育成策(複数回答)

第2-2-40図 生産管理者の効果的な育成策(複数回答)
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 定着策としては、「賃金アップ」とともに「責任のある仕事を任せること」、「会社の将来性を示すこと」、「優秀な人材の抜擢」が、上位に挙げられている(第2-2-41図)。前掲第2-2-32図で、現地における商取引面の最も大きな課題・リスクとして示された品質管理において、現地の生産管理人材の果たす役割は大きい。中小企業にとっては、その確保、育成、定着に、経営課題として取り組むことが重要と考えられる。
 
第2-2-41図 優秀な生産管理者の効果的な定着策(複数回答)

第2-2-41図 優秀な生産管理者の効果的な定着策(複数回答)
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 海外展開を行う中小企業は、商取引面、事業環境面ともに、多くの課題・リスクに直面しており、海外展開を継続していくことは、容易ではない。国・地域によって課題・リスクは様々であり、中小企業は、自社の持てる強みを最大限に発揮していくことはもちろん、信頼できるパートナーや、支援機関の協力を得ることも視野に入れて、海外展開に取り組んでいくことが求められる。
 
コラム2-2-6 中小企業海外展開支援大綱の改訂

 中小企業の海外展開ニーズの高まりを受け、第4回「中小企業海外展開支援会議」(議長:経済産業大臣)を2012年3月に開催し、「中小企業海外展開支援大綱24」を改訂した。

24 詳細は中小企業庁「第4回 中小企業海外展開支援会議」を参照。なお、図中の各支援機関の略称については、コラム2-2-1を参照。
http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/kaigai/120309HS.htm

 日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)、(独)国際協力機構(以下「JICA」という)、(財)海外貿易開発協会、(財)海外技術者研修協会を新たな参加者として迎え、オールジャパンでの支援体制を確立した。
 これまでの支援施策は、海外市場での販路開拓が主であったが、今後は本格的な海外展開を支えるために、よりきめ細やかなマーケティング支援のほか、資金・人材・現地事業環境の整備を含めた総合的な支援施策を講じていく。
 
中小企業海外展開支援大綱の改訂
 
コラム2-2-7 中小企業の現地からの撤退状況

 中小企業の現地法人が、各国・地域において、多様な課題・リスクに直面した結果、現地からの撤退を選択する企業も存在する(コラム2-2-7図〔1〕)。
 
コラム2-2-7図〔1〕 中小企業の撤退現地法人数の推移

コラム2-2-7図〔1〕 中小企業の撤退現地法人数の推移
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 (独)中小企業基盤整備機構が実施した「平成20年度中小企業海外事業活動実態調査25」によると、撤退・移転の理由26として、前掲第2-2-32図の商取引面の課題・リスクで挙げられた、現地の販路開拓や品質確保の問題のほか、「生産コストの上昇」や「日本本社の事業戦略変更」、「現地パートナーとのトラブル」等が、上位に挙げられる27(コラム2-2-7図〔2〕)。こうした要因を背景に、現地から撤退した企業の中には、以下の事例で紹介しているように、撤退経験を踏まえて海外市場に再挑戦する企業もある。

25 全国55,569社の中小企業を対象に、直接投資、業務提携、直接貿易の視点から海外展開の状況等を調査したもの。回収数6,728社。
26 (独)日本貿易振興機構が実施した、現地法人の事業縮小もしくは移転・撤退の理由(大企業も含む。)については、付注2-2-11を参照。
27 同調査における、回答企業の海外拠点の撤退・移転の時期については、付注2-2-12を参照。
 
コラム2-2-7図〔2〕 中小企業の海外拠点の撤退・移転の理由(複数回答)

コラム2-2-7図〔2〕 中小企業の海外拠点の撤退・移転の理由(複数回答)
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事例2-2-12 撤退経験を踏まえ、フォーマルレディスファッションで中国市場開拓に挑む企業

 岐阜県岐阜市のラブリークィーン株式会社(従業員230名、資本金1億円)は、レディスファッションの企画・製造・販売を行う企業である。同社の販売社員は900名おり、全国700店舗の百貨店や量販店で、フォーマルコーナーでの展開と、「BON CILIE」のブランド名で商品を販売しているほか、直営店(「robe de tisse」)も運営している。
 2011年に、中国へ再進出を果たした同社は、2005年に中国からの撤退を経験している。撤退に至った直接的な原因は、売掛金回収の長期化と在庫過多による資金繰りの悪化であるが、現地法人には国内本社からの駐在員を置かず、中国側パートナーに経営を任せきりにしていたことで、国内本社からは、現地法人の経営実態を把握することが、困難になっていたことも大きな問題であったと認識している。
 同社は、撤退の経験を踏まえて、中国への再進出は独資28で行い、国内本社から日本人を常駐させている。経営資源の限られる中小企業にとって、海外展開は資金負担やリスクが大きく、できれば現地パートナーと組んで行うことが望ましいが、よほど信頼できる相手でないと難しいのが実情である。

28 自社の出資比率が100%の出資形態。

 2011年秋に、上海の久光百貨店内に開設した新店舗は、フランスのベルサイユ宮殿をイメージした、富裕層向けの店舗設計を行った。フォーマルファッションに特化して、ドレスだけではなく、アクセサリーやバッグ、靴等を総合的に取り扱う専門店は、これまで中国になかったタイプの店舗である。百貨店と協力して開催したファッションショー等の宣伝活動の効果もあって、早くも結婚式のお色直しのドレスを選ぶ中国人女性たちの注目を集め、順調な滑り出しを見せているという。
 
上海・久光百貨店内のラブリークィーン1号店
 
事例2-2-13 中国人の味覚に合ったフレッシュベーカリーOEM29の先行企業ながら、工場立ち退きを機に撤退し、国内事業への集中を図ることにした企業

29 相手先ブランド名による製品製造。

 静岡県掛川市の株式会社パントーネシステム(従業員80名、資本金7,660万円)は、パンの冷凍生地の製造卸と、パンの宅配事業を全国で展開する企業である。
 同社は、1995年に中国浙江省杭州市に工場用地を確保し、2001年に工場を立ち上げ、冷凍パン生地を生産・販売する事業を行ってきた。パンを食べる習慣のなかった中国であるが、都市部を中心にパンの美味しさが理解されるようになり、市場の伸びが期待されていた。同社の中国での販売先も、スーパーマーケットや、ベーカリー、ホテル、飲食店等多岐にわたっていた。
 しかし、同社は2011年に工場を閉鎖し、中国事業から撤退した。撤退の直接の原因は、工場の立ち退きを求められたことによるものである。経済発展を背景に、旧市街地が手狭になったため、経済開発区に街を移すという理由であった。契約では1995年の用地確保から50年間の土地使用権が認められており、市行政側と交渉を続けたが、周囲の企業が段々と撤退を決めていき、最終的には同社も立ち退かざるを得なかった。
 同社は、工場を移転して再開する予定で、江蘇省昆山市に用地を求めたが、最終的に、中国から撤退して国内事業に集中していくことを決意する。「中国での事業を始めた自分が、いつまでも経営を続けられるのならば良いが、中国における事業上の慣習や雰囲気を知らない後継者に、中国事業を引き継ぐことに迷いがあった。また、中国製の食品による事故が多発したことで、中国で食品を生産していることが、企業イメージに悪影響を及ぼすおそれもあったことから、半年間考え悩んだ末に結論を出した。」と、同社の横山弘会長は語る。
 
同社の杭州工場の作業風景(2011年閉鎖)
 
事例2-2-14 日本のラーメン専門店としてぶれず、香港出店での教訓を活かし、米国・アジア市場を開拓する企業

 北海道札幌市の株式会社アブ・アウト(従業員210名、資本金2,460万円)は、ラーメン店等の飲食店の運営・フランチャイズ等を行う企業である。
 海外市場の拡大を見据え、10年前に「らーめん山頭火」の海外展開を開始した。現在、米国、カナダ、香港、シンガポール、マレーシアに展開しており、今後も海外出店を加速する計画である。日本のラーメン専門店として、ぶれずに味にこだわり、海外でも、「山頭火」のファンを着実に増やしている。
 しかし、同社も、初めての海外事業となる2003年の香港への出店では、苦い思いをした。現地のパートナーを見付け、1号店からフランチャイズで任せてみたが、同社が求める味やサービスの水準を守ることができず、出店から2年で一度撤退をした。その後、必ず信頼と評判を取り戻すという同社の菊田伸一社長の強い意気込みのもと、2008年に、香港への再挑戦となる独資の直営店を出店した。徹底した店舗管理を行った結果、現地で受け入れられ、直営店をもう1店増やしている。直近では、以前に日系の大手流通企業から紹介された、現地市場や雇用慣行等に精通している日系のパートナーにより、フランチャイズでの3号店を出店し、業績も順調である。
 同社の店舗開発の責任者である植田昌紀取締役は、「香港出店の教訓として、いかに問題を早く食い止め解決するかが重要と痛感した。リスクの高い海外展開は、撤退の期限を区切り、事業の継続性を見極めることも必要だ。」との考えで、現地政府の規制や商慣習等の壁に直面しながらも、世界各国を飛び回り、「山頭火」ラーメンが心から好きで信頼できるパートナーの発掘と育成に取り組んでいる。
 
香港店舗内観

 以上、中小企業の輸出及び直接投資について概観してきたが、グローバル化の著しい進展にもかかわらず、大半の中小企業が、輸出及び直接投資を行っていないことが分かった。
 国内経済は低迷しているが、今も世界第3位の経済規模を誇っており、国内で活動していくことを選択する中小企業は多い。また、海外に踏み出す際の障壁や、現地での課題・リスクもあることから、我が国の中小企業の輸出及び直接投資が、短期的に急増するとは考えにくい。しかし、国内市場と海外市場の成長性の差は明白であり、成長を追い求める企業と海外との結びつきは、今後、より強くなっていくであろう。
 我が国経済の屋台骨を支える中小企業が、国外に羽ばたいていくことによって発展を遂げ、現在の我が国の停滞を打破していくことが期待される。


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