第2部 潜在力の発揮と中小企業の役割 

4 海外販路開拓

 前項で示されたような障壁はあるものの、中小企業の更なる発展のためには、国内で潜在化している強みを発揮して、海外市場を開拓していく必要があると考えられる。そこで、本項では、中小企業の海外販路開拓について、重視している国・地域や、取組の状況を見ていく。

■最も重視している国・地域
 第2-2-16図は、輸出企業が最も重視している輸出先を示したものであるが、中国が最も高い割合を占めており、次いで北米、韓国、台湾が挙げられている。市場規模が大きい国・地域や、我が国と地理的に近い国・地域が、輸出先として重視される傾向にあることが見て取れる。
 
第2-2-16図 最も重視している輸出先

第2-2-16図 最も重視している輸出先
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 また、第2-2-17図は、直接投資企業が最も重視している直接投資先を、販売拠点設立先と生産拠点設立先に分けて示したものである。販売拠点設立先、生産拠点設立先12ともに、中国が過半を占めて最も高く、タイが続いている。販売拠点設立先では、北米が3番目に重視されているものの、直接投資先全体としては、アジアの国・地域が上位に並んでいる。

12 第2-2-17図の最も重視されている直接投資先のうち、生産拠点設立先について、当該国・地域を最も重視している理由を、付注2-2-5で示している。
 
第2-2-17図 最も重視している直接投資先

第2-2-17図 最も重視している直接投資先
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■海外販路開拓の取組
 中小企業の効果的な海外販路開拓の取組がどういったものであるかを、海外に販売拠点を保有していない輸出企業と、保有している輸出企業に分けて、取組の状況を比較した(第2-2-18図)。
 
第2-2-18図 効果的な海外販路開拓の取組(複数回答)

第2-2-18図 効果的な海外販路開拓の取組(複数回答)
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 「現地向けの商品開発」、「研究開発を通じた自社製品の差別化」、「低価格品の充実」等の製商品に関する取組は、販売拠点の有無にかかわらず、効果的と回答する割合が高く、販路開拓においては、自社製商品の充実・差別化が重要であることを示す結果となっている。
 以上、中小企業の海外販路開拓の状況を概観すると、成長性が高い国・地域や、市場規模が大きな国・地域が、海外展開先として重視されていることが分かった。高品質な製商品やサービスの開発力、マーケティング力、アフターサービス、柔軟な対応力等の中小企業の強みを、海外販路開拓においても発揮することが、重要である。以下では、中小企業が潜在力を発揮して、海外販路開拓に取り組んでいる事例を示す。
 
事例2-2-6 高級感のある江戸切子のランプで、アジアの富裕層市場の開拓に挑む企業

 東京都江東区の株式会社江戸切子の店華硝(従業員10名、資本金300万円)は、江戸切子の器やランプ等の製造・販売を行う企業である。
 同社は、創業以来、大手硝子メーカーの下請であったが、自社製品の開発を志し、1990年代初めに、工房直営店と自社ホームページを用いた直接販売へと転換した。同社の江戸切子は、伝統的な意匠、手仕事によるカットや磨きを保ちつつ、独自の繊細な模様を表現しており、現代の感覚に合った高い芸術性は、国内外で高い評価を得ている。2008年の北海道洞爺湖サミットでの贈呈品に採用されたこともあり、海外からの注文や問い合わせも多く、海外の賓客が地図を携えて工房直営店を訪れることもある。
 同社は、今後、更に海外市場を開拓すべく、中国を始めとしたアジアの富裕層に、自社製品を売り込んでいく意向である。中国での市場調査やこれまでの取引から、アジアの富裕層の購買力に着目しており、製品の高級化戦略を打ち出している。
 同社取締役の熊倉隆一氏、熊倉隆行氏の親子は、「いわゆる伝統工芸は、日本を意識しすぎているが、海外では伝統工芸を前面に出しても受け入れられない。伝統工芸の枠にとらわれず、海外現地の嗜好を酌み取り、現地市場で受け入れられる商品づくりを行っていく必要がある。」と語る。
 
海外市場も意識したラグジュアリーな江戸切子ランプ
 
事例2-2-7 地元自治体とも連携し、全国の若手グラフィック・デザイナーの作品を海外に発信する事業に取り組む企業

 宮城県仙台市の今野印刷株式会社(従業員47名、資本金5,000万円)は、印刷業を中心に、マルチメディア技術等を活用して事業領域の拡大に取り組む企業である。同社は、仙台市が推進するクリエイティブ・クラスター・コンソーシアム活動に参加している。
 同社の橋浦隆一社長は、年賀状事業の実績を通じて蓄積した国内でのカード事業に関する同社のノウハウを活かすことで、クラスター活動を推進しようとする中で、巨大市場である米国のグリーティングカード市場に、ジャパニーズ・グラフィック・アートでデザインされた商品がほとんどないことに気付き、ここに着目すれば事業化ができると考えた。そこで、市内のデザイン事務所のオーサムクリエイト株式会社と連携し、‘tegami(テガミ)’ブランドを立ち上げ、日本全国の若手デザイナーにカードデザインを依頼する仕組みを構築した。
 ジェトロ仙台の支援を受け、2011年1月にはニューヨーク国際ギフトフェアを視察し、次回のフェアに出展するために、活動の方向性を企画していた。その矢先、東日本大震災と余震により、同社の印刷設備が被害を受け、本業が操業停止に追い込まれることとなった。
 橋浦社長はフェアへの出展を見送ることも考えたが、「頑張ることができる企業が頑張ろう、地域を元気付けるためにも地域の中小企業が海外展開に挑戦している姿を見せよう。」と出展を決めた。2011年8月の初出展では、ブースデザインを国際的にも評価が高い地元仙台市のインテリア・デザイナーの尾形欣一氏に依頼し、ジャパニーズ・グラフィック・アートの世界観の表現に挑戦した。
 出展後、ニューヨークの文具用品店等数件の商談がまとまったほか、日本の若手デザイナーの作品をカードで表現する手法が、新たな日本文化の発信方法として評価され、デトロイト日本商工会等からの声がけを受けている。
 橋浦社長は、「仙台にクリエイティブ・クラスターを形成したいという地元自治体の活動に、地元企業として、全国のデザイナーが、海外と有機的につながるための拠点機能を担おうと参加している。震災により半ば諦めそうになったが、これまでに築き上げてきたネットワークを強みとして、事業を更に発展させていきたい。」と語る。
 
ニューヨーク国際ギフトフェア2012冬展における出展ブース
 
事例2-2-8 インドに進出し、携帯電話・スマートフォン向けのコンテンツ配信事業を行う企業

 京都府京都市の株式会社ゼロ・サム(従業員17名、資本金2億円)は、携帯電話・スマートフォン向けシステムの研究・開発・インテグレーションに強みを持ち、海外モバイルコンテンツ市場向けコンテンツ及びアプリケーション配信を行う企業である。
 2004年創業の同社は、現在、インドで、携帯電話・スマートフォン向けコンテンツ配信という新しい市場を開拓しつつある。2007年1月に現地子会社を設立し、同年10月に現地携帯電話会社に対し、コンテンツ配信サービスを開始した。当初は、日本のゲームや着信メロディ、壁紙等をそのまま配信することを考えていたが、実際に壁紙の配信を行ってみたところ、ほとんど反響がなかった。理由を探るため現地でのマーケティングを行うと、インドで受け入れられるコンテンツには、占い、映画、クリケット、宗教系のいずれかの要素に絡んでいるという共通点があることが分かり、現地の文化に合ったものを提供する必要性を実感した。
 そこで、世界で最も進んでいる日本の携帯電話・スマートフォン向けの最新技術と、現地のコンテンツを組み合わせることで、差別化を図るという方針を立てた。つまり、現地のローカルコミックの権利を多数取得し、日本の先端技術を採用した配信システムを用いて、コンテンツを配信する事業を開始したのである。現地での評価は高く、インドのほとんどの通信事業者と契約するに至っているという。
 インフラ整備の遅れから、データ通信、コンテンツ配信は発展途上の段階にあり、ビジネスとして大きく成長するのは、これからであるが、同社の菊池力社長は「約8億人が携帯電話を使うインドは、市場として非常に有望であり、しかも市場規模は、これからますます大きくなるだろう。参入余地もまだまだ十分にある。」と言う。
 
インド初となる本格ビューア搭載モバイルコミックサービス
 
事例2-2-9 国内事業を補完する海外展開により、過去最高の業績を達成した企業

 京都府宇治市の京都精工株式会社(従業員25名、資本金1,000万円)は、自動車や家電製品の部品メーカー向けの各種検査装置を設計・製造する企業である。主力製品である気密性検査装置や画像検査装置は、受注少量生産品であるため、海外生産によって、製造コストを大幅に引き下げることは、期待できない。しかし、国内市場の大幅な成長が見込めないことや、海外展開している顧客からの要請があったことから、中国広東省佛山市への進出を決断し、2008年に佛山工場の操業を開始した。
 中国進出が同社にもたらしたメリットとして、既存顧客との取引が継続できたことが挙げられる。グローバル展開の加速により、顧客の国内工場と中国工場における設備の共通化及び設備の現地調達ニーズが高まっているが、日本と中国に生産拠点を設けた同社は、顧客のニーズに応えることが可能となった。また、顧客が負担する装置の据付け等の費用が、京都本社が行う場合に比べて半分程度となり、修理等のアフターサービスの利便性も高まった結果、既存顧客からの受注を継続することができた。
 さらに、佛山工場での受注を契機に、これまで取引のなかった部品メーカーから、国内向けにも注文を受けるなど、国内本社の受注増加につながった。そして、佛山工場で受注した仕事のうち、佛山工場の技術水準では対応できない、装置の仕組みを検討し設計するまでの工程については、国内本社が引き受けることにより、国内業務の高付加価値化が図られた。
 このように、国内事業と補完関係を築けるような海外展開に取り組んだこともあり、同社は2011年6月期決算において、1995年の創業以来で最も高い売上高と利益を達成することができた。また、受注増に対応するため国内の従業者数を中国進出前よりも増やしている。佛山工場の生産能力向上に伴い、今後は、中国からインドネシアやタイへの輸出も見込んでいるという。
 
同社の製造するエンジンブロック圧検機
 
事例2-2-10 生き残りをかけてタイに進出し、国内でのモノづくりや雇用を守っている企業

 東京都大田区のフィーサ株式会社(従業員70名、資本金4,000万円)は、プラスチックの射出成形用金型に取り付けられるノズル等を製造・販売する精密機械器具メーカーである。PLAGATEシステムと呼ばれるこのノズルは、溶けた樹脂を金型に充填するための装置で、バルブゲート方式という特殊な構造によって、原材料を節約しながら高速成形することが可能であり、メンテナンスも容易である。
 取引先の自動車・家電メーカーがアジア等へ進出し、国内市場が縮小する中、同社は、生き残りをかけてタイへの進出を決断し、2009年にアマタ・ナコーン工業団地内の中小製造業向け賃貸工場「オオタ・テクノ・パーク」に入居した。金型のメンテナンス事業を立ち上げるとともに、金型の受注代行業務やノズル部品の生産も行っており、2011年に発生した洪水による被害もなく操業を続けている。
 「大田のモノづくりは文化だ。モノづくりを残したい。」という強い信念を持つ同社では、製品コピー防止のために、製品の心臓部は、日本で製造している。さらに、中国江蘇省蘇州市の金型メーカーとの提携のもと、本業であるノズルの生産加工に加え、金型のメンテナンス・サービス、金型の受注代行という3事業の相乗効果によって、タイでの注文が増えれば日本でも仕事が増える仕組みを構築し、日本国内の雇用を維持している。
 進出当初は、リーマン・ショックの影響等を受けてタイでの生産開始が大幅に遅れ、撤退の危機に追い込まれたが、関連会社からの資金支援や人事体制の刷新等により、難局を乗り切ることができた。同社の斎藤進社長は、「茨の道を強引に突き進む断行力とあきらめない図太い精神で、攻めの姿勢を守ったからこそ今がある。国内に残っていたら厳しい結果しか見えなかった。」と語る。
 
同社のタイ工場内部
 
事例2-2-11 日本的なものづくりを実践しながら、米国の現地法人において高い人材定着率を実現している企業

 大阪府河内長野市の株式会社ナカテツ(従業員333名、資本金8,000万円)は、自動車向けベアリングの鍛造・切削加工・熱処理を行う企業である。
 同社が米国に進出したきっかけは、顧客企業からの強い要請である。米国でのベアリング需要の増加に対応するために、顧客企業との合弁で、ベアリングの切削加工を行う現地法人(Nakatetsu Machining Technologies, LLC)を、テネシー州ワシントン郡に設立した。
 現地法人の最大の特徴は、日本式経営や日本独特の切削技術を、米国に持ち込み実践している点である。生産設備は全て日本から持ち込み、日本式製造技術を現地従業員に習得させるべく注力している。その一方で、従業員の要望を受けて、米国の生活様式に合致した勤務体制にするなど、日本的スタイルと米国的スタイルを融合させている。
 操業開始直後は、当初予定の半分程度しか受注が確保できず、苦境に立たされたが、その間リストラを行わずに雇用を守り、従業員の技能訓練・技術教育に力を注いだ。このように、ピンチを人材育成のチャンスに変えたことが、その後の受注回復、増産を果たす上で大きな力となった。
 現在、日本のものづくりの良さを更に深く移植すべく、建物の一角に、地名をもじり「ワシントン道場」と名付けた訓練センターを設け、従業員の技術・技能の教育水準の引上げを行っている。また、管理職の登用については、当初、米国で一般的な外部採用を行っていたが、日本的人事システムの特徴である内部昇格を拡大したいという社長の方針を実現すべく、人材育成に取り組んでいる。年に数回、現地従業員数名に、「日本研修(10日間)」として、マザー工場(徳島工場)にて現場研修を行い、同時に「KAIZENの仕方」、「設備保全技術」、「加工技術の全て」並びに「日本式労使関係」等を学ばせている。こうした地道な取組が実を結び、人材定着率は高く、現地従業員や地域住民より、同社の経営手法に対して厚い信頼が寄せられている。
 
米国工場外観、ワシントン道場



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