第2部 潜在力の発揮と中小企業の役割 

3 海外展開の際の障壁

 前項において、海外展開を行っている中小企業は、中小企業全体から見れば範囲が限られており、業種や事業規模にも一定の傾向があることが確認された。海外市場に挑戦するためには、乗り越えなければならない課題や条件があり、それらが、中小企業の海外展開の際の障壁になっていると考えられる10。そこで、本項では、中小企業が海外展開を開始するための条件について見てみる。

10 障壁を乗り越えて海外展開に取り組む中小企業は、主に本項及び次項で取り上げている。

■輸出を開始するための条件
 「海外展開による中小企業の競争力向上に関する調査11」により、中小企業が輸出を開始するために必要な条件を見ると、5割を超える企業が、「販売先を確保していること」、「信頼できるパートナーがいること」を挙げており、販売先の確保に関することが重視されている(第2-2-14図)。また、「輸出先の法制度や商慣習の知識があること」、「輸出先の市場動向についての知識があること」、「輸出に詳しい人材を社内に確保していること」と回答する企業の割合も比較的高く、輸出先や輸出業務に関する知見が求められていることもうかがえる。

11 中小企業庁の委託により、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が、2011年11月に中小企業約37,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率17.4%。ただし、大震災により甚大な被害(津波被害、地震被害等)を受けた岩手県、宮城県、福島県に本社が所在する企業は対象外とした。
 
第2-2-14図 輸出を開始するために必要な条件(複数回答)

第2-2-14図 輸出を開始するために必要な条件(複数回答)
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事例2-2-4 アジア市場を開拓する長年の取組が実を結び、自社製品の輸出を実現した企業

 山口県山口市の株式会社ワールドガレージドア(従業員18名、資本金1,000万円)は、木製ガレージドアをオーダーメイドで製造・販売する企業である。1991年の創立以来行われてきた、高級感のある木製にこだわった製品開発が、大手メーカーにも認められ、その取引関係を通じて、日本全国幅広い地域で顧客からの支持を得ている。
 同社の店村圭祐社長は、7年ほど前から、急速な経済成長が続くアジア市場に関心を持ち、中国語版製品カタログや龍の彫刻を施した製品サンプルを製作し、地元自治体が主催する海外商談会に参加するなど、市場開拓に取り組んできた。2009年に参加した台湾での商談会では、すぐに成果となる実績を上げることはできなかったが、2011年秋、同社がアジア市場での販路開拓に継続して取り組んでいることを知っていた取引先大手メーカーからの紹介により、台湾の顧客からの注文を獲得し、初めての自社製品の輸出を実現した。
 店村社長は、「今回の受注で、当社の製品を海外に展開する方法として、どのような取組が必要であるかが分かってきた。これまでに様々に取り組んでもうまくいかなかったが、今になって思えば、失敗を自ら経験することで、学べたことも多かった。」と話す。今後の海外展開については、「本物の木製ガレージドアの感動をお届けするため、国内でやれること、やるべきことはまだまだ多くある。繊細な感性を持つ日本人に評価され続ける製品づくりがあってこそ、海外でも評価される。」と、顧客からの要望等をもとに製品の改良・開発を継続するなどにより、国内での着実な展開を図りつつ、販路の一つとして取り組んでいきたいとの姿勢である。
 
同社の木製ガレージドア

■直接投資を開始するための条件
 次いで、中小企業が直接投資を開始するために必要な条件を見ると、輸出の場合と同様、販売先の確保や現地事情への精通に加え、最も必要なこととして「企業に資金的な余裕があること」が挙げられている(第2-2-15図)。特に、生産拠点を設立する場合等は、準備資金等に加えて設備資金が必要なこともあり、相応の企業体力が求められていることが見て取れる。
 
第2-2-15図 直接投資を開始するために必要な条件(複数回答)

第2-2-15図 直接投資を開始するために必要な条件(複数回答)
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事例2-2-5 地域への愛着とこだわりを持ち、中国市場に挑む和食レストランを運営する企業

 静岡県静岡市の株式会社なすび(従業員256名、資本金1,500万円)は、和食を中心としたレストランの企画・経営、ケータリング事業等を行う企業である。地域密着型の経営を推進しており、県内に12店舗を展開している。各店舗は、冠婚葬祭から普段の食事まで様々な利用形態に応じて、店舗の業態・ブランドを変え、多様な顧客のニーズに対応している。
 同社は、2006年に中国浙江省に現地法人を設立し、2007年に同省杭州市に海外1号店となる「日本料理杭州なすび」を開店した。その後、2009年に杭州市内に「十千花前」、2011年に上海市内に「日本料理上海なすび」を矢継ぎ早に出店し、中国で計3店舗を運営している。杭州市の店舗は、現地の顧客の好みに合わせてメニューを研究したことで、今では現地の顧客が8割を占めている。一方、上海市では、日本で成功した業態別の店舗展開が適合しないと見るや、「なすび」ブランドに統一して事業のスピードと認知度の向上を図るなど、事業モデルを柔軟に変更している。また、2009年に輸出酒類卸売業免許を取得し、中国において、静岡の日本酒を販売することで、店舗運営と物販による相乗効果を高めている。
 同社は、2001年に海外展開準備室を立ち上げ、海外視察を繰り返すとともに、人脈を培ってきた。浙江省杭州市への出店は、そうしてできた信頼できる現地パートナーとの縁から決定したものである。中国では、人のつながりが重要であり、多くの企業がつまずく店舗の出店についても、同社はこれまでの人の縁をたどり、現地の有力ホテルへの出店が可能となるなど、スムーズな立ち上げができた。
 同社の藤田圭亮社長は、「中国においては、法制度等の変更が頻繁にあることに加え、人件費や家賃等が高騰しており、利益を増やしていくことは容易ではない。自社単独で積極的な設備投資を行うことはリスクが高く、信頼できる現地パートナー等からの出資を仰ぎ、リスクを抑えて経営することが重要である。」と指摘する。
 
中国浙江省杭州市「十千花前」



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