第2部 潜在力の発揮と中小企業の役割 

2 産業集積を活かした発展

 ここでは、東北地方の産業構造と復興の牽引を期待される産業について見ていく。

■東北地方の産業構造
 第2-1-5図は、全国と東北地方の経済活動別(産業別)GDPの構成比を示したものである。東北地方は、全国と比べて、農林水産業及び鉱業、製造業のGDPに占める割合が高い。東北3県を個別に見ると、岩手県では農林水産業、宮城県では運輸・通信業、福島県では鉱業、製造業のGDPに占める割合が、全国と比べて高くなっている。
 
第2-1-5図 全国と東北地方の経済活動別(産業別)GDPの構成比

第2-1-5図 全国と東北地方の経済活動別(産業別)GDPの構成比
Excel形式のファイルはこちら


 次に、製造業について、各地域の創出する付加価値額の構成比を見ていく。東北地方では、食料品製造業、電子部品・デバイス・電子回路製造業、非鉄金属製造業、情報通信機械器具製造業の構成比が、全国と比べて、特に高くなっている。東北3県で見ると、岩手県、宮城県では、食料品製造業や電子部品・デバイス・電子回路製造業が、福島県では、電子部品・デバイス・電子回路製造業に加え、情報通信機械器具製造業が、全国と比べて高い割合を占めている(第2-1-6図)。
 
第2-1-6図 全国と東北地方の製造業付加価値額の産業別構成比

第2-1-6図 全国と東北地方の製造業付加価値額の産業別構成比
Excel形式のファイルはこちら

 
コラム2-1-2 東北3県において中小製造業が創出する付加価値額の割合

 ここでは、東北3県の製造業における中小企業の役割を見ることとする。以下は、縦軸に、中小企業の付加価値額の割合をとり、横軸に、各業種の付加価値額の全国又は各県全体の付加価値額に対する割合をとっている。特に、濃色の部分は、全国と比べて、中小企業の付加価値額の割合が高く、かつ、その県に特化している4業種であり、これらは、中小企業が支える東北地方の主要産業といえよう。岩手県では食料品製造業や金属製品製造業等が、宮城県では食料品製造業や電子部品・デバイス・電子回路製造業等が、福島県では電子部品・デバイス・電子回路製造業や情報通信機械器具製造業等が該当する。

4 特化係数1を基準にし、1以上であれば、全国と比べて、その業種に特化しているとしている。特化係数とは、ある業種の付加価値額が地域全体の付加価値額に占める割合を、全国の当該業種の占める割合と比較したものであり、その地域が全国の平均的な産業構造の姿と比べて、どの業種に特化しているかを示すものである。

 
東北3県において中小製造業が創出する付加価値額の割合

 第2-1-7図は、東北地方の産業集積地域5の業種別中小製造業付加価値額を示したものである。これを見ると、いずれの産業集積地域においても、食料品製造業が上位3位に入っており、豊富な農水産物をもとに加工産業が発達し、地域の重要な産業になっていることが分かる。他の産業の集積状況を見ると、八戸地域、北上川地域では輸送用機械器具製造業の、福島県の各集積地域では化学工業の付加価値額の割合が比較的高く、福島県内陸の集積地域では情報通信機械器具製造業の付加価値額の割合が高くなっている。

5 東北経済産業局「東北地域におけるものづくり企業の成長基盤形成に向けた産業集積のあり方に関する調査」(2005年3月)において、東北地方の主要な産業集積地域として選定された11地域のうち、災害救助法適用市区町村を含む県に存在する産業集積地域。
 
第2-1-7図 東北地方の産業集積地域の業種別中小製造業付加価値額の割合

第2-1-7図 東北地方の産業集積地域の業種別中小製造業付加価値額の割合
Excel形式のファイルはこちら


■東北地方の復興の牽引を期待される産業
 東北地方の復興を牽引する産業として重視されている産業6のうち、自動車産業と医療機器産業について見ていく。

6 コラム2-1-5を参照。

 東北地方の自動車関連企業等の分布を示したものが、第2-1-8図であるが、自動車関連企業は、幹線道路沿いの内陸部を中心に集積しており、大学等の研究・教育機関も自動車関連企業の立地地域と重なる地域に立地している。コラム2-1-3のとおり、大手自動車メーカーが生産拠点を統合し、現地調達や人材育成に取り組む動きがあり、地域の産業集積が更に進展していく状況にある。こうした産業集積の中で、小ロット・短納期への対応力や技術力に強みを持った中小企業の潜在力が発揮されることが期待される。
 
第2-1-8図 東北地方の自動車関連企業等の分布

第2-1-8図 東北地方の自動車関連企業等の分布

 
コラム2-1-3 トヨタ自動車東日本(株)の設立に向けた動き

 トヨタ自動車(株)の子会社である、関東自動車工業(株)、セントラル自動車(株)、トヨタ自動車東北(株)の3社は、2012年7月に統合新会社・トヨタ自動車東日本(株)を発足させる基本契約を締結した。新会社は、世界No.1の魅力あるコンパクト車を提供するため、コンパクト車でも収益を出せる経営体制、技術力の強化、東北現調化センターの新設等による地域と一体となったものづくり、トヨタ東日本学園の設立による中長期を見据えた人づくりを当面の重点施策として取り組んでゆく。

 次に、医療機器産業について見ていく。第2-1-9図は、2000年以降の、中小製造業の医療用機械器具等の付加価値額の推移を見たものであるが、東北地方の中小企業による医療用機械器具等の製造は、徐々に伸びてきている。特に、福島県では2002年以降、付加価値額が100億円を超えており、東北地方の中でも有数の医療用機械器具等の生産地となっている。中小製造業に占める医療用機械器具等の割合は、全国で見ても東北地方で見ても、上昇傾向にあるが、東北地方の伸び率は、2007年以降、特に大きくなっている7

7 地域別の中小医療用機械器具等の付加価値額の推移は、付注2-1-3を参照。
 
第2-1-9図 中小企業の医療用機械器具等の付加価値額の推移

第2-1-9図 中小企業の医療用機械器具等の付加価値額の推移


 被災地域の特色・強みを活かし、地域の雇用と産業を創出するため、東北の革新的な医療機器等の開発支援が行われ、その動きは加速してきている。従来、東北地方には、医療機器産業で競争力のある企業の工場が立地しており、そこへ部品等を納入する地場の中小企業が多く存在する。また、東北地方の多くの大学において医療機器等の研究開発が進められている。このような条件のもと、各県でも医療機器産業の集積を促進させており8、今後の東北地方の医療機器産業の成長が期待される。

8 コラム2-1-4を参照。

 特に、福島県においては、放射線治療や除染技術の研究開発の支援が行われており、世界に通じる放射線関係の技術の集積、研究開発拠点が生まれようとしている。こうした中で、自動車産業の集積における場合と同様、中小企業が強みを活かしていくことが期待される。
 
コラム2-1-4 うつくしま次世代医療産業集積プロジェクト等

 東北地方の各県は、医療機器産業の集積の推進を行っているが、特に、福島県は、全国有数の医療機器生産県であり、また、福島県立医科大学や、日本大学工学部、福島大学、会津大学においても医療機器関連の研究開発が積極的に進められている。
 このような特長を活かし、同県では、産学官の連携により医療機器関連分野の産業振興と集積を図るため、2005年度から「うつくしま次世代医療産業集積プロジェクト」を実施している。同プロジェクトでは、研究開発、企業支援、販路開拓、人材育成を4本柱とし、医療関連産業の振興を通じて地域経済の活性化を図っている。今後も、これらの取組を推し進めるとともに、平成23年度第3次補正予算関連事業を有効に活用し、世界に誇れる医療機器設計・製造の拠点形成を目指していく。

うつくしま次世代医療産業集積プロジェクトの概要
Plan1 医療福祉機器研究会の開催
○受注開発及び製造に当たっての留意点や医療機器の最新トレンド等の発信による、会員の技術開発を促進する。
Plan2 ビジネスマッチングの実施
○県雇用のプロジェクトマネージャーが県内企業を訪問し、県内外の医療機器関連メーカー、大学等研究機関とのマッチングを図るほか、大学研究者からの試作案件等の紹介、外部研究資金の取得支援等を行う。
Plan3 大学技術シーズを活用した医療機器研究開発の促進〜民間主導の事業化チームが強力にサポート〜
○文部科学省等が実施する「地域イノベーション戦略支援プログラム(グローバル型)」により、日本大学工学部が有する「ハプティック(触覚)」技術を活用した研究成果に、光技術、微細化技術、情報処理技術を加えた、先端的診断機器及び治療器具の開発と事業化を目指す。
Plan4 医工連携人材育成セミナーの実施
○県内のものづくり企業が医療機器メーカーや大学との連携を図り、機器開発等を進める上で必要な知識の習得を目的とするセミナーを実施する。
Plan5 中小企業への薬事法許認可支援
○異業種から医療機器製造業への新規参入を強力に後押しするため、担当職員による支援を行う。
○企業戦略やより専門的な知識が必要となる場合は、県外から専門家を派遣し、個別コンサルティングを行う。
Plan6 中小企業への販路拡大支援
○中小企業が有する技術力を国内外にPRするほか、国内外の医療業界関係者とのマッチングを支援する。
・医療機器設計製造展示会&技術セミナー「メディカルクリエーションふくしま」の開催。
・メディカルショージャパン&ビジネスエキスポへの「ふくしまパビリオン」の出展。
・海外展示会への出展(ドイツMEDICA、韓国KIMESへの福島県ブース出展)。

東北各県の医療機器産業集積への取組
○青森県
 2011年にライフイノベーション戦略を策定し、医療産業の集積を図る。大手精密機械器具製造グループの子会社が牽引している。
○岩手県
 2007年度から医療機器関連産業創出推進事業として、医療機器事業化研究会の設立や各種セミナーの開催、医療系大学の医療機器ニーズ調査等の取組を実施している。
○秋田県
 2007年に、秋田県資源リサイクル医療関連産業集積基本計画を策定し、医療関係産業の集積を進めている。人工透析等の製品を製造する大手企業に納品する中小企業が多く存在する。
○宮城県
 2008年にみやぎ高度電子機械振興協議会、2009年に医療関係の研究会を立ち上げ、地元企業や行政の参加により地場企業の県外取引の振興を図っている。
○山形県
 医療機器産業参入検討セミナーを開催しており、2011年に策定した山形産業振興プランにおいても、医療分野の産学官連携や企業立地を今後の重要課題としている。
 
事例2-1-1 医療機器関連のメーカーや研究機関が集積する福島県において、産学官連携により医療機器分野での開発に取り組む企業

 福島県会津若松市の株式会社ピーアンドエム(従業員25名、資本金300万円)は、空気圧制御機器用部品等の受託加工のほか、マイクロアクチュエータ等自社製品の開発・設計・製造を手がける企業として、1998年に設立された。
 医療機器分野への参入のきっかけは、工学技術を医療分野に活用したいと考えていた日本大学との産学連携である。
 2002年度からは、「福島県知的クラスター形成事業」や文部科学省「都市エリア産学官連携促進事業」等の産学官連携プロジェクトに参画している。日本大学が開発した触覚(ハプティック)技術を活かして、人間の手の感覚に近いセンサーを搭載した医療機器等の開発に取り組み、生体組織の硬度や凹凸を測定する走査型ハプティック顕微鏡の実用化に成功した。
 従来、肝臓手術や動脈血管のバイパス手術等を行う臨床現場では、手で患部に触れながら硬さ・軟らかさを診断するが、これらを定量的に評価することは、困難であった。一方、この装置では、被検物の硬さを数値化するとともに、画像化することができる。
 2009年から同社ブランドとして販売しており、国内外の大学・研究機関において、前立腺がんの解析システムの開発や再生医学の確立に向けたプロジェクト等で利用されている。
 地元の福島県では、産学官の連携により医療機器関連分野の産業振興と集積を図るため、「うつくしま次世代医療産業集積プロジェクト」が推進されるなど、医療機器関連の開発機運が近年盛り上がりを見せていたが、「大震災によって一気に萎んでしまった。」と同社で開発リーダーを務める山口隆義氏は指摘する。こうした状況の中でも、同社は「少しずつでもできることを継続していきたい。」として、2011年6月頃から再び研究開発に注力するとともに、県内の商社と連携しPR方法や販売方法について検討するなど、ものづくり中小企業の弱点でもある営業・販売力の強化に取り組んでいる。
 
走査型ハプティック顕微鏡/同装置の測定結果
 
事例2-1-2 高圧洗浄機を使わない放射能除染工法の開発に取り組む企業

 福島県いわき市の志賀塗装株式会社(従業員20名、資本金3,000万円)は、同市内を中心に住宅の塗装工事やリフォーム事業を手がけている。
 大震災では、同市小名浜にある本店のすぐ近くまで津波が押し寄せたが、事務所建屋に直接的な被害はほとんどなく、従業員も全員無事だった。しかし、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故に伴い、2011年3月14日には営業停止に追い込まれた。2週間後に再開したものの、志賀晶文社長は「6月までは、会社として体をなしていない状態だった。」と言う。その後、本格的な事業再開に向けて動き出したが、工事現場を取り仕切る職人を確保することができず、仕事のペースが一気に低下した。これに伴い、受注量も例年に比べ大幅に減少した。
 こうした状況の中、同年12月、同社は顧客一人一人に手紙を出して現況を説明するとともに、今後の対応について、選択肢を提示し、選んでもらった。志賀社長は、「12月に入り会社としてやるべきことがようやく見えてきた。大震災は地域とのつながり・絆の重要性を再認識する機会になった。」と語り、今後は、定額で、住居の清掃や修繕等を行う有料会員サービスである「一期一会倶楽部」を始めとする超地域密着型サービスに、一層磨きをかけることで、他社との差別化を図り、地域との信頼関係の強化を目指している。
 さらに、同社は、原子力発電所事故に対する地域住民の不安を軽減すべく、一般社団法人全国建物調査診断センターと共同で、高圧洗浄機を使わない放射能除染工法の開発にも取り組んでいる。水を使った高圧洗浄では、「放射性物質を十分除去できない。」、「水が飛散し周囲に放射性物質を拡散させるおそれがある。」、「使用後の水の処理方法が確立されていない。」等の問題を抱えている。そこで、同社は、「外壁等の表面からセシウムを剥離し、発生した粉を吸引した後、特殊な塗料を塗って化粧のフェイスパックのように剥がせば、除染できるのではないか。」と考え、美術館や寺社等高圧洗浄が使えない場所で用いられている既存の洗浄技術や自動車の製造工程等において使われている我が国の最高水準の加工技術等を組み合わせることを思い付く。また、除染後の屋根や外壁をそのままにしておくと、表面劣化が加速され、新たな放射性物質が付きやすくなるため、「放射能対策用浜風低汚染塗料(親水性塗料)」で表面をコーティングし、放射性物質の再付着を防ぐことも提案した。2011年11月には、独立行政法人日本原子力研究開発機構の除染技術実証試験事業に採択され、同年12月に県内2か所で試験工事を始めている。
 
住宅屋根の除染作業風景
 
コラム2-1-5 大震災後の東北地方の産業集積の取組

 東北地方の産業の大震災からの復興に向け、東北経済産業局では、2011年7月に「産業復興アクションプラン東北〜世界の産業モデルを目指した東北の再生〜」を策定した。その柱の一つに、次世代を見据えた国際競争力のある地域産業の再生を掲げ、被災地域の早期復旧・復興を支援している。あわせて、近年、東北地方に、自動車、半導体関連企業の製造拠点が形成されつつある動きを活かし、次世代自動車、医療機器、環境エネルギー産業等の成長分野を中心に、将来の地域経済を牽引する次世代ものづくり産業の集積を目指す取組を進めている。
 
大震災後の東北地方の産業集積の取組



前の項目に戻る      次の項目に進む