第1部 2011年度の中小企業の動向 

第2節 中小企業の動向

 前節では、2011年度の我が国経済の動向を概観し、大震災後我が国経済は輸出を中心に大きく落ち込んだが、供給制約を早期に克服したことにより、その回復も早かったこと、しかしながら、同年4月以降の急速な円高の影響が現れてきていること等を見てきた。
 本節では、中小企業の景況感、生産、資金繰り、雇用等の状況を中心に見ていく。

■景況感
 まず、大震災後の景況感を、中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」(以下「中小企業景況調査」という)で見てみる。中小企業の業況判断DIは、大震災直後の2011年4-6月期に大きく落ち込んだ後、同年7-9月期には持ち直したが、その後はおおむね横ばいの動きとなっている(第1-1-6図)。
 
第1-1-6図 中小企業の業況判断DIの推移

第1-1-6図 中小企業の業況判断DIの推移
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 続いて、全国中小企業団体中央会「中小企業月次景況調査」(以下「中小企業月次景況調査」という)で中小企業の景況感を見てみる。大震災後の中小企業の景況DIは、大震災前の2011年2月と比べ、同年4月にはマイナス20ポイントの大幅な悪化となったが、その時点で底を打ち、5月からマイナス幅の縮小に転じ、7月まで順調な回復を続けた。8月以降も引き続き改善傾向にあるが、そのペースは徐々に緩やかになってきている(第1-1-7図)。
 
第1-1-7図 中小企業の景況DIの推移

第1-1-7図 中小企業の景況DIの推移
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 また、地域別の業況判断DIを見ると、大震災の直接的被害が大きかった東北地方や関東地方等では、復興需要等を背景に、2011年7-9月期は、大幅にマイナス幅が縮小したが、10-12月期は、北海道等の一部地域を除き、マイナス幅の縮小はわずかなものにとどまり、改善傾向は頭打ちとなっている。業種別の業況判断DIを見ると、いずれの業種も大震災直後の同年4-6月期は大幅な低下を示したものの、7-9月期には大きく改善に転じている。しかしながら、10-12月期には、製造業、小売業、サービス業を中心に、マイナス幅の縮小はわずかなものにとどまり、2012年1-3月期には、卸売業、小売業、サービス業でマイナス幅が拡大している(第1-1-8図)。
 
第1-1-8図 地域別・業種別の業況判断DIの推移

第1-1-8図 地域別・業種別の業況判断DIの推移
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■売上・収益
 次に、中小企業の売上・収益動向を見てみる。まず、中小企業の売上高は、大震災の影響を受けて、2011年4-6月期には製造業で前年同期比▲28.2%、非製造業で同▲22.6%の大幅な減少となった。その後、前年同期比マイナス幅は縮小しているものの、減収が続いている(第1-1-9図)。また、売上高経常利益率については、総じて、大企業に比べて、低水準にある(第1-1-10図)。
 
第1-1-9図 規模別・業種別の売上高伸び率の推移

第1-1-9図 規模別・業種別の売上高伸び率の推移
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第1-1-10図 規模別・業種別の売上高経常利益率の推移

第1-1-10図 規模別・業種別の売上高経常利益率の推移
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■生産
 大震災後の中小企業の生産動向を見てみる。中小企業の製造工業生産指数は、大震災の発生した2011年3月に過去最大の下げ幅を示したが、同年6月にはほぼ大震災前の水準に回復した(第1-1-11図)。
 
第1-1-11図 規模別の製造工業生産指数の推移

第1-1-11図 規模別の製造工業生産指数の推移
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 業種別に見ると、鉄鋼業、一般機械工業、電気機械工業等は同年6月頃までには、大震災前の水準に回復した。大震災直後の落ち込みが特に大きかった輸送機械工業も、その後急速に回復し、同年8月頃にはおおむね大震災前の水準に回復した。しかしながら、電子部品・デバイス工業では、大震災後も生産の低下が続いている(第1-1-12図)。
 
第1-1-12図 規模別・業種別の製造工業生産指数の推移

第1-1-12図 規模別・業種別の製造工業生産指数の推移
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 こうした中小製造業の生産の動きを、被災地と被災地以外に分けて見てみると、大企業製造業では、サプライチェーンの寸断等により、被災地だけでなく、被災地以外の企業の生産も大きく低下した一方、中小製造業では、生産が大きく落ち込んだのは被災地の企業だけであった。被災地の中小製造業の生産は、大企業製造業に比べ、当初は回復が遅れていたが、その後緩やかに回復を続けた結果、同年12月には大震災前の水準にまで回復した(第1-1-13図)。
 
第1-1-13図 被災地及び被災地以外の規模別生産指数の推移

第1-1-13図 被災地及び被災地以外の規模別生産指数の推移
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■資金繰り
 大震災後の中小企業の資金繰りDIは、中小企業景況調査によると、中小企業全体、小規模企業ともに、大震災直後の2011年4-6月期に大幅に悪化した後、同年7-9月期には大震災前の水準に回復し、その後は緩やかに改善している(第1-1-14図)。中小企業の資金繰りDIの動向を中小企業月次景況調査によって見ると、2011年3月に大幅に悪化した後は緩やかに回復を続けており、同年12月には大震災前の水準にまで回復している(第1-1-15図)。
 
第1-1-14図 中小企業の資金繰りDIの推移

第1-1-14図 中小企業の資金繰りDIの推移
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第1-1-15図 中小企業の資金繰りDIの推移(月次)

第1-1-15図 中小企業の資金繰りDIの推移(月次)
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 こうした中、政府は中小企業の資金繰り支援のため、平成23年度第1次補正予算で創設した「東日本大震災復興緊急保証」や「東日本大震災復興特別貸付」等に続いて、第3次補正予算においても予算額6,199億円(事業規模11.6兆円程度)の措置を講じた。これらの2012年2月時点での実績は、大震災によって被災した中小企業の事業立て直しのための東日本大震災復興特別貸付が累計約16万6千件、3兆6千億円あまり、被災した中小企業の資金繰り支援のための東日本大震災復興緊急保証が同約7万2千件、1兆7千億円あまり、セーフティネット保証(5号)が同約15万件、2兆2千億円あまりとなっている(第1-1-16図、第1-1-17図、第1-1-18図)。
 
第1-1-16図 東日本大震災復興特別貸付の実績(累計)の推移

第1-1-16図 東日本大震災復興特別貸付の実績(累計)の推移
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第1-1-17図 東日本大震災復興緊急保証の実績(累計)の推移

第1-1-17図 東日本大震災復興緊急保証の実績(累計)の推移
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第1-1-18図 セーフティネット保証(5号)の実績(累計)の推移

第1-1-18図 セーフティネット保証(5号)の実績(累計)の推移
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 なお、リーマン・ショック後の2009年12月に施行された「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」は、2013年3月末まで1年間再延長されたが、これまでの中小企業者向けの施行実績は、2011年9月末時点で申込件数が累計約249万件、実行件数が同約229万件となっており、審査中及び取下げを除いた実行率は、おおむね97%前後で推移している(第1-1-19図)。
 
第1-1-19図 中小企業金融円滑化法による貸付条件変更実績(累計)の推移

第1-1-19図 中小企業金融円滑化法による貸付条件変更実績(累計)の推移
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■倒産
 中小企業の倒産件数は、近年、減少傾向にある。業種別に見ると、最も倒産件数の多い建設業では、緩やかな減少傾向にあるものの、1か月当たりの倒産件数は300件前後と引き続き高い水準が続いている。大震災関係の倒産件数も、2011年12月が66件となるなど高止まりの状態が続いている(第1-1-20図)。
 
第1-1-20図 規模別・業種別の倒産件数の推移

第1-1-20図 規模別・業種別の倒産件数の推移
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■設備投資
 中小製造業の設備投資動向について、日本銀行「全国短期経済観測調査」(以下「日銀短観」という)で見てみると、2011年度計画は前年度実績比5.4%と2年連続で大企業製造業を上回る伸びとなった。設備投資は大企業、中小企業ともリーマン・ショック以降大幅に圧縮されてきていたため、今回の増加は、リーマン・ショック以降実施が見送られていたものが相当程度含まれているためと考えられる(第1-1-21図)。
 
第1-1-21図 大企業製造業及び中小製造業の設備投資の推移

第1-1-21図 大企業製造業及び中小製造業の設備投資の推移
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 2011年度の中小製造業の設備投資の動きを、(株)日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という)「中小製造業設備投資動向調査」により投資目的別に見てみると、2011年度修正計画では、引き続き「更新、維持・補修」が最も多くなっており、投資額全体の37.5%を占めている。次いで「能力拡充」が25.4%、「新製品・新規事業・研究開発」が17.7%となっている。
 また、2011年度修正計画は、前年度実績比で9.7%の増加となったが、投資目的別の寄与度を見ると、新製品・新規事業・研究開発、能力拡充投資及び更新、維持・補修投資等が増加に寄与している(第1-1-22図)。
 
第1-1-22図 投資目的別の中小製造業の設備投資の推移

第1-1-22図 投資目的別の中小製造業の設備投資の推移
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■雇用
 完全失業率は、2009年10月以降低下傾向が続き、2011年9月には4.2%まで低下したが、同年10月には再び上昇に転じ、2012年1月には4.6%となっている。他方、中小企業景況調査によると、中小企業の従業員過不足DIは、非製造業が牽引し、全産業でも2011年7-9月期から3四半期連続でマイナスとなり、不足感が強まっている(第1-1-23図)。
 
第1-1-23図 雇用状況

第1-1-23図 雇用状況
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 また、大学卒業予定者について、中小企業の求人数及び中小企業への就職希望者数の推移を見てみると、中小企業の求人数が減少している一方で、中小企業への就職希望者数は徐々に増加している。その結果、中小企業の求人倍率は、2012年3月卒で3.35倍と、引き続き大きなミスマッチが存在しているものの、低下しており、改善に向かっている(第1-1-24図)。
 
第1-1-24図 中小企業の大学卒業予定者求人数・就職希望者数の推移

第1-1-24図 中小企業の大学卒業予定者求人数・就職希望者数の推移
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■円高の影響
 次に、円高が中小企業に与えた影響について見てみる。
 まず、日銀短観の中小企業の想定為替レートと実際の円・ドルレートの動きを比較してみると、中小企業の想定為替レートを上回って円高が進行していたことが見て取れる(第1-1-25図)。こうした状況の中、日本公庫「中小企業月次景況調査」により、輸出を行う中小企業と行わない中小企業の別に円高の影響を見てみると、2011年を通じて、輸出を行う中小企業の約6割、輸出を行わない中小企業の約3割が、円高によるマイナスの影響があると回答している。特に、輸出を行わない中小企業においても、マイナスの影響があるとする割合が増加しており、記録的な円高の進行が、国内取引関係を通じて、国内市場向けの中小企業に対しても影響を与えていたことがうかがえる(第1-1-26図)。
 
第1-1-25図 中小企業の想定為替レートの推移

第1-1-25図 中小企業の想定為替レートの推移
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第1-1-26図 円高の影響

第1-1-26図 円高の影響
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 さらに、日本公庫「保証先中小企業金融動向調査(特別調査)」により、円高による悪影響を見込んでいる中小企業の当面の対応を業種別に見てみると、全ての業種で「経費削減(人員削減を含む)」が回答割合の2位以内に現れており、中小企業にとって、経費削減が円高への対応の中心となっていることが分かる。次いで多いのが「取引先の開拓・変更」である。これは、多くの中小企業が、円高による価格競争力の低下等による売上の減少を補うために、新たな顧客の開拓を試みていることを示している。次いで、円高による収益の低下を補うための「価格転嫁・見直し」が続いている。「高付加価値化・新製品の開発」は繊維品を除く全ての業種で3位以下、「海外進出・移転」は全ての業種で6位以下となっている。古くから海外製品との競合に苦しんでいた繊維品は、唯一「高付加価値化・新製品の開発」を上位に位置付けていることが注目される(第1-1-27図)。
 
第1-1-27図 業種別の円高による悪影響への対応

第1-1-27図 業種別の円高による悪影響への対応


■販売単価、原材料価格、電力使用額の動向
 最後に、中小企業の販売単価、原材料価格及び電力使用額の動向を見てみる。まず、中小企業景況調査で、中小企業の売上単価・客単価DI及び原材料仕入単価DIの動きを見ると、2011年度を通じて売上単価・客単価DIは緩やかな上昇傾向にある一方、原材料仕入単価DIは、2011年に入り大幅に上昇し、同年後半からプラス幅が縮小しているものの、プラス幅が高い状況が継続している。原材料仕入価格の上昇を自社の製品・サービス価格に十分に転嫁できない状況が続いており、中小企業の収益環境は、引き続き厳しい状況にあるといえる(第1-1-28図)。
 
第1-1-28図 売上単価・客単価DI、原材料仕入単価DIの推移

第1-1-28図 売上単価・客単価DI、原材料仕入単価DIの推移
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 こうした状況の中で、電気料金の引上げ、電力需給の逼迫の影響が懸念されるが、厳しい収益環境にある中小企業の経営は、それらによってどの程度の影響を受けるのであろうか。中小製造業の製造コストに占める購入電力使用額の割合を見てみると、最も高い窯業・土石製品製造業が5.9%、次いでプラスチック製品製造業が4.2%、繊維工業が4.0%となっている(第1-1-29図)。さらに、細分類業種で見てみると、最も高い銑鉄鋳物製造業で12.1%、次いでその他の金属表面処理業が8.7%、電気めっき業が8.1%となっており、一部業種では、製造コストに占める購入電力使用額の割合が、極めて高い水準となっていることが分かる(第1-1-30図)。
 
第1-1-29図 規模別・業種別の購入電力使用額が原材料使用額等に占める割合

第1-1-29図 規模別・業種別の購入電力使用額が原材料使用額等に占める割合

 
第1-1-30図 細分類業種別の中小製造業における購入電力使用額が原材料使用額等に占める割合

第1-1-30図 細分類業種別の中小製造業における購入電力使用額が原材料使用額等に占める割合


 また、大企業製造業との比較で見てみると、鉄鋼業、電子部品・デバイス・電子回路製造業等一部を除くほとんどの業種で、中小企業の購入電力使用額割合が大企業を上回っている。その結果、中小製造業の電力コストの平均は2.7%と、大企業製造業の平均1.9%を大きく上回っている。生産規模が相対的に小さいことから、エネルギー使用効率の飛躍的な向上が難しいこと、一部の大企業のような自家発電設備を有する事業所が少ないこと等がその要因と考えられる。電気料金引上げ等の製造コストへの影響は、中小企業の方が大企業よりも大きく、収益への影響が懸念される。

■供給制約の中でイノベーションに取り組む中小企業
 第1-1-29図及び第1-1-30図のとおり、大震災後の我が国の電力需給の逼迫は、中小企業により大きく影響することが懸念されるが、中小企業の中には、エネルギー政策の見直しを背景にしつつ、制約をリスクではなく、環境分野に大きな需要が生まれるチャンスと捉え、地域金融機関の支援等も受けて、自社で培った技術・ノウハウを活かして支援事業に取り組む企業も見られる2

2 グリーン・イノベーションに取り組む企業の事例は、第2部第2章第2節事例2-2-20、第3部第2章第2節事例3-2-5を参照。

 このような新たな取組において、中小企業発のグリーン・イノベーション等が次々と起こること等により、新事業展開や創業が行われることが期待される。
 
コラム1-1-1 円高対策:平成23年度第4次補正予算

 政府は円高の進行、タイの洪水や欧州危機等への対応として、中小企業金融対策やイノベーション拠点立地支援等を盛り込んだ平成23年度第4次補正予算(総額2兆5千億円)を2012年2月に成立させた。
 この中には、信用保証協会が中小企業の金融機関からの借入に対して行う信用保証や(株)日本政策金融公庫等が中小企業向けに行う低利融資に必要となる追加的な予算7,413億円(事業規模16.25兆円)が盛り込まれている。これらにより、政府は、円高等に伴う事業環境の悪化に苦しむ中小企業の資金繰りの円滑化に万全を期すこととしている。
 なお、政府は、大震災を契機に、産業の空洞化が加速するおそれがあることに鑑み、23年度第3次補正予算で、国内に生産拠点を新たに設け、機械設備等を導入する企業を対象に、国内立地補助を行っているが、特に、中小企業については、円高対策として厳しい国際競争環境に打ち勝つための集約化・高効率化・強靱化を目指す取組を支援するため、複数の中小企業のグループで共同で実施・申請する事業が対象となっている。本件については、2011年11月に第1次の公募が実施され、2012年2月に計245件(補助金総額2,023億円)が採択されている。
 
コラム1-1-2 法人税率及び中小軽減税率の引下げ

 法人税率の引下げ等を盛り込んだ平成23年度税制改正法案(経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律案)と復興財源としての復興特別法人税の創設等を盛り込んだ復興財源確保法案(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法案)が2011年11月に成立した。
 これにより、2012年4月から法人税率が30%から25.5%(地方税も含めた法人実効税率(東京都の場合)は40.69%から35.64%に5.05%引下げ)に、中小軽減税率も18%から15%に引き下げられた。ただし、復興特別法人税(法人税額の10%)が2012年4月から3年間付加されるため、この間の実際の法人税率は28.05%、中小軽減税率は16.5%となる。



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