第1部 2011年度の中小企業の動向 

第1節 我が国経済の動向

 本節では、東日本大震災後の落ち込みから早期に回復した我が国経済が、円高、世界経済の減速等の影響により、次第に回復の動きが緩やかになってきていることを概観する。

■大震災後の我が国の景況
 東日本大震災の発生後、我が国経済は、地震・津波による直接的な被害に加えて、サプライチェーンの寸断や電力供給制約の発生等によって、事業活動が停滞するなど大きな影響を受けた。その結果、輸出も大幅に減少した。また、消費マインドの冷え込みによる買い控えや自粛ムードの拡大は、原子力災害に関連する風評拡大と相まって、飲食・旅行・宿泊分野で国内外からの来客数の大幅な減少を招くなど、個人消費にも大きな影響を与えた1

1 中小企業白書(2011年版)第1部第2章で詳しく分析している。

 しかしながら、こうした状況は、大震災発生から3か月後の2011年6月前後から改善に転じた。そして、同年夏までには多くの企業で事業活動が正常化するなどし、同年7-9月期の実質GDPは、回復した輸出と個人消費に牽引されて、4四半期ぶりにプラス成長となった(第1-1-1図)。
 
第1-1-1図 実質GDP成長率と需要項目別寄与度の推移

第1-1-1図 実質GDP成長率と需要項目別寄与度の推移
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 こうした急速な回復の要因としては、大震災直後の自粛ムードが早期に和らいだこと、産業界で節電や電力使用平準化の取組が浸透したこと、サプライチェーンの寸断による供給難から回復した自動車の生産・出荷が伸びたこと、7月末の住宅エコポイント終了や地上デジタル放送完全移行を受けた駆け込み需要が生じたこと、さらには、復興需要や、家庭での節電意識の高まりを背景とした、省エネルギー製品への買い換え需要の拡大等が挙げられる。
 その一方で、2011年3月には円が対ドルで急騰し、1995年の最高値を更新、その後も、欧州債務問題の顕在化等を背景に世界経済の減速懸念が高まったことで、円は対ドル・対ユーロで上昇基調が続き、輸出関連産業にとって厳しい状況が続いた。さらに、2011年7月にはタイで大規模な洪水が起こり、10月にはバンコク郊外の工業団地で相次いで冠水や浸水が発生した。現地に進出している中小企業も被災し、一部では長期間の操業停止に追い込まれる事態となった。このため、同年10-12月期の実質GDPは再びマイナス成長となった。(※2012年5月17日に公表された四半期別GDP速報(1次)では、2011年10-12月期の実質GDP成長率は0.0%となった。なお、2009年1-3月期以降の実質GDP成長率は、▲4.0%、1.7%、▲0.0%、1.9%、1.3%、1.3%、0.7%、▲0.0%、▲2.0%、▲0.3%、1.9%、0.0%、1.0%。)
 こうした動きを内閣府「景気ウォッチャー調査」で見てみる。
 現状判断DIは、大震災の発生を受けて2011年3月に大幅な落ち込みを示した後、5月以降は大幅な上昇に転じ、大震災発生から3か月後の6月には、大震災前の水準にまで回復した。しかしながら、8月以降は再び低下傾向に転じ、10月以降はほぼ横ばいの状態が続いている(第1-1-2図)。
 
第1-1-2図 全国の現状判断DIの推移

第1-1-2図 全国の現状判断DIの推移
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■生産・輸出の動向
 次に、大震災後の生産及び輸出の動向を見ていく。
 大震災発生直後、我が国製造業の生産・出荷活動は、大震災による生産設備の毀損やサプライチェーンの寸断等により、大きく低下した。鉱工業生産指数を用いて製造工業生産指数の動きを見ると、大震災直前の2011年2月の97.9から、3月には82.7まで低下している。これは、リーマン・ショック後の2008年12月に記録した生産の落ち込みを上回る過去最大の下げ幅であった(第1-1-3図左)。
 
第1-1-3図 我が国の生産・輸出の推移

第1-1-3図 我が国の生産・輸出の推移
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 輸出額も2011年4月に前年同月比▲12.4%の大幅な低下を記録した。特に、ジャスト・イン・タイム方式の採用により、部品・中間財等の在庫水準が恒常的に低く、また、部品産業等多様な裾野産業が、被災地域を始め全国に幅広く展開してサプライチェーンを構成している自動車産業では、大震災の影響はとりわけ大きかった。同年4月の自動車等の輸出額は前年同月比▲51.5%と、輸出全体の減少率を大幅に上回る著しい減少となった(第1-1-3図右)。
 しかしながら、その後、被災設備の修復や代替施設での生産、代替調達先の確保等により、サプライチェーンの復旧は急速に進んだ。その結果、生産・出荷活動と輸出は同年5月頃から持ち直しに向かい、夏頃には生産水準はおおむね大震災前の水準にまで回復した。夏以降、生産の回復ペースは緩やかになっているが、自動車を始めとする輸送機械工業は、引き続き増加傾向が続いている。
 他方、輸出は世界経済の減速等を背景に、2011年10月以降再び大幅な減少が続いている。大震災直後には我が国製造業の生産・出荷活動の停滞により、全ての地域向けの輸出が減少したのとは対照的に、同年10月以降の輸出の減少は、中国、台湾等アジア向け輸出の減少が主因となっている(第1-1-4図)。
 
第1-1-4図 我が国の輸出の伸びと地域別寄与度の推移

第1-1-4図 我が国の輸出の伸びと地域別寄与度の推移
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■為替
 大震災後の落ち込みからの早期の回復を果たした我が国経済であるが、欧州債務問題の顕在化等を背景とする海外経済の減速と円高の継続は、震災復興関連の需要等により、緩やかに回復すると見られていた我が国経済の先行きを、再び不透明なものとしつつある。特に、長期化する円高は、輸出産業の競争力を低下させ、企業収益を圧迫するとともに、輸出を行っていない国内企業でも、コスト引下げ圧力の高まりで収益環境が悪化しつつある。
 2011年に入って、円安基調で推移していた対ドルの為替レートは、同年3月に急騰し、1995年の最高値を更新したものの、その後は4月まで、円安基調が続いた(第1-1-5図)。しかしながら、その後、再び上昇に転じ、2011年10月には過去最高値を付けた。その後は、2012年2月まで多少の変動を繰り返しながらも、1ドル70円台後半の水準で横ばい傾向が続いた。一方、対ユーロの為替レートもドルと同様、2011年4月以降円高傾向が続いており、2012年1月には、米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズがフランス等ユーロ圏9か国の国債を一斉に格下げしたことを受け、約11年ぶりの円高・ユーロ安となった。
 
第1-1-5図 為替レートの推移

第1-1-5図 為替レートの推移
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