トップページ 白書・統計情報 小規模企業白書 2020年版 小規模企業白書(HTML版) 第1部 令和元年度(2019年度)の小規模事業者の動向 第1章 中小企業・小規模事業者の動向 第5節 中小企業・小規模事業者を取り巻くリスク

第1部 令和元年度(2019年度)の小規模事業者の動向

第1章 中小企業・小規模事業者の動向

第5節 中小企業・小規模事業者を取り巻くリスク

2019年度は、台風等の自然災害や、新型コロナウイルス感染症など、我が国の中小企業に大きな影響を与える事象が相次いで発生した。堅調に事業活動を行っていたとしても、こうした予期せぬリスクにさらされ、事業の継続が困難になることがある。本節では、不測の事態が生じた際の影響を可能な限り小さくするためには、事前の備えが重要であるとともに、リスクを新たな価値の創造につなげる企業も存在することを示す。

1 自然災害の影響

我が国は世界の中でも自然災害が多く、2019年も台風などの自然災害が立て続けに発生し、多くの中小企業の経営に影響をもたらした(第1-1-55図)。

第1-1-55図 自然災害による中小企業の被害例(2018〜2019年)

また、こうした災害にかかる各種損害保険の支払保険金額について見ると、2018年と2019年に発生した災害が過去と比較しても、規模の大きい災害であったことが分かる(第1-1-56図第1-1-57図)。

第1-1-56図 災害に係る各種損害保険の支払保険金(2019年)
第1-1-57図 過去の主な風水災害による保険金の支払い

では、こうした頻発する自然災害に対する企業の対応状況はどうだろうか。第1-1-58図は、企業規模別に自然災害に対する経営上のリスクへの対応状況を示したものである。これを見ると、「十分に対応を進めている」、「ある程度対応を進めている」と回答した割合は、大企業が約4割であるのに対して、中小企業は約2割となっており、大企業と比べて中小企業の自然災害へのリスク対応が進んでいない状況が分かる。

また、大企業、中小企業共に半数以上が「あまり対応を進めていない」、「ほとんど対応を進めていない」と回答しており、企業規模にかかわらず自然災害のリスクに対する取組は十分に進んでいないことが見て取れる。

第1-1-58図 自然災害に対する企業の対応状況

2 新型コロナウイルス感染症の影響

自然災害以外に、そのリスクが実際に影響となって表れたのが新型コロナウイルス感染症の発生である6

6 本節の内容は、2020年4月1日時点での情報を基にしている。

新型コロナウイルス感染症は、2019年12月に確認されて以降、感染が国際的に広がりを見せ、世界保健機関(WHO)が2020年1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言するに至った。また、我が国でも2月25日に「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を決定し、講じていくべき対策などをとりまとめた。

新型コロナウイルスの感染拡大により、国民生活は当然のこと、企業活動への影響も発生している。経済協力開発機構(OECD)は、2020年の実質GDP伸び率について、2019年11月時点では2.9%(世界)、0.6%(日本)と予測していたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を踏まえ、2020年3月に2.4%(世界)、0.2%(日本)に下方修正した7, 8。また、2020年3月の内閣府の月例経済報告では、基調判断について「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、足元で大幅に下押しされており、厳しい状況にある。」と、述べられている。

7 OECD Economic Outlook, Interim Report March 2020

8 また、国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は、新型コロナウイルス非常事態に関するG20財務相・中央銀行総裁電話会議を受けて、2020年の世界経済はマイナス成長となり、少なくとも世界金融危機と同じくらいか、それよりも悪いリセッション(景気後退)となる見通しであるとの声明を出している。(IMFプレスリリースNo.20/98)

第1-1-59図は、政府系金融機関や商工団体など9に設置した「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口10」の利用状況を示したものである(3月31日時点)。これを見ると、寄せられている相談はほぼ全て資金繰り関連であり、「飲食業(28.5%)」、「製造業(21.5%)」、「卸売業(17.9%)」、「小売業(17.8%)」、「宿泊業(6.9%)」の事業者からの相談が多いことが分かる。

9 (株)日本政策金融公庫、(株)商工組合中央金庫、信用保証協会、商工会議所、商工会連合会、中小企業団体中央会及びよろず支援拠点、並びに全国商店街振興組合連合会、(独)中小企業基盤整備機構及び各地方経済産業局等に相談窓口が設置されている。

10 全国で1,050か所の窓口が設置されている。

第1-1-59図 「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」の利用状況

第1-1-60図は、相談件数の多い各業種について、中小企業数と中小企業の付加価値額を見たものである。特に、「宿泊業,飲食サービス業」では付加価値額に占める中小企業の構成比が相対的に大きく、中小企業の数も多いことが分かる。

第1-1-60図 業種別に見た、中小企業数と中小企業の付加価値額

新型コロナウイルス感染拡大による操業停止や休業によって売上げが計上できない場合、給与などの固定費は現預金などの手元資産から拠出せざるを得ない。

第1-1-61図は、業種別、規模別に企業の固定費と流動性の高い手元資産の比率を見たものであるが、特に「宿泊業」や「飲食サービス業」でこの比率が低くなっていることから、こうした業種で資金繰り難が深刻化する可能性が示唆される。

第1-1-61図 業種別・規模別に見た、固定費と流動性の高い手元資産の比率(2018年)

以降では、我が国経済への主な影響について見ていく。

〔1〕貿易の縮小に伴う影響

第1-1-62図は、海外事業活動基本調査を基に、日本企業の海外子会社数を規模別、地域別に見たものである。これを見ると、大企業、中小企業共に中国に海外子会社を持つ企業が多いことが分かる。

第1-1-62図 規模別・地域別に見た、日本企業の海外子会社数(上位5か国)

第1-1-63図は、中小企業が中国に持つ海外子会社(以下、「中国子会社」という。)の数を業種別に見たものである。これを見ると、中小企業においては、「卸売業(20.3%)」、「その他の製造業11(11.1%)」、「生産用機械(8.8%)」、「輸送機械(6.6%)」、「化学(6.0%)」、「金属製品(5.9%)」の中国子会社が多いことが分かる。

11 「その他の製造業」には、家具・装備品製造業、印刷・同関連業、プラスチック製品製造業、ゴム製品製造業、なめし皮・総製品・毛皮製造業、その他の製造業が含まれる。

なお、中国で新型コロナウイルスの感染者が最も多く出ている湖北省における中小企業の中国子会社数12は、「輸送機械」が最も多くなっている。

12 湖北省における中小企業の現地法人数は、輸送機械5社、卸売業4社、繊維3社を含む、合計18社である。

第1-1-63図 業種別に見た、中小企業の中国子会社数

第1-1-64図は、国・地域別に見た、日本の輸入額・輸出額に占める割合を示したものである。これを見ると、輸入・輸出共に、中国、米国、EUが大きな割合を占めていることが分かる。

第1-1-64図 国・地域別に見た、日本の輸入額・輸出額に占める割合(2018年)

第1-1-65図は、国内需要のうち中国依存度が高い製品を見たものである。これを見ると、主に家計が購入する消費財では、「携帯電話機」、「ニット製衣服」、「織物製衣服」、「民生用電気機器(エアコンを除く。)」は中国依存度と国内需要が共に大きく、中国からの輸入減少の影響も大きいことが分かる。また、企業が用いる中間財については、「電線・ケーブル」、投資財については、「パーソナルコンピュータ」、「電子計算機附属装置」の中国依存度と国内需要が共に大きいことが分かる。

第1-1-65図 国内需要の中国依存度が高い製品

第1-1-66図は、仕入高の中国依存度が高い業種を見たものである。これを見ると、「電気機械器具製造業」や「電子部品・デバイス・電子回路製造業」、「生産用機械器具製造業」、「情報通信機械器具製造業」などで中国依存度と仕入額が共に大きくなっており、こうした業種では中国からの輸入が減少すると生産活動に大きな影響が及ぶことが分かる。

第1-1-66図 仕入高の中国依存度が高い業種

第1-1-67図は、我が国における足元の輸入額を上位5か国について見たものである。これを見ると、中国からの輸入額が前年同月比で大幅に減少していることが分かる。

第1-1-67図 国・地域別に見た、我が国における足元の輸入額の変化率

第1-1-68図は、中国からの足元の輸入額を輸入品目別に見たものである。これを見ると、「電気機器」や「一般機械」、「衣類及び同附属品」などが輸入の減少に大きく寄与していることが分かる。

第1-1-68図 品目別に見た、中国からの足元の輸入額

第1-1-69図は、中国の足元のPMIを製造業と非製造業について見たものである。これを見ると、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年2月に大きく低下した後、3月には概ね1月の水準まで急回復していることが分かる。

第1-1-69図 中国の足元の購買担当者景気指数(PMI)

第1-1-70図は、鉱工業生産指数を基に、国内の鉱工業の生産動向を見たものである。これを見ると、2020年2月速報は生産全体で前月比0.4%の上昇である。生産を大きく動かした業種を見ると、「電子部品・デバイス工業」、「無機・有機化学工業」、「鉄鋼・非鉄金属工業」が上昇に大きく寄与する一方で、「自動車工業」、「輸送機械工業」、「生産用機械工業」などが大きく低下する方向に寄与していることが分かる。

第1-1-70図 足元の鉱工業生産指数

新型コロナウイルスの感染拡大による生産への影響について、2020年2月は、中国からの部品調達の停滞による影響が大きかったが、我が国の主要な輸出先(第1-1-64図〔2〕)である欧米での感染拡大を受け、今後は輸出の減少による影響も大きくなっていく可能性もある。

〔2〕インバウンドの減少を始めとする国内消費の減退

第1-1-71図は、(独)国際観光振興機構の訪日外客統計を基に、訪日外客数について国・地域別に見たものである。これを見ると、2020年2月の訪日外客数(推計値)は108.5万人で、前年同月に比べて58.3%減少していることが分かる。また、国・地域別に見ると、中国で▲87.9%、韓国で▲79.9%と特に減少幅が大きいことが分かる。

第1-1-71図 国・地域別に見た、訪日外客数の推移

第1-1-72図は、2019年の訪日外国人の宿泊先都道府県について見たものである。これを見ると、東京都や大阪府、北海道などで訪日外国人の宿泊者数が多いことが分かり、訪日外客数の減少の影響を大きく受けることが予想される。

第1-1-72図 国籍・出身地別に見た、訪日外国人の宿泊先都道府県(2019年)

第1-1-73図は、(一社)日本百貨店協会の「全国百貨店売上高概況」を基に、地区別の百貨店売上高について見たものである。これを見ると、2020年2月の全国の百貨店売上高は前年同月に比べて12.2%減少しており、地区別に見ると、札幌(▲25.8%)や大阪(▲21.0%)で特に減少幅が大きくなっていることが分かる。

第1-1-73図 地区別百貨店売上高(2020年2月)

第1-1-74図は、百貨店の免税総売上高の推移について見たものである。これを見ると、2020年2月の売上高は前年同月の34.6%と大幅に減少していることが分かる。

第1-1-74図 百貨店免税総売上高の推移(前年同月比)

第1-1-75図は、宿泊旅行統計調査を基に、宿泊施設別に、客室稼働率の推移を見たものである。これを見ると、2020年2月は、いずれの宿泊施設においても、前年同月及び前々年同月に比べて、低い水準になっていることが分かる。

第1-1-75図 宿泊施設別に見た、客室稼働率の月次推移

第1-1-76図は、(一社)日本フードサービス協会が2月後半以降の新型コロナウイルスの売り上げへの影響(概況)についてまとめたものである。大幅な落ち込みを報告する店舗も多いことが分かる。

第1-1-76図 外食産業における新型コロナウイルス発生以降の売り上げについて

第1-1-77図は、東海旅客鉄道(株)の調査を基に、新幹線の月次利用状況を見たものである。これを見ると、2020年3月1日〜25日の輸送量は対前年比45%と大きく減少していることが分かる。

第1-1-77図 新幹線輸送量の推移(対前年比)

第1-1-78図は、国土交通省が宿泊・旅行・貸切バス・航空産業の2020年3月・4月の見通しを調査した結果をまとめたものである。これを見ると、各産業ともに、大幅な業績の悪化が懸念されていることが分かる。

第1-1-78図 宿泊・旅行・貸切バス・航空産業の2020年3月・4月の見通し

インバウンド関連を含む、国内消費の動向については、今後も注視していく必要がある。

〔3〕中小企業・小規模事業者の企業活動への影響

第1-1-6図(再掲)は、中小企業庁・(独)中小基盤整備機構「中小企業景況調査」(以下、「景況調査」という。)における業況判断DIの推移を産業別に見たものである。足元の2020年1-3月期は小売業を除いて低下している。

第1-1-6図 業種別業況判断DIの推移

第1-1-79図は、製造業について、業況判断DIの推移を業種別に見たものである。足元の2020年1-3月期は「パルプ・紙・紙加工品」で特に大きく低下している。

第1-1-79図 業況判断DIの推移(製造業)

第1-1-80図は、サービス業について、業況判断DIの推移を業種別に見たものである。足元の2020年1-3月期は「対事業所サービス業(運送・倉庫)」、「宿泊業」で特に大きく低下している。

第1-1-80図 業況判断DIの推移(サービス業)

第1-1-81図は、景況調査の調査対象企業からのコメントの抜粋である。

第1-1-81図 調査対象企業のコメント(中小企業景況調査)

第1-1-82図は、日本商工会議所が実施した商工会議所LOBO調査における業況DIの推移を産業別に見たものである。ここでも2020年2月以降大幅に景況感が悪化していること、また先行き見通しも更に悪いことが分かる。

第1-1-82図 業種別に見た、業況DIの推移(LOBO調査)

雇用への影響も懸念される。第1-1-83図は、一般職業紹介状況を基に、有効求人倍率の推移について見たものである。2020年1月に大きく低下している13が、2月は僅かな低下にとどまっている。

13 2020年1月から求人票の記載項目が拡充され、一部に求人の提出を見送ることがあったことから、求人数の減少を通じて有効求人倍率の低下に影響していることに留意が必要。

第1-1-83図 有効求人倍率の推移

第1-1-84図は、事業所規模別に、新規求人数の推移について見たものである。足元で大きく低下しているわけではないが、前年に比べて新規求人数は減少傾向にあり、今後の動向を注視する必要がある。

第1-1-84図 事業所規模別に見た、新規求人数の推移

第1-1-85図は、(株)東京商工リサーチの「第2回 新型コロナウイルスに関するアンケート調査」14(以下、「コロナアンケート」という。)を基に、2020年3月時点の新型コロナウイルスによる企業活動への影響の有無について見たものである。これを見ると、大企業に比べると割合がやや低いものの、「現時点ですでに影響が出ている」と回答した中小企業が5割以上いることが分かる。

14 (株)東京商工リサーチが2020年3月2日〜8日に実施したアンケート調査。有効回答数1万6,327社。ここでは資本金1億円以上の企業を「大企業」、資本金1億円未満の企業を「中小企業」としている。

第1-1-85図 新型コロナウイルスによる企業活動への影響の有無

第1-1-86図は、3月時点における、新型コロナウイルスにより出ている影響について見たものである。「マスクや消毒薬など衛生用品が確保できない」と回答した企業が51.1%と最も多く、次いで「売上(来店者)が減少」、「イベント、展示会の延期・中止」などが多いことが分かる。

第1-1-86図 新型コロナウイルスによる現在出ている影響(中小企業)

第1-1-87図は、3月時点における、新型コロナウイルスによる今後の懸念について見たものである。「感染拡大」と回答した企業が74.3%と最も多く、感染拡大を抑えることが企業にとっても重要であることが分かる。

第1-1-87図 新型コロナウイルスによる今後の懸念(中小企業)

なお、新型コロナウイルス感染症が経済に与える影響に対して、政府としては、2020年2月に緊急対応策第1弾、3月に緊急対応策第2弾を講じている(第1-1-88図第1-1-89図)。

第1-1-88図 新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策(第1弾)(経済産業省関連)
第1-1-89図 新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策(第2弾)(経済産業省関連)

今後とも、感染の状況とともに、地域経済及び世界経済の動向を十分に注視し、必要な対策を講じていくことが求められる。

コラム1-1-4

副業・兼業・フリーランス人材による中小企業支援の取組

昨今、多様なスキルや専門性を持つ副業・兼業・フリーランス人材の活用に注目が集まっている。こうした中、新型コロナウイルス感染拡大で経営に影響が生じている中小企業・小規模事業者に対する、副業・兼業・フリーランス人材による支援の取組も見られている。

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会では、今般の新型コロナウイルス感染拡大を受け、〔1〕全国のフリーランス等に向け、WEBサイトやSNS等を通じて、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急支援策の周知・広報を行うと同時に、〔2〕中小企業・小規模事業者や支援機関の担当者に向けた情報発信を併せて行っている。

<副業・兼業・フリーランス人材を活用した中小企業・小規模事業者支援の例>

● 財務・経営企画:緊急融資を受けるための事業計画策定・資金繰り支援

● Webデザイナー・エンジニア:ECサイトやクラウドファンディング立上げ・運用支援

● 社労士・中小企業診断士:助成金・補助金申請支援

● 人事・総務:リモートワーク導入や働き方改革推進の支援

● イベントプランナー:オンラインセミナー・イベントの企画・運用支援

● 業務改善コンサルタント:業務効率化による固定費削減支援

● 広報・Webマーケター:販促・マーケティング支援

● 新規事業創出コンサルタント:新規事業創出支援 など

同協会では、WEBサイト上で、副業・兼業人材活用の無料相談・一括問合せ窓口「求人ステーション」と、副業・兼業・フリーランス人材の無料検索サービス「フリーランスDB」の2種類のサービスを提供。業務委託人材との契約や活用方法に関する質問や相談に対応し、各社の課題に応じた最適な求人手法を助言している。

我が国の中小企業・小規模事業者にとっては、公的支援のみならず、こうした多様な人材による支援を積極的に活用していくことが、今後ますます重要となってくると考えられる。

コラム1-1-4写真 相談・一括問合せサービス「求人ステーション」

3 リスクへの備え

以上で見てきたようなリスクが生じた際の影響を可能な限り小さくするためには、事前の備えが重要である。ここでは、中小企業における「事業継続計画(BCP)」の策定状況や、感染症対策として今般注目を集めた「テレワーク」の導入状況について見ていく。

〔1〕事業継続計画(BCP)の策定

企業の事業活動に影響を及ぼすリスクは自然災害や感染症のまん延、テロなどの事件の発生、大事故、サプライチェーンの途絶、サイバー攻撃など多岐にわたっている。こうした不測の事態が発生しても、重要な事業・業務を中断させない、又は中断しても可能な限り短期間で復旧させるための方針、体制及び手順などを示した「行動計画」のことを「事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)」(以下、「BCP」という。)という。

2017年5月、2018年5月、2019年5月に(株)帝国データバンクが実施したアンケート「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」15を基に、企業のBCPに対する意識を見ていく。第1-1-90図は、BCPを「策定している」、「現在、策定中」、「策定を検討している」企業に対し、事業の継続が困難になると想定しているリスクについて聞いたものである。これを見ると、「自然災害」を回答した企業は約7割と最も多く、「感染症(インフルエンザ、新型ウイルス、SARSなど)」と回答した企業も約2割存在していたことが分かる。

15 (株)帝国データバンクが2016年以降毎年実施している調査。ここでは中小企業基本法に準拠するとともに、全国売上高ランキングデータを加えて、「中小企業」を定義している。
〔1〕中小企業基本法で小規模企業を除く中小企業に分類される企業のなかで、業種別の全国売上高ランキングが上位3%の企業を大企業として区分
〔2〕中小企業基本法で中小企業に分類されない企業のなかで、業種別の全国売上高ランキングが下位50%の企業を中小企業として区分
〔3〕上記の業種別の全国売上高ランキングは、TDB産業分類(1,359業種)によるランキング

第1-1-90図 事業の継続が困難になると想定しているリスク(中小企業)

第1-1-91図は、企業規模別にBCPの策定状況について見たものである。これを見ると、「策定している」、「現在、策定中」、「策定を検討している」と回答した割合は、大企業が約6割に対して、中小企業は約4割となっている。また、中小企業の約半数は「策定していない」と回答しており、大企業に比べて中小企業のBCP策定が進んでいない状況が見て取れる。

第1-1-91図 事業継続計画(BCP)の策定状況

続いて、中小企業のBCPの策定状況を時系列で見たものが第1-1-92図である。これを見ると、大規模災害が相次いで発生している中、BCPの策定状況にほとんど進展が見られないことが分かる。

第1-1-92図 事業継続計画(BCP)の策定状況の推移(中小企業)

では、なぜ中小企業においてBCPの策定が進んでいないのだろうか。第1-1-93図は、BCPを策定していないと回答した企業における、その理由を示したものである。最も多い回答は、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」となっており、BCPの策定は中小企業にとってハードルの高い取組と認識されていることが分かる。また、そもそもBCPの策定に「必要性を感じない」とする企業が24.6%存在している。

第1-1-93図 事業継続計画(BCP)を策定しない理由(中小企業)

こうした状況を踏まえ、中小企業の災害対応能力を高めるため、2019年5月に「中小企業強靱化法」が成立し、同年7月に施行されている。同法に基づき、事業継続力強化計画の認定を受けた事業者に対し、税制措置や金融支援を講ずるとともに、補助金採択に当たっての優遇措置などを講じている16

16 詳細はコラム1-1-5を参照。

第1-1-94図は、BCPを「策定している」とした企業が感じている効果を示したものである。BCP策定の直接的な効果である「従業員のリスクに対する意識の向上」のほかに、「事業の優先順位が明確になった」、「業務の改善・効率化につながった」と回答している企業が一定割合存在することが見て取れる。BCPの策定は、単にリスクへの対応力を高めるだけでなく、BCP策定のプロセスを通じて自社の事業を見直すきっかけとなっていることが分かる。また、約25%の企業が「取引先からの信頼が高まった」としており、BCPの策定は持続的な取引関係の構築にも資するといえよう。

第1-1-94図 事業継続計画(BCP)を策定したことによる効果(中小企業)

コラム1-1-5

「事業継続力強化計画」認定制度

「事業継続力強化計画」認定制度とは、自然災害などにかかる防災・減災対策に取り組む中小企業が、その取組を「事業継続力強化計画」としてとりまとめ、経済産業大臣が認定する制度であり、2019年7月より開始している。認定を受けた中小企業は、税制措置や金融支援など様々な支援策を受けることができる。

同計画には、事業継続力強化計画基本方針に沿って、計画の目標、ハザードマップなどを活用した自然災害などにおけるリスクの確認結果、安否確認などの初動対応手順、ヒト・モノ・カネ・情報などを守るための事前対策、訓練などの実行性の確保に向けた取組などを記載する。従来のBCP(事業継続計画)は、企業にとってハードルが高いと認識されており、計画の策定が浸透しにくかった背景がある。そこでより簡潔な第一歩目として、真に必要な部分だけでも、事前対策の計画に取り組んでもらうためにできたのが同計画の認定制度であり、A4紙4枚程度と比較的簡易な申請書により申請することができる。

コラム1-1-5_1図 事業継続力強化計画認定制度のスキーム

本制度の普及を図るため、中小企業庁では普及啓発を目的に平成30年度中小企業等強靱化対策事業を実施。具体的には、自然災害などへの事前対策を喚起・周知するための「中小企業等強靱化シンポジウム」を全国9か所で開催、加えて事前対策の計画を模擬策定する「ワークショップ」を全国47都道府県で開催、さらには計画策定を支援するため無料で個別企業に専門家を送る「ハンズオン支援」を約650者に対して実施するなど、様々な取組を行ってきた。それらの取組の結果、2020年2月末日時点で既に累計4,976件の計画が認定を受けている。

コラム1-1-5_2図 中小企業等強靱化シンポジウムの様子・事業継続力強化計画普及啓発ポスター

単独の中小企業が取り組む同計画のほかに、複数の中小企業が連携して取り組む「連携事業継続力強化計画」の認定を受けることもできる。単独では不可能な遠方の企業との代替生産や連携体間での人の融通など、より強靱な事前対策が「連携事業継続力強化計画」では可能となる。連携して事前対策に取り組んだ企業においては、平時において不得意分野の相互補完、共同生産や受注、販路開拓を実施することにより、業績を拡大した事例も存在する。

コラム1-1-5_3図 意識を共有する企業間の連携

中小企業庁では、中小企業・小規模事業者の自然災害などへの事前対策の計画の策定支援を行っていくとともに、被害を最小限に抑えた好事例などを収集し積極的に発信していく。

〔2〕テレワークの導入

「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」では、「患者・感染者との接触機会を減らす観点から、企業に対して発熱等の風邪症状が見られる職員等への休暇取得の勧奨、テレワークや時差出勤の推進等を強力に呼びかける。」としている。一方で、中小企業におけるテレワークの導入率は低い。第1-1-95図は、平成30年通信利用動向調査を基に、資本金規模別にテレワークの導入状況を見たものである。これを見ると、資本金規模が小さい企業は、テレワークを導入している割合が低い傾向にあることが分かる17

17 ただし、一部の資本金規模の階層では標本サイズが非常に小さいため誤差が大きくなることに留意が必要である。

第1-1-95図 資本金規模別、テレワークの導入状況

第1-1-96図は、テレワークを導入しない理由を見たものである。これを見ると、「テレワークに適した仕事がないから」を回答した割合が最も多く、次いで「業務の進行が難しいから」、「情報漏えいが心配だから」、「導入するメリットがよく分からないから」が多いことが分かる。

第1-1-96図 テレワークを導入しない理由

他方、テレワークを「導入している」企業が導入の効果を感じているかを見たのが第1-1-97図である。これを見ると、「非常に効果があった」、「ある程度効果があった」と回答した企業は全体の79.2%存在することが分かる。また、資本金規模別に割合はやや異なるが、「1,000万円未満」で56.5%、「1,000万円〜3,000万円未満」で74.0%存在することが分かる18

18 ただし、一部の資本金規模の階層では標本サイズが非常に小さいため誤差が大きくなることに留意が必要である。

第1-1-97図 資本金規模別、テレワークの効果

第1-1-98図は、テレワークの導入目的について見たものである。これを見ると、「定型的業務の効率性(生産性)の向上」と回答した企業が56.1%と最も多い一方、「非常時(地震、新型インフルエンザ等)の事業継続に備えて」と回答した企業も15.1%と少ないながら存在することが分かる。

第1-1-98図 テレワークの導入目的

最後に、コロナアンケートを基に、今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐために、テレワーク(在宅勤務・リモートワーク)を導入した企業の割合について見たのが第1-1-99図である。ここでも中小企業におけるテレワーク実施率は14.2%にとどまることが分かる。

第1-1-99図 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための在宅勤務・リモートワークの実施有無

以上より、規模が小さい企業はテレワークの導入率が低い傾向にあるものの、導入後効果を感じている企業も多くいることが分かった。また、新型コロナウイルスの感染拡大を経てもなおテレワークの導入率は低いままであることも分かった。

事例1-1-3は、感染症に特化したBCPを策定していたことで、テレワークなどの感染症対策を速やかに実施できた事例である。今回の感染症の流行を機に、生産性向上と事業継続力の強化の両方の観点から、BCPの策定やテレワークの導入を検討していくことも重要といえよう。

また、感染症の流行は、従業員の雇用環境や生活面にも影響を与える。事例1-1-4は、感染リスクに注意を払いながらも、従業員の生活を守るための措置をとった事例である。従業員の健康と生活を守るために、中小企業自身ができる取組を考えることが重要である。

事例1-1-3:サクラファインテックジャパン株式会社

「新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえ、『感染症BCP』に基づき、テレワークなどの感染症対策を速やかに実施した企業」

東京都中央区のサクラファインテックジャパン株式会社(従業員170名、資本金9,900万円)は、医療用機械器具の製造・販売を手掛ける企業である。同社が属する「サクラグループ」は江戸時代初期の東京の薬種商にルーツを持ち、1980年代から海外展開を加速。現在ではヨーロッパ14か国、米国及び中国に現地法人を有している。

同社では、基本的な感染症対策には取り組んでいたが、2013年の風疹の流行を踏まえ、「医療機関に出入りする企業として、社内で感染症が蔓延するようなことがあってはならない」という思いがより強くなった。同年からは会社の全額費用負担で、風疹・インフルエンザワクチンの社内での集団予防接種を実施している。特に、企業内での風疹のワクチン接種は、当時本社のあった江東区で初めての取組であった。

また、同社の石塚悟社長は、事前対策だけでなく、実際に感染症が流行した場合や従業員が感染した場合にも備える必要があると考えた。そこで、2016年10月に「感染症に係る業務継続計画」(以下、「感染症BCP」という。)を策定。これは東京都の「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」19に参加したことを機に、策定したものである。同社の感染症BCPでは、インフルエンザやノロウイルスのほか、中東呼吸器症候群(MERS)なども想定している。また、感染症流行時は、「組織全体での感染症に対する安全性を確保するため、業務の継続・縮小・休止などの可能性を峻別の上、優先度合に従った業務遂行体制を敷き、非常時における全社統一的な事業展開を図る」ことが重要であり、具体的な対応策として、従業員の衛生管理の徹底や在宅勤務(テレワーク)が有効と記載されている。感染症BCPの策定後は、東京都が提供している教材も活用しつつ、感染症が流行した際に取るべき行動について、従業員への周知に努めた。

19 東京都が東京商工会議所及び東京都医師会と連携して開催している、企業の感染症対策を支援するプロジェクト。感染症理解のための従業者研修、感染症BCPの作成、風疹予防対策の推進などについて学ぶことができる。

そして2020年、新型コロナウイルスが発生。感染症流行時に取るべき行動を事前に把握できていた同社では、感染症BCPに基づき、すぐに発熱者の出社禁止などの措置を開始。メール、電話会議システム、チャットアプリを活用したテレワークを推奨した。各部門内でチームを編成し、チームごとにオフィスと自宅とで勤務場所を分けてシフトを組むことで、感染予防と業務継続の両立を図った。さらに、働き方改革の一環として導入していた時差勤務制度を拡充し、部門ごとに通勤時間を割り振ることで、感染リスクの低減を図った。

「感染症が発生した際、どのような行動を取るべきか事前に社員が理解していたため、社内の混乱をきたさずにテレワークや時差勤務の拡充に踏み切ることができた。医療に携わる企業として社会的責任を果たすため、これからも感染症対策に真摯に取り組んでいきたい。」と同社の石塚悟社長は語る。

社内集団予防接種の様子

事例1-1-4:株式会社奥野工務店

「学校の臨時休業に合わせて、社内に子供たちを受け入れ、従業員の生活を守った企業」

岐阜県飛騨市の株式会社奥野工務店(従業員19名、資本金2,000万円)は、建築工事業者であり、とび・土木工事なども手掛けている。

新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策として、学校などの臨時休業を政府が要請したことを踏まえ、同社の所在する飛騨市は、2020年3月3日から、市内の全小中学校を臨時休業とすることを決めた。あわせて、各家庭で面倒を見られない小学1年生〜4年生を対象に、7時30分から17時の学童保育を実施するなどの配慮も実施した。

しかしながら、学童保育の対象年齢が限られているほか、同社の従業員は17時まで業務があることから学童保育に通う子供を迎えに行くことが難しく、子供を抱える従業員2名が頭を悩ませていた。

そこで同社は、社内の食堂兼休憩室を従業員の子供向けの自習室として開放し、従業員の子供3名を受け入れることにした。受け入れに当たっては、子供たちの感染予防を徹底しており、入室時は手洗い・うがいをすることを義務付けている。

アットホームな経営を続けている同社では、以前より従業員同士の交流も盛んで、会社の親睦会などに子連れで参加することもよくあり、従業員と子供とは顔なじみということから、初日からスムーズな運営が行われた。受け入れた場所となった社内の食堂兼休憩室には、子供の両親だけでなく、他の従業員もよく顔を出しており、こうした子供たちとの交流を通じて、社内の雰囲気も明るくなったという。

「新型コロナウイルスの感染拡大に対しては、感染予防の取組がまず重要。同時に、従業員の雇用や生活を守るという事業者としての使命もある。自分たちのできる範囲でお互いが助け合って、この非常時を乗り切っていきたい。」と同社の奥野拓郎会長は語る。

感染予防もしながら自習に励む子供たち・事務所外観
〔3〕新たな価値の創造

最後に、感染症の影響が広がる中でも、新たな価値創造に取り組む企業についてまとめたのが第1-1-100図である。こうした厳しい環境においても、変化を前向きに捉え、新しいビジネスを生み出している企業も多く存在していることが分かる。

第1-1-100図 新たな価値創造の取組