第1章 経営資源の引継ぎ
経営者の高齢化が進む中で、第1部で確認したとおり、休廃業・解散件数は増加傾向にあり、中小企業・小規模事業者の数は年々減少している。そのような状況で、我が国経済が持続的に成長するためには、企業がこれまで培ってきた、未来に残すべき価値を見極め、事業や経営資源を次世代に引き継ぐことが重要である。しかしながら、中小企業・小規模事業者が培ってきた事業や、技術・ノウハウや設備などの貴重な経営資源が、次世代に引き継がれることなく散逸してしまう場合もある。
そこで、本章では、経営者が引退するまでの実態と、経営資源を引き継ぐに当たっての課題などを明らかにしていく。
第1節 経営者引退の概観
本節では、まず、第2部で分析する経営者の参入と引退の概観を示す。その上で、特に経営者の引退(事業承継・廃業)の概念の整理を行う。
1 経営者の参入と引退の概観
はじめに、経営者の参入と引退の全体像と、それを分析する背景を示す。
〔1〕経営者の参入と引退の概念
第2-1-1図は、経営者の参入と引退の概念を示している。経営者の参入には、自ら事業を開始する「起業」、他者から事業を引き継ぐ「事業承継」がある。他方、経営者の引退には、他者へ事業を引き継ぐ「事業承継」、事業を停止する「廃業」がある。近年、事業承継が注目されている1が、「事業承継」は、経営者の参入と引退が同時に行われていることを指す。
1 中小企業庁(2018a、2017a、2014)

〔2〕経営の担い手の推移
第2-1-2図は、我が国の企業(個人事業者を含む)の経営の担い手の数の推移を示している。59歳以下の経営の担い手は、1992年から2017年にかけて約45%減少している。他方、60歳以上の経営の担い手は、同じ期間に約25%増加している。経営の担い手の高齢化が進み、2017年時点で、経営の担い手の数は、60歳以上が59歳以下を上回っている。

〔3〕年代別に見た中小企業の経営者年齢の分布
次に、中小企業の経営者の年齢の分布を見ると最も多い経営者の年齢は1995年に47歳だったが、2018年には69歳となっており、経営者年齢の高齢化が進んでいることが分かる2(第2-1-3図)。
2 第2-1-3図の年齢区分が5歳刻みであるため、山が動いているように見えないが、2015年から2018年にかけて、経営者年齢のピークは3歳高齢化している。

今後、経営者の高齢化が進むと、年齢を理由に引退を迎える経営者が増えると予想される。こうした中で、地域社会ひいては日本経済を維持・発展させるためには、新たな経営の担い手の参入や、有用な事業・経営資源を次世代に引き継ぐことが重要になる。