トップページ 審議会・研究会 審議会(平成25年6月30日以前分) 小規模企業部会 中小企業政策審議会小規模企業部会(第1回) とりまとめ

商工会組織に関する制度整備について
~中小企業政策審議会 第1回小規模企業部会とりまとめ~

平成13年2月2日
中小企業庁経営支援課
1.近年の小規模企業政策の検討の動き
(1)中小企業政策の転換と小規模企業政策の転換
我が国の中小企業政策は、昭和38年の中小企業基本法制定以来、大企業と中小企業との格差など、いわゆる「二重構造」を背景とする「格差の是正」を政策理念として実施されてきた。
しかしながら、中小企業者の所得水準の向上、開廃業率の逆転・過多性の消失、我が国産業構造の変化による「規模の経済」の相対化、中小企業の多様性の増大等の環境変化を踏まえ、中小企業政策の抜本的な転換が必要となり、平成11年に中小企業基本法の改正が行われた。
改正後の中小企業基本法においては、中小企業を「多様で活力ある独立した存在」ととらえ、?創業や経営革新に向けての中小企業者の自助努力の支援、?経営資源調達市場・取引市場に係る機能の不十分性の補完、?セイフティネットの整備、を具体的な政策の方向性と位置づけている。
こうした中小企業政策の政策理念の転換に合わせ、小規模企業政策についても転換の方向が示されている。具体的には平成11年9月22日の中小企業政策審議会答申において、「小規模企業政策についての考え方」として、以下のように示されている。
「中小企業について、様々な面でその役割を積極的に評価すべきであること、多様で活力ある独立した中小企業の育成発展を図ることを新たな政策理念とすべきことは、小規模企業についても基本的に妥当する。 ~中略~ 小規模企業に対する政策理念については、これまでの二重構造の底辺を引き上げることから、小規模企業が幅広い創業活動や積極的な各種の事業展開を進めることが可能となるよう、その自助努力の促進、各種の競争条件の整備及びセイフティネットの充実等を図ることにより小規模企業層がいわば創業や成長の苗床として機能するよう支援することへ転換すべきである。
他方、小規模企業はまさにその小規模性故に、経営基盤は相対的に脆弱であり、資金や技術、情報等経営資源のアクセスの面で中小企業一般と比してもより大きな困難性を有するとともに、その経営形態は、事業のリスクを事業主と家族が実質的に直接負担する実態にある等の特性を有する。このため、経営資源の確保の円滑化等の競争条件の整備や、経営革新に向けた自助努力の支援を通じ、小規模企業の多様で活力ある発展を図るためには、かかる小規模企業の経営基盤や経営形態の実態に即して、金融、税制その他の事項について適切な考慮を払う必要がある。また、政策に取り組む上では、国と地方自治体の相互の連携が重要であるが、小規模企業の地域に密着した性格と、国の行政全般において地方分権を推進する必要があることを踏まえ、個別事業について、それぞれの性格に応じて地方自治体の自主性に委ねる部分を拡大する方向で検討することが適当である。」
(2)平成11年の本委員会とりまとめとその後の取組状況
平成11年9月の本委員会とりまとめにおいては、上記の中小企業政策審議会答申と同様な問題意識の下で、小規模企業政策についての新しい政策理念を提示するとともに、経営改善普及事業、設備近代化資金助成制度、小規模企業共済事業及び中小企業倒産防止共済事業、金融・税制等の個別事業について、それぞれの基本的方向を示した。
その後、このとりまとめで示された基本的方向性を踏まえ、既に国、都道府県、商工会・商工会議所等の関係者において、法律、予算等の制度面での改正や具体的な事業実施面における新たな取組など様々な改革が実施されている。
例えば、平成12年度から、経営革新・創業に関する小規模事業者の身近な相談窓口として地域中小企業支援センターが全国に設置され、国・都道府県による所要の予算措置が講じられるとともに、商工会においても、全国商工会連合会の指導の下で、商工会事業の強化・拡充に向けた自主的な検討、取組が進められている。また、設備近代化資金助成制度については、とりまとめの趣旨に従った内容の法改正が平成11年秋に行われ、平成12年度から小規模企業者等設備導入資金助成制度として実施されている。
(3)今回の検討事項
現在検討中の内容も含め、今後とも前回のとりまとめに示された改革が行政・民間の双方において着実に進められていくことが重要である。特に、経営改善普及事業の改革については、その内容が多岐にわたるとともに実現のために多くの努力が必要とされるものもあり、国、地方公共団体、商工会・商工会議所等の多くの関係者の着実で継続的な取組が求められる。とりわけ、前回のとりまとめで示した商工会の広域化・合併等の促進については、関係者における真剣な議論がなされる中で、その円滑化のための法律制度の整備の必要性の声が高まってきており、本小委員会においては、商工会の広域化・合併への動きを踏まえつつ、その環境整備の必要性について更に具体的な検討を行うこととした。
2.商工会の広域化・合併への動き
(1)商工会を巡る状況
町村部を中心に、全国に約2,800設置されている商工会は、地域の総合経済団体として商工業の改善発達・社会福祉の増進に寄与するとともに、経営改善普及事業の担い手として、地区内の小規模事業者に対して様々な支援を実施してきた。しかしながら、約8割の商工会で会員500人未満、約9割の商工会で経営指導員3人未満と、大部分の商工会の事業実施体制は極めて小規模であり、かつ近年は地区内の商工業者数の減少・各商工会の組織率の低下に伴って、ますます小規模化する傾向にある。
他方、中小企業施策の転換・事業者ニーズの多様化に伴って、創業支援・経営革新支援や情報化支援等の新たな事業が求められる等、商工会に求められる役割は高度化・多様化しており、組織が小規模化する中でかかる役割を果たすためには、個々の事業実施単位の経営基盤を強化すると同時に、事業の効率化を通じて最小限の経営資源で所要の効果を上げることが、喫緊の課題となっている。
さらに、新たな事業への適切な対応のためには、経営指導員等の資質向上を図るとともに、適正な能力・実績評価を通じて個々の経営指導員の能力を高め、同時に経営指導員等の専門化を図ることが重要である。しかしながら、小規模で経営指導員が少ない商工会においては、?経営指導員の分業による各々の専門化ができないことにより、多様なニーズに対応することが困難になる、?代替の経営指導員がいないため、経営指導員が一時的に日常業務を離れ、研修等を通じての資質向上を図ることが困難になる、?多数の経営指導員を比較して相対的に評価することができず、経営指導員の能力・実績を適正に評価することが困難になる、等の問題を抱えている。
また、地域経済活動の広域化を背景として、広域的な地域経済活性化事業のニーズが高まっている中、個々の商工会が単独に実施する事業では、かかるニーズに十分応えられなくなってきている問題も生じている。現在進められている市町村合併の動きも加わって、地域経済圏の拡大が進行していくことが予想されることから、かかる問題はますます大きくなると考えられる。
(2)広域化・合併による対応
(1)で示したような問題に対する有力な対策として、商工会活動の広域化や合併が挙げられる。複数の商工会における広域的な連携や合併を進め、商工会の事業実施単位を拡大することによって、次のような対応が可能になる。
・事業所集積の拡大によって、新たな事業機会や経営改革の基盤が形成され、地域経済内の競争が促され、それに対応した商工会事業の見直しと活性化が進む。
・個々の事業実施単位の経営基盤が拡大するとともに、共通事務の統合等によって事業の効率化が図られる。
・多数の経営指導員で事業者を指導する体制になることにより、各々の経営指導員の専門化や役割分担が可能となり、更に業務を融通することにより研修機会が保証され、それによって資質向上と経営指導員の適正な能力評価が容易になる。
・より広域な地域を対象とする事業やより多くの事業者の参加を得る事業の実施が可能となる。
このような状況において、具体的な経済活動を担う事業者からも、情報化・事業拡大・創業に関する事業をはじめとして、商工会が現状より広域的な活動を強化することが期待されている。
ところで、事業実施単位の拡大のための選択肢の一つに商工会の合併が挙げられる。合併については、「組織・事業の効率化につながる」「経費削減につながる」等のメリットがあり、現時点で、事業者から、商工会の合併を検討すべきという意見が上がっている。加えて、地方自治体・商工会の関係者からも、市町村合併に合わせて商工会合併を検討すべきという声が強く、今後市町村合併についての機運が高まっていく中で、事業実施単位の拡大のための手段として商工会の合併が真剣に議論されていくことが予想される。
ただし、合併について、「地域との関係が希薄になる」「経営指導員が減少し、きめ細やかな対応ができなくなる」「(市町村の区域を超えて合併した場合)個別市町村との連携が難しくなる」等のデメリットを懸念する声もある。しかし、これまで統合(事実上の合併)を行った商工会の事例では、統合によって、経営指導員数・補助金は当面必ずしも減少しておらず、また、現に複数の市町村を地区とする商工会においてはおおむね関係市町村との調整が図られる等、懸念されるデメリットを克服する努力がなされている。実際の合併に当たっては、合併のメリットを最大にいかし、懸念される合併のデメリットを最小にする検討と努力が必要であることは言うまでもない。
(3)商工会の広域化・合併への具体的な動きと円滑化のための環境整備の必要性
現在、各地において商工会の広域化・合併に向けた取組が徐々に進捗している。
全国商工会連合会における検討において、「会員ニーズの多様化・高度化、商工会の業務・役割の拡大など、個々の商工会だけでは対応が困難な状況が多くなってきていること、また、事務局の効率化・合理化が期待できることなどから、合併をも視野に入れた広域化の促進を図ることが必要である。」との方向性が打ち出され、これを受けて、現時点で7割以上の都道府県商工会連合会において、広域化・合併に関する検討が開始されている。その中には、都道府県商工会連合会が中心となって都道府県内の商工会の合併計画を策定し、具体的な合併モデル案の調整に入っているところもある。また、商工会の中には、各都道府県商工会連合会における検討に先行し、近隣商工会の合併を視野に入れた検討を進めているところも出てきている。
平成12年8月の「新たな小規模企業政策の実施体制等に関する研究会とりまとめ」において示された趣旨を踏まえ、今後は、各都道府県において都道府県・商工会・商工会議所による新たな経営改善普及事業実施体制構築のためのマスタープランづくりが着実に進められていくことが強く期待される。
さらに、こうした全国的な広域化・合併の検討の流れや一部の商工会において進められている具体的な合併の検討への対応、そして今後、各都道府県におけるマスタープランづくりの動きや市町村合併の進捗の動きなどの中で、検討が本格化すると考えられる合併プランづくりに対して、合併の制度的な枠組みを示して検討の円滑化に資するためにも、早急に商工会の合併を円滑に進める法的制度を整備しておくことが必要と考えられる。
3.商工会組織に関する制度整備について
(1)合併の円滑化のための制度整備
現行の商工会法においては、合併のための手続規定が整備されていない。このため、現行法の下で、事実上、合併に近い効果を上げるためには、
?一方の商工会が解散し、存続する他方の商工会の地区を定款変更により解散した商工会の地区を含むものに広げる(吸収型)
?二以上の商工会が全て解散し、新たに解散した全ての商工会の地区を併せた地域を地区とする商工会を設立する(新設型)
のいずれかの清算型の手続が必要となっている。
しかしながら、このような清算型の手続の下では、解散する商工会が有する個々の財産・債権債務ごとに、存続する商工会又は設立する商工会への移転手続が必要となり、大きな民事法上のコストが発生する。
また、解散する商工会から存続する商工会又は設立する商工会への財産移転が通常の取引行為とみなされるため、法人税・住民税等について通常の取引行為としての課税がなされる。
かかる民事法上・税法上のコストを軽減するために、商工会の合併に関する手続規定を創設し、商工会改革のための環境整備として合併の円滑化を図っていくことが適当である。具体的な合併規定の内容としては、他法における合併規定と同様、関係商工会における合併の議決、各商工会の債権者の保護手続、行政庁による合併の認可、合併の登記による効力発生(合併によって存続する商工会又は合併によって成立した商工会は合併によって消滅した商工会の権利義務を包括的に承継)等の規定を設けることが適切である。
(2)合併後の商工会の地区について
?現行商工会法における商工会の地区の考え方
現行の商工会法においては、「商工会の地区は、一の町村の区域とする。ただし、商工業の状況により必要があるときは、一の市又は隣接する二以上の市町村の区域とすることができる。」とされている(商工会法第7条)。また、商工会の設立後に市町村の廃置分合があった場合においては、経過措置として特例的に廃置分合前の各市町村の区域を地区とする商工会の存続が認められており(商工会法第8条)、現在、80余の市町村において、この特例により市町村の一部をその地区とする商工会が180余存在している。なお、そのうち、74の市町村において商工会と商工会議所とが併存している。
また、現行商工会法の下においては、清算手続を伴う形での商工会の統合(事実上の合併)が認められるが、統合後の商工会の地区については、商工会法第7条の規定により、一の市町村の区域又は隣接する二以上の市町村の区域になるもののみ認められているところである。
?合併後の商工会の地区と商工会法の関係-市町村内商工会の部分合併の許容-
今回の論点である商工会法における合併のための手続規定の整備は、現行法下では清算型による事実上の合併のための手続を、その実態に合わせてより円滑に行えるように手続面の整備を行うものであり、合併の認可に当たっては、商工会の設立認可あるいは定款変更認可と同様の要件を満たすことが必要であり、合併後の商工会の地区については、商工会法の地区に関する規定に適合することが必要である。
従って、合併後の商工会の地区が一の市町村の区域又は隣接する二以上の市町村の区域となるような合併が認められるのが商工会法の基本であり、合併後の商工会の地区が一の町村の区域となる場合には通常の設立要件を充足することにより、合併後の商工会の地区が一の市の区域又は隣接する二以上の市町村区域となる場合には通常の設立要件を充足すること及び合併が商工業の状況により必要であることにより認めることが適当である。
他方、市町村の区域の一部を地区とする商工会については市町村合併から相当期間を経過しているにもかかわらず、同一市町村内の商工関係団体の一本化への調整が難航する中で現在に至っているものも多く、その中には上記2.(1)に記した諸課題を抱え、広域化・合併を検討しているものが出てきている。しかし、このような商工会同士の統合であって、統合後も市町村内の一部が地区となるようなものは現行法の下では認められておらず、広域化・合併に向けての選択肢が制約されている状況にある。
こうした問題を解決するために、商工会法の基本原則を変更するものではないことはいうまでもないが、今回の合併手続規定の整備に合わせ、法改正により、市町村の廃置分合に伴う特例的経過措置の更なる特例として、合併後の商工会が市町村の区域の一部を地区とするような合併を認めることが適当である。ただし、このような合併は、商工会の地区に関する特例であり、市町村の商工行政との整合性等の観点からは不適当な場合もありうることから、市町村内商工会の部分合併については、通常の設立要件の充足に加え、例えば合併する商工会が隣接していること、合併により十分な効果が上がることや当該市町村全体の商工業の発展に支障がないこと及びこのことを担保するための手続として、都道府県知事の認可に際し、関係市町村長の意見を反映させること等の要件を考慮することが適当である。
なお、市町村の区域の一部を地区とする商工会が隣接する他の市町村の区域を地区とする商工会との合併を希望するケースも考えられるが、このような合併については、一市町村一商工団体という原則との乖離が大きいことから、現行法と同様、許容すべきではないと考える。
4.商工会の広域化・合併に向けて
上記のように、経営改善普及事業の適切な実施という観点から、小規模な商工会については、その事業実施単位を拡大することは政策的に重要な課題である。
しかしながら、商工会は商工業者の自主的組織であることに鑑みると、事業実施単位の拡大という課題を広域的な連携という形で実現するか、更に踏み込んで組織全体の合併を実施するかはあくまでも各地域の事情を十分に踏まえ、各々の商工会における商工業者の意思に基づき自主的に決定されるべきものである。合併に関する手続規定は、あくまでも合併を選択した商工会について、その合併が円滑に進むような手段を与えるものであり、環境整備の役割を果たすものである。
合併はそれ自体が目標ではなく、今後の商工会活動のあり方についての真剣な議論、検討の上に立って選択されるべきであり、かつ、合併のデメリットを最小に抑え、合併のメリットを最大限にいかす形での合併が真に達成されるよう、関係者に努力が求められるものである。さらに、いくつかの商工会が合併に至り、新たな商工会として出発したとしても、その規模や地区が事業実施単位として機能しうるか否かの検証も必要であり、合併商工会よりも広域的な事業実施が必要な場合には更なる広域連携等を進めていくことが求められる。
また、商工会が広域化・合併を進めていくためには、直接の当事者である商工会の自主的な取組に加えて、都道府県商工会連合会や全国商工会連合会による指導・調整が不可欠である。各都道府県商工会連合会や全国商工会連合会においては、これまで以上に商工会に対する指導体制を強化し、将来を見据えた広い観点から商工会の広域化・合併を積極的に支援していくことが期待される。