日時:平成29年12月11日(月)9:00~11:00
場所:経済産業省本館17階第1~3共用会議室
出席者
川村委員(座長)、翁委員、菊地委員、多胡委員、冨山委員、中原委員、家森委員、安藤委員、遠藤委員(代理出席)、可部委員
ゲストスピーカー
森俊彦 特定非営利活動法人日本動産鑑定会長
議事概要
冒頭、ゲストスピーカーよりプレゼンテーションを行った。その概要は以下のとおり。
【森氏】
- 商工中金のビジネスモデルを述べるに際し、中小企業のビジネスモデルそのものであるモノの仕入や販売に伴う運転資金について簡潔に触れたい。
- 企業の資金繰りの大原則は、短期資金(運転資金)は短期借入金で調達し、長期資金は長期借入金や自己資本で調達するというものであるが、必要運転資金が常に発生する中で、それを返済不要な自己資本で全額調達することは中小企業にとって困難。
- その解決策が擬似エクイティとなる専用当座貸越で、中小企業のライフラインと呼ばれており、担保・保証に依存しない事業性評価融資の典型例である。
- 多くの民間金融機関では、当座貸越はリスクがあるため優良企業にしか提供してこなかった。しかし、中小企業に寄り添う顧客本位の金融機関では、専用当座貸越による動態モニタリングによって本業支援を全営業店で取り組み、貸付条件変更(リスケ)先などの事業再生・業績改善を実現し、さらには経営者保証なしの事業承継に繋がっている。政府が推進する生産性の向上が実現する。ただ、日本全体の融資構造をみると、現在では、法人向けの大半が長期貸出。必要運転資金をはるかに超える事態であり、約定返済の負担がリスケの主要因となっているほか、金融機関もモニタリングを長期間行わなくなり、中小企業の資金繰りの困難化と、金融機関の経営支援能力の著しい低下を招いている。
- オーバーバンキングは正常先の上中位、優良企業で集中的に発生。金利競争が激しく、採算が悪化。地域金融機関が自らの地元を守り抜くうえで必要な資金供給先であるミドルリスク先(正常先の下位~要注意先)以下については、多くがニューマネーの供給を受けられず塩漬けで計画に沿った回収が行われているほか、民間金融機関は不動産担保・信用保証協会・経営者保証で保全を図り、リスクを十分に取っていない。金融庁が指摘する日本型金融排除である。
- 商工中金のビジネスモデルは、中小企業のライフステージの中でも、「創業期、低迷期、再生期」のミドルリスク先以下を中心とすべき。その際、商業銀行のフルバンキング機能として、専用当座貸越と資本性ローン(業績連動型金利の無担保・無保証・約定弁済なしの劣後ローン)の提供によるエクイティ性資金の活用がカギ。また、全国に店舗がある商工中金は、このビジネスモデルの動態モニタリング機能を活用し、ビジネスマッチングや海外進出支援等に取り組むことで増加運転資金と設備資金のニーズが拡大し、収益を確保できる。事実、同様のビジネスモデルを有する民間金融機関のごく一部では、専用当座貸越の金利が2~4%、資本性ローンが取引先の業績改善で4~5%である。
- 商工中金バランスシートの総資産12.8兆円のうち、貸出金が9.4兆円。2016年度貸出金利息1,192億円を9.4兆円で割った貸出金利は1.27%。“平時”のビジネスモデルなので、危機対応融資2.7兆円とプロパー融資6.7兆円がミドルリスク先以下に順次入れ替わると、1.27%を上回る貸出金利は十分確保できる。
- 他の論点として3つ触れておく。第1は、民間金融機関のビジネスモデルと方向性が同じであれば、商工中金が行う必要はないとの議論がある。しかし、法人税統計によると赤字先が7割、うち繰越欠損金を調整した単年度赤字先は4~5割ある。中小企業380万社のうち、赤字のミドルリスク先以下は保守的に見積もっても150万社ある中、多くの民間金融機関はこうした先にリスケをして倒産はさせないものの、高い金利を取り続け、かつ、ニューマネーを出さないという状況が日本全国で起こっている。全国の中小企業が直面している大変大きくかつ深刻な問題に一刻も早く対応するため、商工中金がそのフロントランナーとなることに違和感はない。日本浮上に向けて総力の結集が必要であり、商工中金と民間金融機関が「取った取られた」の議論をしている場合ではない。
- 第2は、現状、商工中金は3,800人の職員を抱えており、今回の不正事案を受けて厳しい声があることは承知しているが、「禊は禊」、「ビジネスモデルはビジネスモデル」である。ごっちゃにすべきではない。民間金融機関がやらない、やるとしても時間がかかるとなると、商工中金の現有人員はフル活用する。
- 第3は、商工中金が取引先を事業再生で正常化させると、他の金融機関が低金利競争を仕掛けて、商工中金の収益性が落ちるのではないかということ。ミドルリスク先以下の取引先に向き合って全面支援していくには、商工中金と顧客との信頼関係がカギ。商工中金は組合金融がレゾンデートル。組合員との信頼関係を軸に、専用当座貸越と資本性ローンで正常化させていくので、正常化後も商工中金と支援を受けた中小企業は、他の金融機関からの低金利攻勢に対しても、「跳ね返す」関係ができる。新たなビジネスモデルは優位性がある。
続いて、プレゼンテーションに対する質疑応答を含む、商工中金のビジネスモデルに関する討議を行った。主なやり取りは以下のとおり。
【委員】
- 本日の論点について、私なりに整理したい。まず、民業補完的に商工中金が担っていくべき業務、言い換えると民間金融機関が担え切れていない機能は何か。また、ミドルリスクと言った時に、融資対象がミドルリスク層であるものと、メザニンなどのようにファイナンスそのものがミドルリスクであるものがあるが、商工中金が担うべきものは何か。それから、エクイティ性資金というのはどのような形態が考えられるか。それ以外にも、商工中金が全国ネットワークを持っていることによる事業承継・M&A・マッチング・海外展開の支援があるほか、中小企業が組成した組合と連携して課題解決の支援を行うということなどがこれまでに挙げられているがどう考えるか。
【委員】
- 政府系金融機関であることを前提にした商工中金の在り方を考えると、1つ目は、普遍的な民業補完性がある領域への対応で、カントリーリスクや海外とのイコールフッティングの問題、巨大な天変地異のリスクなどが該当。また、実態として、社会政策を主な目的とした投融資業務は存在していて、中小企業金融の多くはこちらになっている。
- 2つ目は、民間金融機関では制度上の制約で市場機能を果たしにくい領域への対応で、典型的なのは本格的なエクイティ投資。ただし、この領域についても、市場機能の隙間を埋めるような民間のプレーヤーが出てくれば、補完性はなくなる。
- 3つ目は、沿革的・社会経済的理由で民間の市場機能が未成熟な領域への対応で、1970年代以前の民間の預金貯蓄が不十分な時代の資金供給機能の補完が挙げられる。しかし、現状は預金蓄積がありすぎて困っているのが実態。これはあくまでも時限的な呼び水型であり、民間が進出してきたら撤退するのが筋。現状であれば、本格的なエクイティ投資を活用した地域の中堅・中小企業の事業再生支援に取り組む余地があるかもしれない。
- 4つ目は、以上のいずれにも該当しないが、どういうわけか民間金融機関が取り組んでいない領域への対応。本日の森会長の話は、民間金融機関ができないことは一つもない。この領域に政府系金融機関に固有の補完性はないため、特定の金融機関がここに優位性を持ち、その業務の主眼を置くのであれば、儲かる領域であるので、直ちに完全民営化するべき。
- ミドルリスク先が150万社とのことであったが、商工中金の4,000人の職員でカバーしようとすれば、一人当たり約400社となり、事業再生に取り組むことは不可能。地銀・信金・信組を足したら何万人も職員がいる民間金融機関がカバーした方が良いに決まっている。金融行政改革が機能すれば、2~3年のうちに商工中金は政府系金融機関としての存在意義がなくなるはずであり、これらを恒常的な業務として行い、民間金融機関と競い合うのであれば、可及的早期に完全民営化するべきである。地域でこのビジネスモデルを行うのであれば、投資家は集まるはず。
【委員】
- ミドルリスク層というのは、正常先下位から要管理先まである程度入るところがゾーン。こうした層のうち正常先は資本性の資金がなくても回るため、専用当座貸越や資本性ローンといったエクイティ性資金は、それ以外の先に対するものということになる。
- ミドルリスク層に対する事業再生・事業承継・経営者保証ガイドラインの対応はここ数年間の中小企業金融の大きな課題であったが、これらが片付かなかったのは民間金融機関がレイジーであったため。
- エクイティ性資金については、ピュアエクイティを必要とする企業は各地域でほんの一握りしか存在しないほか、税制面からみても融資の方がよい。金融機関にとっても、株式を保有するメリットはあまりない。
- 商工中金のビジネスモデルの議論は、公的資金を入れている地域銀行と全く同じ図柄。現在の公的資金はそれを使って、金融機関が地域を良くするために存在しており、昔の公的資金とは全く別物。その効果は実際に出ており、金融機関の収益性は改善するし、顧客の支持が抜群に改善する。公的資金については、大体15年超の返済猶予があり、その間に金融機関が内部留保を積み上げて、返済することになる。先ほど、2~3年で民間金融機関が対応できるという議論もあったが、公的資金を入れる場合には15年くらいでみている。
【委員】
- 商工中金は民間が対応できていない分野をやれるはず、ということはわかった。またこの分野は、民間金融機関でも対応できている先とそうでない先があるとの話であるが、その差は人材による差なのか、経営による差なのか。
→ | 経営による差である。地域金融機関では、人材という意味では素晴らしい方がそれぞれの地域でいらっしゃる。このビジネスモデルをやり抜くには、ガバナンス・組織形態・人事評価が一気通貫にないと差がでる。金融機関の実情をみていると、経営トップがいわば優柔不断であり、このビジネスモデルを決め切れていないところに起因しているように感じられる。 |
- 金融庁は現在の地銀の現状について、どのように評価しているか。
→ | 金融庁が実施した3万社アンケートやモニタリングの結果を踏まえると、経営課題を抱えている企業への取組みの重要性の認識や、人材・ノウハウが不十分であるということもあって、依然として担保・保証に依存した融資の量的拡大を継続している金融機関も多々ある。 |
- 日本政策金融公庫の劣後ローンについて、制約や機能していない面が実態としてあるのか。
→ | 少し前に実行された資本性ローンの場合、業績が改善した後の金利が10%くらいになるケースがある。デフォルトの統計データが無い中で、倒産するかもしれないといった時に実行したローンであるほか、国の資金であるため、条件が厳しいことはわかるが、もう少し柔軟に考える余地もあるのではないか。 |
【委員】
- 現在、地銀の中でレイジーな頭取というのはどのくらいいるものなのか。
→ | 私が説明したビジネスモデルを実践して、やり抜いている金融機関は両手程度であり、貸出が反転拡大した金融機関は片手で数えるほどである。 |
【委員】
- もしレイジーバンクが500先超も存在するのであれば、中途半端に手を差し伸べるのではなく、商工中金が完全民営化して、競争で民間金融機関を脅かした方が効果がある。明日から株式を売り出して、1年か2年で上場して、貸出残高20~30兆円を目指せばよい。
【委員】
- これまでの議論を踏まえると、企業では民間金融機関に対して拭い難い不信感を持っているようであり、こうした現実がある中で、商工中金を廃止して、今すぐ民間金融機関だけで対応するというのは、企業は大きな不安を感じるのではないか。
- 商工中金を存続させた場合、商工中金と民間金融機関は競合することになるが、現時点では、企業の立場からはそうした競合はあり得るものだと思う。ただし、商工中金の現場の行き過ぎをチェックするような仕組みが必要ではないか。
- 資料3の「ミドルリスク層に対する取組」において、要注意先が多いにもかかわらず破綻は少ないということになっているが、資金を供給し続ければ企業は破綻しないわけであり、商工中金がそうした企業の生産性を上げていけるノウハウを持っているのか教えて欲しい。
→ | 要注意先に対して、財務内容改善のための提案や、ビジネスモデルや財務・営業キャッシュフローの向上のお手伝いをしながら、年度間で約15%の企業が正常先に遷移している。 |
- 今後、商工中金がアドバイス的な業務やABLに入ってくると、その業務の中での民業圧迫が起こり得るが、商工中金が担う分野は質的にも量的にも十分にあると考えられるか。
→ | ABLの場合、既に担保・保証を取り尽くしているから最後の手段で動産や売掛債権を担保に取ろうとする勘違い金融機関がある。担保の発想ではなく、事業性資産の評価に基づく真の意味でのABLを使いこなしている金融機関は少ない。一方で、中小企業の成長支援のために取り組むべきゾーンは、ご説明したようにものすごく広い。加えて、商工中金には、レゾンデートルとして組合金融を提供してきた信頼関係が組合とその傘下企業との間にある。 |
【委員】
- 商工中金の規模を縮小するのではなく、中小企業の業績を伸ばすアドバイスをしてもらいたい。生産性の上がらない企業はハッピーリタイアに持っていきつつ、他の企業がM&Aで引き受けるということも可能だと思う。ぜひ商工中金に知恵を出してもらいたい。
【委員】
- メザニンファイナンスや市場型間接金融という言葉が出てきて、15年くらい経ち、これらは皆さんが儲かる分野であると言っているのに、広がっていない。この原因は、人材によるものなのか、金融検査マニュアルなどの現実の制約によるものなのか。
【委員】
- いわゆるメザニンファイナンスや市場型間接金融の資金供給のかたちに当てはまる企業は地方にはほとんど存在せず、9割以上の企業は本日の森会長の話にあった対応をしていくべきである。
- ABLの日本語訳は「事業性評価融資」であるべきところ、「動産担保融資」と誤訳してしまった。事業資産には棚卸資産のようなオンバランスのほか、オフバランスであれば知的資産もあるわけであり、こうした資産も見て融資を行うのがABLである。「担保融資」という言葉がおかしい。
【委員】
- 2013年の中小企業向けのアンケート調査で、メインバンクである金融機関から助言を受けたことがあるか聞いてみた。商工中金にとってアンケートの設計上不利ではあるけれども、商工中金は地銀や第二地銀とその比率がほぼ一緒か、むしろ負けているという結果であった。一方、信用金庫と比べると、ビジネスマッチングや海外展開に関するアドバイスなどで商工中金から助言を受けている企業が多い。今後、商工中金がビジネスを特化していくならば、こうした分野を強めていっていただくことになるかと思う。地方に行くと、信金・信組としか取引をされていない企業がいっぱいいるわけで、そのような顧客に対して質の高い助言を与えることが考えられるのではないか。
【委員】
- 儲かる領域に地銀が取り組まないとすれば、そこにはそれができない何らかの理由があるはずであり、そこをもっと突き詰めて考えなければならない。事業性評価に基づき融資をすれば、民間金融機関と当該企業の間で信頼関係が生まれ、質の良い融資ができるということであるが、これは現在の銀行行政上、可能なものであるか疑問。行政指導を受ける方である銀行は官に対し説明責任を負うわけであり、「信頼関係があったからやりました」というのは回答にならないのではないか。行政指導と金融機関との関係、民間の活性化という矛盾を解決する必要がある。
- 今日の議題は商工中金を活用していく前提であるが、結論が民営化という方向にいくのであれば、政府系金融機関としての商工中金の使命は終わったという前提の議論をしなければならないと思う。
【委員】
- 民間金融機関には、危機感を全体で共有して、人事・業績評価まで含めてビジネスモデル全体を変えようとするところまで追い詰められていないという先が多いのではないか。また、検査マニュアルなど従来の金融行政の影響もあるだろう。
【委員】
- 地銀の多くはほとんどガバナンスが効かない株主構成であるため、緩慢な衰退は心地良い状態になっている。現在の頭取以下の経営陣が目の黒いうちは何も起こらないため、リスクを取ろうとはならないわけであり、行動経済学的に極めて合理的な均衡状態が起きている。
- 政府出資があって、暗黙の政府保証があることに起因している商工中金の優位性は全然ない。中小企業組合が株主であることには意味があるのだろうが、それは他の民間金融機関でもいくらでもある話。政府系金融機関としての商工中金は、今日の議論でもう終わっていることを示していて、完全民営化し、日本の中小企業金融の世界を変えてもらうようなイノベーターになってもらうことが筋。
【委員】
- 現在の地域金融機関のトップの1つ前、2つ前の世代は、若い頃に金融の国際化や証券化等の新しい分野にチャレンジした人であり、そうした人は、例えば太陽光発電向けの単なるノンリコースローンと実態把握のためのABLの見分けができる。他方、現在の地域金融機関のトップは、当局対応の上手な人ばかりが偉くなっており、金融検査マニュアルの奴隷になっているため、考え方を変えることは難しい。
【委員】
- 完全民営化ということになると、どうしても収益を相当考えなくてはいけないわけであり、儲からないことはやらないというかたちになるのではないか。ある程度の政府出資が必要であると思っている。
- 民間金融機関の場合、取引先がちょっと危なくなると引き気味になる。一方で、商工中金は最後まで一生懸命にアドバイスをしてくれた事例がかなりある。
【委員】
- もう1つのテーマは、ミドルリスクということではない商工中金の通常のプロパー融資をどう考えるかということである。これが完全に今のとおりということであると、民間とどこが違うのかということになってくる。
【委員】
- 通常のプロパー融資に関しては、完全なオーバーバンキングで供給過剰であるため、政府系金融機関が対応する意味は全くない。
- 仮に商工中金が完全民営化し、これまで議論してきた領域に優位性があるのだとすれば、プロパー融資から撤退し、ナローバンク的に機能を絞り込んでいって、ミドルリスク・ミドルリターンの融資に集約していくべき。プロパー融資は、政府系金融機関としてやっていく場合には民業圧迫となるためやはり止めた方がよいし、完全民営化する場合でも金利を取れないのだから縮小すべき。企業との日常的な取引はあった方が良いため、プロパー融資を残すことは構わないが、金利を取れないのだから縮小した方がよい。
- 私は、商工中金の規模を4分の1にすべきと言っている。この根拠は、現在、商工中金の職員が当社の職員採用を受けに来ており、その中で、事業再生の経験を持ち、アドバイスをできるような人は5~6人に1人であるというもの。商工中金の中でこの分野で仕事ができる人は多めに見積もっても4人に1人ではないかと考えていることによる。
以上
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