日時:平成29年12月1日(金)13:30~15:30
場所:経済産業省別館1階104共用会議室
出席者
川村委員(座長)、翁委員、菊地委員、多胡委員、冨山委員、中原委員、家森委員、安藤委員、遠藤委員、可部委員(代理出席)
ゲストスピーカー
飯嶋大三 一般社団法人全国地方銀行協会 一般委員長
株式会社千葉銀行 取締役専務執行役員
内池浩 全国中小企業団体中央会金融専門委員長
内池醸造株式会社代表取締役会長
議事概要
冒頭、ゲストスピーカーよりプレゼンテーションを行った。その概要は以下のとおり。
【飯嶋氏】
- 地銀協加盟行へのアンケートでは、政府系金融機関が民間金融機関の活動領域に過度に介入しているとの声が数多く寄せられており、日本政策金融公庫と商工中金でその8割を占める。
- 問題案件については、政府系金融機関の平均提示金利は地銀の半分程度。高格付け先に対してはさらに低い。また、政府系金融機関の取扱件数、金額を債務者区分別にみると、正常先が9割以上を占める。さらに、債務者年商別にみると、件数で7割、金額で8割以上が年商5億円以上の先となっている。
- 我々からの問題事例の指摘及び改善要請に対して政府系金融機関からは、制度面、運用面ともに問題はないとの見解がこれまで示されてきた。しかし、今回の商工中金の危機対応融資にかかる不正の調査結果をみると、危機対応融資の利子補給を民間金融機関との競争上の武器として利用していたことや、営業店の業績評価に取りこんでいたことなど、私どもからの指摘が誤っていなかったことを認識するとともに、私どもからの指摘に真摯に向き合ってもらえていれば今回の事例に至らなかったのではないかという思いがあり、残念である。
- 問題事例の7割は制度面、3割は運用面であり、制度面については執行機関である政府系金融機関が改善できる問題ではないので、制度全般の在り方について、本検討会や関係省庁においても、検討していただきたい。
- これまで危機認定された事象について、地銀はプロパー融資のほか、信用保証協会のセーフティネット保証を活用し、十分な支援を実施しており、危機対応融資がなくても多くの部分で対応可能であった。しかし、想定を超える経済危機や震災が発生しないとは言い切れず、これで十分と断言することは誰にもできない。仮に、地域金融機関が壊滅的なダメージを受け、一定期間、資金供給機能に支障をきたすなど極めて深刻な危機に対しては、民間金融機関だけでは対応できない可能性があり、その場合は公的金融の役割が必要になる。
- 他方で、危機対応業務については、その対象は真の危機や大規模災害とし、期間や地域を限定して慎重に運用してもらいたい。
- 平時において、商工中金は、民間金融機関が対応可能な案件は民間金融機関に任せ、創業期や再生期等における民間金融機関だけではリスクを取れない案件について協調・連携してもらいたい。
- ガバナンスについては、民間金融機関を利害関係者として明確に位置付け、地域の中小企業者を支えるパートナーとしての民間金融機関の声が商工中金の経営に届く仕組みを構築してもらいたい。
- 本検討会や関係省庁における公的金融全体に関する議論に期待している。
【内池氏】
- 商工中金の最大の特長は、政府系金融機関としての安定した取引スタンス。リーマンショック時や東日本大震災時には、民間金融機関から融資を受けることができず、商工中金から支援を受けた例が多くある。
- また、商工中金は、民間金融機関が貸しづらい要注意先にも融資をしており、こうした融資姿勢の結果、商工中金の融資に占める要注意先の割合は民間金融機関よりも高いものとなっていると聞いている。
- 過去の危機時には信用保証制度における保証割合が100%に強化されたが、それでも中小企業は民間金融機関から十分な借入ができなかった。これは、安易な代位弁済や保証終了後の融資打ち切りなどにより、融資先の直接の破綻を招くおそれから融資に慎重になってしまうことや、管理の手間がかかることが予想される場合にこれを回避するため、十分に資金供給が進まないケースがあると聞いている。
- 全国ネットワークを活用できることも商工中金と取引するメリットである。具体的には、地域による貸付条件の差がなく首都圏の企業と同様の融資支援を享受できる、政策や補助金情報等を速やかに入手できる、ビジネスマッチングなどにかかる選択肢が大きく広がることなどがある。
- 中小企業が共同で取り組むべき課題は数多くあり、例えば、三重県における航空機部品製造の産業クラスター形成時のほか、災害防止対応や海外への販路拡大など、複数社が共同でチャレンジする中小企業に対し、商工中金が知恵を出すとともに融資も行うことで具体的な経営支援を行い、中小企業の可能性を引き出す役割を今後も果たすことを期待する。
- 商工中金を利用している中小企業の立場で意見を申し上げたが、決して商工中金の代弁者や太鼓持ちではない。今回の不祥事件について、一番腹立たしく、また心配している。ただし、不祥事件により、民間金融機関の対応に限度がある状況での民業補完という商工中金や日本政策金融公庫の最も大切な機能までが否定され、全て民間に任せてしまえという話になると、中小企業としては困る。
続いて、プレゼンテーションに対する質疑応答を行った。主なやり取りは以下のとおり。
【委員】
- 指定金融機関になることに民間金融機関では一行も手を挙げなかったが、なぜ応じなかったのか。また、危機時において、メインや準メインの民間金融機関からの資金供給が詰まったが、従前は商工中金と取引がなかった企業に対して、商工中金はどのような対応を取ったのか。
→ | 例えば、東日本大震災の際は、返済を停止・猶予することから始め、それから給料等の支払資金をプロパー融資で対応した。その後の支援も、信用保証協会の活用やプロパー融資等で十分に対応できたため、危機対応業務の指定金融機関には手を挙げていない。指定金融機関となるためには認可申請やその後のシステム対応のほか、中小企業庁や会計検査院といった金融庁以外の省庁による検査・モニタリングの受け入れにかなり大きな負担が強いられることは事実。 |
→ | 埼玉県では組合の総会における、また、熊本県では信用保証協会による危機対応融資制度の説明があったことをきっかけに、これまでは商工中金と取引がなかった企業が相談に訪れたところ、融資を受けられたという事例があると聞いている。 |
【委員】
- 上位地銀であっても、商工中金による民業補完が必要な分野はあるのか。地銀協によるアンケート結果には地域的な特徴はあるのか。
→ | 金融機関は顧客から預かった資金を運用しているため、どうしても取れないリスクというものが存在する。特に、業況が悪化した時点での新規貸出については、各金融機関の判断次第であるが、お断りせざるを得ない場合もある。 |
→ | アンケートの結果については、全国から同様の事例が寄せられている。 |
【委員】
- 商工中金と日本政策金融公庫の差はどこにあるのか。民間金融機関と金利が同水準であっても商工中金との取引に魅力はあるのか。
→ | 商工中金は組合金融に精通しているため、中央会の立場では、日本政策金融公庫よりも商工中金からアドバイスを受ける方が身近に感じる。 |
【委員】
- 平時における商工中金の役割について、前回の検討会では規模を縮小するという議論があった。しかしながら、9兆円ある貸出金の7割はプロパー融資であり、かなりの部分は民間金融機関とのイコールフッティングの下で行われており、それを止めてしまうということはありえない。危機対応融資で膨らんだ部分に問題がある。
- 平時には民業補完として、ミドルリスク層への融資と事業再生にしっかり取り組んでもらいたい。地域によって民間金融機関の機能度に濃淡があると思う。
- 危機時において、日本政策金融公庫の代理貸しというかたちにすれば、商工中金と民間金融機関のイコールフッティングが確保されるのではないか。
【委員】
- アンケート結果では、政府系金融機関全体で制度面の問題が7割、運用面の問題が3割となっているが、商工中金に関してどのような問題が指摘されているか。また、平成30年4月から信用保証制度において危機関連保証が創設されるが、同保証がある中でも危機時の資金供給にネックとなることがあるのか。
→ | 商工中金の問題事例も制度面が約7割、運用面が約3割である。政府系金融機関の問題事例として指摘されるのは、金利水準が大半。民間金融機関が適正と考える金利の半分程度となっている。 |
→ | 危機関連保証と危機対応融資の違いは、利子補給の存在であるが、これは必要ないのではないか。商工中金と民間金融機関のイコールフッティングが確保されれば、顧客は最も相談しやすい金融機関に相談することになると考える。 |
【委員】
- 利子補給や優遇金利は国の政策として実施しているものであり、その活用について商工中金や日本政策金融公庫が国のスタンスと異なる運用はできないのではないか。
→ | 本検討会や関係省庁において、事業者に何を提供すべきか議論していただきたい。 |
【委員】
- 指定金融機関が商工中金と日本政策投資銀行の2社しかないことに違和感がある。民間金融機関が指定金融機関とならないようにする働きかけが政府からあったのか。
- 危機対応融資に関して、政府の宣伝が足りなかったのではないか。
→ | 政府から民間金融機関へのそのようなプレッシャーは一切ない。民間金融機関の判断の結果である。 |
→ | 東日本大震災時には、グループ補助金を初めとした様々な支援メニューが国からも県からも打ち出されたが、行政には各事業者にとってどのメニューが適切かアドバイスする機能がない。金融機関もそのような情報をクライアントに提供できているかというと、金融機関ごとにかなり差がある。 |
【委員】
- 資料2の8ページをみると、今後の日本の経済状況を考えれば、民間金融機関の対応領域としている成長期・安定期の幅がどんどん小さくなる。逆に、幅が広がる創業期や低迷期・再生期はリスクが高いので、金利も取れるはずである中、政府系金融機関がその儲かる領域でビジネスをやることになり、民間金融機関が儲からない領域でビジネスをやることになるように見える。むしろ、政府系金融機関の対応領域に民間金融機関がもっと進出していくことが根本的な解ではないか。
→ | 制度融資や政府系金融機関の貸出によって金利が潰れている。一方、民間金融機関も各地域において、必要な場合にはDDSや債権カットなどにしっかり取り組んでいる。今後も経営努力により、政府系金融機関の対応領域を狭めていくようにしたい。 |
次に、商工中金による危機対応業務の在り方について、集中的な討議を行った。委員からの主な御意見は以下のとおり。
【委員】
- 商工中金による危機対応業務の論点について整理したい。1つは、危機時における商工中金の機能の評価である。もう1つは、信用保証だけでは足りないのか、現実に100%の保証があっても貸してくれない民間金融機関があるとも聞くが、これをどう考えるか。また、民間金融機関がなぜ指定金融機関にならないのか、日本政策金融公庫だけでは足りないのか、商工中金がやる必要があるのかという論点もある。さらに、商工中金が引き続き危機対応業務を担うべきというときに危機とは何であるかを明確にする必要があるほか、危機に備えるための平時の体制を維持するコストをどう考えるかといったことなどをどう考えるか。
【委員】
- 中小企業へのアンケート結果によれば、多くの企業はリーマンショック時に商工中金の危機対応制度があってよかったと評価している。一方で、危機対応業務のパフォーマンスを見た時に、どんどん貸して、企業がゾンビ化し、その後潰れてしまうという国民にとって最悪の事態にはなっていないと思うが、商工中金は不良債権比率を引き下げるために、業績が良い先を悪い先であるとして危機対応融資を実行したのか、それとも、業績が悪かったけれども、支援機能を発揮して業績の改善に導いたのか教えて欲しい。
→ | 危機対応融資実行先では要注意先の比率が45.6%と、プロパー融資のみの先の33%に比べて高い。他方、平成24~28年度の破綻率はともに0.38%であり、危機対応融資実行先とプロパー融資のみの先とで有意な差はない。これは、日頃からリレーションシップバンキングをやっている成果のほか、経営改善計画の策定支援や条件変更の対応を講ずることによって破綻率がそれほど高くないということになっている。 |
- 資料4の1ページにある、日本政策金融公庫から指定金融機関へのサポートのうち「損害担保」は信用保証と同じ効果であるが、何でも良いとならないよう補償割合は80%であるため、危機時に発動される100%保証よりも不利である。商工中金は「利子補給」という補助金があるがために危機対応融資を利用したのではないか。今後は信用保証での対応が中心になるのではないかと思う。
- 危機時にはまずは流動性不足に対応すべきであり、「利子補給」はその後の構造改革等の局面で補助金として使われるべきものである。また、商工中金からお金を借りた場合には補助を受けることができるのに、民間金融機関の場合には補助を受けられないという違いがあることは問題があったのだと思う。
- 「ツーステップローン」は預金流出が起きているような危機において、資金供給の仕組みとしてあり得るが、通常は使用しないような手段ではないか。代理貸しというかたちもあるかもしれない。
【委員】
- 危機時における金融面の対応の本質は、どれだけ迅速に流動性を供給できるかということ。流動性の問題は1年か、せいぜい2年であり、流動性の問題が解消された後も、制度が救済原理で利用されたことが今回の歪みの原因であり、両者の対応は明確に切り分けた方がよい。
- 危機時には猛烈な流動性を一気に供給することが求められるが、そのための体制を平時にも維持することはありえない。代理貸しということもあるかもしれないが、民間金融機関を含めたあらゆる窓口から流動性を供給できる制度とすべき。
【委員】
- 興信所の倒産情報をみると、多くの場合で商工中金が債権者に名を連ねている。これは、最後まで企業の面倒をみている証左ではないか。今回の不正事案で商工中金が背負っている使命を小さくしないでほしい。
- 危機対応融資については、危機時に商工中金がすぐに対応してくれたとの声が多い。ただし、だらだらと続けたことによって今回の不正事案が起きたので、今後はメリハリをつけて運用すべき。
【委員】
- 危機の認定や対象期間について、より限定的なものとしていくことが重要。来年4月からスタートする危機関連保証もそのような考え方と認識している。
- 危機時には、流動性の問題がソルベンシーの問題へと深刻化しないようにすることが重要。流動性の供給には窓口さえあればよく、それが商工中金でなければいけないという理由はない。
【委員】
- 危機対応融資の窓口のためだけに商工中金に公的なサポートがあるという建て付けがおかしい。平時において民業を補完するために公的なサポートがあるという建て付けにすべき。その際は、地域によって民間金融機関の取組みに濃淡があるミドルリスク層への融資と事業再生への対応がポイント。これらは、長期資金だけでは取り組むことができないが、日本政策金融公庫中小企業事業は長期資金しか供給できない。短期資金と長期資金の両方を供給できる商工中金が、民業補完をできる政府系金融機関である。商工中金の融資が呼び水となって、レイジーバンクを覚醒させ、金融庁が進める地域金融改革を後押しするよう頑張ってほしい。
【委員】
- 民間金融機関が指定金融機関とならなかった背景は、手続きが煩雑であるからと理解。制度に欠陥があったということであり、今後は、手続きを簡素化し、期間を限定し、流動性供給に絞って、あらゆる金融機関が使用できる仕組みとすることが必要。
→ | 危機対応業務に手を挙げなかった理由は、煩雑であるということだけではなく、代替手段があったことである。その上で、セーフティネット5号の審査が保証協会で通らなかった事業者が、危機対応融資の審査を通ったとすれば、同じ目的なのになぜ審査基準が違うのかということは考える必要があるかもしれない。 |
- 危機対応業務だけを行う金融機関が存在することはありえない。一方で、平時の業務をある程度充実させなければ、危機対応業務を遂行することはできない。
【委員】
- 危機対応業務は、本来、商工中金のみならず全ての金融機関が手間をかけずに対応できるようにすべき。また平時からそのためにコストをかけて規模を維持するのではなく、平時から危機時にシフトできる体制を構築するべき。
【委員】
- 危機対応融資は、危機時に形式審査で流動性を供給することが目的であり、その窓口は真面目に申請書類をチェックする業務が求められる。商工中金がワンオブゼムとして対応してもよいが、そうした能力を当然持っている地域金融機関が中心となっていくべき。危機対応融資の本質を整理し、誰が担うべきかを今後の制度設計に反映していくことが望ましい。
- 企業のゾンビ化の問題は、破綻することではなく、破綻しないこと。だから、今の日本では破綻率を問題にすべきではない。メルクマールは当該企業の賃金や雇用の質であり、従業員がどれだけ豊かになったかをみればゾンビ化しているかどうかはわかる。政府系金融機関もそれをゴールにすべき。
【座長】
- 何をもって危機とするかは難しい。東日本大震災は現在の科学、人間の知恵では予想できなかったが、リーマンショックについてはそれ以前にパリバショックもあったわけで、マーケットを見ていれば何かが起こりそうな予感はあった。
- 危機とはかなり狭く、突発的で、かつ深いという抽象的な表現しかできないのではないか。
【委員】
- 信用保証も含めた政府系金融機関の融資のプライシングがリスクに見合ったリターンの関係を歪めている。これは、商工中金だけでなく、政府系金融機関全体での議論が必要。
- 商工中金は、これまでは危機対応業務を行うから公的金融機関であり、民業圧迫の回避と同時に完全民営化を求められた。こうした矛盾を先送りすることは止めたほうがよい。
- フルバンクのままで公的金融機関でよいのかという問題もある。上位地銀はともかく、信金では商工中金との競合の影響が大きいのではないか。民営化、政策金融として民業補完に徹する、政策金融と民間に分ける、などの選択肢があるが、計数面での検討の必要もあるのではないか。
【委員】
- 危機対応業務と政府による株式の保有は裏腹。また、完全民営化するとすれば、政府が保有している商工中金の株式はできるだけ高い価格で売り出すことが当然、企業価値を高めるためにどのようなビジネスラインとするかという議論になる。儲からないと思われているところが儲かるということであっても、人数や支店数を含めてどういうふうにやっていくのかということもある。今後整理していきたい。
以上
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