日時:平成29年11月17日(金)10:30~12:30
場所:経済産業省本館17階第1~3共用会議室
出席者
世耕大臣、川村委員(座長)、翁委員、菊地委員、多胡委員、冨山委員、中原委員、安藤委員、遠藤委員、可部委員
議事概要
冒頭、世耕大臣から以下のとおり挨拶。
- 商工中金の不正問題を受け、10月25日、商工中金に対して二度目の業務改善命令を発出したところであるが、今回の問題は、危機対応業務を不適切に運用したということと、それを組織として防げなかったという、商工中金のビジネスモデルとガバナンスが本質的な問題。
- 商工中金は問題を根絶して「解体的出直し」をすることが必要不可欠。その実現のため、地域金融をはじめとした豊富な知見と経験を持っておられる専門家の皆様の忌憚ないご意見を伺うべく、この検討会を設置させていただいた。
- この検討会においては、「地域・中小企業に貢献するビジネスモデルの再構築はどうあるべきか」「危機対応業務について真の危機時に限定して機能するよう抜本的に見直すにはどうしたらよいか」、「持続可能なビジネスモデルを支える最高レベルのガバナンスの構築をどうしていくか」など商工中金の在り方について、本当に聖域なく、幅広くゼロベースでご議論をいただきたい。スケジュールありきではないが、できるだけ早く改革を動かしたいとの思いもあるので、年内目途に取りまとめていただきたいと考えている。
- 是非ご遠慮なく闊達なご議論をお願いしたい。また、この検討会で出していただいた結論については、経済産業省として真摯に受け止め、しっかりと改革に反映してまいりたい。
次に座長より、本検討会で議論すべき主要論点について説明した後、各委員が順にコメントを行った。委員からの主な御意見は以下のとおり。
【委員】
- 始めに地域金融を巡る現場実態に基づく基本認識から述べたい。中小企業の不振は資金供給が滞っているためという認識は誤り。資金はジャブジャブであるものの、地域の中小企業の事業モデルやP/Lが弱っていることが問題であり、生産性が低いために高い賃金を支払うことができず、跡継ぎもいないということになる。ここにやみくもに資金供給してもゾンビの延命になるだけ。
- 公的金融の仕組みが多すぎて過剰な資金供給があるために、民業補完を通り越して、民間金融機関や借り手企業を堕落させている結果となっている。公的金融は薬のようなもので、少量を適当に使う必要。
- 地域金融は供給過剰。一方で、地域の中小企業の事業モデルの建て直しや経営層の人材供給などには政府系金融機関が果たすべき役割がある。また、資金供給でも、デット資金の供給は足りているが、エクイティ性資金の供給は足りない。日本政策投資銀行はこの点、割と上手く共存できている。中小企業の事業モデルの転換にはリスクの負荷がかかるため、エクイティ性資金の供給が重要であるが、それを民間金融機関が果たせないならば、民業補完の意味がある。
- ただし、ミドルリスク層への融資や、擬似エクイティ性資金、メザニン資金の提供も長期的には民間金融機関が行うべきであり、10年、20年かかるかもしれないが、ここでも商工中金は時限的に関わることが適当。
- 公的金融は、危機時を除けば、日本政策金融公庫や信用保証を含めて、高度経済成長時代のモデル。現在は、民間金融機関が資金不足であるために資金需要に対応できないということは起きておらず、抜本的に役割を見直す時期にきている。
- 商工中金は民営化を背負わされた格好であり、その中で規模を拡大しなくてはいけないとなったが、地銀がいる中でそれをやるのは辛い状況であったと思う。今回の不正事案も大きく言えば、そのビジネスモデルと経営環境とのミスマッチから生じたものであるため、民間では提供できない機能をやると覚悟を決めてやらないと、また将来に同じ問題が起こると思う。
- ベンチャー企業を作るつもりで、ゼロベースで商工中金の在り方を考えていきたい。その際、現状の規模(9兆円の資金、3,800人の職員)を前提にするのではなく、新しい機能に必要な資金と人材がどれだけかという順で考えるべきである。人手不足の現状では、リストラしても大丈夫であるし、これだけの不正が起こった今こそが再起するチャンス。
【委員】
- セーフティーネットとして設計された危機対応融資を民間との競争のための手段として用い、現場にノルマを課していたことは、民業補完の機能としてあるまじき状況。商工中金では、危機対応融資の収益が45%を占め、これなしでは商工中金の経営が成り立たたないことも問題。
- マクロ的にみると企業部門は資金余剰となっている中で、商工中金がお金を出すのではなく、事業再生や事業再構築などの分野や民間金融機関が十分に対応できていない地方創生の取組みにおいて、ノウハウや人材の面で民間金融機関をサポートする機能が必要。このような人材が内部に残っているのか、確認したい。
- 民業を補完するビジネスモデルである以上、B/Sを縮小させていくことは当然である。一方、完全民営化を決断した時代と現在では状況が相当違っているのではないか。低成長や低金利の環境で地銀の収益も厳しい中、フルバンク機能を持つ商工中金が現状のまま完全民営化の方針を貫くことが適切であるのか疑問がある。
- 中小企業向け公的金融の役割は、伝統的には市場の失敗の補完である。公的金融を担う他の組織・手法について、これを機会に全体として見直していくことも欠かせない。マクロ的にみれば企業部門には資金需要が乏しい中で、日本政策金融公庫や多くの官民ファンドがあるが、実際、日本政策金融公庫中小企業事業部門も商工中金も民間金融機関との間で競合があるとも聞いており、実態を確認したい。ただし、エクイティ性資金の供給については、公的金融の全体像を見ながら議論すべき。デット資金とエクイティ性資金ではそれを担う人材が異なる。
- リーマンショック級や東日本大震災級の危機対応は政策金融が必要な根拠の1つであるが、今後も商工中金が担う必要があるのか、他の機関や手法で対応できないのか、利子補給というやり方に問題があるのではないか、指定金融機関となることに手を挙げる民間金融機関がいなかったのはなぜか、危機の認定が多すぎるのではないかといったことが論点である。
- 人口減少に直面している地方の中堅・中小企業は、事業モデルを改革し、他社と如何に連携していくかが求められている。商工中金は、全国ネットワークを活用することによって、民間金融機関の取引先に対しても協業することにより、こうした事業モデルの改革を支援することができるのではないか。
【委員】
- 商工中金の企業理念を改めて確認したところ、地銀と全く同じであり、民業補完という言葉がない。かつては商工中金と地元地銀が協同して地域を支えていた事例が多くあったが、今は民業補完からどんどん離れているのが実態。
- 民業補完は、民間との信頼関係が大前提。過去、商工中金が地元の銀行と協業して地域を支えた事例は多くある。特に、鹿児島は、商工中金と民間金融機関との協業が最も上手くいっていた。
- 金融庁が実施した3万社に対する企業アンケートによれば、政府系金融機関との取引理由の第1位が「借入条件がよかった」であり、本来トップに来るべき「民間金融機関では支援してくれなかったから」という理由は第5位に止まっている。
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一方で、民間金融機関によるいわゆる金融排除が存在することも明らかであり、政府系金融機関が必要な顧客はいる。「ミドルリスク層への融資」、「企業再生」、「小口・創業」といった分野は民業補完が必要。また、各地域の金融機関がしっかりとその地域の企業を支えているかどうかの度合いに応じて、商工中金がその活動範囲にメリハリをつけながら取り組むべき。「企業再生」は、民間金融機関も疎かな分野であるが、短期と長期の両方の融資機能を持つ商工中金が唯一中小企業の事業再生ができる政府系金融機関であると考えている。
また、メガバンクでは国内中小企業の預貸業務に抑制的な対応が目立つ。このため、メガバンクのシェアが高い東京や名古屋といった都市部で中小企業金融が空洞化するおそれがある。商工中金がそうしたマーケットで「ミドルリスク層への融資」や「企業再生」に取り組むことは、ある意味民業補完になる。 - 危機対応融資のために商工中金が政府系であることが必要という法律上の建て付けとなっているが、東日本大震災時には100%の信用保証やグループ補助金など様々な支援策が措置され、民間金融機関で対応できた部分もあるため、危機対応融資が必要であるかという議論をしてもよい。平時を含めて、民業を補完する役割だから政府による資本のサポートがある、と考えていくこともあるのではないか。
- ガバナンス面では企業風土の改革が必要。プロダクトアウト型の物売り集団となってしまった組織を如何にして元に戻すか。コミュニケーションが悪く、強烈な上意下達型の組織について、本部と現場を全く取り替えるほど見直す必要がある。業績評価や人事評価の仕方も重要であるし、政府系金融機関としてのKPIやベンチマークがあってもよいのではないか。
- 民間金融機関でも監査部がしっかりしている先は業績もよい。商工中金は、監査部などのコンプライアンス部門をテコ入れすることが必要。
- 商工中金には地方銀行の収益の足を引っ張っているマスリテール業務がないほか、貸出ポートフォリオにおいて地域集中リスクが分散されており、収益性に恵まれていない組織ではない。なぜ、危機対応融資に頼ったのか疑問である。
【委員】
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商工中金は中小企業の実情をよく知っており、中小企業専門の金融機関であるため、取引先の持続的発展を支援するという方針を持っている。この度の不正事案を受けて、中小企業のために力を尽くしている商工中金の職員が萎縮してしまうと、企業の立場に立ってアドバイスをする力が弱まってしまう。
企業は何年かに一度、厳しい状況に直面するものであるが、その際、商工中金がメインバンクとタイアップして融資をしてくれたおかげで今があるという話が現場では聞かれる。 - 商工中金は政府系であるということで安心感がある。国を頼ってはいけないのだろうが、何かあったときには商工中金に相談すればよいという気持ちがある。
- 商工中金は融資だけでなく、コンサルタントの役割も果たしている。こうした対応に今後も期待したい。また、小規模企業において後継者問題は切実。ハッピーリタイアできるよう、中小企業の事情をよくわかっている商工中金が手助けしてほしい。
【委員】
- 民業圧迫という言葉が出ているが、商工中金がある案件で勝ったらそれは全て民業圧迫になるのだろうか。金利が安いということだけで企業が商工中金を選んだのであれば民業圧迫かもしれないが、当該企業のことをよく理解しているという理由で選んだのかもしれない。民業圧迫という言葉をきちんと定義する必要がある。曖昧なままでは、現場はどう動いてよいかわからない。
- ミドルリスク層への融資や企業再生などが民間金融機関では十分に実施されないとすれば、それは民間金融機関にとって魅力がないということ。そうした業務を商工中金に求めるのだとすれば、補助金なり、政府による出資なりでバランスを取る必要がある。他方、中小企業に対する特別措置が必要ないのであれば、商工中金からその機能を取り払えばよい。こうした点の現状について納得できる統計的な資料をみてみたい。
- 民業補完について、協調融資はわかりやすく、よい方法論である。他方、金余りの時代における量的な協調の必要性について、定量的な分析を行うべきである。また、ノウハウや人材で民間金融機関をサポートする商工中金の役割は理解するが、融資は民間金融機関だけが行ない、商工中金はノウハウの提供を担うということになると、ノウハウや情報に対して余りお金を払わない日本の慣習から、商工中金は食べていけなくなるのではないか。
以上
<お問い合わせ先>
中小企業庁事業環境部金融課 電話:03-3501-2876 |