日時:平成31年3月13日(金)10:00~12:00
場所:経済産業省別館2階227会議室
議題
- 開催挨拶、趣旨説明
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出席者からのプレゼンテーション
(1)アクセンチュア株式会社 村上様からの説明(Fintechに関するグローバル動向からの示唆)
(2)一般社団法人フィンテック協会 木村様からの説明(中小企業領域におけるFintechのトレンド)
(3)日本銀行 副島様からの説明(Fintechサービスの現状 SMEにとってのポテンシャルはどこに) - 自由討議
議事要旨
1.出席者からのプレゼンテーション
(1)アクセンチュア株式会社 村上様からの説明
- グローバルで見たFintech投資額について、2013年から2015年頃にかけて、Fintech投資額が膨らんできている。一方で、2016年以降は投資件数の増加が顕著であり、金融イノベーションの実需に支えられている。最近はアジアパシフィックや欧州でフィンテックへの投資が盛んになってきており、シリコンバレーやニューヨークといった北米に閉じた話にはならなくなってきている。
- また、資料3の3ページでは、SME向けのフィンテックについて地域別の特徴を示しているが、2018年の資金調達の傾向を見ると、資金ニーズや金融機関の成熟度、規制環境などの影響を受けて地域特性が出てきていることが読み取れる。
- 中小企業事業環境整備への示唆として重要な点は大きく分けると2つある。静態データと動態データを蓄積していくこと、企業横断で情報・機能連携を加速する制度・標準等の展開である。
- 地域間の受給格差や、情報・機能連携する際の企業規模の違いを乗り越えるため、公的機関が積極的に保有データを提供していただくなど、B2G2B型のプラットフォームとなることも重要であろう。
(2)一般社団法人フィンテック協会 木村様からの説明
- 中小企業ではクラウドを使っていくという方向性が進んではいるものの、アメリカなどと比べると見劣りする。これからは業務プロセス毎に考えるのではなく、(1)マッチング・商談、(2)請求・決済、(3)経営・資金管理、(4)資金調達・資金繰りというプロセスを、横断的に見ていくことが重要となる。
- 請求・決済においては、EDIの普及に注目が集まっているが、中小企業での普及に向けては、ファームバンキングだけではなくインターネットバンキング(IB)が使えるようにしていくことが重要。また、そもそもIBを使用していない企業にIB自体の普及促進をしていく必要がある。送金規制の上限の緩和が昨今ニュースになってきているように、本分野は規制の変化に応じて今後も色々なニーズやサービスが出てくることが予想される。
- クラウド会計は徐々に中小企業に浸透してきているものの、現状2割に満たない水準である。最も問題なのは、そもそも会計業務にソフトウェアを導入している企業自体が5割程度にしかならないことであり、(2割弱×5割で)8%程度の企業にしかクラウド会計が普及していない。
- どのソフトウェアについても、単独で使うだけでなく、APIを連携させて上流~下流でデータを流していくのが昨今のトレンドである。
- 資金繰りについては、トランザクションレンディングサービスがいくつか登場してきているが、その場で審査を行って即日実行していくといったスピード感、および使用の簡単さによって、新たな需要を創出している。
- 海外に目を向けると、PayPal Capitalの例のような手数料型の融資サービスが登場している。我が国においても、年利表示・年利での上限金利設定のような制度である限りは、例えば卸業が急な需要のために2千万円を数日だけ借りる等といった需要に応えられないのが、制度上の課題となっている。
- クラウドファンティングについても、本格的なファイナンス目的のものが普及してきており、今まで中小企業の選択肢に入っていなかったタイプの資金調達手段が、今後選択肢に入っていくのが、大きな変化である。
- 今後の日本では、登記情報や申告情報のような行政保有情報もAPI化して、国民の経済生活の基礎として当たり前のようにしてAPIで提供されるようになってほしい。
- 中小企業のデジタル化を進める上では、そのインフラたる金融や行政についてのデジタル化は必須だと考えている。これらについては、実利用数をKPIとして追いかけるべきと考えている。(例えば、電子申請利用率やネットバンキング利用率、銀行APIの契約数など)
- データ流通(改正銀行法・クレカAPIガイドライン等)や送金規制(上述の送金上限緩和等)といった制度的後押しがあるものは、その後押しを更に進めていく必要がある。
- IT利活用度の高い企業層ほど、複数領域の業務をデジタル化してきており、クラウドはそういった機能の連携に親和性が高い(容易にAPIで連携できるため)。また、こういった効果を得ていくためには、ツール導入前にしっかりと業務見直しを行う必要がある。
- 一部の地域金融機関には、地域のIT導入のプロモーターになっていただいており、世の中が変わってきていることが実感できている。次のステップとしてこの潮流を(更に多くの地域金融機関へと)広げていく必要がある。そのためには、政策金融公庫等の政策金融機関がそういった取組を率先して始めていかなければならない。そのうえで商工会議所などの地域の支援機関を巻き込んでいく必要がある。
(3)日本銀行 副島様からの説明
- 3年程前に地方で支店長をしていた時の話をさせていただく。当時から函館はインバウンドで盛り上がっており、海外の方が支払いをスマホで行おうとするケースがよく見られたが、現地の人々は、そこで初めて今の時代はQRコードでお金を支払うのが当たり前であることに気付く。中小企業のFintech活用は、サービスの存在を知らないこと、知っても相談する相手がいないことに最初のハードルがあるように思われる。決して関心がないわけではない。
- 次に問題となるのは、アクションを起こす際の意思決定である。何かアクションを起こしたいとしても、それに対するサポートが必要になる。地方では、身近に相談に乗ってくれる人や組織がなかなかいないのが実態。
- また、今ある問題に対してFintechをどう活用していくかであるが、単なるコストカットだけでは業務効率化にしかならない。どのように活用していけば、新しいビジネスを生み出せるのか、収益源になるのかについて事業者が考えていく必要がある。
- そのためには、顧客需要を深く理解したうえでのサービスインの発想と、顧客が未だ知らないが知れば欲しくなるもの、例えば10年少し前には存在すらしなかったスマホ、を産み出していくプロダクトアウトの両方の発想が必要ではないか。生産設備にコストを要するモノ作りと違って、Fintechを活用したサービス業に関しては、失敗した時にやり直しが比較的ききやすく、プロダクトアウトのチャレンジは行いやすいはず。
- Fintechとは何か1秒で答えよといわれたら、「スマホである」が回答。少なくともリテールビジネスにおいては、スマホがキーデバイス。スマホを通じて顧客を集める方法については、大企業だけではなく中小企業でも十分導入可能である。その際に問題になるのは、チャレンジしてみようという気持ちの部分が大きい。そこでも重要になってくるのは、冒頭で説明した相談相手になる人の存在である。
2.自由討議での出席者からのご意見
(1)根本様からのご発言
- 副島様の話で、アクションを起こすにあたって相談する人がいない、またそれ以前にリテラシーのある人がいない、といったところについて、金融機関ができることもあるのではないか。金融機関もビジネスチャンスは認識しているものの、実例としてはまだ非常に少ない。また、金融機関そのものがデジタル化に対して遅れているので、そこを解決していかないとコンサル機能としてはまだ弱い。
- アジアでは、中国で非常にデジタル化が進んでおり、様々なデータ活用やスマホでのサービス等を提供しスタートアップ企業への支援ソフトなどもあるが、他の国を見るとまだまだである。日本とそう変わらない国もあれば、ミャンマーやカンボジアのような銀行機能が発達途上の国もある一方で、スマホを持つ人は急激に増えているので、銀行口座やインターネットバンキングよりも、スマホの方が活用の可能性があるのではないか。
- 政府のデータ活用の話があったが、そもそも活用できるのかどうか、またそれらデータを見るのに手間がかかるのでは、と推察するがいかがか。
(2)木村様からのご発言
- 事業承継が問題になっていることに対して、新規創業の中での合同会社の比率も高まっていることを受けて、合同会社をもっと制度的な器として活用できるのではないか。個人商店が、承継のタイミングで気軽に法人成り出来る状況を作り、ちゃんと経営管理を始める一つのきっかけに出来ないか。
- 補助金の効果測定の際に使えるデータとして例えばe-Taxのデータなど、政府の中に使えるデータがあるのではないか。政府内の既存データの活用が、EBPMの近道と考える。
3.日本商工会議所からの説明
- 今年10月の消費税率引上げ・軽減税率導入にかかる事務を効率的に行うためには、IT活用が重要。特に、小売店等の小規模事業者においては、(1)クラウド会計、(2)モバイルPOSレジ、(3)キャッシュレス決済の導入が、ITツール3点セットとして有効ではないか。IT対応が難しい場合には、丁寧にサポートする必要がある。
- 中小企業経営者において、様々なITツールへの関心を高めるには、業務効率化というよりは、「売上の増減」に対する感度の方が高いと思われる。
- 中小企業において、キャッシュレス決済の導入を阻む壁として、①手数料、②端末代などの初期投資、③入金までのタイムラグがある。特に、中小小売業の売上高利益率は2%半ばであるが、4%超の手数料は大きな負担である。
- 商工会議所として、創業者に対しては、クラウド会計やモバイルPOSレジ等の導入を勧めている。創業者から、単品管理による売れ筋商品等の把握が容易であり、「売れ筋が見える化できて面白い」といったコメントを頂けている。
- クラウドファンディングを推進している商工会議所がある。また、クラウド会計の利用が増えると、今後、会計データを活用した早期融資などが期待される。ネットバンキングや電子記録債権、受発注EDIや金融EDIの活用も重要である。
- 政府は開業率10%を目指している。現在は5.6%程度であるが、これは雇用統計を使用しているためで、従業員がいない1人創業は加味されていない。創業はまず1人から始めることが多いことから、法務局の法人設立登記や税務署の開業届のデータ等を取れれば、開業率は今よりも上がるのではないか。政府保有のデータ・統計の有効活用が必要だと思う。
4.一般社団法人全国銀行協会からの説明(全銀EDIシステムの紹介、でんさいのご紹介)
(1)全銀EDIシステムの紹介
- 全銀EDIシステムの目的は、売掛金等の消込の効率化を図ろうとするもので、支払企業から受取企業に振込を行う際に、請求書番号など様々な商取引に関する情報を添付することができるプラットフォームである。
- 消込以外の活用策としては、受取企業が受領した振込入金通知等のデータを電子領収書として利用することや、金融機関が金融EDI情報を活用することで、企業にコンサルタント機能や提案活動等の様々なサービスを提供することが考えられる。
(2)でんさいのご紹介
- でんさいネットは商品売買などによって生じた金額を指定日に支払う金銭債権であり、お客様が取引金融機関を通じて「でんさい」の記録を請求いただき、でんさいネットの記録原簿(システム)に記録されることで効力が発生する仕組みである。
- でんさいの発生記録(手形における振出)、譲渡記録(手形における裏書譲渡)は、インターネットバンキング゙等を通じて請求する。また、手形のように取立を行う必要なく、期日に自動的に送金がなされ、分割して譲渡できることも特徴である。
- でんさいのメリットとしては、手形に比して、(1)コスト削減、(2)事務負担削減、(3)リスク削減、④資金繰りの円滑化が挙げられる。
5.経済産業省サービス政策課からの説明(IT導入補助金の執行から見えてきた成果と今後の課題)
- IT導入補助金で直近使用されていたツールとして、平成29年度はHPや会計ツールが主流となっている。ITツールも多様性があり、様々なニーズがあることが分かってきた。
- 平成30年度の補助金額は、上限も下限も額を上げて取り組んでいるところである。
6.財務省からの説明(地域の課題と財務局の役割)
- 財務省・財務局では「地域連携」ということを進めてきており、地域の様々な中小企業の方とお話しする機会がある。その対話の中で、AIやクラウドをどのような分野で使えばよいか分からない、また業態によっても使い方が違うのではないか、といった話も聞かれる。確かに「こういう便利な技術があります」という情報も有効かもしれないが、逆のアプローチとして、個々の企業の経営課題に応じたソリューションとしてこんな新技術を使ってみてはどうですか、といったアドバイスができれば、経営者の方も腹落ちするのではないか。ただし、新技術に関する情報はWEB上に溢れているものの、スタッフの人数が少ないという中小企業の特性があり、自社にとって最適な技術にたどり着くことが困難なケースも多いかと思う。このため、例えば地域の中小企業が集まるプラットフォームのようなものを活用し、導入の背景事情も含めて優良事例の横展開を行うことも有効であろう。財務局はこれまで全国各地で企業の集まるプラットフォームを構築してきており、また、各地域における中小企業の先端技術の活用事例を調査し、取りまとめて地域にフィードバックさせていただいている。財務省・財務局としても新技術の横展開に協力していきたい。
- また、せっかく多くの専門家の方が集まってこのような研究会を開催されているので、例えば「スマートSME」というコンセプトそのものを一つのブランドとして世の中に浸透させるようなブランディングやマーケティングを行ってみてはどうか。
7.経済産業省産業資金課からの説明(ローカルベンチマーク、Fintechビジョン)
- ローカルベンチマークは、企業の財務情報および非財務情報を元に企業の健康診断を実施できるツール。企業と支援者、支援者同士の対話における「共通言語」として関係者での活用が進み、他の支援策との連携も拡大して来た。
- Fintechビジョンは、FinTechを巡る社会の変化や課題への政策対応などの全体像を示したもの。中小企業によるFinTechの活用という観点では、経営改善及び資金調達の円滑化が期待されており、今後はその具体化が必要。
以上
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