日時:平成22年7月29日(木)14:00~16:00
場所:経済産業省別館11F 1120会議室
議事概要
事務局が中小企業の会計に関する研究会 中間報告書案(配付資料3)、会計参与設置会社の企業数(配布資料4)について説明を行った。
また、上記説明に関して自由討議が行われた。自由討議の概要は以下のとおり。
- 今回の報告書案には三つの意義がある。第一に、小規模会社にメスを入れ、中小企業の属性を踏まえて、ボトムアップ・アプローチをとるべきであるとしていること。これこそ中小企業の実態を反映させた会計基準のあり方である。出来上がった会計基準を簡略化していくアプローチではなく、会計基準を新しく組み立てることによって、身の丈に合った会計基準が可能となる。第二に、会計基準の策定のあり方であるが、経営者自身が会計ルールのユーザーであるという視点に立っている点であること。大事なことは経営者自身にとって分かりやすい実効性のある会計基準であることであり、本報告書案は、中小企業の活性化に大いに寄与するのではないか。第三に、グローバリゼーションに伴い、下請け会社の海外取引も増加する中、海外をも含めた企業外部への情報発信が求められている。そのためには、信頼できる会計基準が必要とされており、今回の試みは、新たに中小企業の会計処理のあり方を示すものであり、世界初の小会社に適応した会計基準になるのではないか。本報告書案を大いに評価したい。
- グローバリゼーションというのは非常に大事であり、中小企業憲章にも海外展開を支援することが必要とある。IFRSにおいても、トップダウン・アプローチかボトムアップ・アプローチかの議論はあり、IASB(国際会計基準審議会)はIFRSがボトムアップ・アプローチであると言っている。このような流れは特別なものではなく、IFRSの議論の流れと、この研究会の流れは同じである。シングルセット・オブ・スタンダードの考えのもと、中小企業の会計に関する指針(以下、中小指針という)と新たな中小会計とは別個のものではなく、シームレスにシングルセットとすべきである。また、別個のものになると、会計基準を変更するときにコストがかかる。
- IFRSの改訂により中小指針が盲目的に変わっているわけではなく、中小企業の実態を踏まえ、中小企業に適用すべきかどうかを考えて中小指針の改訂を行っている。
- 実務家として今回の報告書案は全面的に賛成である。三点コメントと質問をすると、まず、中小企業憲章の行動指針の中小企業向けの金融の円滑化の部分には中小企業の実態に即した会計制度を整え、経営状況の明確化、経営者自身による事業の説明能力の向上、資金調達力の強化を促すとあり、この報告書案が国の政策に則っているので安心した。次に質問として、逆基準性という言葉が曖昧に使われているきらいがある。ドイツではBilMoG(会計法現代化法)により逆基準性が解消された。特別償却や割増償却を決算書に計上することが狭義の逆基準性であり、実務上の企業会計の慣行の範囲内で税法規定を優先的に適用することが広義の逆基準性であると理解している。今後のために逆基準性の定義を決めておいた方がよいのではないか。三点目に、会計参与の普及は税理士業界の課題である。新たな中小会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行の範囲内であり、会計参与が、現行の中小指針と、新たな中小会計の二つを使うことができれば、会計参与制度が普及するのではないか。
- 逆基準性について、定義を入れたいと思う。(事務局)
- 大企業を縮尺したものが中小企業ではない。今回の報告書案は中小企業の属性を明確に分析し、整理している点で大変高く評価できる。海外展開という方向性について、目指すべき方向であると思うが、中小企業においては、会計を納税のために行っており、経理処理、記帳すらままならないというのが実態であるため、まずはそういった人たちに会計という世界に踏み込んでもらうことが重要である。これは経営者が自社の実態を把握する必要があるからである。会計という手段を通じて一歩高めてもらうことが中小企業の成長になる。
- 新たな中小会計の検討については、中小企業庁等が中心になって中小企業政策の一環として新しい会計制度を作ってほしいという気持ちが強いが、中小企業庁が調整役となることでも安心感はある。
- 今回の報告書案の一番の問題点は、現行の中小指針と新たな中小会計の住み分けについて、結局、会社の区分が出来ないとしている点である。このままでは、実質的に会計参与設置会社か否かで分けることになり、それは会社法上不適当である。定量的な線引きが難しいのであれば、定性的な線引きを引き続き検討する必要がある。
- 長銀事件判決にあるように、同じ業態や同じ取引、同じ規模の会社についても、唯一の会計基準が存在する可能性は低い。定量的な線引きが難しいとされているのは、この点も考慮されているのかもしれない。唯一の会計基準が成立するための要件のハードルは相当高い。
- 中小企業の会計ルールを一本化できないかという考えであったが、これまでの議論を踏まえると、一本化するのは無理であると思う。そもそも二つの会計ルールがあることで名称自体はどうなるのか、両者の住み分けはできるのか。定量的な線引きにより区分することは不可能であるので、経過的な措置を設けざるを得ない。
- 逆基準性の議論について、狭義のものは従来あったが現在は解消されているはずである。税法の処理方法に目がいってしまうのは仕方がない。評価方法の選択等の広義の逆基準性は存在しているが、それは逆基準性と言い難い。
- 会計ルールが二つに分かれることにより、グローバル化している中で我が国が遅れをとるのではないのかという議論があるが、中小企業が国際取引を活発化させていく場合に配慮すればよい。また、新たな中小会計をまとめたからといってグローバル化に遅れをとるとは考えられない。
- 報告書案に長銀判決は記載している。一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行というのは唯一ではない。したがって、中小指針を使える企業は中小指針を使い、中小指針が使えない企業に対して新たな中小会計を作り、新たな中小会計の対象となる範囲を示している。金商法適用会社や法定監査対象会社は既に拠るべき基準が存在するので、それに拠ってもらう。会計参与設置会社については、会社の経理体制が会計参与によって補完されていると想定されるため、検討対象から除外している。新たな中小会計は法律で強制されているわけではないため、定量的な基準で会社を線引きするのは実際困難である。(事務局)
- 中小指針も強制ではない。
- 新たな中小会計は、企業として発展していく中で、新たな中小会計から現行の中小指針に容易に移行できるようにすることが望ましい。そのためには現在の中小指針についても、その記載ぶりを見直しており、企業がどちらを使うか一定の経過措置が必要である。
- 中小企業の属性について、同族会社、会計監査人設置会社、会計参与設置会社や取引の複雑性等の色々な尺度があるので、境目を明確にするというよりは、境目をぼかした方が良いのではないか。「概ね」という傾向を書くのはどうか。
- この報告書案が,中小企業のうち一定の属性を有しているものに絞って検討対象としているのか、それとも中小企業の一般的属性を指摘した上で中小企業すべてを検討対象としているのか、より明確にすべき。
- 報告書案の中で改めて大切さを思い知らされたのは、中小企業の経営者自身が会計ルールのユーザーであるということ。この原点を忘れないことが大切である。
- 中小企業に会計というものが初めて入るということで、枠組みの設定をしっかり行う必要があり、また区分や名称など各論の議論になると、中小企業同士でも意見が異なることもあり得る。このため、民間だけでは調整は難しい。したがって、中小企業庁等がオブザーバーで留まるのではなく、できれば、中小企業庁等が中心となって策定すべきだが、事務局として調整役を担うということであっても構わない。中小企業者がユーザーであるという点から議論をする必要があり、中小企業者の属性に応じて、身の丈にあった新たな中小会計を作るという議論の方向性をきちんと示して、同じ志を持った人が集まり議論しないとまとまらない。
- 企業の属性に着目することが重要である。公開企業と中小企業では属性が大きく違うという視点に立って、初めて新たな中小会計を作成しようという方向付けができ、実行可能な会計となる。
- IFRSがボトムアップ・アプローチというのは理解できる。その真意は、企業の属性や実態を見て会計基準を作るべきであるということではないか。
- シームレスな会計は重要なことであるが、同じ会計基準でないといけないということはない。中小企業の会計を考えるときには、グローバリゼーションよりもその国の文化を考えるべき。IFRSでは、各国の特徴とか、固有の文化的側面がどんどん削がれているのではないか。中小企業の会計は、その国の会計文化を反映すべき。
- 新たな中小会計を作る上で、一番重要なのは権威性である。一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行となるためには、それを公正妥当と認める権威ある主体が必要である。そのためには、設定主体は中小企業庁がなるべきである。
- 外部報告のための会計(財務会計)という位置づけはもちろん重要だが、会計のもうひとつの機能、すなわち(中小)企業が成長・変化していくためには、(中小企業の)会計を使いこなすこと(管理会計)が欠かせないということを報告の中に位置づけていただきたい。
- 企業自身が成長したいという思いを会計が触発し支える働きがある。この点は中小企業の場合には特に大きな意味がある。成長に資する会計の役割とは何なのかをもっと踏み込んでほしい。
- 報告書案の管理会計に関する記載はかなり古色蒼然とした教科書的な表現ぶりでないだろうか。そもそも「管理」というトップダウン的な感触のある言い方で、成長過程で経営の力点がどんどん変わることが特徴的な中小企業に、はたしてなじむだろうか。
- ここで議論している一つのポイントは制度会計論であり、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行とは何かということを議論している。中小指針は一つの基準であるが、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行の外延ではない。新たな中小会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行の外延となるのではないか。会計参与設置会社も守るべきルールであり、また、260万社が合法的な会計慣行として自信を持ってやれる最低限のものをどう作るかをここで決めるのである。
- 区分とか基準といったラインで区切るのは難しいのではないか。
- 中小指針と新たな中小会計がオーバーラップするものではないと断言できない。報告書案では企業の定量的区分が困難であるとしているため、オーバーラップすることもあり得る。弾力的に考えないと今後それが足枷になる可能性があるのではないか。
- 今後の中小企業の会計の検討において、中間報告書案では 「確定決算主義」が継続される基本的考え方として「税務との親和性」が示され安堵している。そして中小企業の経営者自身がユーザーになる点を踏まえ、中小企業には個性があるので、定量的な決算書だけではなく、中小企業の特性である定性的要因を明示する個別注記表の充実が必要であり、「新たな注記表の規定」を中小企業の会計ルールに入れるべく「?主要論点の4その他」に記載してはどうか。
- 会計参与設置会社はせいぜい2000社であり、会計参与制度が開始してから増えておらず、むしろ減っているのではないか気になっている。
- 新たな中小会計がどのように出来ても、現行の中小指針と齟齬が生じないよう各設定主体の中で十分な意見を交換して、中小企業が混乱しないようにすべき。
- 現在、非上場会社の会計基準に関する懇談会においても、非上場会社の会計基準のあり方を検討している。明日(7月30日)に同懇談会を開催し、そこである程度の方向性を出したいと考えている。
以上