第3部 経済成長を実現する中小企業 

2 起業の意義

 以上では、開廃業の動向及び起業家の現状に関する各種統計・調査等によって、近年の我が国の起業活動が、時系列で比較しても、国際的に見ても、数字の上では低調であることを確認した。確かに、我が国では、近年起業活動が活発とはいえない状況であるが、果たして起業は、我が国の経済社会や人々にどのような影響を与えており、起業活動が盛んになることにはどのような意義や重要性があるのだろうか。以下では、起業が国民経済に与える影響を、〔1〕経済の新陳代謝と新規企業の高い成長力、〔2〕雇用の創出、〔3〕起業が生み出す社会の多様性といった三つの観点から探っていく。

●〔1〕起業が促す経済の新陳代謝と新規企業の高い成長力
 起業の意義として第一に、起業によって経済の新陳代謝が活発となり、革新的な技術等が市場に持ち込まれ、経済成長を牽引する成長力の高い企業が誕生するということが考えられよう。企業の参入・撤退は、日々繰り返されており、こうした企業の参入・撤退こそが、産業構造の転換やイノベーション促進の原動力となり、経済成長を支えているのではないだろうか。特に、新しい技術や製品等を携えて市場に参入する起業家は、急速に成長して既存の経済秩序を一変させ、経済成長のエンジンとなる可能性を秘めているといえよう。
 第3-1-10図は、1988年以降の我が国の製造業の起業年別の事業所の割合を示したものである。これによると、2007年には1988年以降に起業された事業所が約45%を占めるなど、毎年絶え間なく新規事業所が起業されていることが分かる。
 
第3-1-10図 起業年別の事業所の割合(製造業)
〜製造業では、2007年に、1988年以降に起業された事業所が約45%を占める〜


第3-1-10図 起業年別の事業所の割合(製造業)


 他方、第3-1-11図は、1980〜2009年に創設された企業の創設後経過年数ごとの生存率の平均値を示したものであるが、10年後には約3割の企業が、20年後には約5割の企業が撤退しており、新規企業は、絶えず市場に参入するが、創設後の淘汰もまた厳しいことがうかがわれる。
 
第3-1-11図 企業の生存率
〜起業した後、10年後には約3割の企業が、20年後には約5割の企業が退出しており、起業後の淘汰もまた厳しい〜


第3-1-11図 企業の生存率
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 企業の参入・撤退は、絶え間なく続くが、特に市場に新規企業が参入する際には、新技術・新生産方式の導入や新商品・新サービスの開発といったイノベーションが市場にもたらされることが考えられよう。2010年12月に中小企業庁が(株)帝国データバンクに委託して実施した「起業に関する実態調査4」(以下「起業実態調査」という)によると、多くの新規企業が、経営上の工夫(新技術の導入、新生産方式の導入、新商品・新サービスの開発)を有した上で起業しており、こうした企業が、イノベーションを市場にもたらしていることがうかがわれる(第3-1-12図)。

4 中小企業庁の委託により(株)帝国データバンクが実施。2010年12月に2001年以降に起業された企業10,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率25.8%。東日本大震災前の調査であることに留意が必要である。

 
第3-1-12図 起業に際しての経営上の工夫
〜多くの新規企業が市場に新技術、新生産方式、新商品・新サービスを導入・開発している〜


第3-1-12図 起業に際しての経営上の工夫
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 特に、イノベーションの担い手として期待される企業が、大学発ベンチャーである。第3-1-13図が示すように、大学発ベンチャーは、1998年の「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」や、2001年の「大学発ベンチャー1,000社計画」の制定後に増加し、2008年度末時点で事業活動を行っている総数は、1,809社となっている。中小企業白書(2009年版)では、イノベーションにおいて、顧客や一般消費者のニーズを把握することが重要である旨を示唆したが5、こうした大学発ベンチャーが、大学の潜在的な研究結果を掘り起こし、事業化することによっても、イノベーションが市場にもたらされることが期待される6

5 中小企業白書(2009年版)p.74〜75を参照。
6 ただし、経済産業省委託「大学発ベンチャーに関する基礎調査」(2009年2月、(株)日本経済研究所)によると、2年分のデータが取得できた大学発ベンチャーにつき、1社当たりの直近及び前年の営業利益は赤字となっており、大学発ベンチャーが必ずしも高い成長を示しているわけではないと考えられる。

 
第3-1-13図 大学発ベンチャーの累積企業数
〜大学発ベンチャーの累積企業数は、2008年度には1,809社に上る〜


第3-1-13図 大学発ベンチャーの累積企業数
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事例3-1-1 大学での研究成果を活かして、副作用の少ない新たな制ガン剤や再生治療薬を開発する大学発ベンチャー企業

 大阪府豊中市のクリングルファーマ株式会社(従業員13名、資本金1億円)は、2001年に起業された大阪大学発のバイオベンチャー企業である。
 同社は、大阪大学医学部の中村敏一名誉教授が発見したHGF(肝細胞増殖因子)及びそのアンタゴニスト7のNK4を用いたバイオ医薬品の開発を行っている。HGF は、多種多様な臓器及び細胞に対して強力な再生治癒能力を有する因子であり、これを利用することで様々な疾患の発症を阻止及び治癒することが可能となる。また、NK4はガン細胞を凍結・休眠状態に封じ込める作用を持ち、これを用いた制ガン剤の開発が期待されている。

7 特定の受容体と結合して、受容体の活性化を抑制する物質のこと。

 同社の岩谷邦夫社長は、大手製薬会社で海外事業の立ち上げなどに携わった後に、中堅製薬会社の代表取締役まで勤めたが、HGF 及びNK4の存在を知り、「難病で苦しむ人々を救う医薬品を開発したい。」との思いから2003年に同社の代表取締役社長に就任した。前職の製薬会社での経験や人脈を通じて専門家の助言を活かしながら、ベンチャーキャピタル等に事業について適切に説明した上で出資を得て事業を展開し、2009年には第6回バイオベンチャー大賞を受賞した。現在は、アメリカで急性腎不全に対するHGF の臨床試験を、日本では難治性神経疾患に対するHGF の臨床試験の準備をしており、今後の成長が期待される企業である。
研究所の様子

 
事例3-1-2 バイオ医療やリチウム電池分野での応用が期待されるプラズマ技術の開発に成功した大学発ベンチャー企業

 京都府京都市にある株式会社魁半導体(従業員8名、資本金300万円)は、2002年に起業された京都工業繊維大学発ベンチャー企業である。分子・原子から電子が分離し反応性が高い状態となるプラズマの現象を用いた同社の技術は、バイオ医療やリチウム電池への応用が期待されている。
 同社の田口貢士社長は、学生時代からプラズマに関する研究に従事し、修士号取得後にプラズマ関連企業に就職した。2000年代初頭のベンチャーブーム到来時に、起業への憧れから再び大学に戻り、博士課程在学中の2002年に研究成果の活用を目的として同社を設立した。28歳での起業であったが、「活力にあふれ、失敗もある程度許容される20歳代後半での起業が、ベストのタイミングであった。」と田口社長は語る。同社が開発した、粉体の分散溶液の生成を効率化する粉体プラズマ処理技術は、「関西フロントランナー大賞2010」を受賞し、今後はリチウムイオン電池等の様々な分野での応用が見込まれている。
 高成長が期待される新規ベンチャー企業ではあるが、「堅実な事業の展開が重要である。」と語る田口社長は、社会貢献や人材育成を主眼とした着実な経営を心掛けている。同社は、人材、技術、経営理念等の無形経営資源を債権者、株主、顧客に伝えるべく「知恵の経営報告書」を作成しており、顧客や取引先等に企業概要や今後の事業計画を伝え、また、社員一同が企業理念を共有し、共同して事業運営に参画できるよう工夫を凝らしている。
プラズマによる表面改質を行う真空プラズマ装置


 次に、新規企業の成長性を把握すべく、1998〜2007年までの各年に創設した我が国の企業の平均売上高を、1997年以前創設の企業の平均と比較したものが第3-1-14図である。これによると、新規企業の売上高は、創設後に高い成長を示すことが分かる。
 
第3-1-14図 創設後の一企業当たりの売上高
〜新規企業の売上高は、創設後に既存企業と比べて高い成長を示す〜


第3-1-14図 創設後の一企業当たりの売上高
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事例3-1-3 綿密な市場分析を行い、起業後急速に売上高を伸ばしている企業

 東京都新宿区の株式会社ジェネレーションパス( 従業員19名、資本金1,100万円)は、2002年に設立されたインターネット通信販売等を営む企業である。
 同社は、当初、映像制作等を手掛けていたが、2006年に市場が拡大しているインターネット通信販売に参入、総合ショッピングサイト「リコメン堂」を開設し、2010年の売上が約13億円に上るなど、急成長を遂げている。参入時、同社内には、インターネット通信販売の知見や経験がある者が皆無であったが、「競合大手企業の倍は働く。」という信念と、サイト内の商品のアクセス数や顧客層等を細かくデータ化し、効果的なSEO(検索エンジン最適化)戦略によって、顧客が欲しがりそうな商品を効率的に紹介することに注力したことが、同社の強みとなっている。
 同社の岡本洋明社長は、金融機関に勤務していたが、30歳で退職、渡米して会社を起業した後に、ハーバード・ビジネス・スクールでマーケティング論を学んだ。帰国後にはIT 企業の経営に参画し、2000年には上場を果たし、その後に同社を起業している。
 同社は、高齢者がインターネットを利用する時代となりつつある現在、特にインターネット通信販売市場は、高齢化が進展するにつれて拡大していくものと捉えている。今後は、市場ニーズに合わせて、取扱商品・業種を拡大し、また、卸売や自社製品の製造にも挑戦して、5年後に売上50億円を突破することを目標としている。
同社の運営する総合ショッピングサイト「リコメン堂」


 業種別の成長性を比較すべく、第3-1-15図は、2001〜2009年に創設した企業のうち、中小企業から大企業に成長したものについて、その業種構成を示したものである。これを2001〜2009年に創設した企業全体の業種構成と比較すると、情報通信業及び医療,福祉の分野で大企業への成長企業が多い。これらの分野は、開業率も高い分野であり、将来性のある業種に多くの起業家が参入し、高い成長を遂げていることが分かる。
 
第3-1-15図 創設後に中小企業から大企業に成長した企業の業種構成
〜情報通信業及び医療,福祉の分野で、中小企業から大企業に成長した企業の割合が多い〜


第3-1-15図 創設後に中小企業から大企業に成長した企業の業種構成
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●〔2〕起業による雇用の創出
 以上では、起業家が次々と市場に参入し、急速に成長することによって、経済の新陳代謝が活性化し、我が国の経済成長に寄与していることを見てきた。次に、起業が雇用の創出に果たす役割について、論じていく。
 第3-1-16図は、2004〜2006年にかけての業種別の雇用変動率を、存続事業所における雇用創出、開業事業所における雇用創出、廃業事業所における雇用喪失、存続事業所における雇用喪失に分解したものである。これによると、大部分を占める存続事業所よりも、一部の開業事業所及び廃業事業所における雇用変動が、全体の変動に大きく寄与しており、特に2004〜2006年に創出された雇用の約6割は、開業事業所で創出されていることが分かる。また、情報通信業や医療,福祉といった開業率の高い業種では、開業事業所における雇用創出が雇用増加に大きく寄与しているが、小売業や飲食店,宿泊業といった生業型の業種においても、開業事業所における雇用創出が大きく、起業が雇用創出に重要な役割を果たしていることが分かる。
 
第3-1-16図 開廃業及び存続事業所による雇用変動(2004〜2006年、事業所単位)
〜2004〜2006年に創出された雇用の約6割は、開業事業所で創出されている〜


第3-1-16図 開廃業及び存続事業所による雇用変動(2004〜2006年、事業所単位)

 
コラム3-1-2 総務省「経済センサス−基礎調査」を用いた雇用創出の算出

 新しく創設された経済センサス−基礎調査を用いて、2006〜2009年の開業及び存続事業所による雇用変動を算出したものが、コラム3-1-2図である。これによると、開業事業所410,354事業所(2009年時点の事業所の8.5%に該当) が約371万人(37.6%) の雇用を、存続事業所4,408,050事業所(2009年時点の事業所の91.5%に該当)) 約618万人(62.4%) の雇用を増大させていることが分かり、雇用が特に開業事業所で増加していることが分かる。

コラム3-1-2図 開業及び存続事業所による雇用創出(2006〜2009年、事業所単位)
〜雇用は、開業事業所で増加している〜


コラム3-1-2図 開業及び存続事業所による雇用創出(2006〜2009年、事業所単位)


 以上は、起業時の雇用創出に関する分析であるが、次に、起業後の雇用創出について見ていく。アメリカの経済学者バーチは、特に成長力の高い少数の企業を「ガゼル(Gazelle)」と命名し、その雇用創出能力に注目した。ここでは、我が国のガゼル企業について、その年齢や業種の分析を行う。
 第3-1-17図は、2002年時点と2007年時点で比較して雇用が増加した企業11万3,336社を、増加数が多い企業から順に並べ、雇用増加に対する累積貢献度を示したものである。これによると、雇用の約5割は約7.0%の企業が創出しており、ほんの一部の企業が大部分の雇用を創出していることが見て取れる。
 
第3-1-17図 雇用増加に対する累積貢献度(2002〜2007年)
〜一部の企業が多数の雇用を創出している〜


第3-1-17図 雇用増加に対する累積貢献度(2002〜2007年)


 ここでは、従業員増加数の累積が50%を超える部分の雇用を創出した企業(5年間で30名以上の雇用を創出した企業7,954社、全雇用増加企業の約7.0%に該当)をガゼル企業として、その年齢構成及び業種構成について見ていく。2002年時点の全企業及びガゼル企業の創設年別の分布(1945年以降)を示したものが第3-1-18図である。これによると、ガゼル企業は、全企業と比較して年齢が若い方に分布しており、起業後間もない企業の雇用創出能力の高さがうかがわれる。
 
第3-1-18図 ガゼル企業の創設年の分布
〜全企業に比して、ガゼル企業には創設間もない企業が多い〜


第3-1-18図 ガゼル企業の創設年の分布
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 次に、全企業及びガゼル企業の業種構成を示した第3-1-19図によると、ガゼル企業は、全企業の業種構成と比較して、医療,福祉の分野に極めて多いことが分かる8

8 他方、労働集約的な医療,福祉の分野のみならず、多くの人手を必ずしも必要としない情報通信業等の分野においても、ガゼル企業が存在することも分かる。

 
第3-1-19図 ガゼル企業の業種構成
〜全企業の構成と比較して、医療,福祉の分野にガゼル企業が多い〜


第3-1-19図 ガゼル企業の業種構成
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 このように起業時及び起業直後には雇用が増大しており、起業が雇用創出に果たす意義の大きさが分かる。特に、震災による津波や原発事故の被害を受けて、被災地域では、多数の企業が事業の中断や廃止を余儀なくされており、多くの雇用が失われている。こうした厳しい中にも、企業家が果敢に起業や事業の再建を行い、雇用を維持、創出していくことが我が国経済の復興にも大きく寄与するといえる。
 
事例3-1-4 企業向け総合アウトソーシング事業を展開し、起業後間もなく300人の雇用を創出した企業

 2005年に設立された東京都中央区の株式会社ティーケーピー(従業員300名、資本金2億8,779万5,000円)は、IT 技術を活用した企業向け総合アウトソーシング事業を展開する企業である。
 同社は、商社でインターネット上の金融機関の立ち上げに携わった河野貴輝社長が、IT 技術を現実の事業に活用することを目標に設立した。六本木のビルの1フロアから始まった貸会議室事業は、東京、大阪を始めとする全国主要都市に500室以上を運営するまでに拡大し、これまでに7万社、150万人以上が利用している。また、貸会議室事業に加え、旅行業免許を取得して会議室、出張、宿泊の一括予約を行うほか、研修プログラムの提供、弁当の手配、中古オフィス用品のレンタル、コールセンターや給与計算業務の受託等、貸会議室から派生する様々な事業に次々に参入し、企業向け総合アウトソーシング事業を幅広く展開している。河野社長一人で起業した同社は、事業拡大に伴い、2005年の設立から5年で雇用を約300名まで成長させている。
 同社の貸会議室事業は、不動産を所有しないことによって初期投資を抑え、資金力を高めたことが、その後の事業展開や発展につながっている。現在、国内での事業拡大を図ると同時に、ニューヨーク、上海等の国外の大都市で事業展開する準備を進めている。
社長一人から従業員約300名まで成長したティーケーピーの社員


●〔3〕起業が生み出す社会の多様性
 以上では、起業時のみならず起業直後にも多くの雇用が創出されることを概観してきたが、起業が経済社会に与える効果として、多様な生き方・働き方を可能にするということも挙げられよう。人は、様々な動機・目的で起業という選択をするが、単により良い収入を得るためだけではなく、自己実現、裁量労働、社会貢献、専門的な技術・知識等の活用ができる舞台を求めて、起業する者も多いであろう9。また、起業家に現在の収入、仕事、生活に対する満足度を尋ねても、収入に関しては不満を感じる者の方が多いが、仕事及び生活に関しては、満足している者の方が多い(第3-1-20図)。つまり、多くの起業家は、既存の環境では実現できなかった個性・能力の伸長の場を求めて、より良い生き方・働き方を実現するために、起業を選択しているといえよう。こうした起業家の活動は、経済成長等の数値には表れないものもあるが、社会をより多様で豊かにするものであるといえよう。

9 起業の動機・目的については後述する。

 
第3-1-20図 起業家の収入、仕事、生活に対する満足度
〜起業家は、収入に関しては、不満を感じる者の方が多いものの、仕事及び生活に関しては、満足している者の方が多い〜


第3-1-20図 起業家の収入、仕事、生活に対する満足度
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 中小企業白書(2010年版)では、就業意識の多様化、産業構造の変化、経済のグローバル化、労働市場の規制緩和等により、労働力が多様化し、中小企業において女性や高齢者の活用が進展していることを指摘した10。ここでは、女性及び高齢者の起業をめぐる環境について分析を行い、従来の環境では十分な就労機会に恵まれてこなかった人々が、起業によって多様な生き方や働き方を可能とする舞台を自ら創出していることについて論ずる。

10 中小企業白書(2010年版)p.131〜134を参照。

 第一に、女性起業家をめぐる環境を概観する。第3-1-21図は、女性の起業の担い手について示したものである。起業希望者については、足下減少傾向にあるものの、2007年には約30万人の女性起業希望者がいること、男女の総数(前掲第3-1-6図)と比較すると、起業希望者に占める無業者の割合が大きいこと、そして、起業家については、ここ30年近く継続的に約10万人存在していることが分かる。
 
第3-1-21図 女性の起業の担い手
〜女性の起業希望者は直近で約30万人、女性起業家は継続的に約10万人存在している〜


第3-1-21図 女性の起業の担い手


 次に、女性起業家の詳細について、起業実態調査を基に男性と比較しながら分析を行う。まず、起業の動機・目的であるが、女性は、「社会に貢献したい」及び「年齢に関係なく働きたい」などと回答する割合が男性と比べて高い(第3-1-22図)。
 
第3-1-22図 男女別起業の動機・目的
〜女性起業家は、男性起業家と比較して、「社会に貢献したい」及び「年齢に関係なく働きたい」という動機・目的で起業する割合が高い〜


第3-1-22図 男女別起業の動機・目的
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 起業する事業分野の選択理由であるが、女性起業家では、「社会に貢献できる分野」、「以前から興味のある分野」、「家事・育児・介護と仕事の両立が可能」と回答する割合が男性と比べて特に高い(第3-1-23図)。
 
第3-1-23図 男女別事業分野の選択理由
〜女性起業家では、「社会に貢献できる分野」、「以前から興味のある分野」、「家事・育児・介護と仕事の両立が可能」と回答する割合が男性と比べて特に高い〜


第3-1-23図 男女別事業分野の選択理由
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 さらに、起業した業種であるが、男性と比べて医療、福祉の分野が圧倒的に多く、教育、学習支援業でも高い割合を示すなど、これら開業率の高い業種で女性起業家が活躍していることが分かる(第3-1-24図)。
 
第3-1-24図 男女別起業業種の構成
〜女性起業家は、男性起業家と比べて、医療、福祉や教育、学習支援といった業種を選択する割合が多い〜


第3-1-24図 男女別起業業種の構成
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 最後に起業家の男女別年齢構成を見ると、女性起業家の方が男性起業家よりも、30〜40歳代の年齢階層で割合が高いことが分かる(第3-1-25図)。一部の女性は、結婚・出産・育児を機に労働市場から退出するため、15歳以上の人口に占める常用雇用者の割合は一時的に低下するが、裁量労働等が可能な自営業主の場合、割合は低下していない(第3-1-26図)。このことから、結婚・出産・育児のために常用雇用者として働きにくい女性にとって、起業という選択がライフステージに合った働き方を可能にしているといえる。
 
第3-1-25図 男女別起業家の年齢構成
〜女性起業家は、男性起業家と比べて30〜40歳代の年齢階層で割合が高い〜


第3-1-25図 男女別起業家の年齢構成
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第3-1-26図 男女別常用雇用者及び自営業主の割合
〜女性の常用雇用者割合は一時的に低下するが、女性の自営業主割合では、そうした傾向は見られない〜


第3-1-26図 男女別常用雇用者及び自営業主の割合
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 以上から、出産や育児が一段落した女性が、社会に貢献し、家事・育児・介護等の自己の経験を活用できる事業分野で、家庭との両立を図りつつ、新たな活躍の場を求めて起業に踏み切っている現状が推察される。とりわけ出産・育児の時期に女性の就業率が低下する傾向にある我が国では、出産・育児を経験した女性が、母親・主婦の視点を活かして、自らの活躍の場を創出するという意味で、起業は大きな意義を持つことになるといえる11

11 日本公庫では、「女性、若者/シニア起業家支援資金」として、新規開業して5年以内の女性、若者(30歳未満)、高齢者(55歳以上)に対して、優遇金利での支援を行っている。また、商工会・商工会議所では、「創業塾」として、女性も含めて、起業を志向する者を対象に、事業を開始するための心構え、事業計画作成のポイント、税務・法務等の実践的な内容等について、経営コンサルタント、中小企業診断士、創業体験者による講義を行っている。

 
事例3-1-5 女性起業家の育児体験を活かした子育て雑貨商品の企画販売を行う企業

 沖縄県那覇市の沖縄子育て良品株式会社(従業員3名、資本金500万円)は、2004年に起業された子育て雑貨商品の企画や販売を行う企業である。
 同社の山本香社長は、前職の沖縄物産を扱う企業で、伝統的な工芸品や織物等の商品開発や店舗の立ち上げに携わる一方で、趣味で自らの育児体験から得たアイディアを基に商品の開発を行っていたが、2004年に独立し、安心・安全に配慮した子育て雑貨商品や、沖縄の地域資源を用いた製品の企画販売を始めた。特に、(財)沖縄県産業振興公社の平成21年度OKINAWA 型産業応援ファンド事業に採択された「子どもが口にしても安心な生活雑貨の開発プラン」では、沖縄県産木のリュウキュウマツやハンノキを用いた弁当箱等の日用雑貨品等の開発を行い、「安心、安全、良質、ナチュラル」なこだわり製品を生産している。
 「身の丈にあった事業を展開してきた」と語る山本社長であるが、書籍等を参考に自ら起業の手続を行い、2010年2月には、商社等との取引を増やすべく法人成りも果たしている。2010年10月には、沖縄の素材を活かした母子に優しい化粧品・雑貨・食品の開発と販路開拓事業が経済産業省の地域産業資源活用事業計画に認定され、更なる発展が期待される。
安全・安心にこだわり リュウキュウマツを用いた弁当箱


 第二に、起業実態調査に基づき、高齢者12の起業の現状を見ていく。年齢階層別に起業の動機・目的を見ると、高齢者では「社会に貢献したい」、「年齢に関係なく働きたい」、「親会社等の要請」と回答する起業家の割合が、他の年齢層よりも高い(第3-1-27図)。

12 ここでいう高齢者は、60歳以上の年齢階層をいう。

 
第3-1-27図 年齢階層別起業の動機・目的
〜高齢者では、「社会に貢献したい」、「年齢に関係なく働きたい」、「親会社等の要請」と回答する起業家の割合が、他の年齢層よりも高い〜


第3-1-27図 年齢階層別起業の動機・目的
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 起業の経緯は、「前職の企業の方針として、分社化又は関連会社として起業」、「他社での勤務経験なく、独自に起業」と答えた企業の割合が相対的に高い(第3-1-28図)。つまり、高齢者は、他の年齢層に比べて、前職の企業で経験を積んだ後にその企業の分社・関連会社として起業した者や、第二の人生として新規分野で独自に起業した者が多いことが特徴だといえる。
 
第3-1-28図 年齢階層別起業の経緯
〜高齢者では、「前職の企業の方針として、分社化又は関連会社として起業」や「他社での勤務経験なく、独自に起業」の割合が高い〜


第3-1-28図 年齢階層別起業の経緯
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 起業家の年齢階層別に業種分類を見てみると、高齢者では特に医療、福祉分野での起業が顕著であり、同年代の立場であることも活かし、高齢者向けのサービスを提供していることがうかがわれる(第3-1-29図)。
 
第3-1-29図 年齢階層別起業業種の構成
〜高齢者では、医療、福祉分野での起業が顕著である〜


第3-1-29図 年齢階層別起業業種の構成
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 以上の結果から、これまでの就業経験を買われて分社・関連会社を任されたり、年齢に関係なく働きたい高齢者が、起業によって新たに活躍の場を得ていることが推測される。

 
事例3-1-6 起業家が前職の人脈を活かして優れた高齢者人材の確保に成功し、生きがいや働きがいの創出に成功している企業

 東京都港区の株式会社じんざいセンター・ゆずり葉(従業員9名、資本金1,000万円)は、大企業OB を活用した試験監督業務や金融機関関係者向けの通信講座答案添削業務を行う企業である。
 同社の本多熟社長は、前職の社団法人でサラリーマンの生涯設計、ライフプランの相談指導に従事していたが、その中で高齢者に仕事を提供することで、生きがいや働きがいを提供していきたいと考えるようになった。本多社長が55歳の時、社団法人で受託していた試験監督業を事業として分離することになり、それに応えて起業した。
 同社は、大企業の管理職経験者を中心に、本多社長の人脈を活用した紹介による採用を基本としており、優秀な人材を潤沢に確保できている。特に、金融機関関係者向けの通信講座答案添削業務では、金融に特化した専門知識が必要とされるため、首都圏在住の都市銀行、信託銀行のOB を多数確保できている点で、他社と差別化できている。
 高齢化社会を前提とした雇用慣行の変化から65歳まで働くというケースが多くなり、同社でも登録時の年齢が高齢化し、現在の中心層は60歳代後半である。こうした中、同社では登録人材の年齢の上限を70歳としている。これは、社長の「70歳になったら次の人に道を譲って、人生を楽しんでほしい。」という考えに基づくもので、社名の「ゆずり葉」の由来にもなっている。現在では、登録者が2千名を超え、高齢者の就労機会を創出し、更に生きがいや働きがいを創出していくことが期待される。
試験の受付や通信講座の答案添削を行う同社の社員


 これまで女性及び高齢者の起業の実態を概観したが、我が国の雇用慣行では、必ずしも就業や能力発揮の機会に恵まれてこなかった女性や高齢者が、起業という選択によって、自らの活躍の場を切り拓いていることが分かった。我が国では、得てして大きな会社組織の中で働くことが志向されがちであったが、起業を選択し、活躍の舞台を自らが設定することによって、社員という立場では実現が難しい自己実現、裁量労働、能力発揮等の機会を得ることができる。こうした選択肢の多様化という意味で、起業は経済社会のみならず、人々の生活・労働を豊かにし、経済社会をより多彩なものとする可能性を秘めているといえよう。



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