第3部 経済成長を実現する中小企業 

1 我が国の起業の現状

●開廃業の状況
 企業の誕生・消滅は日々起こっており、その動態を正確に把握することは、非常に困難である。ここでは、政府統計を用いて開廃業率を算出し、時系列比較や各国比較によって、我が国の開廃業の傾向を捉えていく。
 我が国の開廃業率を算出する方法は複数考えられるが、ここでは第3-1-1図に示された3種類の方法で開廃業率を算出し、その結果を基に、開廃業の動向について概観する。
 
第3-1-1図 開廃業率の算出方法
〜開廃業率は、算出方法により定義が異なるため、比較する際には注意が必要である〜


第3-1-1図 開廃業率の算出方法


1)総務省「事業所・企業統計調査」及び「経済センサス−基礎調査」による算出
 我が国の事業所及び企業を対象とする唯一の全数調査である事業所・企業統計調査及びそれに代わって創設された経済センサス−基礎調査2によると、開業率は、企業単位でも事業所単位でも1980年代から低下し、1990年代後半から持ち直したものの、近年低迷しており、依然として長期的に増加傾向にある廃業率を1980年代末から下回る状況が続いている(第3-1-2図)。

2 以下、経済センサス−基礎調査は、基本集計(速報)に基づく暫定のものであり、詳細集計(確報)に基づく結果とは異なる場合がある。

 
第3-1-2図 事業所・企業統計調査及び経済センサス−基礎調査による開廃業率(年平均)
〜企業単位でも事業所単位でも、1980年代末から、開業率が廃業率を下回る状況が続く〜


第3-1-2図 事業所・企業統計調査及び経済センサス−基礎調査による開廃業率(年平均)
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 経済センサス−基礎調査では、後述のとおり、事業所・企業統計調査と比較して、開業率が過小に算出されている可能性がある(コラム3-1-1参照)。そこで経済センサス−基礎調査に移行する直前の事業所・企業統計調査に基づいて、企業の業種別の開廃業率(2004〜2006年の年平均)を算出したものが第3-1-3図である。多くの業種で開業率が廃業率を下回る中、情報通信業や医療,福祉においては、開業率が廃業率を大きく上回っている。
 
第3-1-3図 事業所・企業統計調査による業種別の開廃業率(2004〜2006年、企業単位、年平均)
〜情報通信業、医療,福祉において、開業率が高く、廃業率を上回る〜


第3-1-3図 事業所・企業統計調査による業種別の開廃業率(2004〜2006年、企業単位、年平均)


 
コラム3-1-1 総務省「経済センサス−基礎調査」を用いた業種別開廃業率の算出

 従来、開廃業率の算出に用いていた事業所・企業統計調査は、2006年を最後に、新しく創設された経済センサス−基礎調査に統合され、2009年に経済センサス−基礎調査の第1回調査が実施された。経済センサス−基礎調査は、〔1〕商業・法人登記等の行政記録を活用して、事業所・企業の捕捉範囲を拡大しており、また、〔2〕本社等の事業主が支所等の情報も一括して報告する本社等一括調査を導入しているため、事業所・企業統計調査と単純に比較することは適切でない。
 経済センサス−基礎調査では、各事業所について、存続事業所、新設事業所、廃業事業所といった異動状況を調査しているが、それを基に2006〜2009年の企業単位の業種別開廃業率(年平均)を算出すると、前掲第3-1-2図で示したように開業率が2.0%、廃業率が6.2%と、開業率が大きく低下する。これは、近年開業率が低下傾向にあることもあるが、調査手法の変更3も影響していると考えられるため、以前の開廃業率とは単純に比較はできない。しかしながら、依然として直近の開業率が低いという傾向は、変わらないといえる。また、業種別の開業率を比較すると、情報通信業や医療,福祉の分野で引き続き他業種と比べて開業率が高いことが分かる。

3 事業所・企業統計調査では、調査員が調査区内で新たに捕捉した事業所を新設事業所と定義していたのに対し、経済センサス−基礎調査では、事業所の開設時期によって新設事業所を定義している。そのため、他の調査区から移転してきた事業所について、事業所・企業統計調査では、新設事業所と捕捉されていたが、経済センサス−基礎調査では、事業所の開設時期として、移転ではなく創設の時期が調査票に記入された場合、存続事業所として捕捉されるため、従来よりも開業率が過小に算出される可能性がある。また、新たに発見された事業所についても、事業所・企業統計調査では、新設事業所と捕捉されていたが、経済センサス−基礎調査では、開設時期によって新設事業所又は存続事業所として捕捉されるため、従来よりも開業率が過小に算出され得る。

コラム3-1-1図 経済センサス−基礎調査による業種別の開業率及び廃業率(2006〜2009年、企業単位、年平均)


コラム3-1-1図 経済センサス−基礎調査による業種別の開業率及び廃業率(2006〜2009年、企業単位、年平均)


2)厚生労働省「雇用保険事業年報」による算出
 第3-1-4図は、雇用保険の新規適用事業所数及び廃止事業所数から算出した有雇用事業所の開廃業率を示している。開業率は、バブル崩壊後の1980年代末から急落し、低い水準で推移する一方、廃業率は、1990年代半ばに一度下落するも、2000年代初頭には漸増して開業率を上回ったが、近年は、開業率と拮抗している。また、適用事業所数は、1980年代末、2000年代初頭及び半ばに増加している。
 
第3-1-4図 雇用保険事業年報による開廃業率
〜2000年代初頭には廃業率が開業率を上回るも、近年は、開業率と廃業率が拮抗している〜


第3-1-4図 雇用保険事業年報による開廃業率
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3)法務省「民事・訟務・人権統計年報」及び国税庁「国税庁統計年報書」による算出
 我が国の会社数及び設立登記数から開廃業率を算出すると、開業率は、1980年代後半には上昇したものの、その後は下落傾向にある。一方で、廃業率は、1990年代以降上昇傾向にあり、足下では開業率とほぼ同じ水準となっている。また、設立登記件数は、1980年代後半に急増、2000年代半ばに微増している(第3-1-5図)。
 
第3-1-5図 会社数及び設立登記件数による開廃業率
〜開業率と廃業率の差は、バブル崩壊以降に縮小し、足元ではほぼ同水準である〜


第3-1-5図 会社数及び設立登記件数による開廃業率
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 以上、3種類の手法を用いて開廃業率の算出を行ったが、〔1〕特にバブル崩壊以降、開業率の低迷及び廃業率の上昇という傾向が著しい、〔2〕1980年代末のバブル期、2000年代初頭の情報通信産業の好調期、2000年代初頭からの最低資本金規制の緩和・撤廃後等、起業が特に活発に行われる時期があったと総括できる。
●起業の担い手
 以上では、我が国の企業や事業所の数に注目して、開業率・廃業率の推移を見てきたが、ここでは、総務省「就業構造基本調査」を用いて、起業の担い手の状況を概観する。
 第3-1-6図によると、我が国には1979〜2007年に一貫して20〜30万人の起業家が誕生している。一方で、起業希望者及び起業準備者は、1990年代後半から急激に減少しているものの、2007年には100万人以上の潜在的な起業家が存在している。
 
第3-1-6図 起業の担い手
〜近年減少傾向にあるが、2007年に起業家は20〜30万人、起業希望者は100万人存在する〜


第3-1-6図 起業の担い手


 起業希望者及び起業家を、性別及び年齢別に分解したものが第3-1-7図である。これによると、2007年には、女性及び60歳以上の起業家がそれぞれ全体の約3割を占めている。また、1979年以降、60歳以上が全体の起業希望者及び起業家に占める割合が増加していることが分かる。60歳以上の年齢階層では、1979年以降、起業希望者に比して起業家の割合が常に高く、若年層よりも資金や経験を蓄積した60歳以上の年齢階層で、起業を実現しやすいと考えられる。
 
第3-1-7図 起業希望者及び起業家の性別及び年齢別構成
〜2007年には、女性及び60歳以上の起業家がそれぞれ全体の約3割を占める、また、近年起業家に占める60歳以上の割合が増加しており、60歳以上は、起業希望者の割合よりも起業家の割合が高い〜


第3-1-7図 起業希望者及び起業家の性別及び年齢別構成


●各国との比較
 以上では、我が国の開業率が足下で低迷していること及び近年特に起業への意欲が減退していることを見てきたが、次に、我が国の開廃業及び起業家の状況について、国際比較による分析を行う。
 我が国の開廃業率をアメリカ、イギリスと比較したものが第3-1-8図である。国によって統計の性質が異なることに留意する必要があるが、我が国の開廃業率は、他国に比べて低い水準にある。
 
第3-1-8図 各国の開廃業率
〜我が国の開廃業率は、他国に比べて低い水準にある〜


第3-1-8図 各国の開廃業率
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 また、GEM(Global Entrepreneurship Monitor)が行った各国の人々への意識調査(第3-1-9図)によると、日本では、起業活動に関するメディアの関心が高いと考える人は多いものの、起業の機会、能力、意思があると考える人は少なく、また、起業家の地位、起業という職業選択を肯定的に捉える人も少数である。
 このように、各国と比較しても、我が国では開廃業が活発とはいえず、人々の起業に対する意識も高くはないと考えられる。
 
第3-1-9図 起業活動に対する態度と意識
〜我が国では、起業に対する態度や意識が全般的に否定的である〜


第3-1-9図 起業活動に対する態度と意識
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