付注 

付注2-2-3 GTAPモデルの説明等

 GTAPモデルは、ウルグアイ・ラウンド交渉、GATTといった各国間の貿易政策のインパクトを数量的に把握することを目的にして、1992年に設立されたGTAP(Global Trade Analysis Project)により構築された応用一般均衡モデルである。
 GTAPモデルは、実際のパラメータを用いて一般均衡を達成するように作成された一時点のデータベースと主体の行動を規定するパラメータ(代替の弾力性、需要の所得弾力性、自財価格弾力性等)から成り立っている。現時点で最新のデータベースは、2004年時点の各国データをもとに作成されたVersion 7データベースであり、これを用いることで最大113ヶ国、57産業について分析を行うことが可能である。
 GTAPモデルの体系は、以下のとおりである(付注2-2-3〔1〕図)。
 
付注2-2-3〔1〕図 GTAPモデルの枠組み
付注2-2-3〔1〕図 GTAPモデルの枠組み


 まず、各国経済には、一国全体の消費又は投資を行う主体として地域家計が導入され、地域家計は、民間家計と政府の2つの主体に分けられる。消費支出は、主体別に民間家計消費支出と政府消費支出の2種類が定義されている。ここで、民間家計は生産要素としての労働・資本・土地を生産者に提供した代価として要素所得を得、政府は、民間家計からの所得税と、企業の生産及び貿易に関わる税(補助金はマイナスの税金として計上される)を収入としている。民間家計と政府を合わせた地域家計の所得は、民間家計の要素所得と企業の生産及び貿易に関わる税から資本減耗分を除いた値として定義される。また、地域家計の所得から地域家計の消費支出を除いた額が地域家計の貯蓄である。
 一方、財・サービスを自国・地域の地域家計又は海外に供給する主体として生産者が想定されている。生産者は家計からの生産要素、国内・海外からの中間投入をもとに、民間家計消費支出、政府消費支出、輸出に見合う財・サービスの供給を行う一方で投資を行う。
 最後に、GTAPモデルでは、各国・地域の貯蓄と投資を世界全体で均等化させるため、仮想的に世界銀行と呼ばれる主体を(各国・地域から独立した形で)導入している。各国・地域の貯蓄は一旦世界銀行に送られた後、各国・地域に減価償却を除去した純投資がもたらされることとなる。また、GTAPモデルでは資本ストックの全世界合計は一定とされており、各国の投資額は各国の資本収益率に従って決定される。
 各国・地域経済を構成する生産者、消費者(地域家計)の行動について見ていくことにしよう。
 まず、生産者は規模に関して収穫一定の技術をもち、生産関数に従って生産量が与えられたもとでの中間需要と要素需要が求められる(付注2-2-3〔2〕図)。
 
付注2-2-3〔2〕図 生産者行動の枠組み
付注2-2-3〔2〕図 生産者行動の枠組み


 与えられた生産量に対応した要素需要としては、土地・資本・労働が想定され、各々の需要の決定は、CES生産関数2により決定される。中間需要は国内需要、各国・地域別の輸入に分かれて、要素需要と同様にCES生産関数により決定される。また、各国・地域の各財の輸出は、生産量から当該財の消費を差し引いた値として定義され、他国の輸入需要を満たすこととなる。

2 代替の弾力性が一定の生産関数をいう。

 消費者(地域家計)は、予算制約のもとで貯蓄を説明変数として含む効用関数を最大化するように行動し、その結果一国全体の政府支出、貯蓄、民間家計支出の水準が決定される(付注2-2-3〔3〕図)。
 
付注2-2-3〔3〕図 消費者行動の枠組み
付注2-2-3〔3〕図 消費者行動の枠組み


 一国全体の政府支出は関数により各財別の需要、さらに国内財への需要と輸入財への需要へと分割される。
 国内財と輸入財、異なる国・地域から輸入される財間の代替はアーミントンの仮定3を用いているため、同じ財であっても、各国間の代替関係は不完全となる。

3 国内生産財と輸入財は不完全代替であるとする仮定。

2.GTAPモデルを用いた貿易自由化効果の計測方法
 Version 7データベースで記載されている関税率を全世界ベース及びAPEC域内で撤廃した場合の我が国への影響を計測した。
 計測にあたっては、1.で概説した標準的なGTAPモデルを基本にして、川崎研一氏((独)経済産業研究所コンサルティングフェロー)が以下の点について改良したモデルを用いた。まず一点目は、資本蓄積効果の導入である。貿易自由化に伴う当初の所得増加は、貯蓄を増加させるが、誘発された貯蓄が資本蓄積(資本ストックの増加)に結びつくことで、生産能力の増加とさらなる所得効果をもたらす。二点目は、貿易自由化に伴う輸入増大が各国の生産性を高める競争促進的な効果(生産性のスピルオーバー効果)である。貿易自由化は輸出入を拡大することになるが、輸入の増加は、当該の国内産業の生産性を向上させる効果も付随して生じると考えられる。
 以上の改良したGTAPモデルを用いて、産業別のインパクトを計測した後、その結果を製造業について規模別産業連関表の情報を用いて規模別に分割した。具体的には、製造業については、GTAPモデルから得られた結果を規模別産業連関表の大企業・中小企業の産業規模をウェイトにして分割し、大企業及び中小企業への影響としている。
 以上から、大企業・中小企業の生産構造の違いを考慮した上で分析を行っていないことは留意点である。


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