第2部 中小企業の更なる発展の方策 

1 中小製造業集積の事業所数及び従業者数

 初めに、1986年から2006年までの全国の製造業の事業所数及び従業者数を見ていく。まず、製造業の事業所数は、1986年に約87万であったが、2006年に約55万と37.3%減少し、建設業の事業所数を下回った。次に、製造業の従業者数は、農林漁業を除く全業種の従業者数が10.1%増加する一方で、製造業では1986年に約1,334万人であった従業者数が2006年に約992万人と25.6%減少した(第2-1-1図)。
 
第2-1-1図 製造業、建設業の事業所数及び従業者数
〜全国の製造業の事業所数は、1986年に約87万であったが、2006年には約55万と37.3%減少し、建設業の事業所数を下回った。従業者数については、農林漁業を除く全業種の従業者数が10.1%増加する一方、製造業では1986年に約1,334万であった従業者数が2006年に約992万人と25.6%減少〜

第2-1-1図 製造業、建設業の事業所数及び従業者数
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 こうした傾向は、多数の製造業の事業所が立地する東京都大田区や静岡県浜松市、大阪府東大阪市1(以下「3市区」という)でも顕著である。1986年から2006年にかけて、製造業の事業所数及び従業者数は、それぞれ大田区で41.9%及び42.7%、浜松市で39.6%及び32.5%、東大阪市で31.7%及び25.8%と、特に大田区では事業所数、従業者数ともに、全国平均を大きく上回るペースで減少している(第2-1-2図)。

1 付注2-1-1を参照。
 
第2-1-2図 3市区の製造業の事業所数及び従業者数
〜3市区とも製造業の事業所数及び従業者数が減少している。特に、大田区では事業所数、従業者数ともに、全国平均を上回るペースで減少している〜

第2-1-2図 3市区の製造業の事業所数及び従業者数
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 また、第2-1-3図は、1986年から2006年までの3市区の製造業中分類別の事業所数の増減率を示したものであるが、大田区と東大阪市では、金属製品や一般機械器具の事業所数が約4割減少し、浜松市では、繊維・衣服の事業所数が約7割、金属製品の事業所数が約4割減少している。
 
第2-1-3図 3市区の製造業中分類別の事業所数の増減(1986〜2006年)
〜1986年から2006年までに、大田区、東大阪市では、金属製品や一般機械器具の事業所が約4割減少しているのに対して、浜松市では、繊維・衣服の事業所が約7割、金属製品の事業所が約4割減少している〜

第2-1-3図 3市区の製造業中分類別の事業所数の増減(1986
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 こうした事業所数や従業者数の減少は、中小製造業集積の密度の低下を通じて、我が国製造業の競争力の低下につながることが懸念される2

2 付注2-1-2を参照。

 以上では、3市区の製造業の事業所数及び従業者数を見てきたが、3市区の製造業の開廃業の動向はどうであろうか。第2-1-4図は、2001年から2006年にかけて、3市区の規模別の製造業の開廃業事業所数を示したものであるが、3市区とも従業者数1〜5人の事業所において廃業事業所数が開業事業所数を大きく上回っており、製造業の事業所数の主な減少要因として、小規模な事業所の廃業が背景にあることが分かる。
 
第2-1-4図 3市区の規模別の製造業の開廃業事業所数(2001〜2006年)
〜3市区とも、小規模な事業所の廃業による事業所の減少が深刻〜

第2-1-4図 3市区の規模別の製造業の開廃業事業所数(2001
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 また、3市区ともに開業が行われ、新陳代謝が進む動きが見られるが、こうした動きを促進するためには、我が国の製造業を支える技術や工程を有する中小企業の密接な連携3やこうした連携を通じた新製品・新技術創出のための研究開発や新分野進出等が重要であると考えられる。このため、(独)中小企業基盤整備機構において、地域の産業集積、資源を広く活用して新事業の創出を目指す者や大学のシーズ及び知的資源を活用して新事業の創出を目指す者等を対象として、インキュベーション施設の整備・運営を行うことにより、中小企業の研究開発や新分野進出等を支援している。

3 第2部第1章第1節第4項を参照。

コラム2-1-1 インキュベーション施設による研究開発及び新分野進出支援

○浜松イノベーションキューブ(HI-Cube)
 (独)中小企業基盤整備機構が、静岡県及び浜松市と連携して、地域の大学等が有する技術シーズと地域の企業が有する技術力を活用して、光・電子技術関連分野等における新事業創出を図るために整備したビジネスインキュベーション施設である。起業を目指す個人、ベンチャー企業、新事業展開に取り組む中小企業等を入居させるための実験室、研究室等を整備するとともに、インキュベーションマネージャー4が施設に常駐して入居者に対する創業支援を行っている。

4 事業経験の乏しい起業家等に対し、不足する経営知識、技術等を幅広く提供する良き相談相手となり、事業化支援を行う者。

○クリエイション・コア東大阪
 (独)中小企業基盤整備機構が、大阪東部地域におけるものづくり産業の集積ポテンシャルを活かして「ものづくり総合支援拠点」として新事業創出を図るために整備したビジネスインキュベーション施設である。(独)中小企業基盤整備機構のインキュベーションマネージャーと、(財)大阪産業振興機構、(財)東大阪市中小企業振興会、東大阪商工会議所等の支援機関が協働して、入居者や地域企業を総合的に支援し、新事業創出を目指している。
浜松イノベーションキューブ(HI-Cube)
浜松イノベーションキューブ(HI-Cube)

クリエイション・コア東大阪
クリエイション・コア東大阪

 以上で見たとおり、3市区では、2001年から2006年にかけて、創業による開業事業所が見られるが、それを大きく上回る廃業事業所も存在し、総じて製造業の事業所数が大幅に減少している。それでは、集積内のどのような地区において製造業の事業所数の減少が著しいのであろうか。第2-1-5図は、1986年から2006年までの3市区の町丁目別の製造業の事業所数の増減率と駅の位置を示したものである。製造業の事業所数の減少は、特に大田区の駅周辺部や3市区の住居地域において著しい。
 
第2-1-5図 3市区の製造業の事業所数と駅の位置及び土地利用との関係
〜事業所数の減少は、大田区の駅周辺部、3市区の住居地域において著しい〜

第2-1-5図 3市区の製造業の事業所数と駅の位置及び土地利用との関係
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 第2-1-6図は、3市区の公示地価を示したものであるが、大田区は、浜松市と東大阪市に比べて地価が高く、工場を閉鎖してマンションに建て替えて、家賃収入を得るインセンティブが働くことなどが考えられる。
 
第2-1-6図 3市区の公示地価
〜大田区は浜松市、東大阪市に比べ、地価が高い〜

第2-1-6図 3市区の公示地価
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 以上では、3市区における製造業の事業所数の減少の動向を見てきたが、製造業の事業所数の減少の要因としては、小規模な事業所の廃業のみならず、市区内の事業所が市区外に移転することによるものも考えられる。第2-1-7図は、「取引ネットワークに関する調査5」(浜松市、東大阪市)及び「取引ネットワークに関する調査6」(大田区)(以下まとめて「取引調査」という)の結果を用いて、それぞれ3市区の企業の市区外への移転・拡張の経験を尋ねたものであるが、大田区、東大阪市の企業では「移転・拡張の経験がある」と答えた企業が多いことが分かる。

5 中小企業庁の委託により(株)三菱総合研究所が実施。2009年12月に浜松市、東大阪市の製造業の大企業、中小企業4,083社を対象に実施したアンケート調査。回収率14.4%。
6 一橋大学産業・金融ネットワーク研究センターの委託により(株)帝国データバンクが実施。2009年12月に大田区、品川区、目黒区、横浜市、川崎市、相模原市、大和市の製造業の大企業、中小企業10,011社を対象に実施したアンケート調査。回収率12.4%。
 
第2-1-7図 3市区における企業の市区外への製造拠点の移転・拡張の経験
〜3市区で製造拠点の「移転・拡張の経験がある」企業は、大田区、東大阪市で比較的多い〜

第2-1-7図 3市区における企業の市区外への製造拠点の移転・拡張の経験
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 こうした製造拠点の移転・拡張の理由としては、大田区と東大阪市で、「拡張するための土地や貸工場が存在しない」、「地価・賃料が高い」、「近隣住民との関係で操業が困難」と答える企業が多く、大田区の駅周辺や3市区の住居地域における事業所の減少要因の一つとして考えられる(第2-1-8図)。
 
第2-1-8図 3市区における企業が製造拠点を市区外へ移転・拡張した理由
〜大田区、東大阪市においては、「拡張するための土地や貸工場が存在しない」、「地価・賃料が高い」という理由で移転・拡張した割合が比較的高い〜

第2-1-8図 3市区における企業が製造拠点を市区外へ移転・拡張した理由
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 これらの理由により、中小製造業集積において製造業の事業所数が減少し、中小製造業集積の競争力の低下が懸念されるが、工場アパートを建設することなどによりこうした問題を解決し、中小製造業集積を維持していくことが重要である。

事例2-1-1 大田区内での集積の効果を求め、工場アパートへ入居した企業

 東京都大田区の株式会社宮澤精機(従業員4名、資本金300万円)は、1964年創業の精密プレス金型設計製作を中心に部品加工等を行う企業である。
 従来から、大田区内の取引先と仕事の横請7や融通等を行っており、集積地ならではのメリットを活かしつつ、新たに工場を拡張したいと考えていた。しかし、区内の土地は既に住宅地となっており、拡張の余地がなかったため、工場アパートの「テクノWING大田」へ入居を希望した。

7 企業同士が対等な立場で受発注を行うことをいう。

 テクノWING大田は大田区が建設したものであり、国や東京都、大田区等を通じて様々な情報が入りやすいこと、工場アパート内に企業が集まっているため、他の企業とのネットワークを築きやすいことなどが期待されるため、本社工場の実質的な機能を工場アパート内に移転した。
 
工場アパート「テクノWING大田」の外観
工場アパート「テクノWING大田」の外観。入居者企業用住宅(ウイングハイツ)(左)と工場棟(右)



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