第1部 最近の中小企業の動向 

3 中小企業の雇用への影響

 ここまでは、リーマン・ショック後に我が国の中小企業が資本市場及び財市場を通じて受けた影響について分析を行った。次に、リーマン・ショック後の中小企業が雇用面で受けた影響を見ていくこととする。
 初めに、リーマン・ショック後の我が国の雇用情勢を概観していく。有効求人倍率は、第1章で分析したようにリーマン・ショック前より低下傾向であったが、リーマン・ショック後、更に低下傾向を強め、足下でも依然として低い水準で推移している。完全失業率は、リーマン・ショック発生以降、急激に上昇し、2009年7月には過去最悪の5.6%を記録することとなり、その後やや低下傾向を見せているものの、依然として高い数値を示している。
 次に、規模別の新規求人数を見ていく。第1-2-15図は、新規求人数の伸び率の増減を規模別に要因分解したものであるが、新規求人数は、すべての規模で減少しており、特に小規模な事業所では、新規求人数の減少が大きいことが分かる。
 
第1-2-15図 規模別の新規求人数の伸び率の要因分解(前年同月比寄与度)
〜新規求人数は、特に小規模な事業所で減少〜

第1-2-15図 規模別の新規求人数の伸び率の要因分解(前年同月比寄与度)
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 こうした傾向は、就職を控えた学生に対しても及んでいると考えられ、第1-2-16図を見ても、2010年3月卒の大卒求人倍率は、2009年3月卒の大卒求人倍率に比べ低下していることが分かる。
 
第1-2-16図 規模別の大卒求人倍率
〜2010年3月卒の大卒求人倍率は、2009年3月卒の大卒求人倍率に比べ低下〜

第1-2-16図 規模別の大卒求人倍率
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 第1-2-17図は、規模別の離職理由を示したものである。非自発的な離職者の数は、大企業、中小企業ともにリーマン・ショック後、増加していることが分かる。
 
第1-2-17図 規模別の離職理由
〜非自発的な離職者の数は、大企業、中小企業ともにリーマン・ショック後に増加〜

第1-2-17図 規模別の離職理由
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 また、第1-2-18図は、求職者が仕事に就けない理由を示したものであるが、リーマン・ショック後、「希望する種類・内容の仕事がない」、「条件にこだわらないが仕事がない」とする求職者の数が増加しており、企業が雇用を絞っている可能性があることが見て取れる。
 
第1-2-18図 仕事に就けない理由
〜リーマン・ショック以降、「希望する種類・内容の仕事がない」、「条件にこだわらないが仕事がない」とする求職者の数が増加〜

第1-2-18図 仕事に就けない理由
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 こうした動きの拡大に伴い、新規学卒者の内定取消しや非正社員の雇止め等の問題が顕在化し、2008年末から2009年初にかけていわゆる「年越し派遣村」が設置され、社会問題化した。このように、リーマン・ショック後の雇用情勢は、中小企業で働く労働者にとっても非常に厳しいものであった。
 以上では、中小企業における雇用情勢が非常に厳しい状況に置かれていることを見てきた。以下では、こうした厳しい状況の中、中小企業は自社の雇用の存り方をどのように考え、どのような行動を取ったのかを見ていく。
 初めに、企業の損益と経済危機の影響による従業員の削減の有無の関係を見ると、2009年11月時点において「大幅な赤字」と回答した企業で、経済危機の影響による従業員の削減を行っている割合が高い(第1-2-19図)。
 
第1-2-19図 経済危機の影響による従業員の削減の有無(損益別)
〜「大幅な赤字」と回答した企業で、経済危機の影響による従業員の削減を行っている割合が高い〜

第1-2-19図 経済危機の影響による従業員の削減の有無(損益別)
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 次に、第1-2-20図は、経済危機の影響による従業員削減の有無を規模別に示したものであるが、経済危機の影響を受けて従業員の削減を行った企業の割合は、小規模な企業ほど低いことが見て取れる。
 
第1-2-20図 経済危機の影響による従業員の削減の有無(規模別)
〜小規模な企業ほど、経済危機の影響による従業員の削減を行っている割合が低い〜

第1-2-20図 経済危機の影響による従業員の削減の有無(規模別)
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 中小企業では、大企業に比べてその従業員数が少ないこと、従業員の削減の余地が小さいこと等を勘案する必要があるが、リーマン・ショック後も雇用維持に努力した中小企業が存在していることを示しているといえよう。また、第1-2-15図では、規模が小さい事業所で新規求人数が減少していることを示したが、これらの結果を踏まえると、中小企業は新規求人を控え、その分、現に雇用している従業員の雇用の維持を優先させていた可能性があることが推察される。第1-2-21図は、経済危機の影響により従業員を削減していない理由を示したものであるが、「会社として雇用確保を優先しているため」という回答が5割を超えており、自社の従業員の雇用維持を優先する経営者の姿勢がうかがわれる。
 
第1-2-21図 経済危機の影響により従業員を削減していない理由
〜「会社として雇用確保を優先しているため」と回答する中小企業が5割を超える〜

第1-2-21図 経済危機の影響により従業員を削減していない理由
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 では、リーマン・ショック後に、中小企業は雇用を維持するためにどのような取組を行ったのであろうか。第1-2-22図は、経済危機において中小企業が実施した雇用関連の取組であるが、「役員の給与の削減」と回答する中小企業が49.1%存在しており、役員を中心に給与を削減する努力を行ったことが見て取れる。
 
第1-2-22図 経済危機において実施した雇用関連の取組
〜「役員の給与の削減」と回答する中小企業が49.1%である一方、「従業員の給与の削減」と回答する中小企業が27.4%、「新卒採用活動の停止」、「中途採用活動の停止」、「正社員の削減」、「パート・アルバイトの削減」と回答する中小企業もそれぞれ約20%存在〜

第1-2-22図 経済危機において実施した雇用関連の取組
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 一方、「従業員の給与の削減」と回答する中小企業が27.4%、「新卒採用活動の停止」、「中途採用活動の停止」、「正社員の削減」、「パート・アルバイトの削減」と回答する中小企業もそれぞれ約20%存在しており、リーマン・ショック後の厳しい経営環境の中、雇用を維持するためには、経営陣の努力だけでは限界があり、従業員に負担を求めざるを得ない状況がうかがえる。今回の経済危機を乗り越えるためには、経営陣と従業員とが一丸となった努力が必要であるといえよう。
 こうした中、中小企業は、自らの雇用維持・拡大について、どのような取組が重要であると考えるのであろうか。第1-2-23図は、中小企業が雇用維持・拡大する上で重要と考えている事項を示したものであるが、中小企業が「特に重要である」、「重要である」と考えている取組は、「賃金調整(基本給、ボーナスのカット等)」が最も多く、第1-2-22図で見たように、一定程度の企業においても実際に取り組まれている。また、「採用計画の見直し」や「労働時間短縮」についても重要と考えている。
 
第1-2-23図 雇用維持・拡大する上で重要な取組
〜「賃金調整(基本給・ボーナスのカット等)」と回答する中小企業が最も多く、「採用計画の見直し」、「労働時間短縮」という回答も多い〜

第1-2-23図 雇用維持・拡大する上で重要な取組
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 以上では、リーマン・ショック後に中小企業の雇用情勢が急速に悪化し、中小企業の経営者や従業員、求職者が非常に厳しい環境に置かれていることを見た。こうした状況の下、中小企業では総じて雇用の過剰感が高まっているが、業種によっては新たな雇用を必要としている中小企業も存在している。こうした業種間の雇用のミスマッチや中長期的な視点からの雇用の存り方については第2部第1章第3節で論じる。


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