第4節 人材の意欲と能力の向上 

1.中小企業で働く人材の仕事のやりがい

(1)仕事のやりがいの実態
 初めに、内閣府「国民生活選好度調査」では、生活全般にわたる60の項目について満足度を調査しているが、それらの項目のうち「仕事のやりがい」の満足度を見てみよう。第3-4-1図を見ると、国民のうち仕事のやりがいに満足している割合は長期的に低下傾向にあるようである。同図は、国民一般の傾向を示したものであるが、中小企業で働く従業員に限ってみた場合、仕事のやりがいはどのように感じられているのであろうか。
 第3-4-2図は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が実施した「働きやすい職場環境に関する調査」33において、大企業と中小企業で働く正社員のそれぞれに対し、「やりがいのある仕事があること」に対する満足度を聞いた結果を示したものである。これによると、中小企業の正社員で「十分満たされている」、「かなり満たされている」と回答した割合は、大企業の正社員で「十分満たされている」、「かなり満たされている」と回答した割合をそれぞれ若干下回っている。また、中小企業の正社員で「あまり満たされていない」、ほとんど満たされていない」と回答した割合の合計(25.4%)は、大企業の正社員で「あまり満たされていない」、「ほとんど満たされていない」と回答した割合の合計(24.4%)をわずかながら上回っており、平均的に見れば、仕事のやりがいを感じている中小企業の正社員の数は大企業の正社員の数に比べて若干少ないことになる。

33 2008年12月、従業員を対象に実施したインターネット調査。回答数約3,000人。

第3-4-1図 仕事についての満足感を持つ者の割合
〜仕事についての満足感を持つ者の割合は低下傾向〜
第3-4-1図 仕事についての満足感を持つ者の割合
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第3-4-2図 正社員におけるやりがいのある仕事があることに対する満足度
〜中小企業においても大企業と遜色なくやりがいのある仕事を提供している〜
第3-4-2図 正社員におけるやりがいのある仕事があることに対する満足度
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 しかし、あくまでわずかな差であり、中小企業の正社員で仕事のやりがいに満足している者も多い一方、大企業の正社員で仕事のやりがいが満たされていない者も多いのであって、中小企業が大企業と遜色なく、やりがいのある仕事を提供していることが分かる34
 また、同じ企業での勤続年数が10年以上の正社員に対し、過去10年前に比べて仕事のやりがいがどのように変化したかを尋ねた結果を見ると、中小企業で10年以上勤めている正社員のうち、仕事のやりがいが「大幅に大きくなっている」、「やや大きくなっている」と回答した者の割合40.0%となっており、大企業で10年以上勤めている従業員のうち、仕事のやりがいが「大幅に大きくなっている」、「やや大きくなっている」と回答した割合(35.4%)をやや上回っている(第3-4-3図)。

34 内閣府「国民生活選好度調査」では、一般国民に対して「やりがいのある仕事があることや自分に適した仕事があること」への満足度を聞いたものであるが、第3-4-3図の三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「働きやすい職場環境に関する調査」では、「やりがいのある仕事があること」と「自分に適した仕事があること」を分けて、それぞれ大企業と中小企業の従業員に対して聞いている。付注3-4-1は、大企業と中小企業の正社員が「自分に適した仕事があること」への満足感について回答したものを示したものであるが、第3-4-2図(「やりがいのある仕事があること」の回答結果)と同様に、平均的には中小企業の正社員の方が大企業の正社員に比べて満足している割合が若干低いが、中小企業の正社員で「十分満たされている」が6.5%、「かなり満たされている」が42.8%と、満足に感じている割合は低くない。

第3-4-3図 正社員における10年間の仕事のやりがいの変化
〜10年間における仕事のやりがいの変化においては、大企業に勤める正社員に比べ、中小企業に勤める正社員の方が大きくなってきている〜
第3-4-3図 正社員における10年間のやりがいの変化
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 以上のとおり、中小企業で働く人材で仕事のやりがいに満足している者や、長期にわたって同じ中小企業に勤務していく中で仕事のやりがいが大きくなっている者は相当程度存在し、大企業の従業員と大きな差はないことが分かる。
 それでは、仕事のやりがいはどこから生まれてくるのであろうか。第3-4-4図は、大企業と中小企業の正社員に対して、仕事のやりがいの源泉のうち最も大きいものを聞いた結果を示したものであるが、これによると、「賃金水準(昇給)」を挙げる者が最も多く、次に「自分がした仕事に対する社内の評価」や、「仕事をやり遂げた時の達成感」といった項目を挙げる者が多かった。

第3-4-4図 正社員における仕事のやりがいの源泉
〜仕事のやりがいの源泉としては賃金水準の割合が最も高く、次に仕事をやり遂げた時の達成感や自分がした仕事に対する社内の評価が続く〜
第3-4-4図 正社員におけるやりがいの源泉
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 賃金水準や昇給は、仕事をしたことへの具体的な見返りであり、企業内での評価とも考えられるため、この項目を挙げた人が最も多いのはもっともであろう。しかし、前節で見たとおり、中小企業は大企業との生産性の格差等から賃金の平均的な水準も低くなっており、生産性の上昇度合いにかかわらず賃金水準を上昇させることは難しいと考えられる。
 他方、仕事のやりがいの源泉として3番目に多く挙げられた「自分がした仕事に対する社内の評価」は、大企業でも中小企業でも、経営者がリーダーシップを発揮すれば、いくらでも工夫ができることであると考えられる。特に、中小企業の場合、従業員数が大企業に比べて多くなく、経営者と従業員の間や、従業員間のコミュニケーションを活発に図ることは相対的にしやすいと考えられる。中小企業においては、従業員が取り組んだ仕事の成果を評価する体制を整備し、評価の実施に継続的に努力することが、従業員の仕事のやりがいを高め、仕事に取り組む意欲を引き出す上で効果的であると考えられる。


事例 3-4-1 従業員の仕事ぶりを評価することによりやる気を引き出している中小企業

 東京都千代田区の興研株式会社(従業員218名、資本金6億7,426万円)は、1943年に創業し、労働安全衛生保護具(防じん・防毒マスク、空気呼吸器等)の製造・販売などを手がける中小企業である。
 同社では、「HOPES」(High-ideal Open-minded Personal Affairs by various Evaluation System)という独自の人事評価制度を導入している。「HOPES」は、業務実績・管理能力・専門能力の3つの軸で評価を行うものであるが、これら3つの軸の評価をお互いに独立したものとしている点が、一般的な評価制度とは異なる特徴である。同社によると、一般的な評価制度では、例えば2つの評価の軸があったとして、1つの評価軸で満点、もう1つの評価軸で0点の場合、平均して50点とする場合が多い。しかし、「HOPES」では、突出した100点満点の軸に光を当て、それを積極的に評価することで、従業員の個性や能力を伸ばすことを狙っている。その狙いの背後には、「人は多面的な才能を持っていて、企業が求める能力も平均値で計ってはいけない。社員が得意の能力を存分に発揮してもらうことが重要」という企業理念が存在している。「HOPES」のような評価制度であれば、個性が強すぎて協調性がないといった、従来の人事考課ではマイナス評価を受けてしまうような従業員でも、専門能力が優れていれば、その能力について評価され、給与等にも反映されることにより、モチベーションを引き出すことができる。
 「HOPES」における評価の対象は、従業員の行動がベースである。従前は、同社も営業職に売上目標などを設定していたが、現在では廃止している。仕事の結果そのものよりも、どのような行動を取ったのかということについて評価を行っており、特に、日々の行動において新たなアイディアをひらめいたり、改善すべき点を提案することを高く評価している。そして、新たな取組に挑戦するなど積極的な行動を取っていれば、例え失敗してしまっても、「討ち死賞」として評価する制度が設けられている。
 同社は、このような評価制度を通じ、従業員一人ひとりが、のびのびと個性を発揮することができる環境を整えることにより、従業員のモチベーションを高めることに成功している。

(2)仕事のやりがいと企業業績との関係
 仕事のやりがいの大きさと中小企業の業績はどのような関係にあるのであろうか。仕事のやりがいが大きい中小企業ほど、業績も良いといえるのであろうか。
 第3-4-5図は、中小企業の正社員について仕事のやりがいに対する満足度と、勤務先の中小企業の収益状況との関係を見たものである。これによると、明確な相関関係は見られないが、仕事のやりがいが「十分満たされている」、「かなり満たされている」とする者の方が、「あまり満たされていない」、「ほとんど満たされていない」とする者よりも、勤務先が「若干の黒字」と回答している者の割合がやや高く、また、「若干の赤字」、「大幅な赤字」と回答している者の割合がやや低い傾向が見てとれる。いずれにせよ、この図は、相関関係を見ようとするものであって、因果関係を見ようとするものではない。

第3-4-5図 中小企業で働く正社員の仕事のやりがいに対する満足度と収益の関係
〜仕事のやりがいが満たされている企業ほど収益は黒字の傾向〜
第3-4-5図 中小企業で働く正社員の仕事のやりがいに対する満足度と収益の関係
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 そこで、次に(株)野村総合研究所が実施した「企業における人材マネジメントの取組に関するアンケート調査」をもとに、中小企業のうち、10年前に比べて従業員の満足度が向上したと考えている企業に対し、満足度の向上がどのような効果をもたらしているかを尋ねた結果を見てみよう。第3-4-6図によると、従業員の満足度向上の効果として、「従業員の定着率の向上」を挙げる中小企業が最も多く、次に「生産性の向上」、「顧客満足度の向上」を挙げる中小企業が多かった。同図において、「特に効果はない」と回答した中小企業はわずか1.4%であり、中小企業において、仕事のやりがい等に対する従業員の満足度を向上させることは、従業員の定着率や生産性の向上を通じて、当該中小企業の業績にプラスの効果をもたらすことを示唆していると考えられる。

第3-4-6図 従業員の満足度の向上が中小企業に与える影響
〜従業員満足度の向上は従業員の定着率の向上や生産性の向上、顧客満足度の向上などの効果がある〜
第3-4-6図 従業員の満足度の向上が中小企業に与える影響
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事例 3-4-2 従業員の満足度向上を積極的に図っている中小企業

 福岡県北九州市の有限会社バグジー(従業員100名、資本金300万円)は、北九州市を中心に7店舗の美容院を展開している中小企業であり、経済産業省「ハイ・サービス日本300選」に選定されている。同社は、「顧客満足度は従業員満足度の鏡である」という哲学の下、従業員満足度を重視した経営を実践している。具体的には、〔1〕分かりやすい賃金制度、〔2〕従業員が経営に参加していると実感できる機会の提供、〔3〕互いを尊敬し、感謝する心をもって、面倒見のよい社員風土を育てる、といった取組を行っている。
 〔1〕同社の賃金制度は、年次によって異なる制度を採っている。入社してスタイリストになるまでの間は、扶養家族的な位置づけとして固定給であり、年次に応じて昇給していく。スタイリストから店長クラスまでの給与は、基本給に加えて、能力給として歩合給が追加される。この歩合を決める基準は、従業員が顧客から継続的な評価を得ているかどうかであり、リピート率、他の顧客への紹介率等の指標で評価している。
 〔2〕従業員が経営への参画を実感する機会の提供については、従業員には仕事をして行く中での疑問、提言などを「エンジェルカード」と呼ばれる情報カードに記入してもらい、その内容を同社の久保華図八社長自身が確認することにより、従業員の意見を速やかに経営に反映させている。また、店舗ごとに「敬愛」、「喜客」等の同社の経営理念に関するテーマについて、自主的なプロジェクト活動を実践している。さらに、「すべてうまくいったらどうする会議」(前年度比20%増の売上の達成時を「すべてうまくいった」という状態と定義している)を年に1度開いており、従業員にもし「すべてうまくいった」場合に、何をしたいかということを発表させ、中期経営計画に盛り込んでいる。こうした具体的な取組を経営計画に反映させることで、従業員が経営への参画を実感する機会の提供を行っている。また、会社の経営全体に関すること以外の事項については、従業員への権限委譲を徹底しているが、従業員がしたことの責任は久保社長自身が負うとしており、従業員が萎縮しないようにしている。
 〔3〕互いを尊敬し、感謝する心をもった社員風土を育てるための取組としては、従業員間のコミュニケーションや、経営者と従業員の間のコミュニケーションの量を重視している。久保社長の携帯電話には、毎日のように従業員からのメールが届くなど、久保社長と従業員の間の距離は非常に近い。また、運動会や忘年会といったイベントを実施したり、クリスマス時に児童養護施設等への訪問を行うなど、従業員間の交流も非常に活発である。
 これらの取組の結果、同社の離職率は美容業界において非常に低いものとなっており、売上も前年比20%増を達成している。
社員運動会の様子
社員運動会の様子

 第3章 中小企業の雇用動向と人材の確保・育成

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