第1節 雇用動向と中小企業で働く人材の現状 

3.中小企業を巡る人材の流動性

 厚生労働省「雇用動向調査」によると、正社員を含む一般労働者21 の離職率は2007年で12.2%にのぼる(第3-1-22図)。中小企業にとっては、定着率の低さは、教育・訓練を通じて企業特有の知識や技能を妨げる恐れがある。また、現下のように景気が悪化し、雇用調整に伴って失職した者が新たな職を探し、再就職するという流動化が円滑に行われるかどうかが重要である。このような人材の流動化について、中小企業を巡る現状はどのようになっているのかを見ていくこととしよう。

 
第3-1-22図 常用労働者(パートタイム労働者を除く)の規模別離職率の推移
〜中小企業の方が離職率は高い〜
第3-1-22図 常用労働者(パートタイム労働者を除く)の規模別離職率の推移
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21  「常用労働者」のうち「パートタイム労働者」を除いた労働者を指す。

(1)離職率
 第3-1-23図は、中小企業庁「人材マネジメントに関する実態調査」22 (2008年11月)をもとに、企業が直近10年間で正社員として採用した新卒者が現在まで働いている割合を企業規模別に示したものである。それによると、直近10年間で採用した新卒者が1割未満となっている企業や、1割以上3割未満となっている企業は、従業員規模の小さな企業ほど増加する。他方、新卒者が9割以上残っている企業も、従業員規模の小さな企業ほど増加する。このように、従業員規模の小さな企業ほど、離職率が高い企業と低い企業が二極化する傾向が見られる。

22 付注4参照。
 
第3-1-23図 直近10年間で正社員として採用した新卒者が、現在まで働いている割合
第3-1-23図 直近10年間で正社員として採用した新卒者が、現在まで働いている割合
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 また、総務省「就業構造基本調査」を利用して、現在の仕事をこのまま続けたい従業員、ほかの仕事に変わりたい従業員等の割合を見てみると、大企業の正社員の11.8%、中小企業の正社員の13.3%が「仕事を変わりたい」と考えている一方で、大企業の非正社員は19.8%、中小企業の非正社員は17.9%となっており、企業規模にかかわらず、非正社員である場合の方が「仕事を変わりたい」と考えている傾向にある(第3-1-24図)。これらの「仕事を変わりたい」従業員において、「仕事を変わりたい」理由を見てみると、第3-1-25図のとおり、大企業正社員を除き、「収入が少ない」ことが最大の理由として挙がっている23 。また、大企業正社員の最大の理由である「時間的・肉体的に負担が大きい」ことについては、他の区分においても、上位に来ているほか、非正社員においては、「一時的についた仕事だから」という理由も多くなっている。
 中小企業にとって、教育・訓練を通じて育成した有能な人材が離職しないような取組が重要であり、具体的には、賃金制度の設計の工夫を行ったり、仕事の面白さややりがいを感じることができる工夫を行うことが重要である。
 こうした賃金制度や仕事のやりがいについては第3節と第4節で、詳しく見ていくこととする。

23 非掲載分については付注3-1-5参照。
 
第3-1-24図 規模別仕事の継続意思の有無(2007年)
〜正社員と比較して、非正社員において転職志向が強くなっている〜
第3-1-24図 規模別仕事の継続意思の有無(2007年)
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第3-1-25図 規模別転職希望理由(2007年)
〜「収入が少ないこと」、「時間的・肉体的に負担が大きいこと」が転職を希望する主な理由となっている〜
第3-1-25図 規模別転職希望理由(2007年)
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(2)中小企業の正社員の採用経路
 個々の中小企業にとっては、有能な人材の離職を防ぐことが重要である一方、即戦力となるような有能な人材を獲得することも重要である。中小企業全体としては、正社員の採用経路はどのようになっているのであろうか。
 第3-1-26図は、総務省「就業構造基本調査」の再編加工により、正社員の採用経路を企業規模別に示したものである。従業員規模が300人以上の規模から10人以上19人以下の規模までは、規模が小さくなるほど新卒者24 が減少し、中途採用が多くなることが見て取れる。中小企業の正社員は、大企業と比べて、新卒者よりも中途採用者が多い傾向にあるといえよう。

24 ここでは、前職がない就業者を「新卒者」としている。なお、中小企業白書(2007年版)第3-3-40図では、「中小企業においては、他社における正規雇用者を中途採用するケースが多い。新卒者の採用は企業規模が大きくなるほど多い」としており、似たような傾向が見られる。
 
第3-1-26図 正社員の採用経路(規模別)
第3-1-26図 正社員の採用経路(規模別)
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  次に、中小企業を巡る雇用移動の状況をより詳しく見てみよう。第3-1-27図は、「過去5年以内に仕事をやめ、現在は別の職場で働いている人」の移動状況を示したものであるが、それによると、中小企業の正社員から中小企業の正社員への移動が最も多くなっていることが見て取れる。また、同図の5区分で見た場合、前職が「大企業正社員」であれば、現在の職業も「大企業正社員」というような、同じ区分間での移動が最も多くなっていることが特徴的であるといえよう。同様に、業種別・規模別に移動状況を見てみると、大企業では「製造業」、「卸売・小売業」、中小企業では「建設業」、「製造業」、「医療,福祉」において同業種間での移動の割合が高くなっている。また、「情報通信業」においては、他の業種と比較して大企業から中小企業に移動する割合が高くなっているが、中小企業への移動については、全体的には中小企業から移動している割合が高い傾向にある(第3-1-28図)。さらに、現職の規模・雇用形態別に職種の移動状況を見てみると、どの形態においても、全般的に同一職種間での移動の割合が高くなっており、中小企業においては「生産工程・労務作業者」における移動の割合が高い、大企業の非正社員においては「事務従事者」における移動の割合が高いといった特徴が見られる。また、全体的には「職種」といった観点からの労働の質の変化が起きているということは難しいが、半数近くの転職者において、職種の変更が行われていることから、一部においてはこのような「職種」といった観点からの労働の質の変化が起きていると考えられる(第3-1-29図)。

 
第3-1-27図 過去5年間における労働移動の状況
〜中小企業の正社員から中小企業の正社員への移動の割合が最も高くなっている〜
第3-1-27図 過去5年間における労働移動の状況
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第3-1-28図 過去5年間における業種別・規模別労働移動の状況
第3-1-28図 過去5年間における業種別・規模別労働移動の状況
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第3-1-29図 過去5年間における職種別労働移動の状況
第3-1-29図 過去5年間における職種別労働移動の状況
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 このように、人材の流動化が生じている中、中小企業が中途採用等により人材を確保し、育成していくことが期待される。

(3)雇用のミスマッチの状況と解消に向けて
 本節第1項で見たとおり、雇用情勢が悪化する中で雇用のミスマッチが生じており、こうしたミスマッチをできるだけ解消していくべく、人材の橋渡しが重要となっている。

〔1〕業種間のミスマッチ
 第3-1-30図は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が2008年11月に実施した「企業活動における人材の活用に関するアンケート調査」25 をもとに、大企業と中小企業の人員の過不足状況を見たものである。それによると、景気後退局面におかれている現状において人材の過剰感は高まってはいるものの、一方で、人員に不足感を持っている中小企業も大企業に劣らず存在しており、また、将来(今後3年程度)も同様である。業種ごとに見た場合、「医療,福祉」や「生活関連サービス業,娯楽業」、「飲食サービス業」といった業種において不足感が強くなっている26 (第3-1-31図)。

25 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「企業活動における人材の活用に関するアンケート調査」(2008年11月)。調査数:30,000、回収率:18.4%
26 また、製品・サービスの提供先が事業所向けか消費者向けかで見た場合、消費者向けに製品・サービスを提供している企業の方が不足感は強くなっている(付注3-1-6)。

 
第3-1-30図 規模別人員の過不足の現状と見通し
〜人材の過剰感が高まってはいるものの、人材が不足すると考えている中小企業も少なからず存在している〜
第3-1-30図 規模別人員の過不足の現状と見通し
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第3-1-31図 中小企業における業種別人員の過不足見通し(今後3年程度)
〜「医療, 福祉」や「生活関連サービス業, 娯楽業」における不足感が強い〜
第3-1-31図 中小企業における業種別人員の過不足見通し(今後3年程度)
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 ここで、人材が不足している中小企業はどのように形で採用しようと考えているのであろうか。第3-1-32図によると、人材不足の中小企業は、「経験者の中途採用」、「未経験者の中途採用」、「新規学卒者の採用」という形で人材確保を考えている企業が多い。また、人材の採用手段としては、中小企業では多くの企業がハローワークへの求人での採用を考えていることが見て取れる。中小企業の人材採用に当たり、ハローワークの位置づけは大きい27 (第3-1-33図)。

27 なお、大企業と比較した場合、大企業においては「ハローワークへの求人」以外にも「就職ポータルサイトの利用」や「自社ホームページを作成」等の割合が高くなっており、このような大企業と中小企業の違いは経営資源の差が一因になっているとも考えられる。

 
第3-1-32図 人材の不足分を補うために採用・活用を考えている人材
〜経験者・未経験者の中途採用を考えている中小企業が多いが、新規学卒者の採用を考えている企業も少なくない〜
第3-1-32図 人材の不足分を補うために採用・活用を考えている人材
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第3-1-33図 人材を採用するにあたり利用を考えている手段
〜「ハローワークへの求人」や「身内や知人など縁故募集」での採用を考えている中小企業が多い〜
第3-1-33図 人材を採用するにあたり利用を考えている手段
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 また、第3-1-31図では、「医療,福祉」といった一部の業種において人員の不足感が強くなっていることを示したが、「過去5年以内に仕事をやめ、現在は別の職場で働いている」中小企業の従業員において、このような業種における異業種間の移動状況を見てみると、同業種内での移動の割合が高くなっているものの、異業種からの移動も少なからず起こっている28 (第3-1-34図)。このような異業種間の移動等にも対応するために、人材の仲介のみならず、求職者が希望している職場で必要となるスキルを身につけるための教育訓練を受けることができる環境を充実させていくことも重要である。

28 なお、現在が正社員であるか、非正社員であるかにかかわらず、同様の傾向を示している(付注3-1-7)。
 
第3-1-34図 過去5年間に職を変えたことのある中小企業の従業員における前職の業種
第3-1-34図 過去5年間に職を変えたことのある中小企業の従業員における前職の業種
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〔2〕新卒者を巡るミスマッチ
 新卒者については、第3-1-10図で見たとおり、大学・大学院卒については、過去の不況期でも大企業が有効求人倍率1倍を上回ることなく、中小企業が1倍を切ることなく、ミスマッチが続いている。これは、学生の大企業志向の強さを反映しているのだろうか。
 (株)野村総合研究所が実施したアンケート調査29 によると、現在働いている者に対して学生時代の就職先に対する志向を聞いてみたところ、「企業の規模にはこだわらなかった」、「特に明確な志向はなかった」と回答する者の割合が高く、「大企業に就職したかった」と回答した者の割合を上回っており(第3-1-35図)、学生が就職を視野に入れた際、大企業志向は極端に高いものではないということが確認できる。

29 (株)野村総合研究所「仕事に対する満足度・モチベーションに関する調査」(2008年12月)。従業員を対象に行ったインターネットアンケート。回答数1,300人。
 
第3-1-35図 学生時代の就職先に対する志向
〜企業規模にはこだわらなかった、特に明確な志向はなかったと回答した者の割合が高い〜
第3-1-35図 学生時代の就職先に対する志向
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  併せて、大企業に就職したかったと回答した者についてその理由を尋ねてみたところ、「雇用の場として安定性があるから(倒産するリスクが少ない等)」と回答した者の割合が高かった(第3-1-36図)。しかしながら、近年では、大企業においても、大型倒産や派遣切り、内定取り消しなどが相次いでいるように、雇用の安定の場としての大企業は必ずしもその役割を果たしているとはいえない状況になりつつある。

 
第3-1-36図 大企業に就職したかった理由
〜大企業に就職したかった理由として、雇用の場として安定性があるから(倒産するリスクが少ない等)と回答する者の割合が高い〜
第3-1-36図 大企業に就職したかった理由
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 こうした中、新規卒業予定者に対して中小企業で働く人材の現状に関する情報を提供していくことが重要であり、そうした観点も含めて、第2節以降では、中小企業の賃金水準、仕事のやりがいなども含め、中小企業で働く人材の現状に関して見ていくこととする。そして、中小企業で働くことの魅力を若者に伝えていくためには、個々の中小企業に関する質の高い情報発信が必要であり、経済産業省の事業であるジョブカフェや、商工会議所・商工会や中小企業支援機関等で開催される就職説明会等の活用が重要と考えられる。また、インターンシップ等を通じて学生が中小企業と接触する機会を増加させることが必要と考えられる。インターンシップなど教育機関との連携については、第2節でより詳しく見ていくこととする。

 第3章 中小企業の雇用動向と人材の確保・育成

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