第1節 雇用動向と中小企業で働く人材の現状 

1.中小企業における雇用動向

(1)現下の雇用動向
  初めに、2008年秋から景気が急速に悪化する中、中小企業の雇用情勢がどのように悪化したのかについて、より詳しく見ていこう。

〔1〕中小企業の雇用情勢の悪化と雇用調整
  厚生労働省「経済情勢の変動に伴う事業活動及び雇用面への影響について」1(2008年10月)によると 、2008年10月時点の中小企業における雇用形態別の雇用過不足感は、3ヶ月前の2008年7月時点と比較して、「派遣社員」については過剰感が大きく増加しており、「正社員」や「契約社員・パート等」においても不足感の方が依然として強いものの、過剰感が強まっている(第3-1-1図)。このような状況の中、経済情勢の悪化により収益が圧迫されているとしている中小企業がどのように対応しているのかを見てみると、多くの中小企業では人件費以外の経費削減により対応している一方で、賃金調整・雇用調整を行っている中小企業も約2割存在している(第3-1-2図)。輸出型製造業においては、収益が圧迫されている中小企業の約4社に1社が賃金調整・雇用調整を行っており、特に厳しい状況にある。こうした賃金調整・雇用調整の内容をより詳細に見ると、多くはボーナスの切り下げ等といった賃金調整や残業規制等で対応しているが、他方で、希望退職者の募集や解雇といった人員の削減に取り組んでいる中小企業が増加している(第3-1-3図)。こうした状況を踏まえ、政府としては雇用調整助成金の利用要件の緩和等の対策を講じたところであり、中小企業においても、こうした支援制度の活用等を通じた雇用維持への努力が期待される2

1 本調査において、「中小企業」とは従業員数300人未満の事業所と定義されている。
2 厚生労働省は2008年12月に雇用対策の一環として、従来の雇用調整助成金制度を見直し、中小企業緊急雇用安定助成金制度を創設した。本制度は、「世界的な金融危機や景気の変動などの経済上の理由による企業収益の悪化から、生産量が減少し、事業活動の縮小を余儀なくされた中小企業事業主が、その雇用する労働者を一時的に休業、教育訓練又は出向をさせた場合に、休業、教育訓練又は出向に係る手当若しくは賃金等の一部を助成する」制度である。本制度の創設後、2009年2月6日の改正により、〔1〕支払い要件の確認方法を「原則として生産量」から「売上高又は生産量」へと緩和、〔2〕休業等(休業及び教育訓練)を行った日の延べ日数の規模要件(所定労働延べ日数の20分の1以上)を廃止、〔3〕支給限度日数を「3年間で200日(最初の1年間で100日を限度、制度利用後1年間は再度利用不可)」から「3年間で300日(最初の1年間で200日を限度、制度の連続利用が可能)」へ引き上げ、〔4〕短時間休業を実施する場合に、「対象労働者全員について1時間以上、一斉に行う」必要があったものを、「対象労働者毎に1時間以上行われる休業」についても助成対象とした。また、2009年3月13日の同制度の改正により、判定基礎期間の末日が2009年3月13日以降である場合は、時間外労働及び休日の労働と休業等との相殺を行わないこととし、さらに、2009年3月30日の改正により、中小企業緊急雇用安定助成金を活用して休業等を実施した際、判定基礎期間とその直前6ヶ月の間に事業所労働者の解雇等(有期契約労働者の雇止め、派遣労働者の事業主都合による中途契約解除等を含む)をしていないなど、労働者の雇用維持を図った場合に、助成率を「5分の4」から「10分の9」へ引き上げることとした。2009年2月時点における雇用調整助成金等に係る休業等実施計画受理状況は中小企業において速報値で28,691事業所、対象者数1,154,790人(2008年12月時点では1,690事業所、対象者数100,875人)。なお、2009年3月30日、雇用調整助成金制度を拡充し、残業時間を削減して雇用の維持等を行う事業主を助成する残業削減雇用維持奨励金を創設した。
 
第3-1-1図 雇用形態別の雇用過不足DI(2008年7月、10月)
〜中小企業の雇用の過剰感が高まっている。特に、派遣社員の過剰感の増加が大きい〜
第3-1-1図 雇用形態別現在の雇用過不足DI(2008年7月、10月)
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第3-1-2図 経済情勢の変動に伴う事業活動に対する影響への現在の対応策(2008年10月)
〜賃金調整・雇用調整を行っている中小企業も少なくない〜
第3-1-2図 経済情勢の変動に伴う事業活動に対する影響への現在の対応策(2008年10月)
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第3-1-3図 賃金調整または雇用調整の実施状況
〜経済情勢の変動により希望退職者の募集や解雇といった人員削減を行っている中小企業も見られる〜
第3-1-3図 賃金調整または雇用調整の実施状況
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〔2〕雇用のミスマッチ
 このように中小企業の雇用情勢が悪化する中、雇用のミスマッチも生じている。第1章において、中小企業の従業員過不足DI(「過剰」−「不足」)が2008年10-12月期に過剰超に転じ、2009年1-3月期には過剰感が更に高まったことを示したが(第1-2-11図)、この従業員過不足DIを算出する元となっている、「過剰」と回答した企業と「不足」と回答した企業の割合の推移を見ると、「不足」とする企業の割合が足下で低下しているものの、依然として約7%存在していることが分かる(第3-1-4図)。これを業種別に見ると、サービス業や小売業においては比較的雇用の過剰感・不足感が同程度である一方で、製造業や卸売業においては過剰感が不足感を大きく上回っているなど、業種内と業種間の双方でミスマッチが生じていることが分かる(第3-1-5図)。また、第3-1-6図は職業別に有効求人数と有効求職者数の差を示したものであるが、「一般事務の職業」といった職業で過剰となっている一方、技術者や医療福祉関係の専門的な職業において人員が不足しているといったミスマッチが生じていることが確認される。職を失った労働者が新たな雇用機会を得ることを円滑化することにより、こうした雇用のミスマッチを解消していくことが必要である。
 
第3-1-4図 中小企業における雇用の過不足感の推移
〜「不足」と考えている中小企業も約7%存在している〜
第3-1-4図 中小企業における雇用の過不足感の推移
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第3-1-5図 中小企業における雇用の過不足感の推移(業種別)
〜製造業、卸売業において雇用の過剰感が不足感を大きく上回っている〜
第3-1-5図 中小企業における雇用の過不足感の推移(業種別)
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第3-1-6図 職業中分類別有効求人数と有効求職者数の差(2009年2月)
〜専門的な仕事を中心に、有効求人数が有効求職者数を上回っている〜
第3-1-6図 職業中分類別有効求人数と有効求職者数の差(2009年2月)
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 以上のとおり、雇用のミスマッチを伴いつつ、中小企業全般における雇用の過剰感は強まってきているが、地方経済産業局が2008年12月から2009年1月にかけて中小企業を訪問し、ヒアリングを実施したところ3、中小企業にとって人材は宝であり、生産量の減少で時間的余裕が生まれた従業員に対して、繁忙期には十分にできなかった教育訓練を実施したいとする中小企業の声が少なからずあった。第3-1-7図のとおり、中小企業の経営者が最も重要と考える経営資源は人材であるとの回答が最も多くなっており、中小企業において人材が如何に重要かを表す結果と考えられよう。中小企業は、我が国の雇用の場の提供において大きなウェイトを占めていることもあり、近視眼的にならず、将来に向けて発展を遂げていくための展望を描きつつ、従業員の教育訓練など人的資本への投資に取り組むことが期待される4
 
第3-1-7図 中小企業が最も重要であると考える経営資源
〜中小企業の多くは「人材」が最も重要であると考えている〜
第3-1-7図 中小企業が最も重要であると考える経営資源
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3 中小企業庁「緊急拡大経済産業局長会議の開催について」(2009年2月)参照。
4 経済産業省は農林水産省や厚生労働省と連携して、採用意欲があり、かつ、人材育成に優れる企業約1,400社を「雇用創出企業1,400社」として2009年2月に選出した。詳細はコラム3-1-1参照。
 それでは、中小企業を巡る雇用環境は将来的にはどうなっていくのであろうか。中小企業の中長期的な雇用動向を次に見てみよう。

コラム 3-1-1 雇用創出企業1,400社
 「雇用創出企業1,400社」は、2009年2月に経済産業省が農林水産省、厚生労働省と連携し、「不況期こそ人材確保のチャンス」ととらえる採用意欲のある企業について、関係機関を総動員して、約1,400社を掘り起こしたものである。
 「雇用創出企業1,400社」は、「100年に一度の不況」といわれている現状をモノともせず、意欲あるマイスター(人材育成責任者)が「やる気」に溢れた従業員を成長させるために取組を進めている優良人材育成企業であり、これらの企業では、ほぼ全ての従業員がOJTを中心に、徹底的な教育を受けつつ、中核的な人材として活躍している。このような企業の魅力をより多くの人々に広く発信することによって、経営における「人」の重要性を広く訴えるとともに、人材確保の取組を推進し、雇用のミスマッチの解消に資することを目的としている。
 さらに、2009年4月7日、地方自治体で行われている雇用創出に向けた先進的な事例を経済産業省、ジョブカフェ等で紹介することとした(「地域が推薦する雇用創出企業5,800社」)。
 なお、本白書において、事例1-3-2、事例2-2-4、事例2-3-1、事例2-3-4、事例2-4-4、事例2-5-2、事例3-2-2、事例3-4-3、事例3-5-5で掲載している中小企業が「雇用創出企業1,400社」に選定されている。
 
雇用創出企業1,400社
 
(2)中長期的な雇用環境の変化
  まず初めに、2002年からの景気回復局面における雇用環境を詳しく見ていこう。第3-1-8図は、中小企業あるいは大企業で働く15〜34歳の正社員5 について、最終学歴別に見たものであるが、大企業では大学・大学院卒業者の割合が最も高くなっている一方で、中小企業では高校卒業者の割合が最も高くなっており、中小企業の人材採用において、高校卒業者の位置づけが大きいことがうかがえる。しかし、中小企業における高校卒業者に対する求人の充足率を見てみると、景気回復局面である2004年3月卒の新卒者から大企業への就職数が増えた一方で、中小企業への就職数が減少したことにより、充足率は大きく下落してきたなど、景気回復局面での人材の確保は大企業に比べて厳しくなっていたことが見て取れる(第3-1-9図)。また、(株)リクルートワークス研究所「第25回ワークス大卒求人倍率調査(2009年卒)」(2008年4月)によると、大学卒業者においても従業員規模が小さい企業においては厳しい採用環境が継続してきたことが示されており(第3-1-10図)、高校卒、大学卒等を問わず中小企業の新卒採用環境は厳しかったと考えられる。
 
第3-1-8図 規模別正社員の最終学歴(15〜34歳、2007年)
〜 15 〜 34歳の正社員において、中小企業の方が、高校卒業者を活用している割合が高い〜
第3-1-8図 規模別正社員の最終学歴(15〜34歳、2007年)
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第3-1-9図 規模別高校卒業者における求人数・就職者数・充足率の推移
〜 2004年から2008年にかけて、中小企業による高校新卒者の獲得が一段と厳しくなった〜
第3-1-9図 規模別高校卒業者における求人数・就職者数・充足率の推移
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第3-1-10図 従業員規模別大卒求人倍率の推移
〜従業員1,000人未満の採用環境は厳しい採用環境が継続してきた〜
第3-1-10図 従業員規模別大卒求人倍率の推移
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5 総務省「就業構造基本調査」においては、「会社などの役員を除く雇用者」を、勤め先における呼称によって、「正規の職員・従業員」、「パート」、「アルバイト」などといった形で区分している。本章において本統計を用いた分析を行う場合、特に定めのない限り、「会社などの役員を除く雇用者」を「従業員」、「一般常雇(会社などの役員を除く雇用者のうち、1年を超える又は雇用期間を定めない契約で雇われる者)」のうち、勤め先での呼称が「正規の職員・従業員」である者を「正社員」、「正社員」以外の「会社などの役員を除く雇用者」を「非正社員」とする。

  先述のとおり人員の過剰感が高まってきている現状においては、このような状況は緩和されると考えられる一方で、将来的には我が国の人口は減少すること、そして、生産年齢人口といわれる15〜64歳人口の割合は大きく減少すること等が推計されており(第3-1-11図)、長期的な観点では、一企業における人材の確保が再び厳しくなることも考えられる。すでに第3-1-4図及び第3-1-5図で見たとおり、一部の中小企業においては、現下の景気後退局面においても人員が不足しており、こういった企業にとっては新たに人材を確保する好機であると考えられる。
 
第3-1-11図 年齢別に見る人口推移と将来推計人口
〜 15歳から64歳の人口は減少すると推計されている〜
第3-1-11図 年齢別に見る人口推移と将来推計人口
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 第3章 中小企業の雇用動向と人材の確保・育成

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