第3部 地域経済と中小企業の活性化 

第1節 地域の中小企業金融の現状

1 金融機関の貸出動向等の推移
 はじめに、金融機関の現況を時系列で見ていく。
 第3-2-1図〔1〕は、金融機関の中小企業向け貸出残高の推移を大企業向け貸出残高とともに示したものである。1997年の金融危機以降、中小企業向け貸出残高は減少傾向にあり、2006年から前年同期比で増加に転じたものの、足下では弱含んでいる。金融機関の業態別に貸出残高の推移を見ると、地域金融機関の貸出残高が増加傾向にある一方、都市銀行の貸出残高は減少傾向にある1
 他方、金融機関の預金残高は過去10年間増加傾向である2ことから、預貸率(貸出残高を預金残高で除した比率)は低下してきている(第3-2-1図〔2〕)。

1 付注3-2-1〔1〕参照。
2 付注3-2-1〔2〕参照。

 
第3-2-1図〔1〕 規模別貸出残高の推移
〜中小企業向け貸出、大企業向け貸出とも2005年以降横ばい推移〜
第3-2-1図〔1〕 規模別貸出残高の推移
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第3-2-1図〔2〕 金融機関業態別の預貸率推移
〜民間金融機関全体の預貸率は低下〜
第3-2-1図〔2〕 金融機関業態別の預貸率推移
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 また、金融機関の健全性を表す指標の一つである不良債権比率の推移を見ると、国内銀行の不良債権比率は2002年3月期の8.4%をピークに低下を続け、2007年9月期には2.5%となっており、主要行を中心として改善が顕著である。地域金融機関3についても、不良債権比率は低下し続けているが、業態別に見ると信用金庫の直近の不良債権比率が6.5%、信用組合の不良債権比率が10.3%と相対的に高い水準となっており、金融機関の業態間でばらつきが大きい(第3-2-2図〔1〕〔2〕)。

3 ここでは、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合の4つの業態の金融機関を「地域金融機関」として捉える。

 
第3-2-2図〔1〕 不良債権比率の推移(全国銀行)
〜不良債権比率は全体としては低下も、依然主要行と地域金融機関の間で差異が見られる〜
第3-2-2図〔1〕 不良債権比率の推移(全国銀行)
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第3-2-2図〔2〕 不良債権比率の推移(信用金庫・信用組合)
〜協同組織金融機関では、いまだ不良債権比率は高水準。特に信用組合での不良債権処理の遅れが顕著である〜
第3-2-2図〔2〕 不良債権比率の推移(信用金庫・信用組合)
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2 各地域の金融機関の現況
 前項では預貸率や不良債権比率の変化を時系列で見てきたが、次に、こうした預貸率や不良債権比率が地域ごとにどのように分布しているのかについて地域金融機関のデータを基に見ていく4
 第3-2-3図は地域金融機関を本店が所在する都道府県別に分類し、預貸率を見たものであるが、地域ごとに大きなばらつきがあり、2002年3月期から2007年3月期にかけて全国的に低下していることが分かる。

4 都市銀行は全国に支店を展開しており、地域ごとに分割することができないため、地域金融機関のみのデータを用いる。

 
第3-2-3図 地域金融機関の預貸率推移(都道府県別)
〜預貸率は全国的に低下傾向にある〜
第3-2-3図 地域金融機関の預貸率推移(都道府県別)
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 一方、第3-2-4図は第3-2-3図と同じ方法で、不良債権比率を示したものである。個々の金融機関ごとにばらつきはあるものの、2002年3月期から2007年3月期にかけて不良債権比率は全国的に改善し、地域間のばらつきは縮小している。また、金融機関の収益力も総じていえば改善している5

5 金融機関の収益力を示す代表的な指標である総資産業務純益率(ROA)を見ると、地域ごとにばらつきがあるものの、2002年3月期から2007年3月期にかけて改善が見られる(付注3-2-2)。

 
第3-2-4図 地域金融機関の不良債権比率推移(都道府県別)
〜地域金融機関の不良債権比率は全国的に改善し、地域別のばらつきも縮小傾向にある〜
第3-2-4図 地域金融機関の不良債権比率推移(都道府県別)
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 1997年の金融危機以来、金融機関の再編が起こり、金融機関は業務効率化とともに、不良債権処理と財務基盤の強化を行ってきた。その結果、財務基盤が改善し、積極的な事業展開に転じている金融機関もあるが、総じて見れば金融機関は家計部門の預金により増大した資金を十分に企業部門に対して貸し出せていない状況にあると考えられる。地域経済の活性化が求められている中、金融機関においては、担保や保証に過度に依存しない融資を含め、中小企業向けの資金供給を行う機能の強化に積極的に取り組んでいくことが期待される。

3 中小企業の資金調達構造と地域金融機関
 以上で金融機関の貸出状況を見たが、次に中小企業の資金調達の特徴と地域金融機関との関係を見てみよう。
 中小企業の資金調達構造は、大企業とは大きく異なる特徴を有している6。第3-2-5図は企業が借入金等の債務と資本をどのように組み合わせて資金調達をしているのかを企業の従業員規模別に分けて示したものである。これによると、従業員規模が小さくなるのにつれて借入依存度は高くなっており、従業員数20人以下の企業では借入金の割合が5割近くに達している。このように中小企業の資金調達は借入金が中心であり、金融機関の貸出姿勢の変化に影響を受けやすいとされている。

6 付注3-2-3〔1〕 〔2〕

 
第3-2-5図 従業員規模別の資金調達構成(2006年度)
〜従業員規模が小さくなるほど、借入依存度は高くなる〜
第3-2-5図 従業員規模別の資金調達構成(2006年度)
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 中小企業の場合、地域金融機関との関係は特に密接なものである。第3-2-6図は(株)東京商工リサーチが中小企業を対象に実施した「資金調達に関する実態調査」7(以下「中小企業向け調査」という)に基づき、中小企業のメインバンク8の業態を従業員規模別に示したものである。これによると、約6割の中小企業が同じ都道府県内に本店を置く地域金融機関(以下「域内地域金融機関」という)をメインバンクとしている。また、従業員規模が小さい企業ほど域内地域金融機関をメインバンクとする傾向がある。

7 2007年11月、中小企業を中心とした法人15,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率42.7%。
8 ここでは、企業が借入・預金残高にかかわらずメインバンクと認識している取引金融機関をメインバンクとして扱う。

 
第3-2-6図 メインバンクの業態(従業員規模別)
〜従業員規模が小さい企業ほど、地域金融機関をメインバンクとしている〜
第3-2-6図 メインバンクの業態(従業員規模別)
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 第3-2-7図は、域内地域金融機関をメインバンクとしている企業の割合を都道府県別に示したものであるが、首都圏、中部圏、近畿圏の一部を除き、その割合は総じて高く、地方圏の中小企業は域内地域金融機関をメインバンクとしている実態が分かる。
 また、(株)東京商工リサーチが金融機関を対象に実施した「中小企業の資金調達環境に関する実態調査」9(以下「金融機関向け調査」という)に基づき、中小企業向けの貸出を巡る競合の状況を見ると、関東と近畿においてはメガバンク等10を競合相手とする割合が高いものの、多くの地域の地域金融機関において、主たる競合相手は地域金融機関であることが分かる(第3-2-8図)。特に域内の地域金融機関を競合相手とする割合が高く、ほとんどの地域の地域金融機関において、中小企業向け貸出の競合は激しいと認識されている11

9 2007年12月、普通銀行、信託銀行、信用金庫、信用組合559社を対象に実施したアンケート調査。回収率64.8%。
10 ここでは、都市銀行、信託銀行、旧長期信用銀行といった全国規模で展開している金融機関をメガバンク等として捉える。
11 付注3-2-4参照。

 
第3-2-7図 域内地域金融機関をメインバンクとしている企業の割合(都道府県別)
〜地方圏の中小企業ほど、域内地域金融機関をメインバンクとしている〜
第3-2-7図 域内地域金融機関をメインバンクとしている企業の割合(都道府県別)
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第3-2-8図 地域金融機関における中小企業向け貸出を巡る競合相手(地域別)
〜地域金融機関の競合相手は同一都道府県内の地域金融機関の割合が高い〜
第3-2-8図 地域金融機関における中小企業向け貸出を巡る競合相手(地域別)
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4 近年の中小企業の資金調達環境の推移
 次に中小企業の資金調達環境を見てみよう。中小企業庁「中小企業実態基本調査」によれば、メインバンクに借入申込みを行った企業のうち、思いどおりに調達できなかった(「申込みを拒絶・減額された」又は「借入条件は厳しくなったが申込額どおり借りられた」と回答した)企業の割合は2003年度から2005年度まで低下したが、2006年度は横這いとなった12。これを地域別に見ると、2003年度時点では「思いどおりに調達できなかった」と回答した企業が3割から4割程度存在しており、地域間でばらつきが見られたが、2006年度時点では地域間のばらつきは縮小し、東北を除く全地域で7割以上の企業が「思いどおりに調達できた」と回答している(第3-2-9図)。しかし、第1部第2節で見たとおり、中小企業の資金繰りは2007年度に入ってから弱含んでおり、今後十分な注視が必要である(第1-1-13図)。

12 付注3-2-5参照。

 
第3-2-9図 メインバンクからの資金調達状況(地域別)
〜資金調達環境は全国的に改善傾向にあり、地域別のばらつきも縮小している〜
第3-2-9図 メインバンクからの資金調達状況(地域別)
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5 中小企業のエクイティ・ファイナンス
 前項までで、近年の金融機関の貸出状況や中小企業の資金調達の実態を見てきたが、中小企業が地域金融機関からの借入に依存している構造にあることが分かった。
 それでは、なぜ中小企業は借入以外の資金調達、特に資本市場からの調達(エクイティ・ファイナンス13)を行わないのであろうか。
 まず、エクイティ・ファイナンスの現状を見ていく。
 1999年に東証マザーズが創設されて以来、各取引所が公開基準を緩和した新興市場を次々と設立し、株式公開による市場からの資金調達は以前より容易になった。しかし、中小企業全体からすれば、株式公開に至っている企業の割合は未だごく少数である14
 また、近年、中小企業向けのプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)15の設立も活発に行われている。

13 ここでは資本勘定による資金調達を指す。出資者を募る株式の発行だけでなく、いずれは株式に転換する可能性があるという意味で、転換社債や新株予約権付社債の発行も含む場合もある。
14 年間100社以上の企業が新規上場を果たしているが(付注3-2-6)、全1,493,258社の中小企業(会社ベース・2006年)に対し、株式を公開している法定中小企業は2008年1月末時点で1,286社であり、僅か0.09%(10,000社のうち9社)に過ぎない。
15 中小企業の大半である非上場株式(非上場企業)を投資対象とするファンドは、一般的にプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)と呼ばれる。PEファンドは、主として非上場企業に投資する場合、組合形式を用いた投資事業の共同経営形式による場合が多い。


 公的な中小企業向けファンド事業としては(独)中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」という)のファンド事業が代表的であり、2007年3月末時点で設立ファンド総数76、総額1,229億円(うち中小機構出資額472億円)の実績がある。中小機構のファンド事業の実施状況を見ると、1999年度以降、「業種特定型」「産学連携型」「地域密着型」の投資テーマを絞ったファンドが増加している(第3-2-10図)。特に地域金融機関、地方公共団体が企画主体となり、地域資源に着目したファンドや、大学や他業種間との連携など地域の独自性を活かしたファンドの設立が増えており、地域企業の成長とともに地域経済の活性化にもつながる金融手法としても定着への期待が大きい。「金融機関向け調査」でも地域金融機関の取組が進んでいることが確認でき(第3-2-11図)、特に地域活性化をテーマにしたファンドへの関心が高いことが見て取れる。
 
第3-2-10図 中小機構ベンチャーファンドの類型
〜1999年度以降、投資テーマを絞ったファンドが増加している〜
第3-2-10図 中小機構ベンチャーファンドの類型
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第3-2-11図 地域金融機関における中小企業向けファンドによる資金供給への取組
〜地域活性化をテーマにしたファンドへの関心が高い〜
第3-2-11図 地域金融機関における中小企業向けファンドによる資金供給への取組
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 しかしながら、日本の非上場企業へのエクイティ・ファイナンスの投資残高は国際的に見て低水準となっている(第3-2-12図)。
 
第3-2-12図 各国におけるベンチャーファイナンスの対GDP比
〜日本の非上場企業へのエクイティファイナンスの投資残高は国際的に見て低水準〜
第3-2-12図 各国におけるベンチャーファイナンスの対GDP比
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6 中小企業の自己資本と疑似資本
 エクイティ・ファイナンスへの中小企業の関心度合いを第3-2-13図に基づき見ると、従業員規模が大きくなるほど株式公開(IPO)に対する関心が高いが、総じてエクイティ・ファイナンスへの関心が低いことが分かる。
 
第3-2-13図 エクイティ・ファイナンスへの関心(従業員規模別)
〜従業員規模が大きくなるほど株式公開に対する関心度が高くなるが、総じてエクイティ・ファイナンスへの関心は低い〜
第3-2-13図 エクイティ・ファイナンスへの関心(従業員規模別)
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 エクイティ・ファイナンスの特徴として、企業は返済義務のない資本性資金の導入により財務基盤を強化できる一方、資本を外部の主体から導入した場合、株主構成が変化し、投資家である株主からは詳細な財務内容の開示等を求められることが挙げられる。
 我が国の中小企業の大多数は、代表者やその一族が株式の大半を所有する、いわゆるオーナー企業である。「中小企業向け調査」によれば、中小企業の7割において代表者及びその一族が50%以上の株式を保有しており(第3-2-14図)、従業員規模が小さくなるほどその割合は高くなる。この所有構造が中小企業のエクイティ・ファイナンスへの関心に影響を与えている可能性がある。
 
第3-2-14図 代表者及びその一族が所有する株式の割合(従業員規模別)
〜中小企業の7割において代表者及びその一族が50%以上の株式を保有しており、従業員規模が小さいほど、その割合は高い〜
第3-2-14図 代表者及びその一族が所有する株式の割合(従業員規模別)
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 企業の株主構成における、代表者及びその一族の比率(以下「代表者持ち株比率」という)ごとに、ファンドからの資金調達を行わない理由を見ると、「金融機関からの調達で十分」という理由とともに、「株式公開を志向していない」「現状の方が経営の自由度が高い」と考える企業の割合が高い。また、代表者持ち株比率が高いほど、「同族会社を維持したい」と考える企業の割合が高くなっていることが分かる(第3-2-15図)16

16 株式公開を行わない理由にも同様の傾向が見られる(付注3-2-7)

 
第3-2-15図 ファンドからの資金調達を行わない理由(代表者持ち株比率別)
〜金融機関からの資金調達で十分と考えている企業の割合が高く、代表者持ち株比率が高くなるほど同族会社を維持したいと考える企業の割合が高い〜
第3-2-15図 ファンドからの資金調達を行わない理由(代表者持ち株比率別)
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 多くの中小企業が、外部資本の導入により株主構成が変動し、経営の自由度が低くなると考えており、仮に公開基準は満たせても、株式公開を志向していない企業も少なからず存在すると推測できる。
 また、「金融機関からの調達で十分」と認識する企業の割合が高い背景の一つとして、「疑似資本」17と呼ばれる資金の存在が挙げられる。我が国の中小企業金融の特徴として、金融機関からの借入金の一部は借換え等により、実質的に返済資金を調達する必要がなく、中小企業にとって資本的性格を有する資金と認識されており、中小企業の自己資本を補完しているといわれている。第3-2-16図は中小企業が借入金のうち疑似資本と認識している割合を示したものであるが、全体で5割の中小企業が借入金の一部を疑似資本と認識していることが分かる。こうした借入金は企業の業績が安定的に推移しており、金融機関の対応が変わらない限り資本的な資金として継続的な借入が可能であるが、契約上は期限付の借入であるので、安定的な継続が不確実な資金であるという限界もある。こうした点でも、中小企業の経営において金融機関との取引関係が非常に重要な意義を有していることが分かる。中小企業においては、疑似資本のメリット・デメリットを踏まえ、エクイティ・ファイナンスにより自己資本の強化を図ることも選択肢として検討すべきであろう。

17 ここでは、借入のうち金融機関からの借換え等により、事実上返済資金を調達する必要がない部分を指す。小野(2007)は『本来は、企業が「資本」として備えていなければならないにもかかわらず、金融機関からの借入によってまかなっており、事業キャッシュフローからの返済が困難な性質のもの』としている。

 
第3-2-16図 中小企業が認識する擬似資本の割合(従業員規模別)
〜5割の中小企業が疑似資本の存在を認識している〜
第3-2-16図 中小企業が認識する擬似資本の割合(従業員規模別)
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 第2章 地域における中小企業金融の機能強化

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