第2部 中小企業の生産性の向上に向けて 

第3節 中小企業の海外展開と生産性

 前節では中小企業の輸出の動向や労働生産性との関係、今後の課題について見たが、本節では中小企業の海外展開について、同様の視点から分析を行う。

1 中小企業の海外展開の現状
 はじめに、中小企業による海外での事業展開の現状を見ていこう。
 第2-4-19図は、総務省「事業所・企業統計調査」において海外に子会社または関連会社を保有している会社を海外で事業展開している企業と見なし、そのうち中小企業に該当する企業の数を示したものである。これによると、海外に子会社もしくは関連会社を保有している会社であって中小企業であるものの数は、2006年時点で7,551社となっている。1996年時点では5,431社であったことから、約10年間で4割弱増加したことになる。直近5年間の動向を見ると、非製造業の伸び率が製造業の伸び率よりも高くなっており、中小企業の海外展開における非製造業のウェートが大きくなっていることを示している。2006年時点で海外展開している中小企業を業種ごとに見ると、一般機械、金属製品、電子部品・デバイス製造業等の機械関連産業を中心とした製造業が、海外展開をしている中小企業数の46%を占めるのに対し、卸売業、サービス業、情報通信業、運輸業等を中心とした非製造業が54%となっており、海外展開している中小企業は非製造業の方が多い(第2-4-20図)。
 
第2-4-19図 海外展開する中小企業数の推移(法人企業のみ)
〜中小企業の海外展開企業数は増加基調にある〜
第2-4-19図 海外展開する中小企業数の推移(法人企業のみ)
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-4-20図 海外展開している中小企業数の業種別割合(2006年)
〜海外展開を行っている中小企業のうち、非製造業が5割強を占める〜
第2-4-20図 海外展開している中小企業数の業種別割合(2006年)
Excel形式のファイルはこちら

 企業規模別に海外展開している企業の割合を見ると、従業員規模が大きい企業ほど海外展開をしている企業の割合が高い(第2-4-21図)。
 
第2-4-21図 常用雇用者規模別の海外展開企業数割合(2006年)
〜従業員規模が大きい企業ほど、海外展開している割合が高い〜
第2-4-21図 常用雇用者規模別の海外展開企業数割合(2006年)
Excel形式のファイルはこちら

 また、海外展開している地域については、大企業と中小企業では異なる状況にある。1995年と2005年における大企業と中小企業の地域別の現地法人数の割合を見ると、大企業も中小企業も海外展開の比重を北米・欧州から中国を中心とするアジアへ移しているが、中小企業は大企業に比べて北米・欧州への事業展開が少なく、中国を中心としたアジアへの展開が相対的に多くなっている(第2-4-22図)。
 
第2-4-22図 企業規模別に見た現地法人数地域別割合の変化
〜大企業に比して、中小企業は中国への進出割合が高い〜
第2-4-22図 企業規模別に見た現地法人数地域別割合の変化
Excel形式のファイルはこちら

 海外進出の目的は、多岐にわたるものの、大企業では進出地域での販路拡大を目的としている割合が高いのに対し、中小企業では人件費のコスト削減を目的としている企業が多い(付注2-4-4)。中小企業の中でも海外展開の目的は地域によって異なり、北米や欧州では進出先での販路拡大を目的とする企業が多いのに対し、アジアについては生産コストの低減を目的として進出している11。総じてみれば、中小企業においては、コスト削減や我が国への逆輸入を目的とした生産拠点が多く、販売を主たる目的として進出したとの回答が多い大企業と相違がある。

11 中小企業庁「2004年版中小企業白書」P132を参照。


2 中小企業の海外展開と労働生産性
 これまで、中小企業の海外展開の現状を見てきたが、中小企業が海外で事業展開を行うことは中小企業の労働生産性の向上に寄与するのであろうか。
 第2-4-23図は、経済産業省「企業活動基本調査」のデータを用いて、海外に子会社または関連会社を保有している中小企業と保有していない中小企業の労働生産性の水準を算出したものである。これによると、海外に子会社または関連会社を保有している中小企業の労働生産性の水準は保有していない中小企業に比べて高く、その差は業種や規模等を考慮しても統計的に有意である12。ただし、この結果は相関関係を示すものにすぎず、中小企業が海外展開を行うことが労働生産性を向上させたのか、労働生産性の水準の高い中小企業が海外展開しているのか、という因果関係は明らかではない13

12 検定の方法と結果は付注2-4-2を参照。
13 海外展開を行っている企業は、労働生産性の水準が高いだけでなく、自己資本比率が高いなど財務状態が平均的に良い企業である(付注2-4-5)。

 
第2-4-23図 海外展開有無別の中小企業の労働生産性(2005年度)
〜海外展開している企業は、労働生産性が高い〜
第2-4-23図 海外展開有無別の中小企業の労働生産性(2005年度)
Excel形式のファイルはこちら

 そこで、中小企業の海外展開が実際に中小企業の労働生産性の向上に寄与しているかどうかについて、アンケート調査をもとに見ていこう(第2-4-24図)。これによると、海外直接投資によって労働生産性が増加したと回答した中小企業の割合は約4割にのぼり、減少したと回答する企業の割合(約12%)を大きく上回っていることから、中小企業の海外展開は労働生産性の向上に寄与する効果があると言えよう。
 
第2-4-24図 中小企業における海外直接投資による効果(労働生産性)
〜海外直接投資によって労働生産性が増加した中小企業は約4割に上る〜
第2-4-24図 中小企業における海外直接投資による効果(労働生産性)
Excel形式のファイルはこちら

 他方で、中小企業による海外展開は、国内の事業活動を縮小させ、雇用に影響を及ぼすのではないか、との懸念がある。そこで、アンケート調査をもとに、海外直接投資が国内生産に与えた影響を見てみる(第2-4-25図)。これによると、直接投資は「現地・周辺国需要の増加対応であり、国内の生産活動に変化なし」という回答が52.9%、「国内の生産活動は高付加価値製品等にシフト」という回答が27.4%となっており、両者で8割近くを占めている。「国内工場を一部閉鎖した」は4.5%、「国内生産は減少し、余剰人員の削減を行った」は7.6%となっており、海外展開に伴う雇用への影響には注意が必要であるが、中小企業の海外展開は国内の雇用を維持しながら、付加価値額の増大により労働生産性の向上を実現している場合が多いことが分かる。
 
第2-4-25図 中小企業における海外直接投資による国内の生産活動への影響
〜海外直接投資によって国内生産を縮小した中小企業は2割程度〜
第2-4-25図 中小企業における海外直接投資による国内の生産活動への影響
Excel形式のファイルはこちら

3 中小企業の海外展開における課題
 次に、中小企業が海外での事業展開を行っていく上での課題を見ていこう。
 第2-4-26図は、大企業と中小企業が海外拠点において直面している経営上の問題点を示したものである。これによると、問題点がないと回答した中小企業は4.2%であり、海外展開している中小企業のほとんどが海外拠点において何らかの形で課題を抱えている。
 
第2-4-26図 海外拠点における経営上の問題点
〜販路拡大を課題に挙げる大企業に対し、中小企業は品質管理を課題と捉えている企業が多い〜
第2-4-26図 海外拠点における経営上の問題点
Excel形式のファイルはこちら

 中小企業が直面している課題としては、「現地マネージャー層の不足」、「現地労働者の賃金コストが上昇」が上位を占めるが、「品質管理が困難」と回答した中小企業の割合が大企業の2倍以上であることが特徴的である14。我が国企業の強みの一つが高い品質の商品を安定的に供給できることであるが、中小企業では、海外の拠点において国内と同じ品質の製品・サービスを安定的に供給する体制の整備が遅れている可能性がある。
 こうした課題に取り組むことが中小企業が海外での事業展開で成功を収めていくための鍵と言えよう。

14 これとは対照的に、「現地市場における更なる販路の拡大」と回答した大企業の割合は中小企業よりも大幅に高いのも特徴的である。今後、中小企業にとっても、現地市場における更なる販路拡大は重要な課題であり、我が国によるODA(政府開発援助)に係る情報を含め、現地市場の動向に関する情報の提供等を通じた中小企業の海外展開支援が重要である。


 第4章 中小企業のグローバル化への対応

前の項目に戻る     次の項目に進む