第2部 中小企業の生産性の向上に向けて 

第2節 労働生産性の現状

1 我が国の労働生産性の現状と国際比較
 前節では労働生産性の概念について見てきたが、本節では、労働生産性が実際にはどのような水準にあり、どのように推移してきたのかについて見ていく。
 はじめに我が国全体の労働生産性を見ていこう。
 第2-1-3図は、我が国の労働生産性の水準を諸外国と比較したものである7。これによると、我が国の労働生産性の水準は、米国の7割程度であり、G7やOECDの平均と比べても低い水準にあることが分かる。

7 ここでの労働生産性は、付加価値額としてGDP、労働投入量として労働時間を用いている。なお、都道府県別の就業者一人当たり総生産額は、付注2-1-2参照。

 
第2-1-3図 2006年の各国労働時間当たりGDP
〜日本の労働生産性は、米国の7割程度〜
第2-1-3図 2006年の各国労働時間当たりGDP
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 次に、第2-1-4図は、我が国と米国の労働生産性の変化を示したものである。これによると、我が国の労働生産性の伸び率は1980年代後半には4.2%であったが、1990年代に入った後、2%台に低下している。一方、アメリカの労働生産性の伸び率は1980年代後半及び1990年代前半は1%台に止まっているが、1990年代後半から2%台に上昇している。
 
第2-1-4図 日本とアメリカの労働生産性の伸び率
〜日本の労働生産性の伸び率は、1990年代に低下〜
第2-1-4図 日本とアメリカの労働生産性の伸び率
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 以上のとおり、我が国の労働生産性は先進各国に比べて低い水準であり、その伸び率も低下してきている。今後とも少子高齢化・人口減少が進行する中で労働生産性の向上をどのように図るかが焦眉の課題である。とりわけ、我が国のGDPに占める第三次産業の割合は7割弱に達し、経済のサービス化は今後とも一層進展すると見込まれているため、サービス産業の生産性の向上が必要との認識が高まっている8

8 経済産業省編「サービス産業におけるイノベーションと生産性向上に向けて」(2007年)は、サービス産業の実態や生産性向上に向けた課題を包括的に提示している。


2 企業規模別・業種別の労働生産性の水準
 前項では我が国全体の労働生産性について見てきたが、本項では中小企業の労働生産性について見ていく。
 中小企業は、我が国の企業数の99.7%、就業者数の69.4%、製造業の付加価値額の53.3%を占めており9、我が国全体の労働生産性の向上を図る上では、中小企業の生産性の向上が不可欠である。統計データの制約から、中小企業基本法の定義に則った中小企業の労働生産性を正確に算定することは難しいが、本章では、経済産業省「企業活動基本調査」や中小企業庁「中小企業実態基本調査」等を用いて中小企業の労働生産性の推計を試みている。
 はじめに、「企業活動基本調査」10から企業規模別の労働生産性を業種別に算出した結果が第2-1-5図である11。同図によると、製造業、情報通信業等のここに示した6業種すべてにおいて、中小企業の労働生産性の水準が大企業よりも低いことが分かる12

9 企業数、就業者数に占める割合は総務省「事業所・企業統計調査」(2006年)の再編加工、製造業の付加価値額に占める割合は経済産業省「工業統計表」(2006年)速報値による。詳細は付属統計資料1表3表9表参照。
10 「企業活動基本調査」の調査対象は、従業員50人以上かつ資本金又は出資金3,000万円以上の会社であり、比較的小規模な企業や個人事業主が含まれていないことに注意が必要である。
11 本章における「サービス業(他に分類されないもの)」は日本標準産業分類(平成14年3月改訂)の大分類「Qサービス業(他に分類されないもの)」を指し、第2部第2章にて詳述している「サービス産業」とは範囲が異なる。
12 「企業活動基本調査」と「中小企業実態基本調査」では企業ごとの労働時間のデータが得られないため、「毎月勤労統計調査」より各暦年の産業中分類別、大事業所・中小事業所別、就業形態別の労働時間を得て、一律に適用している。同じ産業中分類に属する大事業所(あるいは中小事業所)の一般常用労働者、パートタイム常用労働者それぞれの一人当たりの労働時間が同じであると仮定しているため、ある企業の一人当たり労働時間が産業平均より短い場合は、その企業の労働投入量が過大に計算される(労働生産性は過小に評価される)ことに注意が必要である。

 
第2-1-5図 労働生産性の水準
〜大企業と比べて、中小企業では労働生産性の水準が低い〜
第2-1-5図 労働生産性の水準
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 次に、「中小企業実態基本調査」を再編加工した結果が第2-1-6図である。「中小企業実態基本調査」は「企業活動基本調査」が対象としていない小規模企業や個人事業主も調査対象としていることから、より実態に則した中小企業の労働生産性を算出することができる。同図によると、不動産業の労働生産性が顕著に高い一方、小売業や飲食店,宿泊業13の労働生産性が低い等、業種ごとの相違が見られる14。また、同図からは、いずれの業種でも法人企業のみの値は個人事業主を含む中小企業全体の値よりも高く、個人事業主の労働生産性が中小法人企業より低いことも分かる。さらに第2-1-5図と第2-1-6図を比べると、「中小企業実態基本調査」による中小企業の労働生産性の方が低いことが分かる。これは、「企業活動基本調査」の調査対象外となる規模の小さい企業の労働生産性が相対的に低いことを示唆している15
 さらに、産業中分類ベースの労働生産性を見ると、同じ大分類に属する産業でも、中分類ごとに労働生産性の水準には大きな相違がある16。例えば、卸売業では、付加価値額シェアで約半分を占める「機械器具卸売業」と「建築材料,鉱物・金属材料等卸売業」の労働生産性の水準が高く、卸売業全体の労働生産性の水準を引き上げている傾向が見られる。

13 第2部第2章では、サービス産業を「対事業所向けサービスの割合が高い業種」と「対消費者向けサービスの割合が高い業種」とに分けて分析している。小売業、飲食店,宿泊業は対消費者向けサービスの割合が高い業種に該当するが、こうした業種では、対事業所向けサービスの割合が高い業種よりも労働生産性の水準が低いとの結果を得ている(第2-2-4図参照)。
14 2006年度の労働生産性については、付注2-1-3参照。
15 「企業活動基本調査」と「中小企業実態基本調査」では、一部の産業分類において調査対象範囲が違うため、単純な比較ができないことに注意が必要である(付注2-1-4参照)。
16 付注2-2-3参照。

 
第2-1-6図 中小企業の労働生産性の水準
〜業種別にばらつきが見られる〜
第2-1-6図 中小企業の労働生産性の水準
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3 労働生産性の水準の要因
 労働生産性は、その定義から次のように展開することができる。

  労働生産性 = 付加価値額/労働投入量
   = 資本ストック/労働投入量 × 付加価値額/資本ストック

 ここで、資本ストック17を労働投入量で除したものは「資本装備率」と呼ばれ、労働投入量を従業員数として考える場合は、従業員一人当たりの設備等の装備状況を示すものである。また、付加価値額を資本ストックで除したものが「資本生産性」である。
 第2-1-7図は、有形固定資産残高18を年間の総実労働時間で除したものを資本装備率として算出したものであり、第2-1-8図は、付加価値額を有形固定資産残高で除したものを資本生産性として示している。

17 資本ストックとは、生産に使用される建物や設備を指す。
18 「土地」の残高も含まれることに注意が必要である。なお、資本の稼働率は考慮していない。

 
第2-1-7図 資本装備率
〜中小企業では、資本装備率が低い〜
第2-1-7図 資本装備率
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第2-1-8図 資本生産性
〜情報通信業以外は、資本の生産性に大きな違いはない〜
第2-1-8図 資本生産性
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 中小企業の資本装備率は6業種すべてで大企業に比べて低いが、資本生産性は、情報通信業19、飲食店,宿泊業など中小企業の方が高い業種もある。これらの図から、大企業と中小企業の労働生産性の相違は、おおむね資本装備率の水準の高低で説明できることが分かる。
 また、「中小企業実態基本調査」から中小企業の資本装備率と資本生産性を業種別に算出すると、不動産業では資本装備率が非常に高く、これが不動産業の労働生産性が高い原因であることが分かる20(第2-1-9図、第2-1-10図)。不動産業では土地や建物といった有形固定資産を保有して賃貸を行う事業者も多く、ここで定義されている資本装備率が高くなることは当然の結果である。この例が示すとおり、各業種の労働生産性の水準は、それぞれの業種の性格を反映するものであることから、労働生産性の業種間の比較には十分な留意が必要である。

19 情報通信業では中小企業の資本生産性が大幅に高いが、その背景として、マンションの一室を賃借したり、自宅の一室を使用したりして事業を行っている企業の存在等が考えられる。
20 ここでは資産データを得られる法人企業のみの数値を示している。2006年度の資本装備率、資本生産性については、付注2-1-5参照。

 
第2-1-9図 中小企業の資本装備率
〜不動産業では資本装備率が非常に高い〜
第2-1-9図 中小企業の資本装備率
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第2-1-10図 中小企業の資本生産性
〜情報通信業の資本生産性が高い〜
第2-1-10図 中小企業の資本生産性
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4 企業規模別・業種別の労働生産性の推移
 前項では中小企業の労働生産性の水準を見たが、次に中小企業の労働生産性の推移を見ていく。
 第2-1-11図は、「法人企業統計年報」から大企業と中小企業の労働生産性(従業員一人当たりの粗付加価値額)の推移を算出したものである。これによると、中小企業の労働生産性の水準は、製造業・非製造業のいずれも、大企業の水準を大きく下回る。また、中小企業の労働生産性は1985年から緩やかに上昇してきているが、製造業の大企業の労働生産性が特に2000年に入ってから急激に上昇し、大企業と中小企業の格差が拡大していることが分かる。
 
第2-1-11図 従業員一人当たり粗付加価値額の推移
〜従業員一人当たりの粗付加価値額は、製造業の大企業において大幅に伸びている〜
第2-1-11図 従業員一人当たり粗付加価値額の推移
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 次に、「企業活動基本調査」と「中小企業実態基本調査」から、2003年度と2005年度の両年度の調査において回答があった企業を抽出し、この2年間の労働生産性の増減率を算出したものが第2-1-12図である21。これによると、中小企業の労働生産性の伸び率が大企業を上回っている業種もあれば、下回っている業種もある。小売業と飲食店,宿泊業の中小企業の労働生産性については、その水準が他の業種に比べて低いことを第2-1-6図で見たが、その伸び率も他の業種に比べて低いことが分かる。

21 ここでは「企業活動基本調査」と「中小企業実態基本調査」のデータが共通して得られる2003年度から2005年度の間の伸びを比較している。データの制約から短期間の比較となっていることや、生産性の増減率が景気変動の影響を受けることに注意が必要である。また、ここでは2003年度と2005年度の両年に共通して存在している企業のみを抽出し、各企業の労働生産性の伸び率を算出して、これを企業数で算術平均しているため、その間に参入した企業や退出した企業が産業全体の生産性に与える影響や、生産性が高い企業が規模拡大することにより産業全体の労働生産性が高まる効果は含まれていないことに注意が必要である。なお、労働生産性の伸び率の計測方法については、付注2-1-6参照。

 
第2-1-12図 労働生産性の伸び率
〜労働生産性の伸びには、業種によってばらつきが見られる〜
第2-1-12図 労働生産性の伸び率
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5 労働生産性の変化の要因
 ここでは、前項で見た労働生産性の伸び率を要因分解してみよう。
 はじめに、第2-1-13図は、労働生産性の伸び率を付加価値額(分子)の増加率と労働投入量(分母)の減少率に分解したものを示している。これによると、製造業と情報通信業に属する大企業及び中小企業の労働生産性の伸び率のほとんどが付加価値額の増加によるものであることが分かる。一方、小売業、飲食店,宿泊業、サービス業(他に分類されないもの)に属する中小企業の労働生産性の伸び率は、相対的に労働投入量の減少が大きく寄与していることが分かる22

22 1996年度から2005年度にかけての都道府県別の就業者一人当たり総生産額の伸び率を確認すると、多くの都道府県において総生産額の伸びと就業者数の減少が同時に起きており、就業者一人当たりの生産額が増加していることが分かる(付注2-1-7付注2-1-8参照)。

 
第2-1-13図 労働生産性の伸びの分解(付加価値額と労働投入量)
〜多くの業種では、付加価値額の伸びが労働生産性の伸びに寄与している〜
第2-1-13図 労働生産性の伸びの分解(付加価値額と労働投入量)
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 また、本節第3項では、企業規模別の労働生産性の水準はおおむね資本装備率の相違で説明できることを見たが、2003年度から2005年度にかけての労働生産性の伸び率に関し、資本装備率の上昇はどの程度寄与しているのであろうか。労働生産性の伸び率の要因を、資本深化による要因とそれ以外の要因(全要素生産性の伸び率)に分解したものが、第2-1-14図である。ここで、資本深化とは、資本装備率の上昇による効果であり、全要素生産性の要因は、技術革新、業務プロセスの改善、労働や資本の質の向上等の効果を反映したものである。同図によると、労働生産性の上昇は資本深化よりも全要素生産性の上昇による寄与が大きかったことが分かる23

23 この期間では我が国全体では民間資本ストックは増加しており、資本深化は進んでいたと考えられる。ここでは各企業の資本深化、全要素生産性の寄与を算出のうえ、企業数にて算術平均して示しており、産業全体の資本深化あるいは全要素生産性の寄与ではないことに注意が必要である(資本ストックが大きい企業の資本深化の影響が、産業全体として見た場合に過少にあらわれる)。また、ここでの資本には「土地」を含んでおり、こうした資産の売却等が資本装備率を低下させている可能性も考えられる。さらに、ここでは2003年度と2005年度の両年に共通して存在する企業を対象としており、その間に参入した企業が実施した設備投資の影響は反映されていないことにも注意が必要である。

 
第2-1-14図 労働生産性の伸びの分解(資本深化と全要素生産性の寄与)
〜全要素生産性の寄与により、労働生産性が伸びている〜
第2-1-14図 労働生産性の伸びの分解(資本深化と全要素生産性の寄与)
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 以上で見てきたとおり、小売業、飲食店,宿泊業に属する中小企業は他の業種に比べて労働生産性の水準や伸び率が共に低迷している。一方で、我が国経済のサービス化が進展している中では、中小サービス産業が付加価値の増大等による労働生産性の向上に取り組んでいくことが期待されている。そこで、次章において中小サービス産業の実態と労働生産性の向上に向けた課題をより詳しく見ていくこととしよう。

 
6 労働生産性に対する認識
 これまで、大企業や中小企業の労働生産性の水準やその推移について見てきた。それでは、実際中小企業は労働生産性という概念についてどのように考えているのであろうか。第2-1-15図は、アンケート調査をもとに、中小企業の各種経営指標に対する意識を示したものである。これによると、「利益額」や「顧客満足度(CS)」、「売上高利益率」、「売上高」といった指標は多くの企業で意識されているが、これらに比べて「労働生産性」については意識されている割合が低く、1割強にとどまっている。その傾向は、労働生産性の水準が高い企業にも低い企業にも共通して見られる24

24 以降、労働生産性の水準が高い(低い)企業とは、その企業が属する業種(産業中分類)における企業規模(大企業・中小企業)別の法人企業全体の労働生産性と比べて、労働生産性の水準が高い(低い)企業を指す。

 
第2-1-15図 特に意識している経営指標
〜「労働生産性」はあまり意識されていない〜
第2-1-15図 特に意識している経営指標
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 しかしながら、意識している経営指標と過去5年間の企業業績の関係を見ると、「キャッシュフロー」や「顧客満足度(CS)」等とともに、「労働生産性」を意識している企業では、これを意識していない企業に比べて売上高経常利益率が顕著に高い傾向が見られる(第2-1-16図)。また、労働生産性の水準の高低と企業業績の関係を見ると、労働生産性の水準が相対的に高い企業では、過去5年間の企業業績が良好であることが分かる25(第2-1-17図)。

25 現在の業況感と生産性の水準との関係は、付注2-1-9参照。

 
第2-1-16図 意識している経営指標別の、過去5年間における利益率上昇企業の割合
〜顧客満足度やキャッシュフロー、利益額、労働生産性を意識していない企業では、売上高経常利益率が上昇した企業は少ない〜
第2-1-16図 意識している経営指標別の、過去5年間における利益率上昇企業の割合
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第2-1-17図 過去5年間の企業業績
〜生産性が高い企業の方が、企業業績は堅調〜
第2-1-17図 過去5年間の企業業績
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 これらのデータは、労働生産性の向上が企業業績を向上させる効果を有することを示唆していると言えよう。さらに、労働生産性の水準が高い企業では売上高が増加傾向の企業が多いことは、中小企業が労働投入量の削減だけに取り組むことにより高い労働生産性を実現しているのではなく、付加価値額の増大に取り組むことで労働生産性を向上させていることも示唆している。

 第1章 中小企業を巡る構造変化と生産性

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