第3部 経済構造の変化にチャレンジする中小企業 

第4節 人材の確保・育成に向けた取組

 前節までにおいて、中小企業における人材構成の変化や、中小企業におけるキーパーソンの実像について見てきた。本節では、中小企業の人材の確保・育成に向けた取組を見ていく。

1 中小企業における人材の確保・育成の取組

(1)中小企業における採用課題
 中小企業における採用環境の悪化、とりわけ正規雇用者の不足感については第1節で述べた。ここでは、中小企業において正規雇用者を採用する取組について見ていく。

(ア)中小企業の採用対象
 過去3年間に中小企業が正規雇用者を採用した際に最も多かった属性について見てみる(第3-3-40図)。全体では、過去3年間に正規雇用者として採用した最も多い属性は、「他社における正社員・正職員を中途採用」が53.9%と最も多い。次いで「新卒者を採用」が30.2%となっている。また、「自社の非正規社員・職員を採用」が10.9%、「フリーターを採用9」が5.0%となっている。

9 ここでのフリーターとは、勤め先における呼称が「パート」または「アルバイト」である者もしくは、「パート」または「アルバイト」であった者で求職中の者としている。また、ここでは自社における非正規の社員・職員は含んでいない。

 
第3-3-40図 正規雇用者採用経路 規模別比較
〜中小企業においては、他社における正規雇用者を中途採用するケースが多い。新卒者の採用は企業規模が大きくなるほど多い〜
第3-3-40図 正規雇用者採用経路 規模別比較
Excel形式のファイルはこちら

 採用した際の属性としては、「他社における正社員・正職員を中途採用」や「新卒者を採用」を採用するケースが多いが、非正規雇用者を正規雇用者として採用するケースも存在する。「自社の非正規社員・職員を採用」及び「フリーターを採用」の合計は15.9%に上る。
 また、規模別に見てみると、「他社における正社員・正職員を中途採用」を採用するケースは規模が小さい企業において多く、「新卒者を採用」するケースが多い大企業とは対照的である。

(イ)中小企業における採用取組
 次に、中小企業における採用の取組について見てみる(第3-3-41図)。中小企業における正社員・正職員の採用の取組については、「ハローワークを活用している」企業の割合が52.2%と最も多い。次いで「マスコミ・求人広告・求人誌等を利用し宣伝を行っている」が26.7%となっている。一方、採用の満足度は、「インターンシップの受入を積極的に行っている」企業や「特定の学校から継続的な採用を実施」している企業で高い。中小企業にとっては、ハローワークが主要な採用の手段と考えられているが、採用が困難になる状況では、インターンシップや特定の学校とのパイプを築くといったハローワーク以外の手段を通じた、よりきめ細やかな採用への取組が必要となっていることがうかがえる。
 
第3-3-41図 採用の取組と採用の満足度
〜インターンシップの受入や特定の学校からの継続的な採用に取り組んでいる企業は、採用の満足度が高い〜
第3-3-41図 採用の取組と採用の満足度
Excel形式のファイルはこちら

 また、人材の確保に向けた取組について見てみると(第3-3-42図)、「中途採用に積極的に取り組んでいる」または「新卒採用に積極的に取り組んでいる」とする企業が多い。近年の中小企業にとって採用が困難になっている状況を踏まえると、人材の確保という観点からは、社外から人材を採用するだけでなく、高齢者や女性の雇用や、非正規雇用者を正規雇用者に登用することなども今後、人材を確保する際の選択肢となると考えられる。
 
第3-3-42図 人材確保に向けた取組
〜人材の確保に向けた取組としては、中途採用・新卒採用に力を入れて取り組む企業が多い〜
第3-3-42図 人材確保に向けた取組
Excel形式のファイルはこちら

事例3-3-3 パート社員を役員に登用

 広島県尾道市のまるか食品株式会社は、スルメフライなど海産珍味およびスナック類の製造販売をする企業である。現会長が1961年に創業し、現在は2代目が代表取締役を担っている。従業員は約100名、楽しい会社を目指し家族的な社風で事業を営んでいる。同社では、パート社員を役員に登用するなど入社時点での採用形態にかかわらず、積極的な人材登用を行っている。
 まず、同社では、パート社員の積極的な活用をしている。パート社員は自分のライフステージに即した形で、4〜8時間の間で働く時間を選ぶことができる。例えば育児休業後、子供の成長に伴って勤務時間を延ばしていくことが可能であり、結果として定着率の向上に繋がっている。同社では8時間以上勤務する人を「準社員」と位置づけており、パート社員と区別している。準社員は現場のコア人材で、現場でリーダーシップを発揮するような役割を持つ。
 同社では、パート社員の積極的な登用が特徴的である。同社の取組として「改善提案活動」(現場から寄せられた改善提案を評価し、良ければ提案を実施する取組)があり、実際に事業化し成果を出しているが、これを企画・実施している取締役総務部長は元々事務員として入社後にキャリアアップした人材である。また、同社では、過去にはパート社員として入社後、社員、ラインのリーダー、工場長などを経て取締役になった例もあり、全体を俯瞰する能力や管理能力に長けている場合には、工場での管理職や本部の管理職へのキャリアパスが存在している。

(2)中小企業における人材育成の取組

(ア)中小企業における人材育成の実施状況
 次に中小企業における人材育成の実施状況について見ていく(第3-3-43図)。正規雇用者の育成のために、力を入れて実施している取組としては「計画的なOJT10」が16.7%で最も多い。次いで「自己啓発に対する支援11」が9.9%、「OffJT12」が7.9%、「ジョブローテーション13」が3.9%となっている。

10 OJTとは、実際に仕事をしながら仕事を覚えていく訓練(教育)のことを指す。
11 自己啓発に対する支援とは、従業員の自助努力による能力の向上に対する取り組みへの支援のことで、通信教育の受講や資格取得への支援、社外研修機関の紹介などを指す。
12 OffJTとは、仕事の場を離れた訓練(教育)であり、研修等の実施等の訓練(教育)のことを指す。
13 ジョブローテーションとは社員に多くの仕事を経験させるため、人材育成計画に基づいて、定期的に職務の異動を行うことを指す。

 
第3-3-43図 正規雇用者に対する人材育成の実施状況
〜中小企業ほど人材の育成に対する取り組み度合いは低くなっている。計画的なOJTを力を入れて実施する企業は多いが、育成を前提として計画的にジョブローテーションを実施している企業は少ない〜
第3-3-43図 正規雇用者に対する人材育成の実施状況
Excel形式のファイルはこちら

 また、規模別にそれぞれの育成項目を見ると、いずれの項目についても中小企業ほど力を入れて実施している企業の割合は低くなっている。
 「自己啓発に対する支援」や「ジョブローテーション」について力を入れて実施している企業の割合は高くないが、第3節で述べたように、キーパーソン自身は、自身のキャリア形成において重要であったものとして「入社後のOJT」よりも、「本人の自己啓発」や「入社後の多様な職務経験(ジョブローテーション)」をより多く挙げている。キーパーソンの育成という観点からは、OJTだけでなく、これらの育成項目についても力を入れて取り組むべきと考えられる。
 また、非正規雇用者に対する育成状況について見てみると(第3-3-44図)、力を入れて実施している取組としては「計画的なOJT」でも5.1%にとどまっており、正規雇用者の教育訓練の実施状況と比較して低水準である。
 
第3-3-44図 非正規雇用者に対する人材育成の実施状況
〜正規雇用と比較して、非正規雇用者に対する人材育成に力を入れて取り組んでいる企業は少ない〜
第3-3-44図 非正規雇用者に対する人材育成の実施状況
Excel形式のファイルはこちら

(イ)中小企業における人材育成の評価と課題
 こうした人材育成への取組の結果、若手人材の育成が、「十分に進んでいる」とした企業の割合は僅か4.6%であったのに対し、「不十分だが進んでいる」58.4%、「進んでいない」とする企業は30.4%に上った(第3-3-45図)。
 
第3-3-45図 若手人材の育成状況
〜若手人材の育成状況は不十分である〜
第3-3-45図 若手人材の育成状況
Excel形式のファイルはこちら

 若手の人材の育成が進んでいない原因については(第3-3-46図)、「良い人材の採用ができない」とする企業が50.2%に上り、43.1%の企業が「若手の人材がいない」、40.1%の企業が「指導できる社員・職員がいない」としている。約半数近くの中小企業では、育てるべき人材の不足、育てるための指導者の不足が原因であると考えている。
 
第3-3-46図 若手人材の育成が進まない原因
〜若手の人材育成が進まない原因として、若手人材の採用面を挙げる企業が多い〜
第3-3-46図 若手人材の育成が進まない原因
Excel形式のファイルはこちら

 以上のように、人材育成への取組は主に正規雇用者を対象として行われており、非正規雇用者に対する育成は十分に行われていない。近年、非正規雇用者が増加している現状を踏まえると、正規雇用者だけでなく非正規雇用者も含めて人材の育成に取り組んでいくことが望まれる。
 また、中小企業ほど人材育成に取り組む企業の割合は低くなっており、とりわけ中小企業においては人材の育成が困難である状況がうかがえる。東京商工会議所「中小企業の経営課題に関するアンケート」(2006年3月)によると中小企業関連支援策について今後強化すべきと思われる項目として人材育成の支援が近年特に上昇してきており(第3-3-47図)、中小企業の人材育成に対する政策的な支援の拡充が望まれる。
 
第3-3-47図 中小企業関連施策について、今後強化すべきと思われるもの 
〜「人材育成への支援」が中小企業関連施策として今後強化すべきと望まれている〜
第3-3-47図 中小企業関連施策について、今後強化すべきと思われるもの 
Excel形式のファイルはこちら

(3)中小企業における人材の定着
 企業において採用し育成した人材は、その企業に定着することが望まれる。実際にはどの程度定着しているのか、企業が過去3年間に正規雇用者として採用した人のうち既に退職した人の割合を採用対象ごとに企業規模別に見てみる(第3-3-48図)。
 
第3-3-48図 3年内正規雇用採用者の既退職者割合
〜20人以下の企業においては、退社者の割合が高い。フリーターを採用する場合よりも、自社の非正規雇用者を採用した場合の方が、退社者は少ない〜
第3-3-48図 3年内正規雇用採用者の既退職者割合
Excel形式のファイルはこちら

 採用対象別に見てみると、「新卒者を採用」した場合については21.8%、「他社における正社員・正職員を採用」した場合については28.8%が退社している。他との比較では退社は少ないと言える。
 一方、非正規雇用者を正規雇用者として採用するケースでは、「フリーターを採用」した場合には54.6%が退社しているが、「自社における非正規社員・職員を採用」した場合には36.8%となっており、比較的定着していると言える。
 また、企業規模別に見た場合、規模間で大きな差は見られなかったが、とりわけ20名以下の企業においては、採用対象を問わず、退社者が多くなっている。小規模な企業においては、定着が課題となっていると推測される。
 中小企業白書(2006年版)によると、若年者の定着率を高め、企業業績をプラスに導くためには、採用後に明確な育成方針を掲げて職業能力ややる気を高めたり、若年者が働きやすい雰囲気づくりを行ったりすることが効果を生むとされる。従業員を定着させるためには、育成や働きやすい職場環境づくりに取り組むことも必要と思われる。

事例3-3-4 モノ作り人材の育成に取り組む企業

 兵庫県淡路市のミツ精機株式会社(従業員195名)は、昭和8年に大阪市生野区に三津鉄工所として創業し、昭和21年に兵庫県津名郡(現淡路市)に移転する。主な事業内容としてはニット編機部品、航空・宇宙機器部品、半導体製造装置・医療機器部品などの機械加工をおこなう。同社では、計画的なジョブローテーションの実施、外部への人材の派遣、経営陣自らが従業員とのコミュニケーションに努めることにより、人材の育成や定着に努めている。
 同社は、約200名在籍する従業員の内90%が、島内(淡路島)の出身者で占めている。「(採用時点では)即戦力となる人材は採用できるわけがない」という前提に立ち、入社後の社員教育に力を入れており、高度な精密加工技術では日本で一流であると自負する技術力を維持している。
 教育方法としては、入社直後は学歴に拘らず、必ず工場の現場で職人としての基礎的な技術を身につけさせ、計画的にジョブローテーションを実施している。特に従業員の技能士資格の取得については力を入れており、会社の工場の設備を時間外に開放するなど従業員の自己研鑽の支援を行い、従業員の約70%が技能士資格を取得している。
 また、育成のポイントを絞り選抜された人材に対しては、中小企業大学校や大学院などに人材を派遣する他、取引先の企業へ人材を派遣するなど社内では育成できない能力の育成に取り組んでいる。当取組は10年前から実施し、派遣者は毎年2名程度だが累計で20名程度となり全従業員の1割程度が社外での長期的な教育を経験している。
 同社には労働組合はないが、「ガラス張りの経営」を意識し、経営陣自ら従業員とのコミュニケーションに努めており、退職者が毎年1・2名程度しか発生せず従業員の定着率が高いことも高い技術力を持った従業員の育成の要素であると言える。
 社員の採用については、不景気の際にも地元の高校などから継続的に採用を行っており、今般の採用が困難な状況下においても高校等から新卒者の採用は安定的にできている。
 今後の人材に関する課題として、増産対応の為、急遽増員していった非正規雇用にあたるパート社員が30名程度おり、その方達の雇用条件をいかに改善し、育成することで他の社員からも認知され、正社員に移行していくかということを挙げている。
 
人工衛星搭載部品
170kgのアルミのムク材を10kgまで削りだす。
同社の部品加工は空から宇宙へ飛び出した。
人工衛星搭載部品

2 人材の確保・育成の取組と人材構成

(1)人材構成の最適化
 ここまでにおいて、中小企業における人材の確保・育成の取組を概観してきたが、第2節で述べた人材構成との関係を考える。
 第2節で見たように、人材構成におけるプロデューサー型人材の正規雇用者が10年前から現在にかけて理想と乖離して減少している。最適な人材構成とは、企業が事業戦略を達成するために、各職務に適した人材を最適に組み合わせることである。人材構成が理想から乖離しているということは、人材の配置が最適ではないということを意味する。第2節で指摘されたように、プロデューサー型人材の正規雇用者の理想と乖離する形での減少は、企業業績に悪影響を与えていることも示唆されている。
 現時点での人材構成を踏まえると、その最適化のためには、プロデューサー型人材の正規雇用者を増加させる取組が必要となる。その取組内容について考えてみる。

(2)人材構成を最適化させる取組
 具体的な取組を考える前に、もう一度プロデューサー型人材はどのような人材であるのか最適な人材構成の観点から見てみたい。
 第2節で述べたとおり、ここでのプロデューサー型人材とは「企業特殊的能力」が高く、「業務レベル」が高い人材と定義した。「企業特殊的能力」とは特定の企業内において自社固有のやり方や仕組みを理解・実践し業務を円滑に遂行する能力であるが、このような能力は、長期雇用を前提として当該企業内においてのみ習得し得る能力であると推測される。プロデューサー型人材の正規雇用比率が高いのもその表れと言える。「業務レベル」については、知識や技能のレベルを指し、本人の資質による部分もあり得るが、自己啓発や教育訓練の結果、伸長され得るものと推測される。
 ここでのプロデューサー型人材とは、第一義的に優秀な人材を外部から調達してくるというよりもむしろ、長期雇用を前提とした内部人材が育成やキャリアを経て内部的に育成される人材であると言える。人材の配置を最適化するためのプロデューサー型人材の正規雇用者を増加させる取組とは、長期雇用を前提として正規雇用者を確保し、長期的な視野に立ち育成しマネジメントしていく取組であると思われる。
 具体的なプロデューサー型人材の育成に向けた取組として、ここでは中小企業において中核となる人材であるキーパーソンの確保・育成の取組について見ていく。

3 キーパーソン人材の確保・育成の取組

(1)キーパーソンの確保・育成に関する課題
 キーパーソンの確保・育成に関する課題としては、「キーパーソンの数が足りない」ことを挙げる企業は36.1%と最も多い(第3-3-49図)。次いで「キーパーソンの育成や確保の為のシステムが確立していない」が28.8%、「キーパーソンが求める能力を満たしていない」が28.3%となっている。
 
第3-3-49図 キーパーソンの確保・育成に関する課題
〜キーパーソンの人数が足りないことを課題に挙げる企業が多い〜
第3-3-49図 キーパーソンの確保・育成に関する課題
Excel形式のファイルはこちら

(2)採用環境の悪化とキーパーソン候補者の不足状況
 前項において、キーパーソンの数が不足していることを課題とする企業が多いが、今後の確保にあたりその候補者の充足状況について見てみる。
 まず、前提として中小企業において将来キーパーソンとなることが期待されるキーパーソン候補者の雇用形態について見てみると、ほぼ正規雇用者であり、中途採用で入社した人が多いことが分かる(第3-3-50図)。
 
第3-3-50図 キーパーソン候補者の雇用形態
〜将来キーパーソンとなることが期待される人材は、正規雇用者に含まれる〜
第3-3-50図 キーパーソン候補者の雇用形態
Excel形式のファイルはこちら

 次に、キーパーソン候補者の不足状況について10年前と現在とで比較してみると(第3-3-51図)、10年前においては「全く不足している」及び「やや不足している」の合計が28.9%であったのに対し、現在においては約半数近くの44.6%の企業が「全く不足している」または「やや不足している」としている。また、若手人材の育成状況については第3-3-45図で見たとおり、約3割の企業では若手人材の育成は進んでいないとの認識がある。
 
第3-3-51図 キーパーソン候補者の不足度
〜キーパーソンの候補者は10年前よりも大幅に不足してきている〜
第3-3-51図 キーパーソン候補者の不足度
Excel形式のファイルはこちら

 キーパーソン候補者の不足感は、1990年代以降における若年者雇用の抑制が影響していると推測される。一方で近年の採用環境の悪化により、中小企業にとって将来キーパーソンとなり得る人材の採用は困難な状況である。将来的なキーパーソンの確保はより困難になると懸念される。

(3)取組の実施状況

(ア)取組の実施内容
 中小企業のキーパーソン人材の育成や確保のための取組実施状況を見てみると(第3-3-52図)、「自社内での育成・教育を積極的に行っている」との回答が46.3%と最も多くなっている。キーパーソンの育成や確保に向けた取組としては、採用よりも育成に力を入れている企業が多いことがうかがえる。また一方で、「特に取り組んでいない」という企業割合も22.6%に上っている。
 
第3-3-52図 キーパーソンの確保・育成に向けた取組
〜キーパーソンの確保・育成については、採用よりも育成・教育面に力を入れる企業が多い。特に取り組んでいない企業が22.6%にのぼる〜
第3-3-52図 キーパーソンの確保・育成に向けた取組
Excel形式のファイルはこちら

(イ)取組の実施時期
 キーパーソン人材の育成や確保の取組を始めた時期を見てみる(第3-3-53図)。34.1%が「10年以上前から取り組んでいる」と、33.7%が「5年程度前から取り組んでいる」と回答し、30.4%は「最近(ここ1〜2年)取り組み始めた」と回答している。キーパーソン人材の育成や確保のための取組は、6割以上の企業が、5年ないしここ数年取り組み始めている。
 
第3-3-53図 キーパーソンの育成や確保の取組を開始した時期
〜キーパーソンの育成や確保に向けた取組を開始したのは多くの企業で5年以内である〜
第3-3-53図 キーパーソンの育成や確保の取組を開始した時期
Excel形式のファイルはこちら

(ウ)取組の必要性
 キーパーソンの育成や確保に向けた取組と業況感の関係を見てみると(第3-3-54図)、「自社内での育成・教育を積極的に行っている企業」ほど業況感が良く、キーパーソンの育成や確保に向けた取組について「特に取り組んでいない」企業ほど業況感が良くない傾向がうかがえる。
 
第3-3-54図 キーパーソンの育成・確保取組と業況感
〜業況感が良い企業ほど自社内での育成を積極的に行っているのに対し、業況感の良くない企業では特に取り組んでいない〜
第3-3-54図 キーパーソンの育成・確保取組と業況感
Excel形式のファイルはこちら

(4)キーパーソンの処遇
 また、キーパーソンを確保していく上では、その処遇も課題となる。キーパーソンの処遇状況について見てみる(第3-3-55図)。
 
第3-3-55図 キーパーソンの待遇
〜中小企業ではキーパーソンとそれ以外の方の待遇差は、広がる傾向にある〜
第3-3-55図 キーパーソンの待遇
Excel形式のファイルはこちら

 キーパーソンの待遇とキーパーソン以外の正社員・正職員の待遇を現在と10年前で比較してみると、「相対的に広がった」と回答した企業の割合が34.5%となっており、「相対的に狭まった」割合が6.3%であることと比較すると、ここ10年間でキーパーソンへの待遇を厚くしている企業が増えている。具体的に待遇が向上した点については、「賃金」と回答した割合が86.9%と最も多い(第3-3-56図)。
 
第3-3-56図 キーパーソンの待遇が向上した点
〜キーパーソンの待遇は賃金において最も多く反映されている〜
第3-3-56図 キーパーソンの待遇が向上した点
Excel形式のファイルはこちら

 キーパーソンの離職と継続勤務の要因については、次項において述べるが、キーパーソンを離職させないためにも、賃金面での納得感のある処遇が必要である。

(5)キーパーソンの離職と定着
 これまで見てきたように、中小企業の業績にとってキーパーソン人材の存在は重要であり、長期的な視野で育成していくことが求められる。不足しがちなキーパーソンを確保していくという観点から、その離職を防止し、長期的な定着・活躍を導くことが重要であると言えるが、その離職と定着について見ていく。

(ア)キーパーソンの離職
 キーパーソンの離職状況について見てみる(第3-3-57図)。キーパーソンの離職が「非常に多い」又は「多い」と回答した企業の割合を合わせると20.7%となっている。企業がキーパーソン候補者と考える人材の離職状況についても同様に見てみる(第3-3-58図)。キーパーソン候補者の離職が「非常に多い」又は「多い」と回答した企業の割合を合わせると、29.6%となっている。
 
第3-3-57図 キーパーソンの離職状況
〜キーパーソンの離職が多いまたは非常に多い企業の割合は、約20%にのぼる〜
第3-3-57図 キーパーソンの離職状況
Excel形式のファイルはこちら
 
第3-3-58図 キーパーソン候補者の離職状況
〜キーパーソン候補者の離職が多いまたは非常に多い企業の割合は、約30%にのぼる〜
第3-3-58図 キーパーソン候補者の離職状況
Excel形式のファイルはこちら

 一方、キーパーソン自身の離職意向についても見てみる(第3-3-59図)。この結果を見ると、「すぐにでも辞めるつもりである(1年以内程度)」と「1、2年後には辞めるつもりである」と回答した割合を合わせると、25.6%が離職意向を持っていると言える。同様にキーパーソン候補者14自身の離職意向について見てみると、「すぐにでも辞めるつもりである(1年以内程度)」と「1、2年後には辞めるつもりである」と回答した割合を合わせると24.5%が離職意向を持っていることが分かる。

14 (株)野村総合研究所「キーパーソンに関するアンケート<キーパーソン候補者向け>」(2006年11月)による。キーパーソン候補者を対象に行ったインターネットアンケート。調査対象者は、「あなたは現在の勤務先において、5〜10年後、次の中のどのように評価されていると思いますか。」という問に対して「コアとなる業務を担い、他の社員では代替が利かない人材」と答えた方、20〜39歳。回答数1,000人。

 
第3-3-59図 キーパーソン(候補者)の勤続意向(本人回答)
〜キーパーソン、キーパーソン候補者ともに25%超が離職意向を持っている〜
第3-3-59図 キーパーソン(候補者)の勤続意向(本人回答)
Excel形式のファイルはこちら

 キーパーソンやその候補者の離職については、離職状況についても2割から3割程度の企業において多くなっており、潜在的にも2割強の離職意向者が存在している。キーパーソンの育成や確保を行う上での課題として「キーパーソンの数が足りない」ことを挙げる企業が多い中、キーパーソンやその候補者の定着を促すマネジメントが重要な課題であると考えられる。

(イ)キーパーソンの離職原因
 キーパーソンやその候補者が実際に離職した原因について見てみると(第3-3-60図)、企業の認識としては、ともに「本人が納得できる給料が出せていなかったから」及び「本人の希望に添った仕事・機会が与えられなかったから」が占める割合が多くなっている。
 
第3-3-60図 キーパーソン及びキーパーソン候補者の離職理由
〜企業が認識しているキーパーソン及びキーパーソン候補者の離職理由としては、本人の納得できる給与でなかったこと、本人の希望に添った仕事・機会がなかったことが多い〜
第3-3-60図 キーパーソン及びキーパーソン候補者の離職理由
Excel形式のファイルはこちら

 次に、キーパーソンやその候補者で離職意向を持つ原因について本人の認識を見てみたい(第3-3-61図)。離職意向の理由として、「納得できる給料が支払われていない、または支払われる見込みがないから」と回答した割合がともに半数を超えている。次いで、キーパーソンは「仕事内容にやりがいや楽しみを感じられないから」、キーパーソン候補者は「さらにキャリアアップできる職場に移りたいから」となっている。
 
第3-3-61図 キーパーソン(候補者)の離職意向原因(本人回答)
〜キーパーソンやキーパーソンの候補者は、退社意思を持つ理由として「納得感のある給与」を挙げている。キーパーソン候補者については、「キャリアアップ」を挙げる人も多い〜
第3-3-61図 キーパーソン(候補者)の離職意向原因(本人回答)
Excel形式のファイルはこちら

 企業の認識だけでなく、キーパーソンやその候補者自身の認識としても、納得感のある給与面での待遇が離職の最も大きな要因となっており、それに加えて仕事内容や機会が本人の希望に合っているか否かについても大きな要因と考えられる。

(ウ)キーパーソンの定着要素
 離職意向のあるキーパーソンやその候補者については、給与面での待遇が離職の大きな原因であると言えるが、一方で、継続勤務を希望するキーパーソンやその候補者本人が継続勤務を希望する理由について見てみたい(第3-3-62図)。
 
第3-3-62図 キーパーソン(候補者)の継続勤務理由(本人回答)
〜キーパーソンやキーパーソンの候補者は、「仕事のやりがい」や「自分の専門性の発揮」を継続勤務の理由として挙げている。
キーパーソン候補者については、「自己成長の可能性」を挙げる人も多い〜
第3-3-62図 キーパーソン(候補者)の継続勤務理由(本人回答)
Excel形式のファイルはこちら

 定着意向の高いキーパーソンやその候補者自身の継続勤務の理由については、「仕事内容にやりがいや楽しみを感じているから」と回答した割合がともに5割近く最も高くなっており、次いで「自分の専門性や知識・ノウハウが十分に生かせる組織だから」がともに4割程度となっている。また、キーパーソンの候補者については「学びの機会が多く与えられ、成長できることが明確だから」が28.5%と次いで高くなっている。
 一方で、「納得のいく給料が支払われているから」はキーパーソンで16.7%、キーパーソン候補者では14.3%に止まっている。

(エ)キーパーソンの離職と定着
 キーパーソンやその候補者が離職する場合は、納得感のある給与面での待遇が大きな原因であると言えるが、定着する場合については給与面での待遇ではなく、仕事内容や機会が本人の希望に合っていることが要因となる。
 キーパーソンやその候補者の離職を防ぐための「最低限必要な要素」としては納得感のある給与であることが求められる。しかし、長期的に定着するためには、キーパーソンやその候補者は、評価や処遇よりもむしろその仕事に対するやり甲斐や自己の成長、自己の能力発揮の場を求めており、育成や配置を含めた総合的なキーパーソンに対する人材マネジメントが重要であると考えられる。

(オ)キーパーソンの離職と給与
 キーパーソンの離職の要素である給与について、キーパーソンの給与と経営者及びキーパーソンと同年次の社員の給与との比較調査を行った(第3-3-63図)。キーパーソンの退社理由が「本人の納得できる給与が出せていなかったから」の企業のキーパーソンの給与水準は対経営者比で51.4%、対同年次の社員比で116.0%であった。調査平均値が対経営者比で55.7%、対同年次の社員比で118.8%である。退社者の給与水準に大きな差異は見られない。
 給与水準については、定量的なものよりもむしろその「納得感」が求められていると推測される。
 
第3-3-63図 離職状況とキーパーソンの給与
〜キーパーソンの離職が非常に多い企業では、相対的にキーパーソンの給与は高くない〜
第3-3-63図 離職状況とキーパーソンの給与
Excel形式のファイルはこちら

(6)キーパーソンのマネジメントの取組状況
 ここまでは、キーパーソン人材の確保・育成の取組や企業における定着について見てきた。キーパーソン人材の確保・育成にあたっては、基本的な人事機能である採用、評価、処遇、育成、配置といった総合的な角度からマネジメントしていくことが必要である。ここでは中小企業において行われているキーパーソンに対応した具体的なマネジメントについて見てみたい。

(ア)キーパーソンのマネジメントの取組
 まず、キーパーソンのマネジメントについてどのような項目について重要と認識されているのか見てみたい(第3-3-64図)。
 
第3-3-64図 キーパーソンのマネジメントの重要度
〜キーパーソン本人、企業の回答もともに、評価や処遇について重要とする割合が高い〜
第3-3-64図 キーパーソンのマネジメントの重要度
Excel形式のファイルはこちら

 キーパーソンのマネジメントの取組の中では、「本人が納得できる処遇に努めている」、「成果に応じた評価体系となっている」、「担当事業・業務における十分な裁量権が与えられている」、「重要なポストを担わせている」、「経営者と対話する機会や仕事ぶりを肌で感じる機会を作っている」といった取組について重要としている企業は多く、キーパーソン自身もまた、重要と認識している。
 また、取組状況について見てみると(第3-3-65図)、「重要なポストを担わせている」、「成果に応じた評価体系となっている」、「経営者と対話する機会や仕事ぶりを肌で感じる機会を作っている」、「担当事業・業務における十分な裁量権が与えられている」、「本人が納得できる処遇に努めている」といった重要度が高いとされる項目について、取組状況は相対的に高くなっている。
 キーパーソンのマネジメントにおいては、キーパーソンに対する権限の委譲や、適正な評価と処遇、経営トップとのコミュニケーションが重要であることがうかがえるが、その取組状況としては、決して高くはない。
 
第3-3-65図 キーパーソンマネジメントの取組
〜重要度と比較して、実際の取組度は高くない〜
第3-3-65図 キーパーソンマネジメントの取組
Excel形式のファイルはこちら

(イ)キーパーソンのマネジメントと業況感
 キーパーソンのマネジメントの取組状況についてこれまで見てきたが、キーパーソンマネジメントへの取組と業況感の関係について見てみたい(第3-3-66図)。
 
第3-3-66図 キーパーソンマネジメントの取組状況と好業績企業の割合
〜キーパーソンマネジメントについては、全ての項目において、取り組んでいる企業の方が取り組んでいない企業より業況が良い企業の割合が高い〜
第3-3-66図 キーパーソンマネジメントの取組状況と好業績企業の割合
Excel形式のファイルはこちら

 キーパーソンのマネジメント項目すべてについて、「取り組んでいる」または「十分に取り組んでいる」企業ほど、業況感について「良い」または「非常に良い」とした企業の割合が多くなっており、キーパーソンのマネジメントについて取り組んでいる企業ほど業況感が良い状況がうかがえる。
 キーパーソン人材の確保や育成を考えた際に、キーパーソン人材が能力を発揮し企業業績へ良い影響を与えていくためには、人材育成の取組だけでなく、その力を発揮させていくマネジメントの取組が必要なのではないかと推測される。

事例3-3-5 若年人材を経営人材へと導く研修システム

 東京都新宿区の株式会社セプテーニ・ホールディングス傘下のセプテーニグループでは、経営感覚・スキルをもった人材を育成し、事業の拡大・発展を志向している。社内では、100人の経営人材=商人(あきんど)をつくることを目的に「BLP(ビジネスリーダーシッププログラム)」を行っている。その結果、多くの社内ベンチャーが立ち上がるなど、求める人材の育成に成功している。
 BLPは2002年から企画を開始した研修プログラムである。自発的に新しい事業をしたい社員は、まず業務で業績を上げ(最短1年)、その後、業務を継続しながら1年半の教育プログラムを受けた後、商人として新規事業をするチャンスが与えられる。この教育プログラムは、社外の育成機関への派遣によって実施され、質の高い講義を受けることが可能になっている。新規事業の遂行にあたっては、撤退と拡大に関する条件をクリアしていれば、あとは担当者が自由に事業を行うことができる。BLPには1年に3〜5名が採用される。また、BLPの前段階として、若手に対して研修(プレステージアカデミー)を行い、ロジカルシンキングやコミュニケーションに関する学びの機会を提供している。この他、外部講師を招いたり、社内の人材を講師とする社内研修を実施したりしている。

(7)成長企業におけるキーパーソンマネジメント
 キーパーソンに対するマネジメントは一律的なものではなく、それぞれの企業がそれぞれの業務内容に適合させた人材構成の構築との関係で取り組んでいくべき課題である。
 人材の育成にあたっては、教育研修やOJT、自己研鑽の支援に代表される教育研修のシステムの構築は重要と思われる。しかし、大企業とは異なり、中小企業においては、人材の育成が進んでいる企業であっても、必ずしも十分な育成システムが構築されているとは限らない。このことから、中小企業における人材育成への政策的な支援が望まれる。また、中小企業においても、長期的な視野から人材の成長に重きを置き、従業員に対して、自身の成長を促す活躍の機会や環境といった場を提供し、実務上においてキャリア形成を促していく取組も重要であると思われる。

事例3-3-6 人材マネジメントに取り組む企業

 東京都渋谷区のアイランド株式会社(従業員は、スタッフ6名、パートナー30名以上、計40名)は2003年から、WEBを活用したコミュニティメディアのデザイン、企業−生活者間のWEBコミュニケーション設計、女性向けポータルサイトの運営を中心とした事業を展開している。同社では、キーパーソンのマネジメントを工夫することで、その活躍により毎年利益を拡大している。
 同社では、キーパーソンを、自ら事業の責任がとれる「プロデューサー人材」と考えている。プロデューサー人材とは、自分で企画、人の巻き込み、実行、振り返りができる人材を指している。その他の専門業務(システム、デザインなど)は外部の専門家(同社ではパートナーと呼ぶ)と業務委託契約を結んでいる。
 キーパーソンのマネジメントについて、いくつかの工夫を行っている。まず、第一に、個人がどう働きたいかを重視しており、求める「働き方」を選択させている。プロデューサー人材として中心となって働いている人でも、家で仕事がしたい人の場合は、在宅での業務を認めたり、週3回休みを希望する場合はそれを認めるなど、個人によってワークスタイルを決めている。また、プロフェッショナルな人材はサービスを自らの裁量で動かすことにモチベーションを感じると考えており、ビジネスユニット単位で個々人に事業企画や顧客交渉などを行う幅広い裁量を付与している。このことによりキーパーソンは新しい試みを個人の裁量でどんどん提案しやすい環境となっている。ビジネスユニットの選択においても、本人の興味や専門性に合った事業に配置している。
 営業目標や売上については、目標値を具体的には設定せず、ユーザー数の目標のみ設定している。成果主義や目標管理の流れで、数値やノルマで管理する企業が多いと思われるが、プロフェッショナルは数値やノルマではなく、成果や顧客利益をミッションとして頑張ってもらう方がよいと考えている。そのため、キーパーソンに対する売上等の具体的な目標は立てた事がない。
 この他に、経営陣と直接対話することにより成果イメージの共有をして、具体的なサービスのすすめ方等は任せている。また、自分の仕事に対する評価がダイレクトに伝わるように工夫している。「顧客からの反応がダイレクトに伝わる」ことが意識を喚起している。このことは、プロフェッショナルな人材だからこそ機能すると考えている。プロフェッショナル人材だからこそ、顧客からのダイレクトの声が更なるモチベーションにつながると考えている。
 このような取組から、キーパーソンが伸び伸びと活躍する職場環境が出来上がっている。

事例3-3-7 夢を語り人材の能力を引き出すマネジメント

 群馬県高崎市の有限会社中里スプリング製作所(従業員20名)は1950年に設立された企業。各種コイルスプリング・板スプリングの製造を中心とした事業を展開している。
 同社では、嫌いな顧客との取引停止を認めるなど、仕事が楽しくなるための様々な仕掛けをすることで、社員のモチベーションを高めている。
 中里スプリング製作所では、中小企業と大企業では、入社してくる人材の資質が全く違うと考えている。例えば、大企業では属する企業に対するプライドもあり、自然と愛着をもっているが、中小企業の場合は、入社の時点では自分の会社や技術に自信をもてず、また仕事に対する執着も入社時点では見られない場合も多い。これらのことから、まずは「自信をつけること」が重要であると考え、そのためには、「仕事を好きになること」が必要で、「仕事は楽しくなければならない」と考えている。
 このための手段は、「好きなことを仕事にする、好きな顧客と付き合うこと」である。「自分の好きなお客様の仕事に 全力投球」が社訓となっており、社内の会議において「好きな顧客ベスト30」「嫌いな顧客ベスト30」を投票し、嫌いな顧客は取引を停止する。嫌いな顧客に時間を割かれて優良顧客に割く時間が失われるよりも、好きな顧客に没頭し、信頼を高めることが重要と考えている。嫌いな顧客と取引を停止する変わりに、1件の取引を停止すると、3ヶ月以内に10件の新規顧客を獲得することをノルマとしているが、好きな顧客に奉仕することで、仕事が楽しく、仕事への自信も身についている。
 もう一つの特徴は、「夢会議」である。月に一度、全社員で会議を行っている。そこでは皆が夢を語り、職位は関係ない。何がやりたいのかを宣言し、実際にその業務に就けてあげる。このことにより、「やりたいことを仕事に」が実現されている。また、従業員みんなが「夢年表」を書くことにも取り組んでいる。これは、従業員一人一人が長期的な夢を描き、その達成の為に月次で何をするのかを書く。「仕事の夢」と「個人の夢」を両方書き、「夢」を語り、社内で共有化することにより、確実に達成のための行動を促すことで、継続的なモチベーションを引出している。
 この他、外因的なインセンティブとして、1年間頑張った社員1名に、「社内の設備のすべてを自由に使用して好きな作品を作ってよい権利」とその経費として「社長から100万円の進呈」がある。この権利を得た人材は、自分の好きなものを作ってよいことになり、自分の腕に自信をつけた社員は、仕事を忘れて「作品」作りに没頭することができる。市場や社会に提供するものを単なる「商品」「製品」とは考えず、かけがえのない「作品」と考え、自分の好きなものを作ることで、腕を磨いてもらうという効果もある。

 第3章 人的資本の蓄積に向けた中小企業の取組

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む