第2部 地域とともに成長する中小企業 

第2節 地域金融機関と中小企業の関係

 安定的に資金を調達する上で、中小企業は金融機関、特に地域の金融機関と良好な関係を築くことが重要である。我が国においては、企業と金融機関の関係は長期・固定的なものと理解されてきた。そこでは、メインバンクと呼ばれる金融機関が、長年の取引関係の中で頻繁に接触することで顧客である企業の情報を蓄積し、資金の貸し手と借り手の間の情報の非対称性を軽減してきたとされる。
 我が国の中小企業と金融機関との関係に係るもう一つの特徴は、複数の金融機関が中小企業に対して貸付を行う複数行取引16である。
 本節では、これら2つの特徴に着目する。まず、メインバンクと中小企業がどのような取引関係を築き、中小企業がメインバンクとの取引にどの程度満足しているのかを調べる。次に、複数の金融機関との取引によって中小企業の資金調達がどのような影響を受けるのかを把握する。

16 金融機関は銀行だけでなく、信用金庫、信用組合、政府系金融機関、ノンバンク等を含むが、ここでは1つの金融機関のみと取引を行うことを一行取引、複数の金融機関と取引を行うことを複数行取引として定義づける。


1 メインバンクとの取引関係
 我が国の中小企業の9割以上において、メインバンク17は存在する(第2-3-11図)。規模の小さい企業では、主に地域金融機関がメインバンクであり、規模が大きくなると都市銀行等がメインバンクとして認識される場合が多くなる。

17 ここでは、企業が、借入・預金残高にかかわらずメインバンクと認識しているものをメインバンクとして扱う。

 
第2-3-11図 メインバンクの有無と業態
第2-3-11図 メインバンクの有無と業態
Excel形式のファイルはこちら

〔1〕メインバンクとの取引年数・範囲
 今回の「金融調査」の対象企業においては、中小企業と現在のメインバンクとの平均取引年数は、創業10年以内の企業において7.8年、11〜20年の企業において12.9年となっている。このような比較的長期間にわたる取引関係は、従業員規模、メインバンクの業態を問わない18(第2-3-12図)。
 メインバンクと中小企業の取引は、借入にとどまらない。メインバンクからは、借入以外にも、取引先の紹介や経営指導・アドバイスなどの、企業経営にも大きな影響を与えるサービスを受けている(第2-3-13図)。

18 企業規模、企業年齢別に確認したメインバンクとの取引年数は付注2-3-3を参照。

 
第2-3-12図 メインバンクとの取引年数(金融機関業態別)
〜メインバンクとは比較的長期間の取引を行っている〜
第2-3-12図 メインバンクとの取引年数(金融機関業態別)
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-3-13図 借入以外のメインバンクとの取引
〜一定の企業が、メインバンクと取引先の紹介や経営指導等の取引も行っている〜
第2-3-13図 借入以外のメインバンクとの取引
Excel形式のファイルはこちら

〔2〕借入申込に対するメインバンク側の反応
 中小企業における財務体質の改善19や、第1節で見た金融機関側の取組を反映して、企業による借入申込みへのメインバンクの反応は良くなっている。「中小企業実態基本調査」では、申込みを行った企業の過半数が、申込み額どおりか、もしくはそれ以上の調達を行っている(第2-3-14図)。近年の動きを見ても、申込みを拒絶されたり、借入条件を厳しくされたりする企業の割合は減少傾向にある。

19 大企業、中小企業の資金調達構成および従業員規模別の資金調達構造については付注2-3-4を参照。

 
第2-3-14図 メインバンクへの借入申込みの状況
〜借入申込みへの後ろ向きな対応は減少しており、約半数の企業は借入申込みを行わない〜
第2-3-14図 メインバンクへの借入申込みの状況
Excel形式のファイルはこちら

 地域間のばらつきは縮小傾向にある。2003年度時点では、東北地方で借入申込みを行った企業の4割以上が思いどおりに調達することができないなど、地域間で資金調達の困難さに相当程度の差異が存在していた。このような差異は、2005年度時点では縮小傾向にある(第2-3-15図〔1〕〔2〕〔3〕)。
 
第2-3-15図〔1〕メインバンクからの資金調達状況(2003年度)
〜東北地方では、4割以上の企業が思いどおりに調達できていない〜
第2-3-15図〔1〕メインバンクからの資金調達状況(2003年度)
 
第2-3-15図〔2〕メインバンクからの資金調達状況(2004年度)
〜多くの地域で、7割程度の企業が思いどおりに調達できている〜
第2-3-15図〔2〕メインバンクからの資金調達状況(2004年度)
 
第2-3-15図〔3〕メインバンクからの資金調達状況(2005年度)
〜多くの地域で7割以上の企業が、思いどおりに調達できている〜
第2-3-15図〔3〕メインバンクからの資金調達状況(2005年度)
Excel形式のファイルはこちら

 第2-3-14図からは、ほぼ半数の中小企業がメインバンクに借入申込みを行っていないことも分かる。これらのうち、資金需要がありながら様々な理由から借入申込を行っていない中小企業は存在する。中小企業庁「中小企業実態基本調査」に基づき見てみる20

20 推計結果については、付注2-3-5を参照。


 まず、債務超過など自己資本比率が低い企業では、黒字企業が比較的多く存在するにもかかわらず、申込みを行わない比率が高い(第2-3-16図)。このような企業は、申込みを行っても拒絶される可能性が高いと考え、借入申込みを行わない可能性がある21

21 自己資本比率別に確認した借入申込みを行わない企業の営業利益、経常利益の各黒字企業割合については、付注2-3-6を参照。

 
第2-3-16図 メインバンクへ借入れ申込みを行わない企業の割合(自己資本比率別)
〜借入申込みを行わない企業は、自己資本比率が高い企業と低い企業の双方〜
第2-3-16図 メインバンクへ借入れ申込みを行わない企業の割合(自己資本比率別)
Excel形式のファイルはこちら

 次に、自己資本比率も含めて借入申込みにはどのような要素が重要かを推計する。推計に際しては、設備投資の有無、流動資産と負債のバランスから見た経常運転資金調達の必要性などの資金需要要因、総資本経常利益率などのパフォーマンスを変数に含めている。
 その結果、資金需要や企業のパフォーマンスを考慮した上でも、地域金融機関よりも都市銀行等と取引している企業などにおいて、借入申込をしない可能性が高いことが分かる。

〔3〕中小企業におけるメインバンクに対する満足度
 借入申込に対するメインバンク側の反応、金利条件、借入以外に提供されるサービスの内容を踏まえて、中小企業はメインバンクとの取引が満足できるものかどうかを判断する。これまで見てきたように、借入申込に対するメインバンク側の反応は改善しており、現時点では、メインバンクとの取引に満足する中小企業の比率は高い(第2-3-17図)。
 
第2-3-17図 メインバンクとの取引満足度
〜7割程度の企業がメインバンクとの取引に満足している〜
第2-3-17図 メインバンクとの取引満足度
Excel形式のファイルはこちら

 メインバンク担当者が企業に接触する頻度と取引満足度との関係を見ると、正の相関があることが分かる。メインバンクとの取引について「満足」もしくは「やや満足」と答える企業の比率が、毎月2回以上メインバンクの担当者と接触するグループでは7割を超えるのに対して、1年に1回も接触しないグループでは3割に満たない(第2-3-18図)。同様に「不満」もしくは「やや不満」と答える企業の比率は、毎月2回以上接触するグループにおいては1割程度であるのに対し、1年に1回も接触しない企業では3割を超える。頻繁な接触により、金融機関と中小企業が互いの状況を正確に理解し合い、実際の貸付や企業経営にそこで得られた情報を生かすことで、企業側の満足度が高まると考えられる。
 
第2-3-18図 メインバンク担当者との接触頻度と取引満足度
〜接触頻度が少ないと満足度も低い〜
第2-3-18図 メインバンク担当者との接触頻度と取引満足度
Excel形式のファイルはこちら

〔4〕小規模企業におけるメインバンクとの関係
 メインバンクとの接触頻度を従業員規模別に確認すると、企業規模が小さくなればなるほど低くなる傾向にある(第2-3-19図)。接触頻度の低い従業員規模が20人以下である小規模企業では、借入後に決算書などをメインバンクに提供していても、その内容を説明するに至っていない(第2-3-20図)。こうした中で、小規模企業はメインバンクとの取引満足度も低くなっている(第2-3-21図)。
 
第2-3-19図 メインバンク担当者との接触頻度(従業員規模別)
〜小規模企業では接触頻度が低い〜
第2-3-19図 メインバンク担当者との接触頻度(従業員規模別)
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-3-20図 借入後のメインバンクへの業況等説明状況
〜小規模企業では、提出資料の説明を行っている割合が低い〜
第2-3-20図 借入後のメインバンクへの業況等説明状況
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-3-21図 メインバンクとの取引満足度(従業員規模別)
〜小規模企業ほど満足度が低く、不満度が高い〜
第2-3-21図 メインバンクとの取引満足度(従業員規模別)
Excel形式のファイルはこちら

 過去と比較すると、小規模企業では、メインバンクとの接触頻度について、10年前の方が現在よりも多いとする企業の割合が35%程度であり、その他のグループよりも高い(第2-3-22図)。特にこの傾向は、都市銀行等をメインバンクとしている場合に見られる。こうした中で、小規模企業のグループでは、近年の資金繰り環境の好転にもかかわらず、10年前と比較したメインバンクとの取引満足度の改善度合いが小さい(第2-3-23図)。
 
第2-3-22図 10年前と比較したメインバンクとの接触頻度
〜小規模企業では、10年前と比較した接触頻度の減少度が大きい〜
第2-3-22図 10年前と比較したメインバンクとの接触頻度
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-3-23図 10年前と比較したメインバンクとの取引満足度
〜小規模企業では、10年前と現在の満足度の差異が小さい〜
第2-3-23図 10年前と比較したメインバンクとの取引満足度
Excel形式のファイルはこちら

 メインバンクとの取引に対する満足度の改善が他のグループに比して遅れる中で、小規模企業ほどメインバンクを変更する割合が高い(第2-3-24図)。過去10年間において、金融調査の対象企業のうち、12.0%が過去10年間でメインバンクを変更した。このうち従業員20人以下の企業では、その割合が15.8%と高くなっている。メインバンクの変更理由を見ると、小規模企業ほど、従来取引してきたメインバンクに対する不満、変更した新しいメインバンクの提示する取引条件の良さを挙げる場合が多い(第2-3-25図)。一方、規模の大きな企業でのメインバンク変更理由を見ると、メインバンクの破綻懸念もしくは破綻が最も多く挙げられている。
 
第2-3-24図 最近10年前でメインバンクを変更した企業の割合
〜小規模企業ほど、近年メインバンクを変更している〜
第2-3-24図 最近10年前でメインバンクを変更した企業の割合
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-3-25図 メインバンク変更の理由(従業員規模別)
〜小規模企業は、変更前のメインバンクに対する不満、新しいメインバンクの提示する取引条件の良さを変更理由に挙げる場合が多い〜
第2-3-25図 メインバンク変更の理由(従業員規模別)
Excel形式のファイルはこちら

 メインバンクと中小企業の取引関係については、10年前と比較して、接触頻度が低下している場合が多い。一方で、近年の資金繰り環境の好転も反映して、メインバンクへの満足度はおおむね高くなっており、メインバンクの変更もそれほど多くはない。メインバンクとの関係は、依然として安定的と捉えることができる。
 しかしながら、中小企業の中でも小規模企業では、接触頻度の低下が目立っており、メインバンクとの取引への満足度の改善度合いも小さい。これらの企業においては、主に既存のメインバンクへの不満から、メインバンク変更がより大きい規模の企業に比して頻繁に行われており、メインバンクとの関係は、より流動的と言える。

2 複数の金融機関からの資金調達

 メインバンクとの取引だけでなく、我が国中小企業と金融機関との取引におけるもう一つの特徴は、複数行取引である。第2-3-26図〔1〕〔2〕は、我が国と米国の中小企業の取引金融機関数を比較したものである。我が国中小企業は、小規模企業も含めて大多数が複数行との取引を行っている一方で、米国においては一行取引が中心であることが分かる。
 
第2-3-26図〔1〕取引金融機関数(日本の中小企業)
〜複数金融機関との取引がほとんどである我が国中小企業〜
第2-3-26図〔1〕取引金融機関数(日本の中小企業)
 
第2-3-26図〔2〕取引金融機関数(米国の中小企業)
〜1つの金融機関との取引がほとんどである米国中小企業〜
第2-3-26図〔2〕取引金融機関数(米国の中小企業)
Excel形式のファイルはこちら

 複数行取引は、金融機関が多く集まる都市部に限った事象ではない。中小企業を都市部と郡部22に立地するものに分けて、両者の取引金融機関数に有意な違いがあるかどうかを検証したところ23、都市部、郡部に立地する中小企業の取引金融機関数の平均値は、それぞれ6.65行、4.80行である。金融機関の立地が少ない地域においても、複数行取引が一般的であることが分かる。

22 ここでは全国の市及び区を「都市部」、それ以外の地域を郡部として定義している。
23 推計結果については、付注2-3-7を参照。


 加えて、取引金融機関数の増加の傾向は近年強まっている。2001年10月末時点と2006年10月末時点の両方に存在する企業約1,500社について、取引先金融機関数が増加したかどうかを見ると(第2-3-27図)、この5年間で増えていることが分かる。金融機関の合併が進み、金融機関の数自体が減少する中で複数行取引の傾向が強まる背景には、金融機関側の要因と、中小企業側の要因の両方があると考えられる。まず、中小企業向け貸出市場での競争の激しさを反映して、優良中小企業に対して複数の金融機関が積極的な貸出を行っている可能性がある。また、中小企業側にも、特定の金融機関に取引が集中するリスクを回避するとともに、複数行取引によって有利な借入条件を得たいという意図があると考えられる。
 
第2-3-27図 取引金融機関数の推移
〜最近5年間で、取引金融機関数は増加傾向にある〜
第2-3-27図 取引金融機関数の推移
Excel形式のファイルはこちら

 複数行取引を行う企業の特徴を確認する。複数行取引を行う中小企業は、一行取引の企業と比較して、資金調達が容易になる傾向がある。メインバンクへの借入申込みに対する反応では、一行取引企業よりも複数行取引企業で「増額セールスを受けた」と回答している企業の割合が高い(第2-3-28図)。
 従業員規模が21〜100人以下の中小企業では、複数行取引を行う企業の借入金利が一行取引の企業と比較して低い(第2-3-29図)。複数行取引による金融機関同士の競合によって、メインバンクの借入金利が低下すると考えられる。
 
第2-3-28図 メインバンクから増額セールスを受けた割合
〜複数行取引を行う企業は一行取引の企業と比べ、増額セールスを受ける割合が高い〜
第2-3-28図 メインバンクから増額セールスを受けた割合
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-3-29図 取引金融機関数とメインバンクからの短期借入金利(従業員規模別)
〜従業員規模が21〜100人以下の企業では、複数行取引の企業は一行取引の企業と比べ借入金利が低い〜
第2-3-29図 取引金融機関数とメインバンクからの短期借入金利(従業員規模別)
Excel形式のファイルはこちら

 複数行取引により調達が容易になるという一方で、注目すべきは借入依存度も高くなる点である。第2-3-30図〔1〕〜〔4〕は、取引金融機関数と借入依存度の関係を示している。どの従業員規模においても、取引金融機関数が多い企業ほど借入依存度が高くなることが分かる。同様に、取引金融機関数の多い企業ほど、債務償還年数も長くなる(第2-3-31図〔1〕〜〔4〕)。設備投資など、企業の前向きな資金需要を反映したものであれば、借入依存度が高くなること自体は問題ではないが、取引金融機関数の異なる企業間で、売上高営業利益率、売上高経常利益率を比較しても、有意な差は見られない24。借入依存度の高い企業、債務償還年数の長い企業を中心に、一部の中小企業においては、複数行取引により、資金面の安定性を確保している可能性がある。

24 従業員規模別及び取引金融機関数別に確認した売上高営業利益率、売上高経常利益率の具体的数値については、付注2-3-8を参照。

 
第2-3-30図〔1〕取引金融機関数と借入依存度の相関(従業員数20人以下)
〜取引金融機関数が多い企業ほど、借入依存度も高い〜
第2-3-30図〔1〕取引金融機関数と借入依存度の相関(従業員数20人以下)
 
第2-3-30図〔2〕取引金融機関数と借入依存度の相関(従業員数21〜100人以下)
〜取引金融機関数が多い企業ほど、借入依存度も高い〜
第2-3-30図〔2〕取引金融機関数と借入依存度の相関(従業員数21〜100人以下)
 
第2-3-30図〔3〕取引金融機関数と借入依存度の相関(従業員数101〜300人以下)
〜取引金融機関数が多い企業ほど、借入依存度も高い〜
第2-3-30図〔3〕取引金融機関数と借入依存度の相関(従業員数101〜300人以下)
 
第2-3-30図〔4〕取引金融機関数と借入依存度の相関(従業員数301人以上)
〜取引金融機関数が多い企業ほど、借入依存度も高い〜
第2-3-30図〔4〕取引金融機関数と借入依存度の相関(従業員数301人以上)
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-3-31図〔1〕取引金融機関数と債務償還年数の相関(従業員20人以下)
〜取引金融機関数が多い企業ほど、債務償還年数も高い〜
第2-3-31図〔1〕取引金融機関数と債務償還年数の相関(従業員20人以下)
 
第2-3-31図〔2〕取引金融機関数と債務償還年数の相関(従業員数21〜100人以下)
〜取引金融機関数が多い企業ほど、債務償還年数も高い〜
第2-3-31図〔2〕取引金融機関数と債務償還年数の相関(従業員数21〜100人以下)
 
第2-3-31図〔3〕取引金融機関数と債務償還年数の相関(従業員数101〜300人以下)
〜取引金融機関数が多い企業ほど、債務償還年数も高い〜
第2-3-31図〔3〕取引金融機関数と債務償還年数の相関(従業員数101〜300人以下)
 
第2-3-31図〔4〕取引金融機関数と債務償還年数の相関(従業員数301人以上)
〜中央値、下位25%値では、取引金融機関数と債務償還年数の間に、一定の相関が見られる〜
第2-3-31図〔4〕取引金融機関数と債務償還年数の相関(従業員数301人以上)
Excel形式のファイルはこちら

3 中小企業再生支援協議会が果たす役割

 複数の金融機関から資金調達する企業では、借入金依存度が高くなることを見た。前向きな資金需要が存在する場合には、積極的な借入れは当然の企業行動である。その一方で、事業がうまく行かずに再生を必要とする局面では、複数行取引によって資金繰りを改善しているために、中小企業が実質債務超過に至るまで事業を継続する場合がある。このような場合には、複数の債権者間の調整、抜本的な財務リストラ、債務免除などの複雑な調整を要する再生支援業務が発生する。各都道府県の中小企業再生支援協議会(以下、協議会)は、公的な立場を生かして、こうした再生支援業務を行っている。
 協議会は、中小企業の再生に向けた取組を支援する目的で、2003年2月以降に各都道府県に設置された。金融機関の調整から組織機能・流通・生産機能の見直しまで幅広く再生に係る支援を行っている。協議会が行う支援策は、専任アドバイザーなどによる窓口相談を主とした第一次対応と、中小企業診断士や弁護士、公認会計士といった専門家チームによる再生計画の策定支援などの二次対応がある。協議会を利用した企業の過半数が、再生に関するアドバイスを求めていたことから、一次対応による経営相談が果たす役割も大きい。協議会では、一次対応による相談件数が年間2,500社程度で推移しているほか、再生計画策定対象先や再生計画策定完了先においても、一定の実績を残している(第2-3-32図)。
 
第2-3-32図 中小企業再生支援協議会の実績
第2-3-32図 中小企業再生支援協議会の実績
Excel形式のファイルはこちら

 以下では、複数の金融機関の利害が絡む再生案件を、協議会がどのように受け入れ、利用企業がどのような再生手法を講じてきたかを見る。
 協議会を利用するきっかけを見ると、取引金融機関数が多いほど、実質債務超過、金融機関による融資拒絶・減額、資金繰り悪化を挙げる企業の割合が高い(第2-3-33図)。一方、赤字の計上を挙げる企業の比率は、取引金融機関が多い企業ほど低い。取引行数の多い企業は、借入依存度が高いために債務超過になりやすく、金融機関から借入を拒絶されることが契機となり、協議会を利用するに至ると考えられる。
 
第2-3-33図 協議会利用のきっかけ(取引金融機関数別)
〜複数行取引を行う企業では、資金繰りの悪化や金融機関から厳しい融資対応を受けたために協議会を利用する割合が高い〜
第2-3-33図 協議会利用のきっかけ(取引金融機関数別)
Excel形式のファイルはこちら

 協議会利用企業において、どのような手法を用いて再生を行うかについても、取引金融機関の数が影響する。コスト削減など事業面の改善は、取引金融機関数の多少にかかわらず大多数の企業に採用されている(第2-3-34図)。一方、財務リストラや、営業譲渡などの会社形態の再編成は、取引金融機関数が多い企業ほど、再生手法として頻繁に採用されている。債務免除についても、複数行取引の企業においては、金融機関数が多いほど採用されている。企業のバランスシート調整を必要とするような再生手法は、取引金融機関が多い企業において頻繁に用いられていることが分かる。
 
第2-3-34図 具体的な再生手法(取引金融機関数別)
〜取引金融機関数が多いほど、財務リストラが再生手法として頻繁に採用される〜
第2-3-34図 具体的な再生手法(取引金融機関数別)
Excel形式のファイルはこちら

 こうした協議会による措置を受けた利用者企業の大部分は、「利用時期が適切であった」、「もっと早くから利用すべきであった」と答えている(第2-3-35図、事例2-3-2)。中でも、取引金融機関数を複数持つ企業では、「もっと早くから利用すべきだった」と答える比率が高い。
 
第2-3-35図 中小企業再生支援協議会の利用時期
〜多くの企業が適切もしくは、さらに早期にすべきであったと回答している〜
第2-3-35図 中小企業再生支援協議会の利用時期
Excel形式のファイルはこちら

事例2-3-2 中小企業再生支援協議会を活用し、業況回復した企業

 片山畜産食肉株式会社(佐賀県、従業員数36名)は、1973年設立の精肉加工卸売業者。牛海綿状脳症(BSE)の影響により業況が悪化したが、佐賀県中小企業再生支援協議会を活用することで、業況回復に至った企業である。

【中小企業再生支援協議会利用に至った経緯】
 同社は、国産及びオーストラリア産牛肉の食肉卸売業者。主に大手量販店や、学校給食へ加工食肉を納入している。設立後順調に推移していたが、2001年9月頃BSE問題が発生。それに伴い売上高が激減するなど、急激に業況が悪化した。
 一方で同時期に、焼いても煮込んでもスライス肉が型崩れしない独自の新商品(結着加工肉)の開発に成功。拡販を目指した設備投資や、運転資金が必要な状況が続いたが、既存借入金の返済にも窮しており、新たな資金調達が困難な状況にあったため、解決を図るべく、2003年7月に中小企業再生支援協議会(以下、協議会)へ相談を行った。

【再生支援を受けた際の工夫及び効果】
 同社では、協議会を通じて専門家のアドバイスを受け、商品別原価管理の強化や、収益性の高い商品へシフトすることを盛り込む等、具体的で分かりやすい事業再建計画書を作成。それに基づき、取引金融機関に既存借入金の返済条件の緩和と、短期借入金枠の確保要請を行った。当初、取引金融機関の中には、難色を示すところも少なくなかった。しかし、協議会の仲介があったことで、事業計画書の信憑性や同社の再建に対する姿勢が徐々に理解され、新規融資や、既存借入金のリスケジュールによる金融支援が行われた。
 設備投資について、金融機関からの借入による投資は断念。協議会のアドバイスもあり、佐賀県産業支援センターの設備貸与制度を利用した。
 以上の結果、同社の増産体制が確立され、販路拡大も可能となった。その後は売上高も増加し、収支も改善傾向にある。また、外食産業などの従来取引がなかった新規販売先の開拓もできるなど、業況は順調に改善している。
 同協議会は、一定の再生支援効果が認められた後も定期的な訪問、ヒアリング等によるフォローアップを実施。同社は、支援後も逐次相談ができることを非常に評価している。

【協議会の果たした役割】
 同社社長は協議会について、「経営者の目線に立って相談に乗ってもらえ、非常にありがたかった。また、複数ある取引金融機関との調整は非常に難しいものであったが、協議会を仲介することでスムーズな交渉ができた」と評価している。

4 メインバンクとメインバンク以外の金融機関

 我が国の中小企業においては、長期にわたって安定的な資金供給を行うメインバンクが存在する。同時に、中小企業では複数行取引が主流であり、メインバンクではないその他の金融機関とも同時に取引を行っている。中小企業は、このようなメインバンクとメインバンク以外の金融機関に、それぞれ何を求めるのだろうか。
 中小企業がメインバンクに対して最も求めるものは安定的な資金供給である。事業内容の理解、経営アドバイスといったコンサルティング的な役割がこれに続く(第2-3-36図)。金融機関も、こうした中小企業側のメインバンクに対するニーズを理解していると考えられる。金融機関向け調査の結果を見ると、中小企業との取引において、安定した取引や企業のコンサルティングといった側面が重視されていることが分かる(第2-3-37図)。一方、中小企業は、メインバンク以外の金融機関に対しては、安定的な資金供給を求める程度が小さい一方で、低い借入金利、柔軟な担保・保証条件などを求めることが多い。
 
第2-3-36図 中小企業が取引金融機関に求めること
〜メインバンクには安定した資金供給や事業内容の理解を求め、メインバンク以外の金融機関には金利水準や保全条件等、柔軟な取引条件を求める〜
第2-3-36図 中小企業が取引金融機関に求めること
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-3-37図 金融機関が中小企業との取引で重要視すること
〜金融機関は安定した資金供給、事業内容の理解、経営指導などの取引条件以外のことを重要視している〜
第2-3-37図 金融機関が中小企業との取引で重要視すること
Excel形式のファイルはこちら

 事業のライフサイクルに応じても、メインバンク及びメインバンク以外の金融機関のそれぞれの役割は異なる。メインバンク以外の民間金融機関25は、事業安定時や設備投資時に役割を期待されている。一方、メインバンクは、創業時や事業再生、事業危機時に大きな役割を期待されていることが分かる(第2-3-38図)。

25 金融調査では、一般的にメインバンクではない取引金融機関をメインバンク以外の金融機関と総称しているが、事業のライフサイクルとの比較時は、メインバンク以外の政府系金融機関という選択肢があったため、ここでは区別している。

 
第2-3-38図 金融機関が事業のライフサイクルに果たす役割
〜メインバンクはどの時点でも重要な役割を期待され、メインバンク以外の民間金融機関は特定時期で役割を期待される〜
第2-3-38図 金融機関が事業のライフサイクルに果たす役割
Excel形式のファイルはこちら

 実際の中小企業は、メインバンク及びメインバンク以外の金融機関と、どのような取引を行っているのだろうか。借入金利、担保提供状況、担当者との接触頻度という3点に着目する。
 第2-3-39図は、メインバンクとメインバンク以外の金融機関からの短期借入金利を比較したものである。メインバンク以外の金融機関が提示する金利の方が若干低いが、有意な違いではない。
 
第2-3-39図 金融機関からの短期借入金利
第2-3-39図 金融機関からの短期借入金利
Excel形式のファイルはこちら

 不動産や有価証券等の物的担保、経営者自身による本人保証、経営者以外の第三者保証、信用保証協会等の公的信用保証の提供状況を確認する。第2-3-40図から、中小企業はメインバンクに対して、より頻繁に物的担保、保証人、信用保証を提供していることが分かる。特に、物的担保の提供においては、メインバンク以外の金融機関とは大きな差がある。担保などについては、メインバンクにとって有利な取引条件が確保できていると言える。
 
第2-3-40図 金融機関に提供する担保・保証内容
〜中小企業はメインバンクに対して、より頻繁に担保・保証を提供している〜
第2-3-40図 金融機関に提供する担保・保証内容
Excel形式のファイルはこちら

 金融機関担当者との接触頻度については、中小企業はメインバンクの担当者とより頻繁に接触していることが分かる(第2-3-41図)。メインバンクが取引先中小企業と多く接触することは、事業内容の理解を通じて、経営指導・アドバイスなどのコンサルティング的な役割を果たすことにもつながる。
 
第2-3-41図 取引金融機関との接触頻度
〜過半数の中小企業において、メインバンクとの接触頻度の方が多い〜
第2-3-41図 取引金融機関との接触頻度
Excel形式のファイルはこちら

 このような取引関係を踏まえて、中小企業はメインバンクをメインバンク以外の金融機関よりも、特に貸出態度の面で評価する傾向にある。安定的な資金供給姿勢や接触頻度の高さが、こうした評価の背景にあると考えられる(第2-3-42図)。これは、中小企業がメインバンクに対して不満を持っていても、(メインバンクを変更する場合を除いては)メインバンク以外の金融機関が代替的な役割を必ずしも果たしていないことを意味する。実際に、中小企業とメインバンク以外の金融機関がどのような取引を行っているか、確認する。
 
第2-3-42図 取引金融機関との満足度
〜貸出態度において最も差が大きい、メインバンクとメインバンク以外の金融機関との取引満足度〜
第2-3-42図 取引金融機関との満足度
Excel形式のファイルはこちら

 メインバンク以外の金融機関と行っている借入以外の取引は、取引先の紹介や外国為替取引など、メインバンクとの間で行っているものとあまり変わらない(第2-3-43図)。ただし、経営指導・アドバイスといったコンサルティング的なサービスを受けている企業の割合はメインバンクに比して低い。
 
第2-3-43図 メインバンク以外の金融機関と行っている借入以外の取引
〜メインバンク以外の金融機関とも一定の取引を行っている〜
第2-3-43図 メインバンク以外の金融機関と行っている借入以外の取引
Excel形式のファイルはこちら

 メインバンクとの取引においては、小規模企業を除いて一定の接触頻度をもち、ある程度取引に満足している状況を確認した。このような特徴はメインバンク以外の金融機関でも見られるのだろうか。従業員規模に着目しながら、メインバンク以外の金融機関との接触頻度、取引満足度を確認する。
 メインバンクと比較した接触頻度においては、どの従業員規模で確認しても、メインバンクが多い(第2-3-44図)。メインバンク以外の金融機関に決算書などを提出しても、メインバンクとの取引同様、従業員規模が小さい企業においては、説明までは行っていない(第2-3-45図)。メインバンク以外の金融機関に対する取引満足度についても、メインバンク同様多くの企業が「満足」もしくは「やや満足」としている。ただし、メインバンクとの接触頻度の方が多いと回答している小規模企業(メインバンクとの接触頻度も低いだけでなく、メインバンク以外の金融機関との接触頻度はなおさら低いとする企業)において、「満足」を感じる割合は低下し、不満と感じる割合は増える(第2-3-46図)。メインバンクとメインバンク以外の金融機関のそれぞれに期待する役割は異なるように見えても、実際の取引状況はメインバンクとそれほど変わらない状況が、ここから確認できる。
 
第2-3-44図 メインバンク及びメインバンク以外の金融機関担当者との接触頻度(従業員規模別)
〜従業員規模別ではあまり接触頻度に違いがない〜
第2-3-44図 メインバンク及びメインバンク以外の金融機関担当者との接触頻度(従業員規模別)
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-3-45図 借入後のメインバンク以外の金融機関への業況等説明状況(従業員規模別)
〜小規模企業では、提出資料の説明を行っている割合は低い〜
第2-3-45図 借入後のメインバンク以外の金融機関への業況等説明状況(従業員規模別)
Excel形式のファイルはこちら
 
第2-3-46図 メインバンク以外の金融機関との取引満足度(従業員規模別)
〜小規模企業ほど満足度が低く、不満度が高い〜
第2-3-46図 メインバンク以外の金融機関との取引満足度(従業員規模別)
Excel形式のファイルはこちら

 第3章 地域金融が中小企業の発展に果たす役割

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む