第1部 2006年度における中小企業の動向 

第1節 我が国における開業率・廃業率の推移

 開業率・廃業率の動向を把握する方法にはいくつかあり、用いる統計データにより一長一短がある。それぞれを補いながら開業・廃業の傾向を見るため、今回は〔1〕総務省「事業所・企業統計調査」、〔2〕法務省「民事・訟務・人権統計年報」・国税庁「国税庁統計年報書」、〔3〕厚生労働省「雇用保険事業年報」、〔4〕「タウンページデータベース」の4つの統計・データを用いることにしたい。
 4つの統計・データの特徴と傾向をまとめると第1-2-1図のようになる。
 
第1-2-1図 各種統計から算出した開業率・廃業率の比較
〜開業率・廃業率の把握には、算出する統計データにより一長一短がある〜
第1-2-1図 各種統計から算出した開業率・廃業率の比較
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 まず、全産業ベースの開業率・廃業率の長期的動向を分析する際に最もよく用いられる、総務省「事業所・企業統計調査」に基づき、開業率、廃業率の動向を見ていく(第1-2-2図)。

 
第1-2-2図 事業所・企業統計調査による開廃業率の推移(非一次産業、年平均)
〜1991年調査以降、廃業率が開業率を上回る状況が続いている〜
第1-2-2図 事業所・企業統計調査による開廃業率の推移(非一次産業、年平均)
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 事業所数、企業数共に1991年調査から廃業率が開業率を上回る状況が続いており、事業所数、企業数共に減少している。しかしながら、当該調査は、〔1〕5年おきに行われる調査であるため1、開業後まもなく廃業してしまうような事業所の把握が難しい、〔2〕調査員による調査であるため、看板が出ていないなど外観から把握できない事業所の把握が難しい、〔3〕地域単位で調査が実施されるため、調査地域を越えた事業所の移転があると、それぞれ「廃業」と「開業」としてカウントされてしまうなどの問題点が指摘されている2。情報通信技術の発達などで、ソフトウェア業や情報サービス業、ネット上での仮想店舗等、捕捉が困難な事業所が増加している可能性が高い。

1 1948年調査から1981年調査までは3年ごと、1981年以降は5年ごとに調査を実施。なお、1989年と1994年に事業所名簿整備調査が実施されており、1999年と2004年に簡易調査が実施されている。
2 (財)中小企業総合研究機構「わが国における開業率の要因分析に関する調査研究」2006、経済産業研究所 コラム 安田武彦 「開業率の把握の現状と課題」2004


 次に、国税庁「国税庁統計年報書」と法務省「民事・訟務・人権統計年報」から、法人企業の開業率・廃業率の把握を行う(第1-2-3図)。「国税庁統計年報書」は法人数の全数把握は可能であるが、開業数、廃業数に関するデータが得られない。また、「民事・訟務・人権統計年報」は設立登記数、会社解散の登記数は把握できるものの、正確な累計数値が公表されていない。このため、「会社設立登記数(民事・訟務・人権統計年報)/前年の会社数(国税庁統計年報書)」から開業率を、「{前年の会社数+会社設立登記数−当該年の会社数(国税庁統計年報書)}/前年の会社数」から廃業率を算出している。
 
第1-2-3図 会社の設立登記数及び会社開廃業率の推移
〜法人企業数は増加傾向にある〜
第1-2-3図 会社の設立登記数及び会社開廃業率の推移
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 ここで得られる法人企業の開業率・廃業率を見ると、近年においても開業率が廃業率を上回っている場合が多く、法人企業数自体も増加傾向にある。設立登記数の推移を見ても、2002年を底に増加傾向で推移している。これらは、「事業所・企業統計調査」とは異なった傾向である。この要因としては、外部からの把握が困難な開業が増加していることに加えて、2003年2月から施行された「最低資本金規制特例制度」(新事業創出促進制度の一部として運用)及び2006年5月の会社法施行によって、資本金1円からの起業が可能となり、法人設立が従来より容易になったことが影響していると予想される。しかし、この統計についても、〔1〕法務局に届出を行った企業すべてが法人税の申告を行っているとは限らないため、厳密には母数と設立登記数で対象とする集合が異なる、〔2〕ペーパーカンパニーや休眠会社などが含まれている、〔3〕個人事業の把握はできない、などの問題を抱えている。
 さらに、雇用者のいる事業所を対象とした「雇用保険事業年報」を用いる方法もある。これに基づき開業率、廃業率を算出したものが、第1-2-4図である。ここで、開業率・廃業率の推移を見ると、2002年度以降開業率が廃業率を下回る状況が続いているものの、2005年度時点では開業率と廃業率がほぼ同率となっている。廃業率が開業率を相当程度上回っている「事業所・企業統計調査」とは傾向を異にしている。雇用保険の届出は比較的強制力が高いものの、〔1〕雇用者のいない法人や個人事業主の把握ができないため、有雇用事業所として報告されている数が約200万と「事業所・企業統計調査」の約570万(常用雇用者0人の事業所を除いても約400万)を大幅に下回っていること、〔2〕事業所単位であるために、会社単位での把握ができないことが短所として挙げられる。
 
第1-2-4図 有雇用事業所数による開廃業率の推移
〜2005年度では開業率と廃業率がほぼ同水準になっている〜
第1-2-4図 有雇用事業所数による開廃業率の推移
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 これまで見てきた開業率・廃業率の算出手法では、〔1〕設備をそれほど必要としないような小規模企業や個人事業所の把握が難しい(例:情報通信サービス業)、〔2〕開業まもなく廃業してしまう企業や事業所を把握することが難しいなどの課題がある。また、統計処理に時間を要するため、公表直後でも約1年前のデータであり、直近に生じている開業・廃業を把握できないという問題もある。これらの問題を解決するため、「タウンページデータベース3」に含まれている日本全国の事業所データから、新たにタウンページへ電話番号情報を掲載した事業所を開業事業所、タウンページへの掲載を取りやめた事業所を廃業事業所と定義し、開業率・廃業率を算出した4。事業経営には電話回線の取得はほぼ必須と考えられることから、開業率・廃業率の動向をタイムリーかつ広範囲に捕捉することが期待できる。なお、「タウンページデータベース」は2か月に1度のペースでデータが更新される。実際、「タウンページデータベース」における事業所数(648万事業所:2004年9月時点)は、直近の「事業所・企業統計調査」による事業所数(571万事業所:2004年6月時点・非1次産業・民営)を70万件程度上回っている。ただし、〔1〕事業所の市外への引越は、開業、廃業としてカウントせざるを得ない、〔2〕電話番号から事業所を捕捉するため、企業ベースでの捕捉ができない、〔3〕従業員数や資本金などといった規模に関するデータを得ることは不可能、などの制約が存在する。

3 東日本電信電話株式会社(NTT東日本)及び西日本電信電話株式会社(NTT西日本)「タウンページデータベース」著作権はNTT東日本及びNTT西日本が所有。掲載件数は約1000万件。
4 中小企業庁作成の定義に基づき、エヌ・ティ・ティ情報開発株式会社が加工・集計。開業率・廃業率の算出方法については付注1-2-1参照。


 「タウンページデータベース」から算出された開業率・廃業率は、従来把握されているものとどのように異なるだろうか。半年ごとに過去5年の推移を見たものが、第1-2-5図であるが、廃業率・開業率共に従来の「事業所・企業統計調査」に基づくものよりも高くなっている。その一方で、廃業率が開業率を2.5%程度上回る状況が続いており、事業所の減少に歯止めがかかっていないという点で「事業所・企業統計調査」と同様の傾向が見られる。2004年以降についても、景気の回復が続いている中で、依然として廃業率が開業率を上回っている。
 
第1-2-5図 タウンページデータベースによる開廃業率と事業所数の推移
〜2004年以降も事業所数の減少傾向は続いている〜
第1-2-5図 タウンページデータベースによる開廃業率と事業所数の推移
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 また、これまでの調査統計では把握できなかったが、開業率と廃業率は年度の上期が高く、下期が低い傾向が見られる。事務用電話回線の申し込みは3月と4月、9月と10月に増加し、12〜2月に減少する傾向があり、年末年始には事業所の開業や廃業が少なくなることが分かる。
 業種別5の開業率・廃業率について「事業所・企業統計調査」と比較すると(第1-2-6図、第1-2-7図)、ほとんどの業種において「タウンページデータベース」による開廃業率が「事業所・企業統計調査」による開廃業率を上回る。特に、「情報・通信」や「事業活動関連サービス6」(例:人材派遣業、リース業)において、「タウンページデータベース」に基づく開業率・廃業率が高くなっている。これらの業種において、(1)短期間での開業と廃業が活発に行われていること、(2)外観からでは把握しにくい小規模な形での開業活動が盛んになってきていると考えられる。

5 タウンページデータでは、NTTが独自に作成した業種分類を付与しており、標準産業分類とは異なる。そこで、両者を比較できるようタウンページ業種分類と標準産業分類を、新たに対応させた。付注1-2-2参照。
6 人材派遣業やリース業、廃棄物処理業など事業活動に付随したサービス業を分類した。付注1-2-2参照。

 
第1-2-6図 タウンページデータベース、事業所・企業統計調査による業種別開業率
〜情報・通信、事業活動関連サービスにおいて、両統計の乖離幅が大きい〜
第1-2-6図 タウンページデータベース、事業所・企業統計調査による業種別開業率
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第1-2-7図 タウンページデータベース、事業所・企業統計調査による業種別廃業率
〜ほとんどの業種において、タウンページデータベースによる廃業率が事業所・企業統計調査による廃業率より高い〜
第1-2-7図 タウンページデータベース、事業所・企業統計調査による業種別廃業率
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 次に、過去5年間での業種ごとの開業率・廃業率の変化を見たものが第1-2-8図、第1-2-9図である。開業率の推移を見ると、やはり、「情報・通信」の開業率が最も高く推移しているが、「事業活動関連サービス」の開業率が上昇傾向にあり、「飲食・宿泊」を抜いて2位になっている。また、「工業用素材」や「農林水産」といった業種は5年間低位で推移している。廃業率の推移を見ると、2001年度の下期から2002年度の上期にかけて、「情報・通信」の廃業率が著しく高いことが注目される。2000年に起きたITバブルの崩壊を受けて、一時的に「情報・通信」の廃業率が上昇したものと考えられるが、現在は落ち着いてきていると言えよう。
 
第1-2-8図 タウンページデータベースによる業種別開業率の推移(5年間)
〜事業活動関連サービスの開業率は上昇傾向にある〜
第1-2-8図 タウンページデータベースによる業種別開業率の推移(5年間)
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第1-2-9図 タウンページデータベースによる業種別廃業率の推移(5年間)
〜高い水準にあった情報・通信の廃業率は低下傾向にある〜
第1-2-9図 タウンページデータベースによる業種別廃業率の推移(5年間)
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 第1-2-10図は業種別に開業率と廃業率の差を取ったものである。水面から顔を出しているのは「金融・教育・医療・福祉」のみで、他の業種はマイナスで推移している。また、減少幅が大きい業種と小さな業種の順序が入れ替わることはほとんどなく、「食料・衣料・身の回り品」や「農林水産」、「建設・建設資材」、「工業用素材」は減少幅が継続して大きい。一方、「金融・教育・医療・福祉」や「事業活動関連サービス」、「飲食・宿泊」、「生活関連サービス7」(例:クリーニング業、理容業)については、それほど事業所数を減らしていないことが分かる。

7 クリーニング業や理容業、冠婚葬祭業など生活に密着したサービス業を分類した。付注1-2-2参照。

 
第1-2-10図 タウンページデータベースによる開業率と廃業率の差の推移(5年間)
〜ほとんどの業種において、事業所数の減少が続いている〜
第1-2-10図 タウンページデータベースによる開業率と廃業率の差の推移(5年間)
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 一部の業種でこれまでの統計では把握することが難しいスタイルでの開業が活発化するなど、創業環境が変化していることが分かった。それでは、最近の創業はどのような特徴を持っているのだろうか。次節では、「タウンページデータベース」に掲載されているもののうち、ここ5年間で開業した事業者に対して、株式会社日本アプライドリサーチ研究所が行った「創業環境に関する実態調査8」を中心に、2001年に中小企業庁が行った「創業環境に関する実態調査9」との比較を交えながら、創業者の個人属性と創業を取り巻く環境について分析を行うこととしたい。

8 2006年11月、タウンページデータベースから、2001年9月時点では存在せず、2006年9月に存在が確認できた事業所を対象としたアンケート調査。有効発送数19197、有効回答率8.28%
9 対象業種:農業、林業、漁業、公務(他に分類されないもの)を除く全産業 調査数:15,000 使用名簿:株式会社東京商工リサーチデータベース 回収率:33.7%


 第2章 開業・廃業と小規模企業を取り巻く環境

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