第3部<テーマ分析[2]>少子高齢化・人口減少社会における中小企業 

第2節 中小企業経営者の抱える事業承継問題

 中小企業経営者の平均年齢が上昇傾向にあり、スムーズな経営者交代が行われていないことは第1章で指摘した。特に資本金1億円未満の企業において、その傾向は顕著に表れている。スムーズな交代は行われていないものの、多くの経営者は自分が行っている事業を何らかの形で承継したいと望んでいる。「承継アンケート」回答企業経営者のうち95.1%の企業経営者が、自分の代で廃業するのではなく「何らかの形で引き継ぎたい」と望んでいることからも分かる(第3-2-3図8)。

8 なお、55歳以上に限定すると、事業を何らかの形で「承継したい」と回答している割合は96.4%にのぼる(第3-2-1図参照)。


 
第3-2-3図 現在の事業に対する将来的展望
〜ほとんどの中小企業経営者が自分の後も事業を他者に引き継ぎたいと回答している〜

第3-2-3図 現在の事業に対する将来的展望
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 その一方で、次の世代へ事業を引き継ぐことを希望せず、廃業を希望する経営者も4.9%いる。当然のことながら、債務超過状態に陥っている企業では、廃業を希望する理由として「会社の経営状況が厳しいため」とする割合が比較的高い。もっとも、財務状況が良い企業ほど「適切な後継者が見当たらない」ことを廃業の理由とする企業は多くなるが、債務超過にない企業でも「市場の先行きが不透明である」という理由は多く、廃業理由として「適切な後継者が見当たらない」企業と「市場の先行きが不透明である」という企業の割合は、財務状況にかかわらずほぼ一定であることが見てとれる(第3-2-4図)。

 
第3-2-4図 自分の代で廃業を検討する理由(資産状況別)
〜廃業検討の理由として「適切な後継者が見当たらない」ことを挙げる企業の割合は財務状況によらず2〜3割程度〜

第3-2-4図 自分の代で廃業を検討する理由(資産状況別)
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 では、事業の承継を望んでいる企業はどのような状況にあるのだろうか。第3-2-3図で示したとおり、自分の後も何らかの形で事業を承継させたいと考えている経営者は全体の95.1%いる。そのうち、〔1〕後継者を既に決めている企業9は44.0%、〔2〕後継者を決めてはいないが、候補者がいる企業は37.1%、〔3〕後継者の適当な候補者もいない企業が18.9%となっている(第3-2-5図)。

9 ここで「後継者を決めている」とは、経営者自身が特定の1人を後継者として心づもりしていることを示しており、それを対外的に表明していることを指すわけではない。


 
第3-2-5図 後継者の決定状況
〜事業承継を希望している企業のうち、既に候補者が決まっている企業は44.0%〜

第3-2-5図 後継者の決定状況
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 財務状況の特徴を確認してみると、事業承継を希望する企業のうち、57.0%は資産超過であり、28.5%は債務・資産が均衡している(第3-2-6図)。14.5%の企業は債務超過状態であり、業況が厳しい中でも事業を継続させたい、あるいは事業をやめられないと思う企業があることもうかがえる。コラム3-2-1(中小企業経営者の特性)記載のとおり、大企業の経営者と違い、多くの中小企業の経営者は主要株主を兼ねており、経営と所有の分離が十分に行われていない。また、金融機関からの借入に対する個人保証が多いことなども、事業を第三者に承継する場合に障害となる可能性がある。事例3-2-1は、主に個人保証問題により事業承継に支障を来した企業の例である。さらに、廃業するとしても様々なコストがかかることが予想される。これらの点が、事業をやめたいと思っている場合や、債務超過に陥っている場合でも事業を続けなければならない場合において、その主な要因として考えられるのではないか。しかしながら、こうした業績が低迷している企業が事業承継を行っても、結果としてうまくいかないことも多い。

 
第3-2-6図 事業の承継を希望する企業の資産状況
〜債務超過でも、事業承継を希望する企業は一定割合存在する〜

第3-2-6図 事業の承継を希望する企業の資産状況
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コラム3-2-1  中小企業経営者の特性:経営者かつ企業オーナー

そもそも事業承継に関し、大企業と異なる中小企業の特性とは何だろうか。
中小企業が「世襲で承継される事例が多い」というのは本章で分析するとおりであるが、一方で、中小企業経営者が、後継者を選ぶ条件として「血縁・親戚関係」よりも「経営能力の優秀さ」を重視している傾向は一貫している(176ページ参照)。
それならば、血縁にこだわらず役職員の中から優秀な人を公平に選べばよいではないか、という疑問が湧くが、そうは行かない事情がある。
中小企業においては一般に、会社の所有と経営が十分に分離されておらず、個人企業は無論のこと、会社企業であっても経営者に株式の過半が集中しているのが常態である。この場合、優秀な役職員に「代表取締役社長」の席を譲っただけでは、全く事業承継にならない。単に、先代経営者が議決権を支配するオーナー、現経営者が雇われサラリーマン社長、という関係になるだけである。
その場合でも、先代(オーナー)が存命のうちは経営にあまり支障は生じないだろうが、先代が亡くなり株式の相続が発生した瞬間に問題が生ずる。会社の株はオーナー一族の何人かに相続され、被相続人の意見が一致する保証はない上に、その会社の経営に何らの想い入れや愛着も持ち合わせていない可能性もある。
そこで中小企業経営者は、会社議決権(株式)の相続に伴う混乱を回避しようと思ったときは、後継者に「代表取締役社長」の席を譲ると同時に、自身の持株も譲る必要が出てくる。
持株を譲る方法は2つある。〔1〕誰かに買わせるか、〔2〕子息、親族に相続させるかである。
〔1〕誰かに買わせることを考えた場合、買い手は「会社の役職員」か「社外の第三者」の2つに1つとなる。経営陣が個人で自社(の事業部門)を買収して経営権を得ることをMBO(Management Buy Out)と言うが、通常の場合、役職員は自社を買収できるほどの資金を持っておらず、また金融機関から買収資金を調達できる当てもない。
そこで通常は、血縁関係にない自社の役職員を後継者とすることは難しいのである。
「承継アンケート」において、「事業売却を検討する」という者に対して具体的に考えている事業売却の方法を聞いてみても、「経営陣による会社買収(MBO)」との回答は6.7%に過ぎなかった。
ゆえに、子息・親族の後継者もおらず、社内に自社を買い取れる役職員もいない場合、他の会社に自社を買収・合併させる(M&A)か、社外の第三者に自社を買い取らせて経営者として入ってきてもらう(MBI:Management Buy In)というのも、事業承継の手段として有力な選択肢となり得るのである。

 
事業売却の具体的方法

事業売却の具体的方法
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事例3-2-1 主に個人保証問題により事業承継に支障を来し、結果的に民事再生法の適用に至った企業

 A社(東京都、従業員数50名)は設立50年超の保安設備工事会社。創業者が早くに他界し、子息が後継者とならなかったため、大手取引先が代表者を派遣してきていた。会社の業況も堅調に推移していたため、その後も何代かにわたり同社より代表者が派遣され続けた。そのため自社内で他に経営者を見つけることが行われてこなかった。
 ところが、景気が悪化し企業業績が低迷し始めると同時に、当時就任中の代表者が急逝した頃から歯車がかみ合わなくなった。
 取引金融機関は代々の代表者に個人保証を要求してきたが、そのリスクもあり、大手企業は代表者派遣を行わなくなった。やむを得ず後継者教育を受けていない生え抜き社員が代表者に就任することになった。
 金融機関はこの代表者にも個人保証を要求したが、本人は保証人となることを拒み続け、1年で辞職。さらに他の生え抜き社員が代表者に就任するに至った。今度も従来と同様に金融機関から個人保証徴求の要請があり、その代表者は他に保証人となり得る役職員もいなかったことから応諾した。しかし、こうした経緯を見るにつけ、他の社員が次期経営者を目指さなくなるという結果になり、リーダーシップの不在などから低迷していた業況を回復させることはできず、結果的に民事再生法の適用に至っている。

 
中小企業代表者の金融機関の借入に対する個人保証の提供状況

中小企業代表者の金融機関の借入に対する個人保証の提供状況
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※ 図から分かるように、我が国中小企業経営者のうち約8割は会社の借入に対して個人保証を提供している。

 一方、一般に創業者であれば自分の事業に思い入れが強いことも想像されるが、事業継続を希望する経営者が創業者であるか非創業者であるかについて確認してみると、特段の違いは見いだせなかった。創業者かどうかよりも、株式の所有関係や企業規模の属性が事業承継には影響するということなのであろう。
 世代交代の時期に直面している経営者は、そのことに対してどの程度備えをとっているであろうか。事業承継に関して「誰かに相談している」としている経営者は、44.2%と全体の半分にも満たない(第3-2-7図)。誰にも相談しない理由として、33.4%の経営者が「十分に準備しており相談する必要がない」とする一方で、40.3%が「事業承継について深く考えていない」と回答しており、事業承継自体に対する認識の低さがうかがえることも着目すべき点であろう(第3-2-8図)。特に、55歳以上の経営者に限ってみても、「事業を何らかの形で他者に引き継ぎたい」と思っているにもかかわらず「事業承継について深く検討していない」と回答した企業が33.1%もある(第3-2-9図)。経営者が引退時期を迎えつつある中、十分な準備が進んでいないことが危惧されるところであり、今後数年のうちに深刻な事業承継問題が生じる可能性があることも否定できない。

 
第3-2-7図 事業承継について誰かに相談している割合(経営者年齢層別)
〜55歳以上経営者の方が事業承継について誰かに相談している割合は高いが、過半数は誰にも相談していない〜

第3-2-7図 事業承継について誰かに相談している割合(経営者年齢層別)
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第3-2-8図 事業承継について誰にも相談していない理由
〜事業承継について誰にも相談しない理由として、33.4%が取組十分とする一方、40.3%は事業承継を深く検討していないとしている〜

第3-2-8図 事業承継について誰にも相談していない理由
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第3-2-9図 事業承継について誰にも相談していない理由(経営者年齢55歳以上)
〜引退時期が近づいている55歳以上の経営者で事業承継希望がある企業でも、33.1%は事業承継について深く検討していない〜

第3-2-9図 事業承継について誰にも相談していない理由(経営者年齢55歳以上)
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 以下、(1)現時点で自分の後継者が決まっている企業、(2)後継者を決めてはいないが候補者がいる企業、(3)現時点では適当な候補者がいない企業という3つの類型ごとに、事業承継を望む企業のそれぞれの課題を検証したい。

1.現時点で後継者を決めている企業の課題
 前掲第3-2-5図で示したとおり、事業の引継ぎを希望している企業の中で、後継者を「既に決めている」とする企業の割合は44.0%である。
 年齢層としては、55歳以上では48.9%と半分近くの経営者が後継者を決定している一方、55歳未満では24.2 %であり、当然ながら高齢層になるほど後継者が決定している企業の割合が高い。ただし、経営者が55歳以上の企業でも半分以上の企業が後継者を決めていないことに注意が必要である。どのような後継者を選ぶとしても一定の課題が生じることから、専門家への相談や社内体制の整備など、実際に後継者決定を行う際に直面すると考えられる課題を早めに確認し、余裕をもった着手を行い解決しておくことが望まれる。
 また、具体的な後継者としては、自分の子息・子女が71.3%であり、その他の親族、娘婿、兄弟姉妹、配偶者も合わせると親族の候補者が83.9%を占める(第3-2-10図)。ここからは、既に後継者を決定している企業においては、後継者に選ばれるのは代表者の親族である、という特徴を見いだせるが、先述コラム3-2-1のとおり、多くの中小企業経営者には単なる経営能力だけでなく、企業そのものの所有権(経営者の持株)の承継も必要とされることが、その主な要因と言えるであろう。ただし、近年では中小企業においても現経営者の血縁以外の第三者による事業承継が見られるようになってきているが、それについては別途後述する。

 
第3-2-10図 後継者の続柄
〜後継者が決定している企業においては、子息・子女が後継者であることが多いが、企業内の人材とする企業も一定割合ある〜

第3-2-10図 後継者の続柄
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 一方で、親族という理由だけで後継者を決定づけているわけではない傾向も確認できる。第3-2-11図によれば、後継者が決定している企業の決定理由は、「役員・従業員の理解を得ることが可能」とする企業が57.9%を占め、それに「事業を成長させることが可能」とする企業の割合が42.3%と続き、「他に適当な人材がいない」とする11.9%を大きく上回っている。これらの理由と後継者の71.3%が子息・子女であることを併せて考えると、単に自分の子供だからというだけでなく、〔1〕中小企業では親族の方が会社内の理解を得やすい、〔2〕親として自分が企業経営の帝王学を目の前で見せてきたことに対する期待がある、等の理由も考えることができるだろう。

 
第3-2-11図 後継者を決定した理由
〜後継者を決定する要因としては、社内・取引先の理解を得られることや、事業を成長させる力量があることが挙げられる〜

第3-2-11図 後継者を決定した理由
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 第3-2-12図より、後継者が決定している企業の財務状況に着目してみると、既に後継者が決定していることと財務状況との間には、あまり相関がないことが確認できる。事業承継の準備を進めているか否かは財務状況に拠らないということだろう。ただし、後継者の候補者すら見つけられない企業は債務超過企業に多いことから、事業そのものを継続していけるかどうか(経営者の思いとは別途、後継者になりたがる人がいるかどうか)という問題については、財務状況が関係すると考えられる。

 
第3-2-12図 後継者の決定状況(資産状況別)
〜既に後継者が決まっているとする企業と資産状況にはあまり関係が見られないものの、適当な候補者がいないとしている企業は債務超過企業である割合が高い〜

第3-2-12図 後継者の決定状況(資産状況別)
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 以上から、後継者が決定している企業の後継者としては経営者の子息・子女中心ではあるが、選定の理由として単に親族だからというだけではなく、ステークホルダーの理解や、企業を成長させる力量という要因が働くことが確認できた。
 では、実際の代表者交代に向け、経営者は具体的にはどのような準備を行っているのだろうか。第3-2-13図を見ると、経営者が55歳以上で後継者が決定している企業では、6割以上が調査時点の3年前までに後継者を決定づけていることが分かる。このように、承継に先立って後継者を決定している理由の一つとして、経営者が、後継者教育等の理由からある程度の期間を承継の準備に充てようとしていることが考えられる。

 
第3-2-13図 後継者を決定づけた時期
〜経営者が55歳以上で後継者が決定している企業では、6割以上が3年前までに後継者を決定づけており、ある程度の期間をかけて準備に取り組もうとする姿勢が見られる〜

第3-2-13図 後継者を決定づけた時期
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 それでは、実際の準備状況はどうだろうか。後継者が決定していると回答した企業のうち「十分に準備している」とした企業の割合は20.1%に留まっている。一方、「不十分だが準備している」とした企業の割合は64.0%、「何もしていない」とした企業の割合は15.9%となっており、後継者を決定しても、事業承継の準備が不十分であるという企業が8割近くを占めていることとなる(第3-2-14図)。

 
第3-2-14図 事業承継の準備状況
〜後継者を決定しても、事業承継の準備が不十分、または何もしていないという企業の合計が約8割ある〜

第3-2-14図 事業承継の準備状況
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 このように、ある程度早期に後継者が決定されたとしても、必ずしも十分な準備が行われていない理由としては、事業承継問題が今日・明日に必ず発生するという性質のものでもないため、日々の業務との関係で優先順位が下がっていることが考えられる。このように、経営者が早期に準備着手するインセンティブがないことが、事業承継問題の特殊性であると言えよう。
 次に、具体的に着手する事業承継の準備項目として、〔1〕企業経営、〔2〕後継者教育、〔3〕経営環境、〔4〕相続対策という4つの点に着目したい(第3-2-15図)。
 
事業承継の準備項目

 
第3-2-15図 事業承継の具体的準備内容と取組状況
〜後継者教育や経営環境の整備に着手している経営者は多い一方で、企業経営や相続対策など専門知識が必要とされるものには着手できていない企業が比較的多い〜

第3-2-15図 事業承継の具体的準備内容と取組状況
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 ここから、後継者を事前に自社勤務させることや、経営に必要な知識を取得させること、ステークホルダーの理解を得ることなど、後継者教育や周囲の理解を得る努力は大多数の企業が一定程度行っていることが分かる。ただし、相続対策準備は比較的劣後扱いとなっているほか、「準備すべきか検討したことがない」、「準備する必要を感じない」と回答する企業が多いことが分かる。事業承継に関する会社の財務整理や税務面などの相談は、経営者側から日常業務の中では現実的な問題として認識しづらいことや、後継者側からも、相続等の話は親が健在の間に兄弟親族間で持ち出しづらい、といった現状を反映しているのであろう。しかしながら、業績が順調な企業であっても承継時の経営権の集中策や税務面の対策などは、専門的知識が必要でもあり、着手後に短期間で解決できる問題でもなく、場合によっては紛争となるケースもあるため、早めの取りかかりが必要であろう。事例3-2-2は、相続税対策のために、経営者の株式を売却して納税資金を確保した事例である。このように、税負担を軽減するためには株式の分散を行うインセンティブが働くが、一方で、後継者の経営環境を整えるためには、株式を一定程度後継者に集中して議決権を確保しておく必要がある。この双方の側面を勘案した上で、最適な資本政策を決定することが求められるのである。

事例3-2-2 相続税に危機感を感じて行った事業承継

 B社(東京都、従業員100名)は設立50年を超える建設会社。北海道から九州まで日本一円を営業エリアに持っていたことから業界シェアも高く、実質無借金の財務内容であるなど、無難な経営状態であった。
 前代表取締役が70歳を迎え、以前より後継者として教育してきた長男へ事業承継することとなった。長男の経営能力も極めて高く、役員、従業員、取引先、金融機関等からの異論は一切なかったが、優良企業であったがゆえに相続に際しての株価評価は高額であり、多額の相続税が予想された。
 前代表取締役は自分自身が過大な報酬を得ることを良しとしなかったため、相続財産の現預金では納税資金が不足することが予想された。個人資産として一定の手持ち資金もあったが、相続税の納税資金としては全く不十分であり何らかの対策が必要であった。そのため、顧問税理士に相談し株式分散を行うことを決意。10年以上の年月をかけて前代表取締役の所有株式を相続人に毎年贈与を繰り返し、さらに従業員や信頼できる取引先、金融機関などに株式売却を行い、同族者の持ち株比率を51%にまで引き下げた。
 その結果、前代表取締役が他界し相続が発生した後も、相続財産の現預金で納税をすることができ、相続税の申告・納税は無事終わり、新代表取締役就任後も業績は順調に推移している。ただし、同族者の持ち株比率を51%まで引き下げているため、会社の重要事項等を決定する株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)等のためには、他の株主の同意を得ることが必要な状況となっている。

 また、事例3-2-3のように具体的な候補者は決まっていても、その準備に取り組んでいなかったため廃業に追い込まれた例もある。

事例3-2-3 後継者教育を誤り廃業に追い込まれた企業

 C社(千葉県、従業員30名)は設立30年程度の食料品小売業。現社長は堅実な経営方針であり、設立当初より高収益確保、豊富な内部留保を蓄え、店舗数がピーク時には3店舗まで拡大した。しかし、大型郊外型店舗が商圏に次々と進出して来たことにより、徐々に売上が減少、経営が悪化の一途を辿った。
 社長自身も事業継続に向け、数々の勉強会参加や陳列商品の見直し、不採算店舗の閉鎖など様々な対応策を図ったものの、それでも売上の減少を食い止めることはできず、売上高は最盛期の半分程度まで落ち込んだ。
 後継者候補であった長男は、学校卒業後他社で就業の経験を積んだ後、同社の最盛期に就職。後継者候補として父親である社長のサポートを行っていた。ただし、長男は次期経営者という視点で事業参加しているというよりは、一従業員と同じように一般担当者としての勤務を続けており、業界および時代の変化をつかむことはできなかった。そして社長もその姿にあまり疑問を感じていなかった。
 だが、次期経営者を育てて来なかった結果として、同社は事業継続の困難性に気づき、社長の高齢化に合わせて店舗を閉鎖する方向性となった。今後は会社資産であった店舗の不動産賃貸業として再生を図っている。

 事業承継の問題は、法制面、税務面などの様々な知識が必要であることから、経営者独自で解決することは難しい。そこで専門家のアドバイスを適宜受ける必要があるが、中小企業経営者にとって身近な相談相手とはどのような相手を指すのだろうか。第3-2-16図によれば、最も親身に相談している相手は税理士の31.6%であり、公認会計士の8.8%と合わせると、税務または会計監査を行う2職種で約4割を占めている。従来から中小企業の事業承継といえば相続税問題のイメージが強いため、税金面の相談に乗ることができる相手が、中小企業の身近なパートナーとして位置づけられているのだろう。同図〔2〕を見ると税理士・公認会計士に対して最も親身に相談を行っている中小企業は、相続対策等のより専門的な知識が必要な対策を行っており、事業承継時にトラブルとなりそうなことに早期着手していることが確認できる。また、「役員・従業員」に最も相談しているとする企業が18.1%、「配偶者」とする企業が13.1%あるが、これは、後継者が決定した状況ならば後継者教育や経営環境整備などは着手しやすい準備であるため、その相談相手として、日頃から身近な者が相手となっているということであろう。

 
第3-2-16図 事業承継に関して最も親身に相談している相手と相談相手別準備内容
〜事業承継については、税理士に相談している割合が最も高く、相続対策などの、より専門的な知識が必要とされる準備は、税理士や公認会計士に相談している企業の割合が高い〜

第3-2-16図 事業承継に関して最も親身に相談している相手と相談相手別準備内容 〔1〕最も親身に相談している相手
第3-2-16図 事業承継に関して最も親身に相談している相手と相談相手別準備内容 〔2〕相談相手別準備内容
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2.後継者を決めてはいないが、その候補者がいる企業の特性と課題
 事業承継を希望する企業のうち、具体的な後継者とまではいかないが、候補者が存在する企業は37.1%ある(前掲第3-2-5図)。このうち、約6割の経営者は引退する3年前までには後継者を決定づけたいとしていることから、準備期間に数年程度の時間をかけようと考えていることがうかがえる(第3-2-17図)。

 
第3-2-17図 後継者を決定づけたい時期
〜約6割の経営者が、引退する3年前までには、後継者を決定づけたいとしている〜

第3-2-17図 後継者を決定づけたい時期
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 候補者がいる企業は、後継者の決定時にどのような要因を重要視するのであろうか。第3-2-18図によると「経営能力の優秀さ」が56.3%を占めており、「血縁・親戚関係」の39.3%を大きく上回る。

 
第3-2-18図 後継者を決定する要因
〜経営能力の優秀さを後継者の決定要因として挙げる経営者が多い〜

第3-2-18図 後継者を決定する要因
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 また、子息・子女の有無、血縁相続人の人数などによって、候補者から後継者を選ぶ判断基準が変わるかどうかの分析を行ったが、「経営能力の優秀さ」が「血縁・親戚関係」を上回る傾向には特段の違いは見られなかった10。これは、単に自分に子息がいるか否かということで、後継者を判断する基準には違いがあまり生じないことを示していると考えられる。後継者が決定していた企業では8割以上の経営者が後継者に血縁関係者を選定していたが、必ずしも血縁関係という理由だけではなく、経営者としての素質が後継者に求められていることが確認できる。血縁関係だけでなく、経営能力面を重視11する経営者の意識が読み取れるところであり、会社の経営を担っていく上では妥当な考え方だと思われる。

10 具体的な数値については、付注3-2-2を参照。
11 分林(2002)は、中小企業経営者の後継者が必要な能力として〔1〕株式の時価購入能力、〔2〕個人資産の担保提供能力、〔3〕個人保証応諾能力、〔4〕財務面・経営面での知識や統率力といった経営能力の4つの能力を挙げている。


 次に、現在いる候補者の中から最終的に後継者を決められなかった場合を確認してみよう。第3-2-19図は、「親族や社内から適当な経営者を決められなかった場合には、どのような方針をとるか」という質問に対する回答であるが、「社外から経営者を探す」企業が55.2%、「会社の売却を視野に入れる」企業が22.1%、「廃業することを視野に入れる」企業が10.3%である。事業売却や廃業という選択をするよりは社外から経営者を招聘したい、という回答の割合が高く、現時点で適当な候補者がいない企業(3.)と同様の傾向を示したため、これついては次に併せて分析したい。

 
第3-2-19図 現在の候補者に決定しなかった場合の対応
〜現在の候補者に決定しなかった場合は、社外から経営者を探すとしている企業の割合が高い〜

第3-2-19図 現在の候補者に決定しなかった場合の対応
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3.適当な候補者がいない企業の特性と課題
 前掲第3-2-5図より、事業承継を望む中小企業のうち、現時点で適当な候補者がいないとしている企業が18.9%あることが確認できた。とりわけ、55歳以上の経営者に限ったときにも、適当な候補者がいないとする企業の割合が15.5%もある。準備期間を含めて、事業承継の数年前までには後継者を決定しておく必要があることを考えると、これらの企業は、今後数年のうちに後継者が決まらず事業承継ができないという深刻な事態に陥りかねないことを表している。
 先に述べたように、適当な候補者が決まっていない企業の割合は債務超過企業で比較的高く、一定の関係があることが分かるが(前掲第3-2-12図)、企業の財務状況のみが候補者の未決定に影響を与えるわけではなく、財務上は何ら経営の継続に問題がない企業も多い。
 現時点で後継者の候補者もいない企業では、今後、後継者を決めるためにどのような取組を行っていくつもりであろうか。「役職員を候補として育成・教育する」と回答した企業が56.0%、「社外から経営者を探す」企業が37.8%、「会社の売却による承継を検討する」企業が21.2%となっている(第3-2-20図)。

 
第3-2-20図 後継者を決めるための対応
〜候補者が決まっていない企業は、社内で候補者を教育・育成することを希望している企業が多い〜

第3-2-20図 後継者を決めるための対応
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 役職員を経営者として育成する場合は、先のコラム3-2-1で述べた役職員の株式取得資金確保の問題や、経営者の個人保証の問題など、経営能力以外のところで様々な問題の発生が予想される。その一方で、「社外から経営者を招聘する」という方向は有効な解決策となり得るのであろうか。具体的に経営者が想定している姿を確認したい。
 第3-2-21図は、社外からの経営者を招聘する際に具体的にどのような先を検討しているか確認したものであるが、現時点で後継者の候補者がいる企業でも、いない企業でも、取引先や同業者、金融機関といったステークホルダーではなく「その他」から招聘したいと回答している企業の割合が高い。中小企業にとって、利害関係者は企業内容をよく知っている者でもあり具体的な相談を行いやすいと考えられるが、半分程度かそれ以上の企業が、ステークホルダーでない者からの経営者招聘を望んでいるのである。これは、周囲に適当な経営能力を持つステークホルダーがいない、という現状もあろうが、取引先や同業者など利害対立や競合関係が生じやすい相手は、自社の事業をよく知っているからこそ、逆にしがらみや心理的抵抗感があるという実情を表しているのではなかろうか。

 
第3-2-21図 社外から経営者を探す際の招聘先
〜社外招聘を検討する場合は、自社のステークホルダーでない者を希望する傾向〜

第3-2-21図 社外から経営者を探す際の招聘先
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 しかしそうは言っても、自社のステークホルダーでない「その他」から自社を委ねる経営者を探すとなると(特に、今後数年以内に探すとなると)、実際には最終的に、最適な後継者・承継先を見つけることができない可能性が大きい。事業を承継したいにもかかわらず、後継者が見つからないために行き詰まるという可能性が予想されるのである。

 承継に当たってどのような選択をとるにしても、専門家への相談など、具体的な準備行動を始めることが求められよう。そしてなお後継者決定のための様々な方策を試みても最終的に後継者を見つけることができなかった場合は、廃業や事業売却などの選択を迫られることになる。
 ここで、事業売却による承継については次の第3節で詳述することとし、「事業売却を行うよりは廃業を検討する」とした企業について分析しておきたい。
 現時点で適当な候補者がいない企業において、後継者が見つからなかった場合に事業を廃業するか売却するか確認したところ、「事業の売却」よりも「廃業」を選ぶとした企業は17.9%ある。経営者の年齢別に見ると、55歳以上では22.7%、55歳未満では8.9%であり、特に55歳以上の経営者でその傾向は高い(第3-2-22図)。年齢が高くなるほど、事業売却やM&Aに抵抗感を感じている経営者が多いことが見てとれる。事業売却を行うよりは廃業を選ぶという、主な理由を確認しよう。「事業売却が自社に可能だとは思えない」とする企業の割合が48.8%であり、「事業売却に見合う収入が見込めない」の20.2%がその次の理由である(第3-2-23図)。しかし、「事業売却が自社に可能だとは思えない」と回答している企業のうち、債務超過でない企業が75.0%もあり(第3-2-24図)、事業売却に関する具体的な情報が不足しているために、事業売却の活用を初めからあきらめて廃業を検討している可能性も否定できない。次節で述べるように、事業売却は財務状況が良好であれば、従業員規模が小さい企業でも活用可能な手段であり、事業売却について情報収集を行ってみるというのも廃業を回避する手段の1つになるかもしれない。したがって、次節では、後継者がいない企業でも廃業を避けることができ、事業を継続する手段として活用が可能である、事業売却による承継について触れていきたい。

 
第3-2-22図 後継者が見つからなかった際の会社の売却と廃業の選択
〜55歳以上の高齢層経営者の方が、事業売却よりも廃業を選択する割合が高い〜

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第3-2-23図 事業の売却よりも廃業を選ぶ理由
〜事業売却を自社に可能な手段だと考えていない企業が多い〜

第3-2-23図 事業の売却よりも廃業を選ぶ理由
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第3-2-24図 事業売却が自社に可能と思えない企業の資産状況
〜事業売却が自社に可能だとは思っていない企業のうち、債務超過企業は25.0%に過ぎない〜

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 第2節 中小企業経営者の抱える事業承継問題

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