第3部<テーマ分析[2]>少子高齢化・人口減少社会における中小企業 

第2節 人口減少が経済に与えるインパクト

1.総人口・労働力人口の減少が経済成長に与える影響
 総人口が減少した場合、それが国内総生産(GDP)全体に対し減少方向に寄与することは間違いないが、個々の国民や中小企業の立場に立てば、国民個々人の豊かさ(例えば1人当たりGDP)が維持されれば、人口減少社会も必ずしも悪いことではないと言える。
 だが、少子高齢化社会の問題は、現状を放置すれば国民個々人の豊かさが十分に維持できない可能性があることである。少子高齢化に伴い総人口に占める生産年齢人口の比率が低下するため、生産年齢人口に対する労働力率が上昇しなければ、全人口に占める労働力率が低下してしまう。労働投入量が減少していく社会においては、労働者1人当たりの生産性を高めなければ、成果物としてのGDPが減少し個々の国民の豊かさが損なわれる恐れがある。
 ただし、GDPの成長は労働投入量のみによって決まるものではなく、設備投資等による資本投入量の増加や技術進歩等による全要素生産性(TFP)9の向上がGDPの成長に寄与する割合は高い。通商白書(2005年版)によると、これまでの我が国の経済成長は労働投入だけで規定されるものではなく、むしろ資本蓄積とTFPの貢献が大きかったとあり10、経済成長を論じるに当たってはこの点に留意しなければならない。しかし、労働力が経済成長にインパクトを与える要因であることに変わりはなく、少子高齢化により労働力人口の急激な減少を目前に控えている我が国においては、1人当たり生産性を向上させる対策と併せて、労働力率を維持・向上させるための対策が求められることもまた確かである。

9 全要素生産性(TFP)とはTotal Factor Productivityの略であり、経済成長を論じるための重要な概念である。全要素生産性は、経済成長率のうち資本と労働の貢献分以外の残差として定義づけられている。
10 同白書においては、「労働力が減少しても、資本蓄積や知的財産の活用を通じて、それ以上に生産性を向上させることで労働力減少分のマイナスを補うことができれば、今後とも経済成長を達成することが可能である」と指摘されている。


 経済成長を考える上で、もう一つ忘れてはならないのは、人は「生産者」であると同時に「消費者」であるという点である。「消費者」としての人に着目すると、人口減少は消費需要を中心とする国内市場の縮小要因となり、経済成長を阻害する懸念がある11。つまり、人口減少は市場に対して供給側・需要側の両方に大きなインパクトを与えているのである。

11 国内市場の縮小もまた、必然的に経済成長を阻害するわけではないことには留意が必要である。外需(輸出)を伸ばすことで需要を維持することは考えられる。また、国内総生産(GDP)の成長ではないが、東アジア地域における経済関係が深化する中、海外投資を進め、その収益を国内に環流することで国民総生産(GNP)を成長させることも可能である。供給側における生産性向上と同様、人口規模の維持以外に目を向けた対策も、併せて考えるべきであろう。


2.我が国の経済活力を維持していくための雇用面からの取組
 我が国の経済活力(国民一人ひとりの豊かさ)を維持するためには、〔1〕全人口に占める就業率を維持・上昇させること、〔2〕国内市場の需要の縮小を抑えることが有力な方向性となり得るが、そのためには、以下の2つの面からの取組を共に進めて行かなければならない。

(1)潜在的労働力の掘り起こし
 我が国の経済活力維持のためには、まず第一に、政府が雇用政策を展開し雇用創出に向けた取組を進めるとともに、個々の企業が多様な労働者の就業可能性(エンプロイアビリティ)を高める努力をしていくことで、生産年齢人口に占める就業率を高めていくことが不可欠である。
 具体的には、新規に労働市場に参入する若年者の活用、現在専業主婦等の形で労働市場に参入していない女性労働力の活用、まだ働く意欲があるのにチャンスを与えられていない高齢者の活用、といった方法が考えられる12

12 なお、潜在的労働力の掘り起こしという観点からは、これら以外に外国人労働者の受入れという方法も考えられる。法務省「第3次出入国管理基本計画」(2005年3月)においては、「生産年齢人口が大幅に減少していく中においては、まず、専門的・技術的分野における外国人労働者の受入れを一層積極的に推進していくことが重要である」とする一方、「現在では専門的・技術的分野に該当するとは評価されていない分野」については「その受入れが我が国の産業及び国民生活に与える正負両面の影響を十分勘案する必要がある」としている。外国人労働者の受入れ分野を拡大していくことの是非及びその方法については、今後更なる検討が必要であろう。


 若年者については、フリーター・ニートの数が依然として多いという問題がある。一方、雇用が不安定な若年者の中には定職につきたいがチャンスがない者も数多く含まれており、このような就業意欲のある若年者が多く存在していることは、中小企業にとっては若年者確保の好機であると言える。
 女性については、我が国では育児と仕事の両立が困難であり、特に30代の女性の労働参加率が低くなっている。女性の中には、育児負担が重いために仕事を続けることが難しい者も多く、育児をしながら仕事を続けられる環境を作っていくことで、女性の労働市場への参入を促進していくことが必要である。
 高齢者については、団塊世代の定年を目前に控え、その影響が危惧されているところである。高齢者の中には、社会貢献・自己実現・健康維持等の様々な理由で定年後も働き続けることを希望する者がおり、人材不足に悩む中小企業にとっては貴重な労働力となりうる。また、豊富な経験を持つ高齢者は、企業内での従業員教育や地域コミュニティの担い手としても活躍が期待される。
 では、就業率を上げることによる雇用創出効果を総務省「就業構造基本調査」を利用してシミュレートしてみよう。
 第3-1-6図は、(i)就業率が2002年から変化しない場合13、(ii)すべての年齢層の就業率が2015年までに1992年の水準(近年で最高の水準)まで徐々に回復する場合14、(iii)20〜30代の女性及び60〜64歳の高齢層の就業率が毎年0.5%ずつ上昇する場合15の3つのケース16について将来の就業者数を試算したものである。(i)のケースでは、人口減少に伴って2005年から2025年までの20年間に621万人も就業者が減少してしまうが、(ii)のケースでは302万人、(iii)のケースでは422万人の減少にそれぞれ抑えることができる。

13 総務省「就業構造基本調査」によると、2002年の就業率(15歳以上の男女合計)は59.5%となっている。
14 総務省「就業構造基本調査」によると、1992年の就業率(15歳以上の男女合計)は63.9%となっている。ここでは、就業率が2006年から2025年までの20年間で1992年の水準まで平均的に回復するケースを想定している。
15 このケースで試算した場合の2025年の就業率は、20代女性78.0%、30代女性68.8%、60〜64歳男性75.8%、60〜64歳女性49.5%となる。これら以外の性齢の就業率については、2002年の数値で試算している。
16 (ii)、(iii)の各ケースの就業率については付注3-1-4参照。


 
第3-1-6図 就業率が変化した場合の将来の就業者数
〜就業率回復により就業者数の減少幅を抑えることが可能〜

第3-1-6図 就業率が変化した場合の将来の就業者数
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 我が国の中小企業はこれまで若年者、女性、高齢者などの多様な労働力を活用してきていることから、今後、中小企業の役割はますます重要になるだろう。

(2)出生率の回復
 第二に、出生率を回復させることにより人口規模の減少・市場における需要規模の縮小を抑えることも、長期的には我が国の経済活力を維持する上で多大なインパクトを与える。
 第3-1-7図は、2050年に向けて合計特殊出生率が1.29(現状維持)、1.39(中位推計)、2.08(人口置換水準)、2.5となっていく各ケースの総人口についてそれぞれ推計したものである。これによると、合計特殊出生率が現状の1.29のままのケースでは、2050年の総人口は8,878万人まで減少してしまうが、出生率の回復により減少幅を小さくすることができる17

17 詳細値は付注3-1-5参照。

 
第3-1-7図 合計特殊出生率が変化した場合の将来の総人口
〜出生率を回復させることにより総人口の減少幅を抑えることが可能〜

第3-1-7図 合計特殊出生率が変化した場合の将来の総人口
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 出生率の上昇については、婚姻率・婚姻年齢、結婚後の出産率・出産数、婚外子比率など複雑な要因が絡むが、大きな要因として指摘できるのは、国民個々人の「働き方」が「子どもを産み育てやすい社会」にとって重要な要素であるという点である。特に、中小企業になるほど乳幼児期を過ぎた子どもを育てている世代の女性が正社員として活躍している比率が高く18、中小企業は「仕事と育児の両立」を考える上で重要な役割を持つであろう。

18 第3部第3章参照。


 第2節 人口減少が経済に与えるインパクト

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