第1部 2005年度における中小企業の動向 

第2節 事業の存続・倒産と再生

1.開業後の事業存続と倒産の動向
 第1節で見たように、我が国の事業所・企業ベースでの開業率は、近年、下げ止まりから上昇に転じつつある。
 そこで、次に、開業した企業の事業存続の様子について見てみたい。
 第1-2-21図〔1〕は、開業後10年までの事業所について、それぞれ前年からの生存率を示している9。これを見ると、開業した直後の事業所は生存率が低く、その後年数を重ねるにしたがって次第に生存率が安定していく様子が示されている。

9 今回の手法を用いる上では、パネルデータ(個々の調査対象を時系列で追跡できる統計データ)が必要になる。さらに、開業年をある程度特定的に推定し、経過年別に生存率を観察する上では、毎年実施される調査を用いることが望ましい。この条件を満たす統計として経済産業省「工業統計表」を用いた。ただし、同統計の設計上、集計対象は製造業に限られ、また従業者4人以上の事業所に限定されていることに留意が必要である。なお、別の業種、例えば商業やサービス業について分析をする上では、経済産業省「企業活動基本調査」は全数調査かつ毎年実施されるものの、調査対象が会社企業に限定されているだけでなく、従業者50人以上かつ資本金(又は出資金)3,000万円以上の規模を満たすものに限定されるため、小規模であることが多い開業企業の経年生存率を観察するためには適切とは言えないだろう(従業者50人以上もの規模で創業する企業はまれである)。したがって、現行の統計制度では、創業者の生存率は製造業しか分析できないのが実情である。


 
第1-2-21図 開業年次別 事業所の経過年数別生存率
〜企業の生存率は開業後しだいに安定。ただし、個人事業所は会社に比べ生存率が低く、安定に要する期間も長い〜

第1-2-21図 開業年次別 事業所の経過年数別生存率 〔1〕全事業所ベース
第1-2-21図 開業年次別 事業所の経過年数別生存率 〔2〕会社ベース
第1-2-21図 開業年次別 事業所の経過年数別生存率 〔3〕個人事業所ベース
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 このように、開業後間もない企業は、企業経営を行う上で必要な、資金管理、人材・労務管理、技術・製品、市場へのアプローチ等種々の知識やノウハウが乏しいため、生存率が低くなると考えられる。また、規模の面から見ても、開業企業の大半は最小最適規模10を下回っていることの影響も大きいだろう11

10 最小最適規模は「平均生産費用(=生産費用/生産量)を最小にするために必要な最小の生産規模」と定義される。
11 中小企業白書(2002年版)


 次に、これを経営組織別に分解すると、会社事業所では生存率は3〜4年で安定し、かつ安定した後の生存率は前年比93%程度の水準を保つ様子が見られる(同、第1-2-21図〔2〕)。一方で、個人事業所では創業直後の生存率が会社事業所に比べかなり低く、また生存率の安定までに5〜7年と会社事業所よりも長い期間を要し、かつ安定後の生存率も前年比80%台後半と、会社事業所より恒常的に低いことが分かる(同、第1-2-21図〔3〕)。
 その一方で、経営組織の違いや、開業後の経過年数の長短にかかわらず、事業所の生存率は低下傾向にあった様子が表れている。これは、開業企業の生存環境が次第に厳しくなってきたことが現れたものと考えられる(同、第1-2-21図〔2〕〔3〕12)。

12 第1-2-21図のグラフの見方であるが、「○年経過後」の1つの軸の中に並んでいる細い棒グラフは、開業時期ごとの生存率を示したものである。例えば、「3年経過後」の軸の「開業年84年」の数値は、84年に開業した事業所が、86年(開業2年経過)から87年(開業3年経過:調査時点)までの1年間に存続していた割合を示す。


 その様子を時系列で見ると、バブル崩壊後継続的に生存率が低下してきたことが分かるが、2002年を底に2003年には上昇する兆しも見られる(第1-2-22図)。

 
第1-2-22図 開業後の経過年数と事業所の生存率
〜バブル崩壊以降低下してきた生存率も、2002年を底に上昇する兆しも見られる〜

第1-2-22図 開業後の経過年数と事業所の生存率
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 我が国の倒産件数13自体は、2001年の19,164件をピークに低下を続けてきており、2005年には12,998件と大きく減少、バブル崩壊後の最低水準となった(第1-2-23図)。これを形態別に見ると、近年は銀行取引停止処分による倒産件数の減少が大きく(第1-2-24図)、全体的に手形をはじめとする企業間信用が減少している中、不渡り手形を出して銀行取引停止処分となる企業が減少している可能性も考えられる。

13 「倒産」という用語は一義的な法的用語ではなく、通俗的に用いられるものである。ここでは(株)東京商工リサーチの統計を用いているが、同社は倒産を「弁済期にある債務を一般的に(特定の債務ではなく、どれもこれも)弁済することができなくなり、ひいては経済活動をそのまま続行することが不可能となった事態」(同社ホームページより引用)と定義している。具体的には、銀行取引停止処分、会社更生、商法第381条に基づく会社整理、民事再生、破産、特別清算、内整理とされる。


 
第1-2-23図 倒産件数と負債総額の推移
〜2001年をピークに低下する倒産件数〜

第1-2-23図 倒産件数と負債総額の推移
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第1-2-24図 形態別倒産動向と手形交換高の推移
〜手形交換高の減少とともに銀行取引停止処分が減少〜

第1-2-24図 形態別倒産動向と手形交換高の推移
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 全体として倒産件数に一服感が出ていることは事実であろうが、一方で法的申立による倒産件数自体は破産を中心に増えていることからも、先に見た足下の倒産件数の減少をただちに実際の倒産件数の改善であると直結して判断するには注意が必要である。

コラム1-2-1 ビジネス支援図書館の活動

 開業を準備する者や、開業間もない企業の経営者にとっては、ビジネスモデルに関するアイデアや、実行に移すための知識、経営管理上のノウハウといった情報を、限られたネットワークやソースの中でどのように入手するかが重要な問題である。この点、「ビジネス支援図書館」と呼ばれる、公共図書館によるビジネス支援活動が注目を浴びている。
 これは、地域の図書館が持つ豊富な情報の蓄積と、司書によるレファレンスをもとに、創業者や経営者へ情報の橋渡しの役割を担うことで、地域における開業活動や中小企業経営等を支援するものである。2001年度にビジネス支援に取り組む図書館は全国で4館に過ぎなかったが、2005年7月には30館を超えるに至っており※、取組を検討中の図書館も多く、着実な広まりを見せている。
 支援に向けた取組は図書館により様々だが、代表的な機能としては、〔1〕図書館としての公共性を活かして大量に蓄積した幅広い分野のビジネスに役立つ文献・雑誌等紙媒体の情報を、ビジネスをキーワードに集め一覧できるようにして提供したり、インターネットやデータベースといった電子媒体を無料で提供していることや、〔2〕必要な情報へどのようにアクセスすればよいか分からなくとも、情報収集のノウハウを持つ司書によるレファレンスサービスを受けることができること、〔3〕平日のみならず土日も開館しているため、フルタイムの仕事を持つ者にも利用しやすく、無料であることと併せて、誰にとっても敷居が低く利用しやすい公共施設であること、〔4〕図書館によっては行政や商工会議所、大学等専門的なノウハウと機能を持つ機関と連携を図っており、情報へのワンストップ的なアクセス窓口となっていること、〔5〕開業セミナー等の開催による情報発信を挙げることができる。
 具体例として品川区立大崎図書館の活動を見ると、モノ作りに関する情報を中心に、4,000冊以上の専門書やビジネス書、8種のオンラインデータベース、約80誌のビジネス雑誌・新聞を取り揃えるほか、品川区産業振興課からのコーディネータの派遣や、NPOによるよろず相談会、経営者や技術者同士の交流会の開催等外部機関との連携を実施しており、知識やノウハウを有する協力者の参画を受けることで、ニーズに合った情報や奥行きのある支援を提供している。
 ビジネス支援に取り組む図書館の広がりとともに、このような地域に密着した取組を通じて、開業活動の活性化や、開業間もない企業の生存率の向上につながることが大いに期待される。


※ ビジネス支援図書館推進協議会調べ

2.事業再生
 次に、事業再生の動きに目を転じてみたい。
 企業の経営に当たって必要な3要素として、“ヒト(組織機能)”、“モノ(流通・生産機能)”、“カネ(金融機能)”の3つがしばしば指摘されるが、これらは別個独立した存在ではなく、それぞれが相互に影響を及ぼす関係にある。財務構造の悪化や債務超過に陥った場合においても、そこに至るまでには、業界の動向や消費者の需要の変化、経営方針、販売・物流の状況、設備投資、設備の稼働・在庫管理、労務管理、原価管理などのマネジメントが根元的な問題として存在するはずである(第1-2-25図)。

 
第1-2-25図 経営要素と倒産、再生の概念図

第1-2-25図 経営要素と倒産、再生の概念図

 このため、企業の再生を考えるに当たっては、一時的な財務面の支援だけでなく、財務状況が窮境に至った原因を特定し、組織機能や流通・生産機能の見直しを同時に行うことで、それら三要素の循環的な回復を図らなければならない。
 そうした回復の道のりを歩むには、経営者や従業員が再生への熱意を持って内部的な取組を行うだけでなく、仕入先・販売先や債権者などのステークスホルダーの協力も必要となる。経営再建と言っても仕入や販売が成り立たなければ絵に描いた餅であるし、債権者の動向如何では設備・物品などの事業基盤や法的人格の存立すら危うくなるのである。
 このように、事業の再生は、経営の各要素についてバランスよく、かつ、多くの関係者の理解を得つつ取り組んでいくことが必要なため、それぞれの企業の状況に最も適したスキームに基づき取り組むことが必要である。
 法的手続による再生の場合は、原則としてすべての債権者を拘束し、弁済禁止の保全処分等により企業資産の流失を防ぐことができる一方、私的な手続は金銭的・時間的なコストを抑え、仕入先や販売先の信用不安を回避することが可能で、柔軟な再生策の実行が可能とされる。他方、法的手続による場合は、手続が長期にわたる傾向があるほか、手続開始の申立てを行うことで「倒産」の負のイメージが広がり、取引の維持・拡大の上でハンディキャップとなる恐れがあるとの指摘がある。
 こうした中、2003年2月以来、産業活力再生特別措置法に基づき「中小企業再生支援協議会」(以下「協議会」という)が各都道府県に設けられた。協議会は、破綻のおそれがある状態まで至っていない企業も含め、金融機能の見直しのみならず、組織機能・流通・生産機能の見直しを含め経営全般の相談や専門家の紹介など幅広く支援を行うほか、ステークホルダーとの調整役として中立的な立場で機能するところに特徴がある。また、破綻するおそれがある状態からの回復だけでなく、経営の悪化を未然に防ぐ役割を果たしている。
 ここで簡単に協議会の活動実績を見てみよう。

(1)協議会の活動状況
 2003年2月に協議会が設立されて以来、実績は着実に伸び、2006年1月末現在の累計で相談件数は8,338件に上っている(第1-2-26図)。2003年度に比べると2004年度の新規相談件数は減少しているが、2005年度には増加に転じており、引き続き協議会へのニーズは高いものと考えられる。

 
第1-2-26図 再生支援協議会の実績

第1-2-26図 再生支援協議会の実績
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 相談企業に対する対応状況を見ると、44.5%の企業は経営面・資金繰りの改善へのアドバイスや適切な関係機関への紹介を受けたり、また、協議会が金融機関との調整を行うことで新規運転資金の調達が可能になる等により、相談の段階で課題が解決していることが分かる(第1-2-27図)。

 
第1-2-27図 再生支援協議会への相談企業に対する対応状況
〜相談の段階で課題が解決する割合が高く、協議会の活動は企業の深刻な事態を未然に防いでいると評価出来る〜

第1-2-27図 再生支援協議会への相談企業に対する対応状況
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 企業の傷みが深くなるにつれて、再生の可能性が低くなってしまい、また、そこから再生するには長い時間を要するだけでなく多数の利害関係人を巻き込むこととなる。協議会の活動は、そうなる前に簡便な相談という形で、多くの中小企業の問題を解決していると言えよう。

(2)再生計画策定と履行の状況
 協議会において、これまでにとられた再生計画の具体的な手法を見てみよう(第1-2-28図)。

 
第1-2-28図 再生計画の具体的手法
〜事業面・財政面の両面での再生を図っている〜

第1-2-28図 再生計画の具体的手法
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 「事業面での再生」については、製品別や取引先別に管理会計を導入する手法が最も高くなっている。管理会計の導入により、自社の状態を把握することで製造原価や販売管理費の低減につなげたり、特に中小企業においては、相対的に乏しい経営資源を収益性の高い分野に集中させるのである。
 「財務面での再生」を目的とした手法としては、「新規融資」や「既存借入金のリスケジュール」が多い。このいずれかの手法を用いた案件は全体の9割を越えており、ほとんどの案件で新規融資又は既存借入金のリスケジュールが実現されている。なお、こうした案件の中には、民間金融機関単独では支援が困難な場合も存在すると考えられるが、約5割の案件において政府系金融機関の新規融資やリスケジュールが実施されており、民間金融機関の補完や、民間金融機関の支援の呼び水としての役割を果たしている様子がうかがえる。
 また、新しい金融手法のDES14やDDS15が用いられるほか、特に最近では、企業再編や債務免除といった、多数の利害関係者の協力・調整なくしては実施が難しい手法が用いられる傾向が見られる。

14 Debt Equity Swapの略で、借入金を株式に転換すること。再生を図る企業にとっては、支払利息の消滅と財務体質の向上をもたらし、金融機関にとっては株式を取得することで経営に関与し、企業経営の健全化を促進する効果が期待できる。
15 Debt Debt Swapの略で、借入金を返済順位の低い劣後ローン(借入)に転換すること。金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕(2004年2月)では、中小・零細企業向けの要注意債権(要管理債権も含む)に関し、必要な要件のすべてを満たす貸出金に転換している場合には、債務者区分等の判断において、金融機関が当該資本的劣後ローンを資本とみなすことができるとしている。これにより、再生を図る企業の債務者区分を引き上げることが可能となり、資金調達の安定化が期待できる。


 これは、政府系金融機関や自治体の支援制度の整備や地域金融機関との連携、金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)における協議会が作成を支援した再生計画の取扱いの明確化や、債権放棄の税務上の取扱いの明確化といった、支援協議会を軸とした様々な再生支援の環境整備が進んできた成果であろう。
 したがって、協議会の取組は、取扱件数の伸びという量的な機能の伸張だけではなく、質的にも重い再生案件を手がけるように変わってきていると考えられるのである(第1-2-29図)。

 
第1-2-29図 企業再編や債務免除への取組推移
〜企業再編や債務免除等利害関係人の協力が不可欠な重い取組が増加〜

第1-2-29図 企業再編や債務免除への取組推移
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 なお、協議会が支援して作成された事業再生計画の履行状況については、全体の6.8%の企業が債務超過を解消するなど既に正常化を果たしたことを含め、76.5%の企業が概ね順調に推移しており、法的整理等へ移行した企業は1.9%となっている16(第1-2-30図)。

16 (株)東京商工リサーチの調べによれば、2000年4月から2005年12月の間に民事再生手続の開始決定が4,033件なされた一方で、廃止決定がそのうちの852件に対してなされたとされており、21.1%もの割合で再生の目処が立たずに、破産等倒産の手続きへ移行したことになっている。


 企業の倒産は、一企業の問題に留まらずに、取引先企業へ二次倒産のリスクを及ぼすこととなり、負の連鎖が拡大することを意味するものである。法的手続の申請要件を満たすほどの深刻な状態に陥る前の段階で、中立的立場で事業面と財務面の両面の再生を手がける協議会の役割は、潜在的な効果も含め相当大きいと言えるだろう。

 
第1-2-30図 計画策定後の経営状況
〜76.5%の企業が概ね順調に推移している〜

第1-2-30図 計画策定後の経営状況
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 第2節 事業の存続・倒産と再生

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