3.地域経済と産業の集積
(1)地域特化の経済性
これまで、個々の企業行動と、集積地に立地する企業サイドから見た集積の魅力及びその変化について見てきた。そこからは、企業行動が広域化する中でも、企業が集積地に立地する意義は現在も存在するが、全体としては企業にとっての地域の現実的な魅力が薄れてきている様子がうかがえる。次に、地域にとって、同業種・関連業種の企業が集中して立地することにより、地域経済の活性化にどのような影響をもたらすかを見てみよう。
特定の産業が集積することによるメリット、機能として、規模の経済性または範囲の経済性が指摘される14。規模の経済性とは、一般的には、企業の規模が大きくなるに従い、生産要素に比して生産量が増加する「収穫逓増」と、生産一単位当たりの費用(平均費用)が生産量の拡大とともに低下していく「費用逓減」の両方の経済性を兼ね備えるものであり、企業のケースと区別するために、地域という空間においては、地域特化の経済と呼ばれる15。こうした経済の外部効果が地域経済全体にどのように影響しているのであろうか。経済産業省「工業統計表(工業地区編)」により、工業地区を地域単位16として、その工業出荷額の伸び率(1995年から2000年)と出荷額第1位業種の出荷額ウェイトの関係を見ると、特定産業(出荷額第1位の業種)が総工業出荷額に占める割合の高い地域ほど、出荷額の伸び率が高くなっており、特化の経済性が地域経済に好影響を及ぼしている可能性が指摘できる(第2-3-16図)。しかしながら、特化の経済性は地域の一人当たり付加価値生産性を伸ばすには有意に働いておらず17、地域における主要業種(出荷額第1位の業種)は上記の期間においても約3分の1の地域で変更があり、地域経済の牽引役も時代ごとに変化している。主要業種の変更は、それまで地域を牽引してきた産業の相対的な地位の低下を意味するものである。そのため、当該地域全体の活力の低下に繋がる可能性も考えられるが、例えば、先の工業地区を主要業種の変更があった地区となかった地区に分類し、その地区の出荷額伸び率を見ても、有意な差は見受けられない。それよりも、主要業種の変更があった地域の方が、付加価値生産性の伸び率については高くなっており、必ずしも既存の産業に固執する必要はないことを表している(第2-3-17図)18。地域においては、変化する市場のニーズに対応して、時代の要請に応じた高付加価値商品・サービスを生み出していくことが、今後の地域経済活性化にも不可欠であろう。
第2-3-16図 出荷額1位業種のシェア比率と出荷額増加率(1995年〜2000年、各工業地区における主要業種の出荷額構成比別)
〜主要業種の構成比が高い地域において、出荷額の増加率が高い〜
第2-3-17図 出荷額1位業種の変更の有無と付加価値生産性上昇率(1995年〜2000年、工業地区別)
〜主要業種に変更のあった地域で付加価値生産性の伸び率が高い〜