第2部 経済構造変化と中小企業の経営革新等 

(3)内部環境を把握するための財務分析の重要性

 経営革新のための意志決定を経営者が行うためにはその前提として企業の置かれている現状を理解することが必要である。企業の置かれている現状を理解するには、市場構造の変化、競合企業の有無などといった外部環境から、自社で保有する技術・ノウハウ、財務状況といった内部要因まで様々な要素を把握する必要があり、こうした構成要素が変化すれば、企業の戦略も変わり、経営者の意思決定も対応して変化させなければならない。
 特に財務状況は、自社の内部環境を把握する上で最も基礎的な指標であり、将来の経営計画を検討する際にも現在の財務状況がベースになること、また、企業として最悪の結果となる倒産は、倒産に至る前の兆候として財務状況の悪化がみられる39ことから、経営者は日頃から財務状況の把握に取り組む必要がある40


39 中小企業白書(2003年版)p111〜113参照。企業倒産の兆候として、自己資本比率の低下、預借率の低下、倒産前の負債の増加、売上の減少等がみられることが多いと述べている。
40 中小企業経営者の会計に対する啓蒙として、中小企業大学校や全国の商工会議所・商工会等で、「中小企業の会計」等を題材にしたセミナーが開催されている。また、独立行政法人中小企業基盤整備機構では、ホームページで「経営自己診断システム」(自社の財務数値を入力すると、財務状況と経営危険度を無料で点検できるシステム)が公開されている。


 企業の財務状況は、企業の活動の成果を表す決算書に反映されるが、第2-1-46図41によると決算書の作成・分析活用のために必要なこととして、「財務分析等の経験や知識を有した人材の獲得」は3割前後でしかないのに対して、企業規模の大きさに関わらず、8割前後の企業が「経営者自身が理解を深めること」と考えている。つまり、どれだけ企業が大きくなったとしても他人任せにせず、経営者自身が財務状況の理解を深める必要が認識されている。


41 中小企業庁「会計処理・財務情報開示に関する中小企業経営者の意識アンケート」(2004年2月)


 
第2-1-46図 決算書の作成・分析の活用のために必要なこと
〜企業規模が大きくなっても、財務分析は他人任せにせず、自ら理解する必要がある〜

第2-1-46図 決算書の作成・分析の活用のために必要なこと〜企業規模が大きくなっても、財務分析は他人任せにせず、自ら理解する必要がある〜
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 では、経営者は決算書をどのように活用しているのであろうか。決算書を活用している企業と業績との関連、特に赤字企業について業績が好転するか否か(業績好転企業、業績悪化企業)について比較してみよう。第2-1-47図によれば、「過去の売上と利益について比較を行い、その推移を確認している」は業績好転企業、業績悪化企業に関わらず、8割以上の企業が実施しており、一般的には決算書を使って時系列比較を行っている。しかしながら、決算書の活用はこれだけにとどまらず、経営判断に必要な財務分析、事業計画の作成などに応用可能である。上記と同様に業績好転企業、業績悪化企業で借入額の推移、各種経営指標の分析、財務分析に基づいた事業計画の作成等を行っている企業の割合を比較すると、業績好転企業の方が高い42


42 こうした財務分析を行うには、適切な会計に基づいた決算書を作成する必要がある。また、金融環境や取引構造が大きく変化している中で、中小企業が取引先や金融機関の信頼を得るためにも、信頼性のある決算書を作成する必要がある。中小企業庁では、こうした適切な会計ルールの指針として、2002年6月に「中小企業の会計に関する研究会」を開催し、中小企業にふさわしく、また過重な負担とならない『中小企業の会計』を作成、公表した(これを分かりやすく解説した『中小企業の会計38問38答(改訂版)』を年間約40万部配布している)。


 
第2-1-47図 決算書の活用方法
〜業績を好転させるためには、決算書の財務分析は有効〜

第2-1-47図 決算書の活用方法〜業績を好転させるためには、決算書の財務分析は有効〜
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 こうした財務状況の把握と業績パフォーマンスの関係は月次試算表の作成や事業計画の見通しの期間に対する姿勢にも現れている。財務状況は自社の成績を反映したものであるから、前月の結果である試算表を出来る限り早く作成し、自社の状況を把握する必要がある。実際、経常利益が増加傾向の企業は、月次試算表を作成するまでの時間は短く、締めてから1週間以内に試算表を作成する企業が約3割、2週間以内だと約7割と、経常利益が減少傾向の企業に比べるとその割合は高い(第2-1-48図)。

 
第2-1-48図 月次試算表の作成時間
〜経常利益が増加傾向の企業は、素早く自社の状況をチェックしている〜

第2-1-48図 月次試算表の作成時間〜経常利益が増加傾向の企業は、素早く自社の状況をチェックしている〜
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 また、経営者は事業活動の際に、ある程度の事業の見通しを立てて行動しているが、目の前のことのみを考えて行動するよりも、長期見通しを立てて行動する必要がある。近視眼的な行動は、本来行うべき企業行動が見えなくなり、事業の方向性が間違っていても気づかない可能性や、事態の悪化に気づいた時には対応の余地が無くなっている可能性もある43。実際、第2-1-49図によると、経常利益が増加傾向の企業は、経常利益が減少傾向の企業に比べて事業見通しの検討期間(短期事業計画)が長い。
 つまり、業績を向上させようとするならば、決算書を過去と比較するだけで済ませるのではなく、そこからもう一歩踏み込んだ財務分析を経営者自身が理解すること、また月次試算表の作成時間を速めることで自社の状況を早く把握し、次の事業計画を立てることが重要なのである。


43 計画のグレシャムの法則といわれる(Simon.H.A.(1977))。目の前のことで忙しい状態が続くと、長期的視点に基づく行動を取ることができなくなる。


 
第2-1-49図 事業の見通しの検討期間(短期事業計画)
〜経常利益が増加傾向の企業は、事業見通しの検討期間も長い〜

第2-1-49図 事業の見通しの検討期間(短期事業計画)〜経常利益が増加傾向の企業は、事業見通しの検討期間も長い〜
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 第2節 経営革新と経営者の役割

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