平成9年版中小企業白書の要点

●ねらい

’中小企業’その本領の発揚
  競争環境の変化が進む中で、中小企業に(1)変化への即応性の向上が必要であること、(2)そのために優位性を持つ経営資源(経営力、技術力、人材)を涵養し、(3)他との新たな連携(戦略的な連携)を築くことにより、事業展開の幅を広げることが望まれること、さらに、こうした中小企業の本領を発揚するため、(4)中小企業の経営革新を促進する環境整備の重要性を指摘する。

 

第1のキーワード:「変化への即応性」
  市場の変化を適切に把握し、迅速に意思決定を行い、財・サービスを具現化する能力。情報化の進展や需要動向の変化を受け、大企業が市場の変化に俊敏に対応可能な組織への改革を進め、意思決定や製品開発を迅速に行う能力を高めてきている。一方、機動性を優位性として持つとされてきた中小企業では、近年、必ずしも変化への即応性を高めているとは言えない状況にある。

  大企業では約6割が意思決定を短縮化。逆に、中小企業では遅くなっているものが約1割存在。 

意思決定の速さの変化

  経営者自身も状況分析・判断能力、将来ビジョン思考能力等が必要としている。 

中小企業の経営者に求められる資質・知識

<製品開発を速めるためのアウトソーシング活用事例(大企業の視点から)
  当社(大企業)は研究開発を積極的に行っている精密機械メーカーであるが、こういった企業にとって、製品開発のスピードとタイミングは生命線である。一方で、そのために多くの人材を抱えることは、経費面での制約もあり、また企業規模が大きくなるほど、開発支援部門(部品調達・試作加工)に種々のルールが存在し、小回りが利かなくなる。このため、製品開発に当たっては開発作業内容を、スタート時に徹底してブレイクダウンしておき、各作業をアウトソーシングすることがスピードアップの効果的な手法となる。
  当社では、例えば、東南アジア向けのローエンド分析装置(原子吸光装置)の開発に当たっては、東南アジアのA国へ開発部隊を派遣し、開発に専念させると共に、ハードウェアに伴う部材は現地企業から調達し、ソフトウェアは米国の会社に委託する方法によって目標通りの開発期間で製品化を実現した。 

<意思決定の迅速化を図り、社内の活性化・業績の伸長に結び付いた企業>
  自動車部品製造及び販売業を営むE社(長野県、従業者数200人)では、ISO認証取得のための準備作業の一環として社内組織を総点検した結果、(1)営業現場の情報は、担当役員が1人で抱え込み、(2)製造現場の情報は、従来の職制を通じ常勤役員で構成する常務会まで届いても、誰も結論を出さず問題が常に先送りされる等、有用な情報がどこかで滞るとともに、緩慢な意思決定が市場対応への遅れを招いていることが明らかとなった。このため、従来からの社長−専務−常務−部長−課長といったピラミッド型の役職を廃止し、社長以外の常勤役員を1人にするとともに、新たに各部門代表者として若手次課長クラスから選抜した5人のメンバーで構成するジュニアボード(JB)を設置、これに社長、財務担当常務(唯一の常勤役員)、経営企画室顧問の3名がオブザーバー参加することにより、会社の現状と対策について部門を越えて議論し、意志決定の迅速化を図った。この結果、社内の問題状況が明らかになるとともに、直面する問題への素早い対応・迅速な処理に大幅な効果を発揮している。 

<製品開発リードタイムの短縮に取り組んでいる中小企業>
    自動車部品製造業を営むJ社(東京都、従業者数97人)は開発・生産現場の情報化を進め、開発・生産期間の短縮化を行い、他社との競争上優位に展開している。
    (当社における開発体制の変化) 

  これまで開発・生産の工程は企画→デザイン→設計→製図→試作品作成→生産(量産)の流れであったが3次元CADを導入するとデザイン、設計、製図、試作品作成という工程を同時並行的に進めることができる。CADの導入によって工程間の情報伝達は同一のデータを加工するだけで済み、またその情報をそのままNC機械に用い、加工を行うことができる。この効果によって、製品開発の一連のリードタイムを20%削減できる見込みであり、他社との競争を優位に進めることが可能となる。    同社は情報機器の導入だけでなく、それを使用する従業員の教育にも力を入れており、ある担当者がいなくなっても他の者が代わりができるように、多くの技術者にコンピュータ技術を修得させている。 

第2のキーワード:「優位性を持つ経営資源」
  自社の中核となる強みを認識し、重点的に経営資源をその強みに投入して得られる競争力。もともと経営資源が不足している中小企業にあってはすべての経営資源を自己で抱えることは不可能かつ不効率であり、優位性を持ち、中核となる経営資源を発掘し、重点的に経営資源を投入することが、競争力を向上するために重要となる。

  創造法認定企業では、製品の独自性、研究開発力、企画力等を中核となる強みとしている。

自社の中核となる強み

<技術力によって世界で高いシェアを有している中小製造業>
  電気機械器具製造業を営むB社(神奈川県、従業員数93人)はOA機器用の特殊ヒンジ(高性能の蝶つがい)に高い技術力を持ち、国内シェアの80%を占めている。同社が独自技術として特許を取得しているのはヒンジで好きな位置でものを固定できる技術で、ノートパソコンの液晶画面が代表的例である。同社は従来オーディオ機器等の部品生産から組立てまで行っていたが、円高の進行によるコスト競争激化、オーディオメーカーの海外移転の進行等により「発展のための縮小」を決意し、工場を売却、開発型の企業に特化した。中でも技術に自信のあったヒンジに特化し、そのコア技術を常に掘り下げていくという取組が功を奏し、近年でも堅調な売上の推移を見せている。現在では海外市場にも積極的に展開しており、米国市場で50%以上を確保できる見込みである。 

<製品企画・開発機能だけを有するファブレス(生産設備を持たない)企業の事例>
  健康機械、環境維持装置製造業を営むN社(神奈川県、資本金525百万円、従業者数68人)は商品企画・開発能力のみを保有し、商品化・製造過程は設計・試作を含めてすべてアウトソーシングしているファブレス企業である。大手メーカーの研究者だった社長が「子供の健康と環境」をコンセプトとして創業し、社会的なニーズの増大を背景に順調に成長してきた。ファブレス企業となった理由は、ファブレス型米国ベンチャー企業の成長にならったものであり、また、生産能力の内部化は、商品の販売状況や市場動向によるライン変更などのリスクや、費用負担が大きいと判断したためである。同社は、商品の必要性とコンセプトを組み上げ、原理のオリジナリティ(特許が取れる原理)の検討、具体的な構造、商品のイメージ、大まかなデザイン等を決定する。社内で行われるのはこの段階までであり、細かいデザイン、商品化に向けた設計、試作、量産などはすべて外部の企業に外注する。こうして、同社は商品における特許はすべて獲得することができ、100を超える特許を取得している。 

<異業種交流会を通して自社の新たな企業特性を発掘した企業>
  ラベル・シート印刷、電子部品用製版などの特殊印刷業を営むC社(宮崎県、従業者数43人)では、異業種交流会において、他の参加メンバーから、自社においてはそれほど高度ではないと認識していた自社の技術力を高く評価されるとともに、同社のシール印刷技術と他社のラジオ波を利用した識別技術とを組み合わせることによって新たな電波誘導技術の開発の可能性を示唆され、共同研究を行うこととなった。その後、共同研究の成果としては、食堂での自動決済システムの製品化という形で出ているとともに、共同研究で培った技術を応用し、同社の視覚障害者用補助システムの開発という新規分野への参入という形でも出ている。 

第3のキーワード:「戦略的な連携」
  ある目標(事業の拡大、効率化、多角化、新製品開発等)を持って企業の独立性を維持しつつ、優位性を持つ経営資源と外部経営資源を組み合わせること。優位性を持つ経営資源への絞り込みを行い、不足する経営資源については柔軟に外部経営資源の積極的な活用を行うことが重要となる。

  戦略的な連携の目標は既存事業の売上増加、生産の効率化から新製品開発や事業多角化にシフト。

戦略的な連携の目標

<加工技術を有する中小企業との連携で俊敏性向上に効果を挙げている企業>
  移動体通信関連機器や光学機械関連機器製造を行うS社(東京都、従業者数85人)は、核となる加工技術を有する中小企業数十社とネットワークを構築することにより、自社の製品開発に当たっての俊敏性向上に成功している。同社の製品は超小型であり日々要求精度が向上するため、自社内ですべて開発・製造を行うと要求される納期に対応することが困難である。このため、同社では、常に核となる技術を有する中小企業との連携により、迅速な対応を可能としている。 

<米国におけるバーチャル・オーガニゼーションの事例>
  Q社はペンシルバニア州東部及び北東部に拠点を持つ18の中小製造業から構成される。「ウェブ」と呼ばれるQ社の構成メンバーは93年秋に州立北東部ベン・フランクリン・テクノロジー・センターが選定し正式には95年6月に発足。ウェブ参加企業は金属、鍛造、電子、化学等それぞれの分野に特化した専門メーカーであり、これら企業の中から、受注内容ごとに選ばれた関係企業が参加して「バーチャル・オーガニゼーション」を作り、共同開発・共同製作を行うシステム。アジリティ(俊敏性)を追求することで他社との差別化を図っている。仕事の受注及び当該受注の受け手企業の選定はQ社の社長が一括して行っている。参加18社は倫理規定と運営規則に則ってQ社の活動に参加。各社の技術を持ち寄り、総合的に顧客の要望に応える。ウェブ参加企業にとってのメリットとは、より広い範囲の要望に対応できることにより、新市場や新顧客確保が可能となること。Q社の業績は年々増加している。 


● 概要

1.動向

(1)中小企業の景気回復は、大企業に比べ、遅れている。

業況判断DIの推移(今期の水準)

業況判断DIの推移(今期の水準)

(2)中小企業の生産は上昇傾向で推移しているものの、大企業に比べそのテンポは緩やかであり、生産水準には大きな格差が見られる。 

生産指数の推移

(3)中小企業の設備投資の回復は力強さに欠けている。

製造業の規模別設備投資動向


2.背景

(1)中小企業の収益が低迷。その背景として売上価格の低迷が挙げられる。

(2)生産活動における大企業との格差は、中小企業への生産の波及効果が相対的に小さい大企業の特定の産業の生産の伸びが高いことが一因。大企業から中小企業への生産の波及効果の伸び悩みが見られる。 

主要産業別生産波及効果


3.構造変化

1.下請分業構造に変容が見られる。

(1)親企業の内製化や海外調達が進行している。

内製比率の変化

海外調達比率の変化

(2)親企業からの徹底したコスト要求に対して下請企業は品質・精度の一層の向上で対応を図っている。 

親企業の下請企業評価の重点と下請中小企業の対応

(3)下請企業の中には、提案力の強化、親企業の分散化、新製品開発、新規事業への開拓を進める者も見られる。 

下請中小企業の今後の対応について

2.製造業集積においては、原材料・部品調達、市場情報収集が容易、販路が確立しているといったメリットがあるものの、近年、熟練技能工等労働力確保が容易といったメリットが失われつつあるものとの懸念が生じている。

集積に立地することのメリット

近年失われつつある集積のメリット

 

<技術力と分業ネットワークの活用により取扱製品を変化させてきた集積内企業>
  線材製造業を営むE社(大阪府東大阪市、従業者数40人)は製釘業から始まり、主力製品を変化させながら成長し、特殊異形線分野で大きなシェアを得るに至った企業である。同社は、戦後まもなく製釘業者として創業したが、朝鮮特需後の不況時に伸線製造業に転換し、さらに昭和40年頃から異形線(断面が円形ではない伸線)の生産を開始した。この異形線製造が当社の成功のもとであり、昭和60年頃から異形線製造技術が評価されて通信用海底ケーブルの耐圧層部分を受注、現在この分野で大きなシェアを占める企業に成長している。同社が様々に取扱製品を変化させてきた理由は、いずれも商社などからの発注打診に際し、自社の技術力と外注先の能力によって対応可能であれば受けるという方式を採ってきたからであり、市場性がなくなった分野からは、自然と撤退するような仕組みができていたからである。当地における50年に及ぶ操業経験の中で、集積内に存在する外注先の技術力・製造能力は把握できており、必要に応じて外注先を検討することが可能であった。このため分業ネットワークの存在は非常に重要であり、数年前に他地域への移転を検討したこともあったが、現在の外注先を利用するメリットに代えることは不可能で、同地にとどまる決断をしたこともある。同社の取扱製品は非常に特殊なものであるため、商社や鉄鋼問屋を経由しない営業活動は現在考えることはできないが、引き続きこれらの販売先の情報力を活用して成長を図っていきたいと考えている。 

3.流通システム間の競争が激化し、中小小売業、中小卸売業は厳しい状況にある。

小売業態別年間販売額

小売業の商店数の推移


4.我が国産業の発展を担う中小企業

(1) 中小企業のダイナミズムの維持・発展の重要性

 大企業のリストラ等により既存事業所が雇用を減少させている一方、事業所の開業が雇用の増加に貢献。

雇用の増減に対する開廃業の寄与度

(2) 最近の活力ある中小企業の特色

 創造法認定企業は新製品開発、新規市場の担い手。 

技術の内容

対象とする市場


5.力点

 経営の革新 

→経営革新のための3つのキーワードを参照。
第1のキーワード:「変化への即応性」
第2のキーワード:「優位性を持つ経営資源」
第3のキーワード:「戦略的な連携」

(1) 中小企業が優位性を持つ経営資源を強化するに当たっては、技術開発力の強化も有効。そのポイントは、技術の蓄積とともにマーケティング力の強化が重要。 

技術開発を進める上で重視している課題

(2) 今後の技術進歩に重要とされる熟練技能工の確保、育成が重要。

中小企業における熟練技術工が必要な理由

熟練技術工の充足状況

(3) 中小企業が業務改革等により企業経営の変化への即応性を高め、また、戦略的な連携を効果的に行うためには、情報化に対する環境整備も重要。 

情報化に必要な外部支援


6.環境整備
(中小企業の事業活動の制約要因の緩和)

(1) 中小企業への高コスト構造や社会保障負担の増大の影響は大きい。政府としても、規制緩和、諸制度の改革等の推進など抜本的な経済構造改革に取り組む。 

事業運営においてマイナス要因となる公的規制の内容

事業運営においてマイナス要因となる取引慣行の内容

(2) 中小企業の約1割は産学連携を実行。その一方で、産学連携を未検討の中小企業は、人材、技術、資金的な課題に加え、現実的に可能と思わなかったものも多い。

産業連携の実施状況

(3) 中小企業の戦略的な連携等を通じた経営革新を推進する観点からも、情報提供や仲介機能など地域における取組は重要。

新分野進出に係るソフト支援ニーズの内容