2 経済成長と二重構造の変化


 昭和30年以降のわが国経済はいくつかの好況と不況を経験しながら,第1-4図にみるようにほぼ毎年10%を越える成長を示し,昭和44年には自由世界第2位の生産力を達成するという世界に稀な発展をとげた。このような量的発展の過程は一方では中・後進国的経済構造から先進国的な経済構造へと向う質的な変化の過程であったということができる。すなわち繊維,軽工業中心の産業構造から重化学工業中心の産業構造へ,労働力過剰経済から労働力不足経済へ等の質的変化を伴ってきたのである。
 このような量的拡大と質的変化のなかでわが国中小企業はいかなる動きを示したかを次にみていくこととしよう。

(1) 経済変遷と中小企業の地位

 中小企業のシェアの変化を時系列でみると,シェア低下のはげしい30年代前半と,上昇傾向を示した30年代後半,およびほぼ横ばいに推移している40年代以降の3つの時期に分けることができる。

 @ 第1期

 この時期は戦後の復興期を終った日本経済が産業構造の高度化へと大きく一歩を踏みだした時期である。この時期の経済成長を導いた要因は主として設備投資の盛りあがりであった。まず,自動車,石油精製,石油化学,電子工業,合成繊維等において海外技術の導入を起動力とする技術革新投資が集中的に行なわれ,この結果,電力,鉄鋼等基礎部門の需要を増大させ,この部門の投資を促した。いわゆる投資が投資を呼ぶというかたちで増幅されたこのような設備投資は,長期にわたって好況を持続させ,岩戸景気といわれる大型景気を現出したのである(第1-5図)。このなかで,技術革新が比較的重化学工業部門で多く行なわれたこと,投資財需要が,重化学工業部門の出荷の増大を導いたことなどから,産業構造の重化学工業化が大きく進んだ。
 また,技術革新が主として,鉄鋼,石油精製にみられるように生産方法の装置化をいっそう進めるなど,規模メリットを追求する方向で行なわれたため大企業の巨大化はますます進んだ。
 このような産業構造の重化学工業化や,それに伴う大規模化は,軽工業中心に存立する中小企業のシェアを低下させたのである(第1-6図)。

 A 第2期

 第1期の巨額の設備投資により生みだされた生産力がやや供給力過剰の状況を現出し,大企業の設備投資が鎮静化したのに対し,第1期に達成された所得の増大が個人消費の伸長を促し,どちらかといえば個人消費がこの時期の経済成長を主導した(第1-7図)。この結果,重化学工業化は頭打ちとなる一方,消費財関連軽工業は著しい伸びを示し,流通部門や消費財部門に多く存立する中小企業の設備投資が活発化するとともに,シェアも増大傾向を示すに至るのである(第1-8図)。
 さらに,第1期に生みだされた大きい生産力が労働力需要を引きおこしたのを主因として,労働力不足の進行が意識されはじめたこともこの時期の重要な特徴である(第1-9図)。

 B 第3期

 昭和40年の不況を経て,わが国経済は新しい好況期に突入した。まず需要を先導したものは,30年代の高度成長のもとでつちかわれた国際競争力による輸出の好調であった。続いて,資本自由化等,国際化の進展に伴い予想される国際競争の激化に備えての合理化投資,電算機等電子部門における新技術投資,カラーテレビ等耐久消費財関連投資など大型の設備投資が再びおこり,さらに所得増大を反映して個人消費も順調に伸びるなど多様な要因が重なりあって,かつてない長期的な好況を現出した(第1-10図)。
 そして現在,国内供給力の過剰,主要耐久消費財の需要一巡,一部商品にみられる対米輸出不振等,多様な要因により経済は基調をスローダウンしつつ40年代前半を終ろうとしている。この間,第2期から意識されはじめた労働力不足の進行は,きわめて深刻化し,前掲第1-9図にみたように,一般求人倍率がコンスタントに100%を越える状態を続けた。
 また,30年代を通じて安定的な推移を示した卸売物価が上昇に転じたのもこの期の特徴といえよう。
 さらに設備投資の盛りあがりや,耐久消費財の伸長を背景として産業構造の重化学工業化は再び進展したが,第1期の重化学工業化が,重化学工業業種内部における中小企業のシェア低下を伴ったのに対し,この期には中小企業シェアはむしろ増大気味である点が特徴的である(第1-5表)。
 これは,機械工業における部品点数の増加や,化学工業における加工分野の増大など,重化学工業内部で高加工度化の傾向がみられ,部品・加工部門に多く存立する中小企業の成長を導いたことによるものと考えられる。すなわち,この時期の重化学工業化は中小企業分野の展開をもたらしつつ進展したということができよう。
 また,個人消費が堅調に伸び,これとともに需要の高級化や多様化も進んだ。
 この結果,大企業の比重の大きい重化学工業の伸び率が高かったにもかかわらず,中小企業のシェアは,ほぼ横ばいに推移したのである(第1-11図)。
 このようにかつて衰退が危惧された中小企業は,30年代以降の経済成長,産業構造変化のなかで量的にはほぼ大企業に伍して拡大,成長を遂げた。ではこの間,中小企業の問題性はどのような変化を示したかを次にみることにしよう。

(2) 格差の縮小

 @ 賃金格差の縮小

 第1-12図にみるとおり賃金格差は大幅な縮小を示した。
 賃金格差の背景となっていた過剰労働力は労働力不足の進行とともに解消しはじめた。第1期から初任給格差を中心に既に縮小がはじまり,労働力不足が中小企業段階で顕在化してきた第2期にはさらに縮小が進んだ。この結果,賃金格差はまだ存在するとはいえ,その水準は欧米の格差にかなり近い水準に到達するに至ったのである(第1-13図)。そして,その後労働力不足がますます深刻化していくなかで,第3期40年以降において格差縮小は頭打ちとなっている(第1-14図)。すなわち,中小企業の賃金は依然として高い伸び率を示しているにもかかわらず大企業賃金の上昇もまた著しく,格差は横ばいとなっているのである。これは,第3期に至り,労働力不足が大企業段階まで達したことを示すものと考えられ,中小企業の低賃金労働力依存を可能にした過剰労働力が大きく解消し,中小企業をめぐる労働環境が新しい局面に入ったことがうかがわれる。

 A 付加価値生産性格差の縮小

 一方,付加価値生産性格差もまた縮小を示した(第1-15図)。
 期別にみると賃金格差と異なり,第1期の縮小は小幅であった。これは,中小企業が賃金上昇をまかなうために付加価値生産性増大に努めたのに対し,大企業もまた,先にみたように,この時期に巨額の設備投資を行なった結果,物的生産性が上昇し,格差縮小は小幅にとどまったものである。
 第2期に入ると,大企業の生産性上昇は停滞的であったのに対し,中小企業は着実な伸びを示し,格差は大きく縮小した。
 第3期に至り,中小企業の付加価値生産性上昇率は前2期を上回っているにもかかわらず,大企業の伸びも著しく,格差は横ばい傾向を示している。
 このような30年代以降の中小企業における付加価値生産性の上昇は,物的生産性の向上,価値実現力の高まり,および製品の高級化・多様化により達成されたということができる。次にこれを要因別にみていくこととしよう。

 (イ) 物的生産性の向上

 資本装備率格差をみると第1-16図のとおり第1期には大企業の設備投資の盛りあがりにより拡大したが,第2期以降は縮小傾向にある。これは中小企業において賃金の上昇に伴う労働と資本の代替が進んだことのほか,近代化の遅れをとりもどすための設備の更新や,新技術に適応するための新設が行なわれたことを示すものと考えられる。ちなみに設備機械の更新状況をみると,第1-6表のとおり中小企業の設備内容は大きく改善されており,中小企業の物的生産性水準がかなり改善されたことをうかがうことができる。
 このような資本装備率の上昇は,資金調達力の向上を前提としている。中小企業の最も困難とした長期借入金の調達についても,中小企業の体質の改善と金融機関の態度の変化等に伴う金融市場の構造変化により,徐々に改善されてきたものとみられる。第1-17図のとおり固定資産に対する長期借入金の比重は高まっており,長期借入金に依存した設備投資が盛んに行なわれたことを示している。
 また,物的生産性のもうひとつの要因である技術水準についても,先端技術へのキャッチアップの過程で原料転換,製品,製法等の転換による新技術の会得,親企業の技術指導による技術水準の向上などが種々の分野の中小企業で行なわれ,物的生産性の上昇に寄与したものと考えられる。

 (ロ) 価値実現力の高まりと高級化・多様化

 まず,付加価値率の推移をみると第1-18図のとおり,44年では,大企業23.1%に対し中小企業24.6%と逆転している。この結果,売上高純利益率の格差も縮小した。
 これは,まず第1に,中小企業の価値実現力の相対的な高まりによるものとみることができる。すなわち,先にみたように,過剰労働力を背景とする過当競争や大企業との力関係から,中小企業は劣悪な取引条件に甘んじることを余儀なくされていたが,その後の経済成長の過程で取引条件が改善されてきたことが,このような付加価値率等の向上の一因であると考えられるのである。
 ちなみに,中小企業性製品の価格上昇率は一貫して大企業のそれを上回っており,大企業価格と中小企業価格の相対関係の変更がおこなわれてきたことをうかがうことができる。
 中小企業の価値実現力の高まりの背景として次のような環境変化をあげることができる。
 そのひとつは過当競争の背景となっていた過剰労働力が解消の方向に進んできたこと,個人消費を中心として中小企業に対する需要が伸長をみせたこと,などの環境変化により,過当競争状況が改善されてきたことである。
 さらに,大企業側における労働力不足の進行や国際競争の激化に伴う中小企業の分業,補完的役割の増大等により,大企業との取引関係の近代化が進んできたことも中小企業の価値実現力の高まりをもたらした背景としてあげることができよう。ちなみに,下請取引について親企業の外注理由の変化をみると第1-19図のとおり,「低コスト」や「景気バッファー」という外注理由がそのウェイトを低め,「技術補完」,「設備,労働力補完」がウェイトを高めるなどの変化がみられる。
 また,近年の金融引締期にあっては,親企業が取引条件を容易に悪化させない傾向がみられる点などにも,取引面での中小企業の地位の向上がうかがわれる。
 中小企業の付加価値率上昇の第2の要因として製品の高級化・多様化の進展があげられる。
 すなわち,先にみたように,わが国経済の高度成長の過程で所得の上昇に伴い需要の高級化・多様化といった傾向がみられたが,中小企業もこれに対応し,製品の品質を高め,あるいは機能やデザイン面で創造性を発揮し,さらには品種転換を行なうなどして製品の高級化に努めてきた。この結果,後に詳述するように,種々の中小企業分野で高級化が進んだ。一般に高級品は付加価値率が高いため,このような動きは当然に中小企業の付加価値率を高め,付加価値生産性の上昇を導いたのである。

(3) 格差縮小の意義

 @ 二重構造の変質

 賃金格差の縮小を導いた賃金上昇に対応するため,中小企業は,物的生産性の向上や高級化などにより,付加価値生産性向上の努力を続け,低賃金依存の経営からの脱皮をはかった。
 他方,わが国の経済成長は,個人消費の伸長や,高級化・多様化傾向,あるいは大企業との分業関係の改善,資金調達難の改善など,中小企業の付加価値生産性の上昇を可能にするような経済環境を作りだした。
 こうして,かつての低賃金と低生産性の悪循環は全体としてみれば大きく改善を示し,中小企業は第3期にいたり豊富・低廉な労働力の存在という従来の存立基盤をほぼ失いつつも存立していけるということを示したのである。
 すなわち,中小企業の多くは機動性をいかした経営や,管理コストの安さといった大規模経営に対する中小規模経営の有利さを主たる存立基盤とする中小企業へと変化してきたということができよう。
 さらに,中小企業内部では,この間,協業化や共同化等の集団化を行なうことにより中小規模の不利さを克服し,あるいはそれなりの量産化をはかるなど適正規模達成の努力が行なわれたことをみのがすことはできない。
 これらのことは中小企業が,かつてのような産業構造の変化にとり残されることが危惧された存在から,今後の産業発展を担っていく重要な経営主体として期待されうる存在へと成長しつつあることを意味するものと考えられる。
 さらに今後のわが国経済は,後でみるように知識集約化や,高加工度化を伴いつつ成長していくことがみこまれているが,このような動きは,それ自身中小企業,なかでも技術力やアイデア力に優れた中小企業に新しい存立基盤を提供していくものと考えられるのである。
 しかし,中小企業の体質はバラツキが多いことが特徴であり,個々の中小企業についてみれば,前近代的な経営や,単純労働に依存しすぎる生産方法を行なっているものもまだ数多く存在するが,これらは早晩脱皮を迫られることとなろう。

 A 残された問題点

 賃金格差は縮小したとはいえ,わが国の賃金は欧米に比べるとまだかなり低水準にある(第1-20図)。しかしながら,今後の経済発展に伴いわが国の賃金水準は急速に欧米水準に近づいていくものと予想されるが,特にわが国の中小企業は大企業に比べて資本装備率が低く,労働集約的分野に多く存立しているので,このような賃金水準の上昇は,中小企業,特に単純労働に多くを依存しているような中小企業にとって,大きな脅威となるものと考えられる。
 すなわち,先にみたように,賃金格差が大きく縮小し,二重構造が新しい局面を迎えた現在,単純な価格の引上げといった形での価値実現力の向上による対応は,物価問題の観点からも許されないと考えられる。
 また,このような安易な方途の選択を続けるならば,より労働力の安い発展途上国の工業化に伴い,国内外で追上げを受け,市場を失なっていくことにもなりかねないのである。
 このため,中小企業は,物的生産性の向上や高級化・多様化といった積極的な付加価値生産性向上の努力をさらにきびしく要請されることになろう。
 その場合,物的生産性向上の重要性は改めていうまでもないが,先にみたように物的生産性を規定する要因としての資本装備率は,業種や製品の技術的特性や,市場の大きさ,需要動向などにより制約を受けるものである。したがって今後は,業種や製品に応じたきめ細かい適応方法を考えていく必要があるといえよう。

(4) 業種別にみた中小企業の適応

 @ 適応の態様

 中小企業の付加価値生産性の向上は,物的生産性の向上と価値実現力の高まりおよび高級化・多様化によったものであることは先にみたとおりである。
 今,第1-21図により中小企業の物的生産性と付加価値生産性の上昇率を業種別にみると,ほとんどの業種で付加価値生産性の上昇率のほうが高く,多かれ少なかれ,価値実現力の高まりや高級化・多様化が付加価値生産性の上昇に寄与していることがわかる。しかしながら,なかでも物的生産性の上昇が小さいにもかかわらず,付加価値生産性をあげている業種と,物的生産性をもかなり上げている業種に分けることができる。食料品,繊維,木材・木製品など軽工業業種は前者であり,鉄鋼,機械,化学など重化学工業業種は後者である。すなわち,付加価値生産性を上昇させるについて,主として物的生産性の上昇によったものと,価値実現力の高まりに依存し,あるいは高級化によったものとが分かれ,業種別に適応の態様を異にしていることがうかがわれる。そこで次にこうした適応の態様の背景を探ってみることとしよう。

 A 物的生産性の向上

 一般に物的生産性の向上は主として資本装備率の上昇と,技術進歩の両面によってもたらされると考えられる。
 まず,中小企業の資本装備率について業種別に物的生産性との関係をみてみると,第1-22図のとおり,機械,非鉄金属,化学,石油・石炭製品など,重化学工業業種は,資本装備率と物的生産性がともに高い伸び率を示している。
 これに対して,軽工業業種では,繊維,皮革・同製品などにみられるように,資本装備率,物的生産性ともに伸び率が低いか,あるいは食料品,木材・木製品にみられるように資本装備率の上昇率が比較的高くても物的生産性の上昇率が低い。
 すなわち重化学工業業種では資本と労働の代替が容易かつ有利であったため,資本装備率が上昇し,物的生産性を大きく向上させたということができよう。
 次に,技術進歩と物的生産性との関係をみると,第1-23図のとおり,鉄鋼,非鉄金属,機械,化学などの重化学工業業種では物的生産性の上昇率と資本の生産効率の上昇率がともに大きい。すなわち,この業種では,先にみたように,資本の生産効率の低下要因となる資本装備率の上昇が大きいにもかかわらず,資本の生産効率が上昇しているわけで,技術進歩が顕著であったことがうかがわれ,これが物的生産性の上昇に寄与しているといえよう。一方,食料品,繊維,木材・木製品などの軽工業業種ではこれと対照的に資本の生産効率の上昇率も小さく,物的生産性の伸びも低い。すなわち,この業種においては技術進歩も小幅であったということができよう。
 このように重化学工業業種では資本装備率の上昇による物的生産性の向上が容易であったことに加えて,技術進歩も著しかったため,高い物的生産性の上昇が可能であったと考えられる。
 今後とも重化学工業化は進展するものと考えられるが,この分野における中小企業にとって物的生産性の向上は有力な適応方法であるといえよう。

 B 価値実現力の高まりと高級化・多様化

 今,中小企業製品の物価上昇率を業種別にみると,第1-24図のとおり軽工業製品の方が重化学工業製品に比べて高いという傾向がみられ,軽工業分野の中小企業が価値実現力の高まりに,より大きく依存してきたことがうかがわれる。このような状況は,個人消費の伸長に伴う消費財関連軽工業の需要増大により可能であったが,他方,人件費を中心とするコストの上昇を吸収するため,やむをえず価格上昇に依存してきた面があることは否定できない。ちなみに中小企業の収益性をみてみると軽工業製品と重化学工業製品との価格の上昇差にもかかわらず,総資本利益率は44年度で重化学工業8.84%に対し,軽工業6.16%と逆に軽工業で低くなっているのである。
 しかしながら,今後の中小企業の適応の方向としては,消費者保護の見地からする物価問題の高まりや,発展途上国の低価格製品の出回りなどによって,単に需要に依存した単純な価格の引上げは許されなくなると考えるべきであろう。
 一方,消費需要の高まりは同時に,需要の高級化・多様化といった傾向を伴ってきた。消費財関連分野の中小企業はこうした動きに対して,製品の品質を高め,機能やアイデアに独創性を発揮し,あるいは品種を転換するなどして,自ら製品の高級化に努め,付加価値生産性を高めてきたのである。以下いくつかの分野で高級化や多様化による適応の例をみていくこととしよう。

 (a) シガレットライター

 シガレットライターは典型的な中小企業性業種で,製造業者は全部中小企業である。近年オイルライターからガスライターへ需要が移り,生産の中心も第1-7表のとおり,オイルライターからガスライターへ移行し,現在ガスライターが生産の約8割を占めるに至っている。ガスライターは,噴出されたブタンガスの燃焼を利用するためオイルライターとは全く異なる製品の精度,性能を要求されるもので,単価もオイルライターは1ダース840円に対し,ガスライターは標準品でもオイルライターの5〜6倍と高額であり,高級品の伸びが著しいことがわかる。

 (b) 磁器ディナーウェアー

 陶磁器は典型的な多品種少量生産型であり,量産化には不向きな製品といえる。
 磁器ディナーウェアーは輸出向け比率が高いので,40年度以降の輸出実績の推移をみると明らかに高級品が伸びている(第1-8表)。
 すなわち,セットものでみると,1セット19ドル以上の高級品の伸びが高い。反対に1セット9ドル未満のセットものは,年々金額的には増加しているものの,高級品に押されてシェアは低下する一方となっている。

 (c) 金属製玩具

 金属製玩具は,電動式玩具と,フリクション玩具に大別されるが,最近5年間の推移をみると,製造に比較的高度の技術を必要とする電動式玩具の生産がより高い伸びを示している(第1-9表)。

 (d) ちり紙類

 ちり紙類の生産の推移を第1-25図によってみるとティッシュペーパー,トイレットペーパーの伸びが著しく,ちり紙の伸びが低い。
 ティッシュペーパーは一部ちり紙に代替するとともに新しいちり紙用途を開拓しつつ需要を高めており,またトイレットペーパーは生活様式の変化に対応して,生産がふえている。これらは高級化・多様化の一例とみることができよう。なお,ちり紙についてみても低品質の黒地のちり紙は都会からほとんど姿を消し,トイレットペーパーは故紙を原料とするものからバージンパルプを原料とするものへ移行しつつあることなど同一品種のなかの高級化も著しい。

 (e) ミシン部品

 第1-10表にみられるようにミシン部品の生産高は,構成部品の平均単価の高いジグザグ用部品(@4,000円)の伸びが大きく,部品単価の安い直線縫い用部品(@2,500円)は減少傾向にある。これは直線縫いミシンから多様な性能をもつジグザグ用ミシンヘと需要が移行しているのに伴うもので,このように完成品需要の高級化が部品生産部門の中小企業の品種転換を促している例もみられる。

以上みてきたとおり,業種によってその適応の仕方にはかなりの相違がみられる。すなわち,重化学工業業種では主として物的生産性の向上により,軽工業業種では主として価値実現力の高まりや高級化・多様化により,それぞれ適応してきたのである。しかしながら,これらはきわめて大きく業種分割をした場合にいえることであって,個々の業種や製品についてみると,これらの複雑な組み合わせにより適応してきたということができよう。したがって,個々の中小企業が今後とも適応していくにあたっては,業種や製品の技術的特性や,需要の動向,市場の大きさなどを勘案し,常に最適の方向を模索していく努力が必要である。
 適応の方向としては,まず第1に物的生産性の向上に努めるべきであるが,業種の特性等によりそれが困難な業種や,不十分な業種は,製品の品質向上,機能やアイデアにおける独創性の発揮等,高級化による付加価値生産性の向上をめざすべきである。さらに,このような方法が不可能な業種ではその転換も必要となってこよう。

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