第3節 小売商業店舗共同化の効果と問題点

1 概況

 最近における諸般の構造変動の過程において,小売商業の近代化の遅れは大きな問題となってきた。小売商業者は,一方ではその経営の困難に苦しむとともに,他方,その合理化の遅れは消費者物価上昇の一要因として批判されている。しかし,小規模で,経営基盤のぜい弱な小売商業者が,独力でこの問題を解決することには困難が多く,協業化を進めることにより,規模の利益をうるための合理化を図り,ワンストップ・ショッピング,セルフサービス方式等の経営形態の近代化を進めることが要請されている。このため,政府は,この協業化を助成するために,昭和38年度から小売商業店舗共同化のための高度化資金貸付制度を創設した。その目的は,分立していた小売商業者が協力して協同組合または新会社を設立し,あるいは百貨店,スーパーマーケットを経営する場合には,一定の条件のもとに店舗,倉庫および関連施設の設置に要する資金の半額を無利子で融資しようとするものである。
 この制度の対象は,第26表のとおり,40年度末までに寄合百貨店(組合形態)36件,スーパーマーケット(会社形態)37件,百貨店(会社形態)16件,合計89件になっている。以下において,この施策に即応して協業化を進めた各小売商業者の実態を明らかにし,その効果と問題点を考察することとしよう。

2 店舗共同化の効果

 店舗共同化の効果は,共同化実施後日の浅いものが多く,本来の形ではまだ発揮されるに至ってはいないが,これまでにあらわれてきた効果の内容は,第27表のとおりである。すなわち,最も多いのは消費者の利便と消費購買力の確保であり,これについては仕入条件の有利化,雇用の改善,資金調達の容易化,販売条件の有利化等があげられている。このことは,経営形態や組織形態さらには企業の規模にかかわらず共通の傾向といえる。
 さらに具体的な事例をみて行くと,単なる店舗の共同化にとどまらず,共同経済事業を広く運営しているものに成功例が多い。
 たとえば,釧路市のAデパートでは,店舗共同化と併行して共同仕入れ,共同宣伝,共同運送を実施したため,販売高は25%増加している。この組合は,47名の組合員のうち,25名が旧店舗を廃止して寄合百貨店を設立したものであるが,組合員の協業化の熱意は強く,労務面でも各社の従業員の共通の福利厚生施設を完備するとともに,賃金体系を確立し,教育や研修も統一的に実施したので,若年労働者の雇用難という現在の中小企業に共通の問題も解決され,従業員の質も画期的に向上した。
 伊勢崎市の(株)Bスーパーマーケットは,小売商業者5名がすべて旧店舗を廃止して新会社を設立したものであるが,この5つの旧店舗のうち,繁華街にある2店舗の敷地に大規模スーパーマーケットを建設し,他の3店舗を倉庫および従業員施設にあてるなど,新会社の創設に努めた。この新会社は,このような大幅な改革を実現するとともに,その取扱商品も,従来の衣料品に加えて食料品,雑貨,電気製品を販売することとした。その結果,売上げでは30%以上の増加をみることとなって,従業員1人当たりの利益も向上し,広告宣伝費が低下することとなって,協業化は大きな成果をあげている。店舗の大型化による社会的信用の増大,求職者の増加,金融の容易化は,他の共同化店舗と同様である。
 田辺市の(協)C百貨店においては,紳士服,婦人服,陶磁器,金物,電気器具,鮮魚,青果物等10あまりの部門にまたがる専門店17が衣料品,雑貨,耐久消費財および食料品の4部門の新会社に統合し,この4社が集まって協同組合を組織したものである。これによって,売上計算,商品の仕入れ,一般の事務管理等を組合が一括して行なうこととなり,その実態を計数的に把握できるようになった。したがって,販売商品構成についても十分に検討ができ,仕入れも計画化され,店舗の新装,拡大による顧客吸収力の増大も加わって,協業化前と後とを比較すると,その売上げは約30%の増加となっている。この店舗は,39年度に設立されたものであるが,その指導者が前記のAデパート,Bスーパーマーケット等38年度の成功例を実地に検討し,その経営面,労務面の長所をとり入れたことが成功の一因となっている。

3 共同店舗運営上の問題点と方向

 以上のように,この施策のもとに協業化の成果をあげているものが多いなかにあっても5〜6の失敗例がある。この制度が発足した38年度当時は,スーパーマーケットの設立が盛んになり,小売業界の一部にはこの機運にのり遅れまいとするあせりが強かった。そのため,小売業者のなかには計画がずさんなまま,また参加者の意見が不統一のままで,高度化資金の貸付けを申請するものがみられ,他方,都道府県においても新制度の運用に習熟していなかったため,失敗例の大半は38年度の助成対象にみられることとなっている。その原因をみると,つぎのとおりである。
 (a) 参加者のなかで旧店舗を廃止するものがなく,旧店舗における利益確保を主眼にし,新店舗を副次的な支店として経営したこと。
 (b) 土地の購入代金は,高度化資金貸付けの対象となっていないが,その所要資金が多額なため,資金繰りに困難をきたしたこと。
 (c) 高度化資金の償還期間が5年であり,経営が安定しないうちに返済を急がねばならなかったこと。
 (d) 参加者のなかに店主としての地位に根強い執着心をもつものがあり,相互間の協調性が乏しく,仲間割れをきたしたこと。
 (e) 規模を大形化して,スーパーマーケット,百貨店を設立したが,商品の仕入方法が旧態依然としているなど,新しい経営に即応できなかったこと。
 (f) 販売商品の構成が不適当であったこと。
 (g) 新店舗の立地条件が悪かったこと。
 (h) 設備投資が過大なため資金繰りに困難をきたし,運転資金に窮迫したこと。
 (i) 適切な指導者を欠いていたこと。
 このような各種の問題点にかんがみ,39年度から都道府県,日本中小企業指導センターの協力のもとに,高度化資金貸付前に設置場所をめぐる立地条件の現状および動向を総合的に分析し,計画の妥当性について検討を行なうため,「小売商業協業化計画診断」を実施することとした。また,40年度から(a)の問題について,最低50%の企業は,旧店舗を廃止することを条件とするよう貸付基準を改正するとともに,店舗完成後,その経営全般について総合的に分析し,運営上の問題点および協業化による経済効果を把握するとともに,具体的な改善方策を示すため,「小売商業協業化運営診断」を実施することとした。
 以上のように,政府としては,その制度の改善に努力しているが,参加者の側においても単に店舗を共同化するにとどまらず,協調体制を強化して事業活動の共同化の一層の計画的な進展を図るよう,地道な努力が強く要請される。
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