第3部 「地域」を考える ―自らの変化と特性に向き合う―

第3節 地域分析の実例とデータに基づく地域の現状把握

1 地域分析の実例

以上で見てきたとおり、地域が直面する経済・社会構造の変化は一様ではない。本章の冒頭で示したとおり、地域が、その地域の実情に応じた取組を行い、地域を活性化させるためには、地域が直面する経済・社会構造の変化を捉えるとともに、地域の現状をしっかりと把握することが重要である。地域の現状とは、経済面でいえば、地域の産業構成、企業の開業率・廃業率、地域企業の取引構造、地域の観光動向等であり、社会面でいえば、人口推移、人口構成、人口転出入、交通インフラ整備状況、学校数、病院・診療所数等が挙げられる。

第1節、第2節で紹介した五つの自治体も、地域が直面している経済・社会構造の変化に正面から向き合い、地域の現状を把握し、知恵と工夫でその地域の実情に応じた取組(地域の強みを活かす取組等)を行うことで一定の成果を上げている。以下では、地域の実情に応じた取組を行うための準備として、地域の実情を把握するための地域分析を行っていく。本節では、〔1〕東大阪市(大阪府)、〔2〕神戸医療産業都市(兵庫県)、〔3〕湖南地域(滋賀県)の地域分析を行う。

■地域分析〔1〕:東大阪市

―ものづくり集積のメリットを活用し、高付加価値化に対応―

東大阪市(人口:509,533人(平成22年国勢調査)、面積:61.81km2)は、河内平野の中心に位置し、大阪府では、大阪市、堺市に次ぐ人口を有している。同市には、多種多様な業種の製造業事業所が集積しているが、特に、金属・機械関連のほか、プラスチック、印刷などが多いことが特徴である(第3-2-27図)。

第3-2-27図 事業所数で見た東大阪市の製造業の割合(製造業中分類)
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また、事業所の規模は、全国と比較して、特に小規模事業所の割合が高く(第3-2-28図)、さらに、独自の製品を持つ独立企業もあれば、一次・二次、三次下請や鍍金、板金加工といった賃加工だけをする企業も存在し、製造業事業所密度では東京都大田区や大阪市をしのぎ全国第1位となっている(第3-2-29図)。

第3-2-28図 従業者数規模別に見た東大阪市の製造業事業所の割合
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第3-2-29図 製造業事業所密度の比較
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以下では、このような多様なものづくり集積が形成された歴史的な背景を概観する。まず、雑貨産業(歯ブラシ、ボタン、文具等のセルロイド製品)について見ると、東大阪地域は江戸時代から河内木綿と呼ばれたように木綿の生産が盛んであったが、大正から昭和初期にかけて、欧米より近代紡績が導入されたために木綿の生産が衰退し、職を失った職人がボタン、ブラシ植毛等の雑貨産業を形成した。

次に、造船や機械の部品製造について見てみると、江戸時代に伝わった鋳造技術により、農耕具、鍋、釜等の製造業が発展し、その後、第一次大戦を契機に造船や機械、軍需産業等の部品製造へと主要な製造品が転換していった。また、伸線産業については、生駒山系から流れる河川を利用した水車を動力源として、鉄線や銅線が生産されるようになったため、山麓部で集積された。その後、電力が導入されたことを契機に、伸線産業は低地部に移動するとともに、針金が釘、金網に使用され、さらにネジ、ボルト、ナット、リベットなど川下の線材二次製品分野へと拡がり、急速に発展した。加えて、道路等の都市基盤が整備されると、大阪市内から地価が安い同市に移転する金属関連等の企業が急増した。

第二次大戦後、戦火を免れたこともあって同市の産業はいち早く復活し、戦後の特需で活気にあふれた。高度経済成長期には家電産業が台頭し、中小企業はこれら企業向けの部品生産へと傾倒し、下請企業としての色彩を強めた。また、中央環状線の整備と相まって、農地転換により貸工場が整備され、職人の独立開業のための苗床ともなった。さらに、雑貨産業が各種プラスチック製品工業へ転換するとともに、金型や加工業も集積された。

その後も、高度経済成長期の波に乗り、製造業事業所数は急速に増加し、ものづくり集積が進んだが、1974年頃には横ばいに転じ、1983年の10,033件をピ−クに、以降は減少傾向にある(第3-2-30図)。

第3-2-30図 東大阪市の製造業事業所数の推移
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ここまで、東大阪市においてものづくり集積が形成された歴史的な背景を概観してきたが、以下では、同市の製造業事業所の減少要因について考察してみる。

同市では、1985年のプラザ合意後の円高方向への動きとバブル経済崩壊に伴う平成不況を経て倒産や廃業が増加し、1995年の急速な円高方向への動きが追い打ちをかける形で急速に製造業事業所数は減少していった。とりわけ、プラザ合意後の円高方向への動きにより、外需に依存していた伸線などの地場産業は壊滅的な打撃を受けたほか、下請企業の多くが親事業者の海外生産シフトにより、受注が大幅に減少し、倒産や廃業を余儀なくされた。

また、中堅企業においては、地価の高騰や工場等制限法など法規制のため、多くの工場が地方に移転した。こうして移転した工場や廃業した事業所の跡地には住宅やマンション、商業施設等が建設されたため、住工混在が顕在化し近隣住民との相隣関係における問題が生じた。そのため、市内の工場の操業環境が悪化し、さらに工場の移転を促すことになった(第3-2-31図、第3-2-32図)。

第3-2-31図 東大阪市の世帯数の推移
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第3-2-32図 東大阪市の製造業事業者が抱える問題・不安の内容
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また、最近では経営者の高齢化が進行しており、後継者が見つからないなどの理由により、廃業を余儀なくされる中小企業・小規模事業者も多く、近年の製造業事業所数の減少の一因ともなっている(第3-2-33図)。

第3-2-33図 東大阪市の製造業を営む経営者の年齢層の分布
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その結果として、同市の製造業事業所の廃業率は、開業率を大きく上回って推移している (第3-2-34図)。

第3-2-34図 製造業事業所の開廃業率の推移
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このように、同市の製造業事業所数は減少してきたものの、依然として、全国有数のものづくり集積地である。2012年の製造品出荷額を業種別(中分類)の特化係数で見てみると、同市では「金属製品(3.96)」、「生産用機械器具(2.30)」等が高く、ものづくりの基盤技術である機械・金属関連業種に特化していることが分かる(第3-2-35図)。

第3-2-35図 東大阪市の業種別特化係数(製造業中分類)
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このように、製造業事業所数が減少しつつも、ものづくり集積が維持されている要因を分析してみよう。

機械・金属関連業種は材料調達から、試作、金型の設計、製作、機械加工、板金加工、熱処理、溶接、表面処理、組立などといった多段階を経る工程を必要とするが、同市の機械・金属関連では企業間で専門技術を利用し合い、「横受け」と言われるような多彩なネットワークを活用し、顧客の注文に的確な対応ができる分業システムが構築されている。こうした分業システムの中で、中小企業・小規模事業者は、不得意な分野を他の企業に依頼し、自らは専門性を追求することで、企業独自の技術・ノウハウが蓄積されていった(第3-2-36図)。

第3-2-36図 東大阪市に立地することのメリット(製造業)
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また、製造品出荷額の特化係数の上位10業種(小分類)を見てみると、「金属線製品製造業(22.7)」や「ボルト・ナット・リベット・小ねじ、木ねじ等製造業(11.7)」、「洋食器・刃物・手道具・金物類製造業(11.6)」といった金属関連のほか、「装身具・装飾品・ボタン・同関連品製造業(11.8)」、「ペン・鉛筆・絵画用品・その他の事務用品製造業(11.0)」といった業種となっており、こうした地域を支える地場産業が他地域に比べ、比較優位にあることが分かる(第3-2-37図)。また、経年変化から、その集積度が強まっていることも分かる。こうした地場産業においては、比較的少ない工程で製品を生産することが可能であるため、自社のアイデアを試作し、直接、製品開発につなげることができる。特に、同市は都市部の消費地と近接していることもあり、顧客ニーズが把握しやすく、ニーズに対応した他社とは異なる独自商品や新しい技術の開発に有利な環境にもある。

第3-2-37図 東大阪市の業種別特化係数の変化(製造業小分類)
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このように同市では、ものづくり集積等のメリットを最大限活用し、短納期・多品種・少量生産に対応するとともに、ニッチな市場を狙って、独自の商品、技術を開発したオンリーワン企業、トップシェア企業が輩出された。例えば、金属関連では、株式会社フセラシは圧造技術を取入れた自動車向けの精密ナットを開発するとともに、設計開発から納品まで迅速・効率的にサイクルする独自のプロダクトシステムを導入し、多品種生産に対応した。

また、同市にある株式会社竹中製作所は、フッ素樹脂を用いた独自の表面処理技術により、橋梁や石油プラント、海洋構造物など、耐腐食性が求められる環境下でも錆びないボルトの開発に成功した。

このように市場ニーズに的確に対応し、独自商品や技術を、いち早く開発した中小企業は、下請企業を脱し、付加価値の高い商品やサービスを提供する企業に成長している。同市の従業者数規模別の付加価値額構成比の変化を見てみると、101人以上の規模の事業所が低下しているに対して、21人〜100人規模の事業所の構成比は1986年の37.9%から2012年には47.5%と上昇している(第3-2-38図)。

第3-2-38図 従業者数規模別に見た東大阪市の製造業の付加価値額構成比の変化
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また、こうした事業所の労働生産性は上昇傾向にあり、その水準も2012年においては101人以上の事業所よりも高い水準となっている。なお、4人〜20人規模の事業所の労働生産性は21人〜100人規模の事業所よりも水準は低いものの、1986年6.49百万円から2012年には7.21百万円と上昇しており、今後の成長が期待される(第3-2-39図)。

第3-2-39図 東大阪市の製造業従業者数規模別の労働生産性の変化
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ここまで、同市の製造業の経年変化と現状を見てきたが、以下では、今後の課題について考察する。

東大阪市が実施した「東大阪市住工共生まちづくり条例に関する検討のためのアンケート調査」(2012年9月)によると、東大阪市における製造業事業所の今後の方針として、ほとんどは、「現状を維持する(67.8%)」、「事業の多角化を進める(13.9%)」、「現事業の規模拡大を考えている(12.2%)」と現事業の継続の意向がある。しかしながら、「廃業をする(10.0%)」、「移転を考えている(6.1%)」、「現事業の縮小を考えている(5.7%)」とするところも多く、今後も製造業事業所数が減少し、ものづくり集積のメリットであるネットワーク等の機能低下につながることが懸念される(第3-2-40図)。

このような中、東大阪市において、深刻化する住工混在問題に対して、2013年4月、「住工共生のまちづくり条例」を制定した。本条例では、住工共生のまちづくりを図るため、工業地域や準工業地域にものづくり推進地域を指定し、住宅建築等を行う場合に一定の手続きを必要とするとともに、工場の立地の際は、優先的に支援策を講じ、立地促進することにしている。

第3-2-40図 東大阪市の製造業事業所の今後の経営方向
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また、時代の変化に対応した地域の産業構造の転換に向けて、ものづくり集積のメリットを活かしつつ、企業が独自技術を活かして、成長分野への進出を図ることも重要である。具体的な取組としては、同市の中小企業等と大阪市立大学医学部及び同付属病院とが連携して、新しい医療機器等の開発を図るため、「一般財団法人ものづくり医療コンソーシアム」を立ち上げるなど、成長分野の製品開発に向けた新たなネットワークを構築する動きも見られる。今後、中小企業が発展するためには、ネットワークを活用し、オンリーワン商品等の新商品開発を進めるとともに、国内外への販路を開拓することが求められている。

東大阪市では、中小企業の技術をPRする展示会「テクノメッセ東大阪(主催:東大阪商工会議所)」の開催を支援しているほか、同市から誕生した製品を東大阪ブランドとして認定し、発信している。また。大手商社との業務提携による地域の中小企業の新製品開発の支援等も図っている。

■地域分析〔2〕:神戸医療産業都市(兵庫県)

―医療関係機関の集積を活用した継続的な誘致により、企業の立地や雇用の促進が進む地域―

●「神戸医療産業都市」の構想

「神戸医療産業都市」の構想は、兵庫県神戸市中央区のポートアイランドの、阪神・淡路大震災(1995年)からの復興プロジェクトとして、市会議員や産業界が中心となり23、1998年に検討が始まった。

23 出典「神戸医療産業都市の戦略(先端医療振興財団)」2011等

●これまでの発展の経緯 〜2006年頃から自律的な発展段階へ〜

構想から2年後の2000年には、当該構想を実現するための中核的な組織として財団法人先端医療振興財団(現在は公益財団法人へ移行)が発足するとともに、1992年に理化学研究所の発生・再生科学総合研究センター24(以下「CDB」という。)が開設され、構想が具体化しはじめた。また、同年には企業を誘致するために神戸国際ビジネスセンターが開設した。翌年の1993年には、医療機器の研究開発、再生医療の臨床応用、医薬品等の臨床試験の支援に取り組む先端医療センター(IBRI)が全面開業になるとともに、基礎研究から臨床応用への橋渡しを支援する我が国初の総合的な情報拠点として、神戸臨床研究情報センター(以下「TRI」という。)も開設され、企業の進出が加速化した。

2006年には、理化学研究所がCDBに続く拠点として分子イメージング科学研究センター(現:ライフサイエンス技術基盤研究センター)を開設した。加えて、同年次世代スーパーコンピュータ施設の整備が決まったことで、研究拠点としての魅力が高まり、神戸医療産業都市が自律的な発展の軌道に乗る時期となった25。それに呼応するように、2007年には神戸学院大学、兵庫医療大学、神戸夙川学院大学などが開校26するとともに、大手企業の研究開発部門等が神戸医療産業都市に進出するようになった(第3-2-41図)。

構想から17年が経過した2015年2月時点において、神戸医療産業都市への進出企業が288社、雇用者数は6,700人に上り、我が国を代表する医療産業の集積地に成長した。

24 現在は多細胞システム形成研究センターに名称を変えている。

25 2006年は神戸空港が開港し、かつポートライナーの「先端医療センター前」駅が開業した年であり、絶妙なタイミングで整備が進んだことも忘れてはならない。

26 神戸学院大学は法、経済、経営学部の3、4年次と薬学部の2年次以上が移転。兵庫医療大学及び神戸夙川学院大学は新設。

第3-2-41図 神戸医療産業都市の変遷
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●質の充実 〜トランスレーショナルリサーチに注力〜

こうした研究機関や教育機関、また、医療関連企業の集積に伴う、神戸医療産業都市の特筆すべき強みとして、新しい医療の研究開発から臨床応用を経て、日常医療につなげる一連の研究過程を意味する「トランスレーショナルリサーチ」の実現に力を注いだことが挙げられる。

ただし、トランスレーショナルリサーチの実現には、臨床の現場を充実させる必要があった。そこで、研究開発を実施する先端医療センターに集積する形で、高度な標準的医療を提供する新中央市民病院を2011年に移転開設し、更に神戸低侵襲がん医療センターなどの専門病院を2013年に開設した。このように専門性の高い医療機関が集積することで、トランスレーショナルリサーチの実現に向けた体制が徐々に整備された27。こうした努力が結実する形で、2014年9月に、CDBの高橋政代チームリーダーがiPS細胞から作製した網膜色素上皮シートを患者に移植する世界初の手術に成功した。この成功は、最先端の研究を臨床につなげる試みとして世界中からに注目を浴びるとともに、現在では日常医療に向けた取組が継続して行われている

さらに、昨今、医療研究において重要性を増している生物統計やデータ・システムの管理に関する専門家をTRIに揃え、神戸医療産業都市のさらなる質的な成長を実現している。

27 出典「神戸医療産業都市の戦略(先端医療振興財団)」2011の井村財団法人先端医療振興財団理事長談。

●成功要因

こうした神戸医療産業都市の成功要因として、以下の三つを挙げる。

第一に、震災からの復興に向けて産学官をはじめとする多くの地域の関係者が医療産業都市の方向で協調できたことがある。

第二に、先端医療振興財団の井村理事長をはじめとした各機関の長のリーダーシップと政府や地方自治体の支援が上手く相まって、必要な予算の獲得や地域の基盤となる施設・機関の設立等につなげたことが、後々の大きな潮流を生み出した。

第三に、関係者間のきめ細かな調整として、特に理化学研究所と神戸市が密接に、かつ良好に連携を維持してきたことがある。全国的に知名度のある理化学研究所の3施設28が神戸に立地していることのインパクトは大きく、国内外の有力な企業や優秀な研究者が集う動機として十分な効果があると考えられる。

28 多細胞システム形成研究センター(CDB)、ライフサイエンス技術基盤研究センター(CMIS)、計算科学研究機構(AICS)「スーパーコンピュータ『京』」。

●外国企業が受け入れやすい地域特性

神戸及びポートアイランドの地域特性もここまでの発展に一役買っている。神戸は古くから港湾都市として発展してきた歴史があることや、東京や大阪に比べてオフィスの賃料が安いことから、比較的多くの外国企業が活動している29。また、外国人向けの住宅、インターナショナルスクール、病院なども充実しており、外国人にとって住みやすい都市としてイメージが形成されている。

29 出典「神戸医療産業都市構想懇談会最終報告書」

さらに、神戸医療産業都市へは、東京から新幹線で約3時間、新神戸から約15分、神戸空港から約5分でアクセスできる。こうした好立地も助け、米国、中国、スイス、ベルギー、フランスなどの外国企業の進出も見られる。

●今後の期待

震災の復興プロジェクトとしてはじまった神戸医療産業都市の構想が、現在では、我が国の医療産業の将来を牽引する存在に成長した。さらに、医療産業の集積は神戸のポートアイランドだけにとどまらず地域的な広がりを見せている。

2011年12月には関西の3府県(京都府・大阪府・兵庫県)が中心となった「関西イノベーション国際戦略総合特区」が指定され、その取組の成果として、2013年10月には医療界の重要拠点となる独立行政法人医薬品医療機器総合機構関西支部が大阪市内に設置されるとともに、その一部が神戸医療産業都市の拠点で行われることとなった。そこでは多くの相談が寄せられており、今後のイノベーションのさらなる加速が期待されている。

●課題

今後、新たに進出を希望する機関及び企業に対応するため、レンタルラボなどの入居施設を一層充実させる必要がある30。当該地域に限らないが、一般に新天地に進出を図る企業は、事業のリスク管理等を踏まえ、徐々に当該地域での足固めを行った上で本格的に進出することを好む。

神戸医療産業都市で有効利用できる土地はまだ十分にあるが、このような企業の心理やニーズをくみ取り、更なる発展に向けた整備を継続する必要がある。

同時に、「医療」を成長分野と捉える認識が浸透しつつある昨今、医療産業の集積を図る日本各地の競争に対抗するには、優秀な人材も継続的に集める必要がある。

企業と人材の集積による相乗効果で都市の魅力を拡大し、市民の参画・協力を促し、最先端の医療を新たなライフスタイルの構築につなげるなど、新たな課題に対して全国的に先駆けて取り組むことが期待される。

30 神戸市企画調整局医療産業都市推進本部への電話ヒアより。

■地域分析〔3〕:湖南地域(滋賀県)

―人口増加が続き、産業構造が変化する地域―

人口増加が続く滋賀県南部に位置する草津市、守山市、栗東市、及び野洲市(以下、「湖南地域」という。)の人口及び産業構造の変化について見ていく(第3-2-42図)。

第3-2-42図 滋賀県湖南地域

まずは、この湖南地域の人口の変化について見ていこう。第3-2-43図は、湖南地域の長期的な人口推移を見たものである。この地域の人口は、1960年では102,563人であったが、50年後の2010年では321,044人と約3倍に増加しており、日本全国の人口増加率の約2.3倍となっている。その内訳は、草津市が130,874人(40.8%)、守山市が76,560人(23.8%)、栗東市が63,655人(19.8%)、野洲市が49,955人(15.6%)となっている。

また、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別推計将来人口」(平成25(2013)年3月推計)によれば、人口の増加傾向が2035年まで継続し、2035年時点で349,467人にまで達することが予想されている。

第3-2-43図 湖南地域の人口推移
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他方で、第3-2-44図と第3-2-45図から、年齢(3区分)別人口割合の変化を見ると、15〜64歳の人口割合が全国では1990年以降減少しているが、湖南地域では2000年まで増加していることが分かる。一方、湖南地域でも65歳以上の人口割合は1980年以降一貫して増加しているが、2010年時点における65歳以上人口比率は全国比率よりも6.1%低くなっており、15〜64歳及び15歳未満の人口比率は、相対的に高くなっていることが分かる。

第3-2-44図 年齢(3区分)別人口割合の変化(湖南地域)
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第3-2-45図 年齢(3区分)別人口割合の変化(全国)
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また、湖南地域の「昼間人口比率31」を見ると、1990年から一貫して増加しており、2010年には100を超えていることが分かる(第3-2-46図)。とりわけ、草津市においては、その増加幅はより大きなものになっていることが分かる。

31 「昼間人口比率」とは、夜間人口を100とした場合の昼間人口の指数をいう。昼間人口は、常住人口(ある調査の時刻に、調査の地域に常住している場所(常住地)で調査する方法で把握した人口)に他の地域から通勤・通学してくる人口(流入人口)を足し、さらに他の地域へ通勤・通学する人口(流出人口)を引いたものである。また、昼間人口に対して常住人口のことを夜間人口という。

第3-2-46図 昼間人口比率の推移
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ここまで見てきたとおり、湖南地域は一貫して人口増加が続いており、全国に見ても、生産年齢人口及び若年人口比率は相対的に高くなっているが、1960年以降の5年毎の人口増加率を見ると、1965年から1975年にかけて大きく増加したことが分かる(第3-2-47図)。こうした背景として、滋賀県では、1960年に「県勢振興の構想」を策定し、本構想により「県工業開発促進条例」を制定し、工業誘致を促進させた。その後、1964年には「県総合開発計画」を策定し、工業団地の先行的造成が始まった。また、同時期に名神高速道路や東海道新幹線が開通するなど広域交通網が整備され、急速に製造業の企業立地が進展した。実際、1963年に名神高速道路のインターチェンジが設置された栗東市では、1971年の製造業事業所数が1960年に比べ約7倍にまで増加した。さらに1971年には国鉄東海道本線において西明石駅(兵庫県)から京都駅まで運行していた新快速列車が草津駅(滋賀県)まで、1985年には彦根駅(滋賀県)まで延伸され、湖南地域から大阪や京都へのアクセスが格段に向上した。こうしたことを背景に、湖南地域において雇用が創出されたとともに、大阪や京都への通勤圏となりベッドタウンとして人口が増加したものと考えられる。その後も、湖南地域は、継続して人口増加率が全国よりも高い水準で推移しているが、1994年に草津市において大学が開校しJRの新駅が開設され、また、2005年には新名神高速道路が開通するなど、地域の利便性がさらに高まったことがその一因として挙げられる。

第3-2-47図 人口増加率の推移
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ここまで、湖南地域の人口の変化について見てきたが、ここからは湖南地域の産業構造の変化について見ていこう。

前述の時代背景の中、湖南地域は1960年代より製造業を中心に企業立地が進んだ。製造業の事業所数は1960年と比較して、1975年に約5.4倍、1990年及び1995年では約7.7倍に達し、その後は減少傾向にあるものの2010年時点においても一定数を保っている。湖南地域は、全国との比較においても、製造業が急速に拡大してきたことが分かる(第3-2-48図)。

第3-2-48図 製造業事業所数の推移
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また、2012年時点で従業者300人以上の製造事業所数の比率は全国が1.4%に対して、湖南地域は3.3%になっており、比較的規模の大きな工場等が立地・集積していることが分かる(第3-2-49図)。

第3-2-49図 従業者規模別の製造業事業所数割合(2012年)
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ここまで製造業を中心に湖南地域の産業を見てきたが、次に、当該地域の産業構造を見てみよう。第3-2-50図は、域内総生産額に占める産業割合を見たものである。これを見ると、2000年以降、第1次産業の割合は0.5%程度で推移している一方で、第2次産業の割合が減少し、その分、第3次産業の割合が増加してことが見て取れる。また、湖南地域の第3次産業の域内総生産額の伸びは全国の第3次産業の域内総生産額の伸びよりも高水準にある。

第3-2-50図 湖南地域の域内総生産額に占める産業区分の割合及び第三次産業生産額の推移
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次に、第3次産業を構成する業種のうち湖南地域において従業者数が多い「運輸業」、「卸売業」、「小売業」、「生活関連サービス」及び「その他サービス」の従業者数の推移を見てみると、特に「生活関連サービス」が大きく伸びており、また、小売業やその他サービス業も増加していることが分かる(第3-2-51図)。こうした変化について、当該地域の人口(昼間人口も含む)増加に伴うマーケットの拡大が一因であると考えられる。

第3-2-51図 湖南地域の第三次産業業種別従業者数の推移
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他方で、業種別の従業者数の構成比の変化を見てみると、製造業の比率は低下しているものの2012年時点においても最も比率が高いことから、製造業のウエイトは依然として高く、地域経済への影響が大きいことが伺える(第3-2-52図)。

第3-2-52図 湖南地域における業種別従業者数比率の推移
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このように、湖南地域は製造業の成長とともに発展したこともあり、当該地域における製造業の存在感は強い一方で、近年では、人口増加を要因として地域住民や域内への通勤者等を支える小売業や生活関連サービス業の地域経済における重要性が高まりつつあるといえる。

ここまで、地域の現状を把握するための地域分析を、国勢調査や工業統計といった、一般に公表されているデータを中心に分析してきた。ここで、ここまで行ってきた地域分析よりも、より深い分析が可能となる「地域経済構造分析」について紹介したい。地域経済構造分析は、〔1〕循環分析、〔2〕ストック分析、〔3〕ポートフォリオ分析の3つの分析から構成される分析であり、今後、自治体が、地域の現状を把握する上においても、有用であると考えられる分析手法の一つである。

コラム3-2-5

地域経済構造分析32

地域経済が持続可能であるためには、地域が自ら生活の糧を稼ぎ出せることが必要である。どこから稼ぎ出すかというと、一つは域外からの資金の獲得であり、もう一つは域内で所得(付加価値)を生み出すことである。

前者は域内に資金を呼び込む力(移出力)であり、「外貨」を稼ぐ移出産業が必要となる。後者は域内の資金をいかに域内で循環させるかであり、循環している間はその各段階で誰かの所得を生み出すことになる。

地域が、地域にある比較優位な資源を見いだして、それを有効に活用した財やサービスを生み出し、域外に移出することで域外から資金を獲得し、その資金を域内で循環させることによって域内での新たな需要と富の再配分が生まれる。これが地域経済の循環システムである。

ここでの比較優位とは、他の地域と比べての優位性(絶対的優位性)と、自分の地域の中にある様々な資源を比較してその中での優位性(相対的優位性)の二つがあるが、地域経済について考える際には、「相対的優位性」にある資源に着目する方が重要である。すなわち、地域としては、地域で充足できるものや余っているものまでは移入しないで、移出できる競争力を堅持するとの方針の下、よいものをいかに域外に売り出し、不得意なものや地域で供給できないものは移入するといった機能分担が重要になる。

地域が、自分たちの比較優位を活かした財やサービスを創出し、移出力や循環力を維持・高めていくには、地域が自らの経済力を知り、何が充足して何が不足しているか、どこに循環の漏れがあるかを見いだすことが必要である。

そのためのツールが「地域経済構造分析」である。地域の経済政策立案時に役立つのみならず、政策評価にも活用できるツールとなり得る。地域経済構造分析は、地域経済についての、〔1〕循環分析、〔2〕ストック分析、〔3〕ポートフォリオ分析の3つから構成される。

〔1〕地域経済の循環分析とは、地域が域外からどのように資金を稼いでいるか、その資金は域内にどれだけ所得をもたらしているのかを把握する分析である。また、域内の資金がどの程度域外に流出しているかを見ることもできる。循環分析では、財貨のフローを見る実体経済の分析に加え、資金のフローを見る金融経済の分析(資金循環の分析)も必要である。多くは信用取引によるものであるが、年金や交付金、さらには企業や家計の送金なども実物経済の取引という対価を伴わない資金の移動である。

〔2〕地域経済のストック分析とは、地域の人的資本、自然資本、社会資本などフローを生み出すストックに関する分析である。循環分析が地域のフローを見るのに対し、ストック分析は地域のストックを見るものである。財務諸表に例えて言えば、循環分析が損益計算書(P/L)の分析、ストック分析は貸借対照表(B/S)の分析といえよう。地域における人間の技能やネットワーク、農林水産資源、道路や港湾などの社会資本、民間資本ストックの新しさなどが対象となり、地域の有形無形の資産を分析することで、地域の比較優位の発見にもつながる。

〔3〕地域経済のポートフォリオ分析とは、地域経済が、為替変動や構造不況、リーマン・ショックといった外的な影響に弾力的に対応できるか、またどのような産業の組合せが地域にとって安定的であるかを探る分析である。産業別の生産額の変化をリターン、その分散をリスクとし、どのような産業の組合せが、地域にとって一定の収益性を確保しながらリスクを最小化できるかを考えるものである。資産選択における平均・分散アプローチを地域経済の産業構成の安定性に適用するものである。

以上の分析を行うに当たっては、事前に3点の準備が必要となる。それは、〔1〕対象地域(圏域)の設定、〔2〕人口や所得の状況(人口、労働市場、所得・税収)の把握、〔3〕地域を支える産業(基盤産業、基幹産業、雇用吸収産業)の識別の3点である。

〔1〕対象地域(圏域)の設定は、通勤圏域や商圏など地域就業(経済)圏域とするのが望ましい。市町村が分析する場合も、自分たちの地域とあわせて2層で分析することで、地域の特徴がより明らかとなる。

〔2〕人口や所得の状況の把握は、地域経済の基礎を掴むことである。a.人口の長期的な推移(増減)、b.労働人口、就業者数、失業率など地域労働市場の推移、c.地域の人の所得(地域の消費を規定)や所得の派生である税収(地域の財政的自立度を反映)を把握するものである。

〔3〕地域を支える産業の識別においては、a.域外から資金を獲得する基盤産業、b.地域で最も付加価値を生み出している基幹産業、c.雇用吸収産業の3つを識別する。

a.域外から資金を獲得する産業は、域外市場産業(移出産業)といわれ、地域の所得の源泉となることから基盤産業と定義される。通常は、農林水産業や鉱工業など、域外にモノを移出する産業であることが多いが、観光のように域外の人が地域を訪れることによってサービスが移出されるケースもある。デザインというサービスが洋服というモノに具現化される場合、モノ(洋服)の移出に伴ってサービスも移出される。インターネットを経由すると、小売でも域外の消費者に販売することができ(流通業による移出)、音楽や映像、ゲームなどのコンテンツも移出できる。さらにはクラウドソーシングのように労働サービスそのものを移出することも可能となった。情報化時代は、農林水産業や鉱工業以外にも様々なものが移出産業となり得るといえよう。国際的に見ると、日本の飲食サービスや保守管理をはじめとする高度な技術サービスなども外貨を稼ぐ移出(輸出)産業となる。基盤産業は、地域の産業連関表から識別できるが、産業連関表が作成されていない市町村においては、特化係数(地域におけるある産業の収入金額の割合を全国平均のそれと比較したもの)を活用することも可能である33

b.基幹産業は、地域で最も付加価値を生み出している産業であり、地域の収入の糧となっている産業である。ここでの付加価値とは、収入額(販売額・出荷額)から中間投入額を差し引いたものである。近年、経済センサス活動調査により、市町村でも付加価値の統計が利用できる。

c.雇用吸収産業とは、地域で多くの雇用を吸収している産業である。ほとんどの地方都市では、製造業のほか、飲食業、小売業、サービス業などが該当し、域内の所得を循環させることに貢献している。雇用吸収産業は、国勢調査と経済センサス基礎調査により確認することができるようになった。

これら3つの産業を識別できたら、その動向や成長性も見ておく必要がある。それぞれの産業の売上高(移出額)、付加価値額、雇用者数の推移などを見るということである。また、この3つの産業のつながり、相互関係を把握することは地域経済循環分析の重要な部分でもある。

域外から資金を獲得する基盤産業だけでは、地域の所得(付加価値)を創出するには十分ではないことがある。また、地域の雇用を創出するにも十分でないことがある。こうした場合、基盤産業と基幹産業、雇用吸収産業との間をいかに連関させるかが課題となる。

以上の準備を踏まえ、〔1〕循環分析、〔2〕ストック分析、〔3〕ポートフォリオ分析に入ることになるが、以下では分析の蓄積が進んでいる、〔1〕地域経済の循環分析に絞って見ていく。

地域経済の循環分析とは、地域が域外からどのように資金を獲得し、域内でどのように資金を循環させ、その過程で資金がどのような形で漏出しているかを把握するものである。これには産業間や地域内外のつながりといった連関関係を示す産業連関表34の存在が前提となる。

まず、地域の基盤産業の需要構成(必要となる投入産業)とその域内・域外依存度を(投入産業毎に)確認する。域外依存度の高い部分について、健全で無理のない形で域内依存度(域内調達率)を高めることが出来ると、域内の資金循環が改善し、地域の所得増加にもつながることになる。同様に、他の産業(基盤産業以外の地域の産業)についても、その需要構成と域内・域外依存度を確認し、地域経済の連関構造を把握しておくことが必要である。

各産業の直接の連関構造(需要構造)を把握した次は、その産業にとって川上や川下に位置する産業への影響度を見ておくことが必要である。影響度が高い産業との間に域内で十分なつながりができていないと、域外への漏れは大きくなるためである。川上・川下産業間の連関効果には二つある。一つは、ある産業の川上産業が受ける効果であり、川下企業からの需要効果を享受するものである。もう一つは、ある産業の川下産業が受ける効果であり、川上企業からの品質向上や価格低下などの供給効果を享受するものである。

地域における産業間の連関構造が希薄であると、産業間の連関を通じた経済波及効果が、域内から漏れ出る可能性が高くなる。地域における波及効果を高めるためには、域内における取引関係が増えるよう、産業間のつながりを構築していくことが必要である。

例えば、域外から資金を獲得する基盤産業が必要とする中間投入物が域外に依存している場合、a.地域に当該資源がない(そもそも供給できない)、b.地域に資源はあるが供給企業がいない、c.地域に供給企業はあるが、技術や納期などの問題がある、といった理由が考えられる。a.のような場合は難しいが、b.やc.の場合、供給企業を地域で育成するか外部から誘致する、あるいは技術支援を行うなど、行政にも取り組む余地があるといえる。

そして、地域経済の循環システムは、生産・分配・支出の三面から見ることができる。生産面から見ると、域外への移出により域外から資金を獲得すると同時に、原材料や中間財を域外から調達することで域外に資金が流出している。分配面から見ると、生み出された付加価値は、域外の雇用者への給与や投資家への配当として域外に流出することになる。支出面から見ると、所得になった資金は、消費に回るか貯蓄されるかのいずれかである。消費の対象が域外のものであれば、資金は域外に流出することになる。貯蓄に回った資金も域内の資金需要が十分でなければ、域外の資金需要を満たすため資金は流出する。以上のような地域経済の循環分析の結果を踏まえ、どのような地域内外の連関構造が地域経済の成長と持続可能性を高めるかを見極め、それに向けての具体的な施策を導き実施していくことが必要である。

ここまで見てきた地域経済構造分析を活用した事例として、兵庫県豊岡市の取組を見てみよう。

32 本コラムの作成に当たっては、岡山大学中村良平教授のご協力をいただいた。地域経済構造分析の詳細については、中村良平(2014)「まちづくり構造改革:地域経済構造をデザインする」(日本加除出版)を参照。また、地域産業構造分析を活用した兵庫県豊岡市の事例については、同書の内容を元に、最近の状況を加味して紹介している。

33 特化係数で基盤産業を識別することは方法論として容易な反面、いくつかの問題点を持っている。1番目は、特化係数は、全国の構成比に対する当該地域の構成比の相対値である事に由来する問題である。たとえば、経済規模の小さい地域では多くの産業部門が移入超過になっており、域際収支がマイナスであることが容易に想像される。しかしながら、絶対数が小さくとも、その地域内で相対数が大きいと特化係数は1.0を上回り、移出産業と識別されることになる。これへの対処方法は、通勤圏域などの就業圏域で考えることが挙げられよう。2番目は、その産業自体が日本全体で輸出産業なのか輸入産業なのかによって、地域の係数にはバイアスが生じることである。自動車産業のように輸出超過の産業であれば、国内数値を基準とした特化係数は過小評価される。逆に農業のような輸入超過の産業であれば、過大評価されることになるであろう。3番目は、産業分類の程度に特化係数は左右されるということである。産業分類が細かくなれば、当然、地域の特化度は高まってくる。財の種別に近づくのは望ましいことでだが、移出入の誤差が大きくなる可能性が生まれる。そして4番目は、雇用者で測るのか産出額で測るのかによって、移出入の識別が異なってくるということである。労働生産性は産業間で異なるので、雇用者を使って特化係数から移出産業を識別するときには注意が必要となる。

34 付注3-2-1を参照。

【事例:兵庫県豊岡市】

豊岡市は、北は日本海、東は京都府に接し、市域の約8割を森林が占める、人口約8万5千人、高齢化率28.2%(2010年国勢調査)の自治体である。

2005年の合併後、市の経済成長戦略を立案するため、地域経済構造分析を実施した。2009年には豊岡市産業連関表(2005年版)を作成し、これを活用した経済構造分析と政策シミュレーションに基づき行動計画を策定している。

豊岡市の作成した産業連関表をもとに、域外から資金を獲得している上位7つの産業を整理すると(コラム3-2-5〔1〕図)、1位は「飲食店・宿泊業」となっている。これは市内の温泉地への観光客など、域外からの消費流入の額の多さを反映している。

2位の「商業」は、買い物客の流入が多いことを反映し、移出額では260億円を超えている。しかし、これを上回る額が域外から移入されており、域際収支としてはマイナスとなっている。

コラム3-2-5〔1〕図 豊岡市の域外市場産業の特徴

以下、3位の「化学製品」、4位の「プラスチック」、5位の「電気機械」、6位の「食料品製造業」と続くが、移出額から移入額を引いた純移出額をみると、7位の「かばん製品」が「飲食店・宿泊業」についで2位となっている。この「かばん製造業」は、豊岡市の地場産業であり、生産額は大きくないものの、豊岡市に占める生産額の割合は、全国平均の30.63倍(特化係数)となっている。

これに対し、地域で生み出されている付加価値額を見てみよう(コラム3-2-5〔2〕図)。上位から不動産業、建設業、商業、金融・保険業の順になっており、これら4つで豊岡市の総付加価値額の46.3%を占めている。しかし、これらはいずれも域外から資金を稼いでいる産業ではない。つまり、域内に経済活動の資金をもたらす産業は、域内で付加価値を多く分配している産業とは一致しておらず、豊岡市においては、その地域経済を支えているのはコラム3-2-5〔1〕図の純移出がプラスの産業であるといえよう。

コラム3-2-5〔2〕図 豊岡市の付加価値額上位の産業

それでは純移出額が1位の「飲食店・宿泊業」、2位の「かばん製造業」は、域内の産業にどのような影響を与えるのだろうか(コラム3-2-5〔3〕図)。

「飲食店・宿泊業」への投入産業は、「食料品製造業」が25.8%、「商業」が15.4%、「電気・ガス・熱供給業」が12.6%と、この3つで50%を超えている。「飲食店・宿泊業」への需要が高まれば、その最大の効果は「食料品製造業」へと向かうことになるが、産業連関表の移入割合から「食料品製造業」への1単位の生産需要は0.71の移入をもたらすため、経済効果が少なからず域外へ漏出することになる。豊岡市として経済効果を高めるには、「食料品製造業」における投入要素の域内調達を高めることが必要となろう。同じく「かばん製造業」の投入産業をみると、「その他製造業」が19.4%、「商業」が18.2%、同業種の「かばん製造業」が14.7%と、この3つで50%を超えている。この3つに次ぐ「食料品製造業」(7.3%)は、と畜部門からの牛革等と考えられる。「かばん製造業」への生産需要が高まれば、こうした産業部門への波及効果が生まれる。

コラム3-2-5〔3〕図 豊岡市の飲食店・宿泊業、かばん製造業の中間投入上位部門

次に、豊岡市の主要産業部門の需要についてみてみよう(コラム3-2-5〔4〕図)。これは、当該産業の技術などが進歩すると、それをどの産業が享受できるかを把握するために役立つものである。「かばん製造業」において技術進歩が生まれると、その影響は圧倒的に域外市場に影響を与える。他方、同じ域外市場産業である「飲食店・宿泊業」では、そのサービス向上や生産性の向上などの影響は、域外からの観光客のみならず豊岡市の最終需要者にも効果をもたらす。また、豊岡市内の最終需要者に影響を与える典型的な例は、「医療・保健・福祉」である。

コラム3-2-5〔4〕図 豊岡市の主要産業部門の需要の構成比

このように、ある産業部門に対する生産需要が高まると、その産業の中間投入となる産業も生産を増やすことになるが、その産業の生産活動において域外依存度が高ければ、域内における経済効果は縮小してしまう。また、ある産業部門に技術進歩等が生まれ、よりよいものをより安く供給できるようになると、その産業部門の川下の産業や最終需要者は、プラスの効果を享受できるようになる。

産業連関表を活用することで、産業間の関係を読み解き、地域における産業政策にメリハリをつけることができる。また、様々な施策のシミュレーションも可能となる。豊岡市では、産業連関表を用いて、市内取引拡大のためのマッチング支援や市内取引循環額を高める企業誘致などの取組により、自給率が向上した場合の経済効果を計測した。具体的には、食料品製造業、一般機械器具製造業、商業、対事業所サービスの4業種について、それぞれ自給率が0.2ポイント上昇したケースをシミュレーションしたところ、付加価値効果はそれぞれ、21百万円、14百万円、46百万円、23百万円となった。すなわち、地域の経済政策としては、商業の域内流出を防ぐことが、金額的に最も効果が大きいことが判明した。また、定住促進や合同企業説明会などの取組により、U・I・Jターンが増えた場合の効果として、1千人の定住増加を前提に、消費支出額が2,300百万円の増加、付加価値額は1,800百万円の誘発効果があることが推計された。

豊岡市では、豊岡市経済成長戦略(2009年11月策定)の目標達成に資するため、2012年度に更なる調査と分析を行い、産業連関表の改訂(2010年版)も行った。その際の分析結果を踏まえると、代表的な取組の効果として、次の2つが挙げられよう。

一つは交流人口(外国人)の増加(域外獲得資金の増加)である。豊岡市の経済成長戦略では、全国・世界へPRすることで交流人口を増やし、域外資金を獲得するとしている。このため豊岡市では「大交流課」を設置し、JTB、楽天トラベル、日立製作所などから社員を受け入れ、英語対応可能な職員や外国人職員も臨時雇用するなどして、海外へ積極的に観光プロモーションを図っている。結果、城崎温泉における外国人宿泊客数は2011年の1,118人から2013年には9,584人と急増35し、2014年はそれを大きく上回る数で推移している。そこではまた、出石や城崎地域における土産品生産の自給率の向上が、域内経済循環をより高めることにつながっている可能性がある。

もう一つは、かばん関係出荷額の増加である。昨年、豊岡市でつくられたこだわりのかばんを取り揃えた専門店“カバンアルチザンアベニュー”を開設し(ここで次世代のかばんクリエーターを要請するスクールも運営)、“製造”から“製造・販売”へと舵を切り始めた。これは、単純に直販を始めたという意味ではなく、地域経済構造分析で判明した連関構造の重要性の認識に基づいて、これまでは域外の卸売業者や小売業者を通じた流通チャネルだったところを、エンドユーザーまでのバリューチェーンを域内の事業者でカバーするようにしたものである。これは、地域経済構造分析を踏まえた、域内取引を活発化させる工夫といえよう。さらに、行政による百貨店等への催事出展支援、市内事業者による城崎へのかばん専門店出店増、そして景気回復などの影響もあり、成果指標として、出荷額(工業統計調査)はスタート年の平成22年の767,032万円から平成25年では1,060,268万円に伸びている。

こうした状況を反映し、豊岡市の経済成長戦略策定後の実質経済成長率は、わずかではあるものの日本全体や兵庫県全体よりも高い水準を確保している(コラム3-2-5〔5〕図)。

35 円安方向への動きや、外国人旅行者向け消費税免税制度の見直しの開始前における伸びである。

コラム3-2-5〔5〕図 全国、兵庫県、豊岡市における実質域内総生産額(対前年変化率)の推移
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