第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

第2節 ITを活用した資金調達22

中小企業・小規模事業者にとって、必要な資金をいかに調達するかは、重要な経営課題の一つである。また、資金調達は起業を検討する者にとって、起業を踏み切る際の判断基準の一つでもある。企業や起業を検討する個人は、これまでは金融機関からの借入や、社債の発行、ベンチャーキャピタルからの出資等により資金調達を行ってきた。一方で、魅力的な事業内容であったり、新規性・将来性がある事業内容であったりしても、事業内容の評価が困難と判断されたり、また、そもそも起業の場合は実績もないことから、希望どおりの資金調達ができない例も多い(第3-5-35図)。

22 「ITを活用した資金調達」は、事業を行う企業だけではなく、一般個人・団体が事業性のない活動(地域活性化活動や環境保全活動等)をする際にも利用できる。本節では、企業の事業活動と一般個人・団体の活動との混同を防ぐために、特に断りがない場合、「資金調達」とは、「企業の事業活動のための資金調達」を指すものとする。

第3-5-35図 これまでの資金調達(例:金融機関からの借入)

近年、ITを活用した新しい資金調達の仕組みが注目を集めている。これは、インターネットを介して不特定多数の人々から資金調達することから、「クラウドファンディング23」と呼ばれている。クラウドファンディングでは、これまで困難であった個人の投資へのハードルを下げることにより、これまで金融機関が融資に関して中小企業・小規模事業者や起業家に対して消極的になっていた部分を補完し得る可能性があると指摘されている。しかし、クラウドファンディングの明確な定義はなく、具体的な資金調達手法にもそれぞれ特徴があり、また「資金調達プラットフォーム提供サイト」(以下、「資金調達サイト」という。)運営者に対する法規制にも違いがあるため、これらを一括りにクラウドファンディングと捉えることは、資金調達を検討している企業や起業を検討している個人、出資24を検討している人々(以下、「出資検討者」という。)に誤解を抱かせる恐れがある。このため、本節では、インターネットを介して不特定多数の人々から資金調達する仕組みを「ITを活用した資金調達」として捉えた上で、その可能性と課題について見ていく。

23 群衆を意味する「crowd」と、資金調達を意味する「funding」を組み合わせて、クラウドファンディング(crowdfunding)と呼ばれている。

24 「出資」には様々な意味があるが、本節では、特に断りがない場合、「出資」とは、「一般の人々が資金調達サイトに掲載されているプロジェクトや企業に対して、資金を供給する行為」を指すものとする。

1. ITを活用した資金調達の概要

ITを活用した資金調達とは、「インターネットを介して、不特定多数の人々から資金調達を行う」ことである。企業が、資金調達サイトを介し、広く一般に資金の募集を行うことにより資金調達を図る新たな仕組みである。この仕組みは、企業が新商品を開発するプロジェクト資金の調達の際や、通常の営業活動に係る運転資金の調達の際に利用される。この仕組みにおける資金の拠出者は、インターネットを利用する世界中の人々である。少額からの出資が可能であり、今まで投資の経験がない人であっても、比較的参加しやすい仕組みとなっている。広く一般に資金の募集を可能にするという点で、これまでの企業の資金調達の常識を覆す仕組みとなっている。この仕組みを理解するために、企業がITを活用した資金調達を行うために必要な行動と、出資検討者が出資を行うために必要な行動について見ていく。

●企業によるITを活用した資金調達

企業がITを活用して資金調達を行う場合、資金調達手法により異なるが、一般的に、〔1〕資金調達サイト掲載申込、〔2〕資金調達サイト運営者による審査の通過、〔3〕資金募集ページの作成、〔4〕資金募集の開始、〔5〕資金調達の達成、〔6〕プロジェクトの実行、〔7〕出資者に対する見返りの提供というプロセスを経ることが考えられる(第3-5-36図)。

第3-5-36図 企業のITを活用した資金調達のプロセス(例)

まず企業は、資金調達サイトにプロジェクト内容(事業内容)を掲載する必要がある。資金調達サイトにプロジェクトを掲載するためには、資金調達サイト運営者の審査を受ける必要がある。企業は、資金調達サイトにプロジェクト内容が掲載されるための申込を行い(〔1〕)、資金調達サイト運営者に対してプロジェクト内容の説明を行う。その後、審査を通過したプロジェクトが資金募集案件としてサイトに掲載され、資金の募集を開始することできる(〔2〕)。

資金調達サイト運営者の審査を通過した後は、資金調達サイトに掲載するプロジェクト内容の詳細を記した資金募集ページを作成する25(〔3〕)。プロジェクトの魅力を効果的に伝えるための動画を制作し、プロジェクト内容の説明文と一緒に掲載することもできる資金調達サイトもある。資金募集ページには、プロジェクト内容とともに、出資に対する対価についても記載する。資金募集ページが作成されると、資金調達サイト上にプロジェクトが掲載され、資金の募集が開始される(〔4〕)。資金調達金額については、資金調達目標金額が設定される場合と、資金調達目標金額が設定されない場合がある。資金調達目標金額の達成後(〔5〕)、企業は、その調達した資金を利用してプロジェクトを実行に移し(〔6〕)、あらかじめ決めておいた対価の内容に応じて、出資者に商品・サービスの提供や、配当の提供を行い(〔7〕)、企業のITを活用した一連の資金調達プロセスは終了する。

25 この資金募集ページの作成にあたっては、その作成をサポートする資金調達サイトもある。また、資金調達サイト上だけで資金募集をするのではなく、プロジェクト内容をより理解してもらうために、ネット上ではないリアルの説明会を実施する資金調達サイトもある。

●個人による企業への出資

個人等の出資検討者がプロジェクトに出資する場合、一般的には、〔1〕出資目的の明確化、〔2〕出資するプロジェクト内容の把握、〔3〕出資するプロジェクトに対するリスクの確認、〔4〕出資、〔5〕出資による見返りの受取というプロセスを経ることが考えられる(第3-5-37図)。

第3-5-37図 個人の企業に対する出資のプロセス(例)

まず出資検討者は、どのような目的で出資するかを考える必要がある(〔1〕)。企業が開発する新商品・新サービスの入手を目的とするのか、金銭的リターンを目的とするのかによって、プロジェクトが掲載されている資金調達サイトが異なる。自身の出資目的に適した資金調達サイトにおいて、プロジェクト内容、出資に対する対価、対価を受けるタイミング等を把握し(〔2〕)、出資に対するリスク等を確認した上で(〔3〕)、その後自身で出資するかどうかの判断を行う(〔4〕)。出資に対する対価の受取については、100%保証されたものではないため、資金募集ページ等を参考に個々のリスクについて十分に検討する必要がある。出資後、実際に企業の資金調達が達成され、プロジェクトが実行されれば、出資金額に応じて、出資に対する商品・サービスの提供や、金銭的リターンの提供を受ける(〔5〕)。プロジェクト実行後、即座に商品・サービスの提供を受けられるプロジェクトもあれば、年に1度だけ配当を受け取るようなプロジェクトもある。

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