第2部 中小企業・小規模事業者が直面する経済・社会構造の変化 

第2節 地域活性化の切り札―「地域資源」の活用―

第1節で見てきたように、地方経済は極めて厳しい状況にある。そのような厳しい環境の中ではあるが、「地域活性化の切り札」として、元々その地域にある「地域資源」の活用を第2部の最終節として提言したい。

地域資源とは、地域に存在する特有の経営資源として、特産品や伝統的に承継された製法、地場産業の集積による技術の蓄積、自然や歴史遺産といった文化財などが挙げられる18。中小企業地域産業資源活用促進法に基づき、地域資源として各都道府県が指定している件数は、2014年2月末時点で、13,780件19となっているなど、どの地域にも特有の名産品や、地域のシンボルとなる自然や文化財が存在している。

第2-2-20図は、地域活性化の切り札となる地域資源を聞いたものである。これを見ると、都道府県では、「産業基盤」と回答した割合が高く、市区町村では「農水産品」、「観光資源」と回答した割合が多い。また、「地域活性化の切り札」となる地域資源が「特にない」と回答した都道府県はなく、市区町村でも1割未満であるなど、ほとんどの自治体では、「地域活性化の切り札」となりうる地域資源はあると認識していることが分かる。

18 2007年版中小企業白書p. 54を参照。

19 内訳は、農林水産物4,145件、鉱工業品2,935件、観光資源6,700件。

第2-2-20図 地域活性化の切り札となる地域資源
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それでは、地域資源の活用状況はどうだろうか。第2-2-21図は、「地域活性化の切り札」となり得る地域資源の活用状況を示したものである。都道府県では、地域資源を活用しており、成果も出てきていると多くの都道府県が回答している。一方で、市区町村では、4割以上の自治体が地域資源を有効活用できておらず、「地域活性化の切り札」となり得る地域資源はあるものの、十分に有効活用できていないことが明らかとなった。

第2-2-21図 地域活性化の切り札となる地域資源の活用状況
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第2-2-20図で見たように、市区町村は「農水産品」や「観光資源」を地域活性化の切り札として認識している割合が高い。今後については、そのような「農水産品」や「観光資源」の活用が地域活性化のためには必要となる。したがって、市区町村と中小企業・小規模事業者が連携して地域資源の活用に取り組んでいくことが必要であると考えられる。

以下では、地域資源の「切り札」として多く回答のあった「農水産品」を活用して地域活性化を果たした自治体及び中小企業を紹介する。

事例2-2-5. 岡山県英田郡西粟倉村

森を育み、地域の資源を価値化することで、地域活性化に成功した村

岡山県英田郡西粟倉村は、人口約1,550人で村の面積の95%以上を森林が占める源流の村である。同村は、平成の大合併に際し、合併を選択せず、村として自立の道を選択し、2007年に「村の人事部」と呼ばれる雇用対策協議会を設立した。村役場を中心に、起業家の発掘や育成を図るとともに、定住支援のために、当時70件あった空き家のオーナーに家を貸し出す交渉を行うなど、村内の雇用創出の体制づくりに取り組んだ。

2008年に、森の再生を通じて、地域の雇用や活性化につなげるために、「百年の森林構想」という将来を見据えた地域づくりビジョンを策定した。この構想の特徴は、村民が持つ山全体を村が一括管理する点で、他地域に見られない、森林の適正管理の新たな仕組みを実現している。また、「共有の森ファンド」を設立し、一口5万円の出資を全国から募り、森林組合が林業機械を購入する費用を確保するとともに、出資者を中心に全国の都市との交流を生み出している。

こうした構想のもと、適正に管理された山から出された木を、原木のまま出荷するのではなく、地域で商品化し付加価値を高めるため、2009年には、その活動の核となる「株式会社西粟倉・森の学校」が設立された。同社は、「地域の資源を価値にすること」を目的に、仕事と雇用を生み出していくためのインフラを整え、村としてインキュベートとマーケティングを行う機能を有する地域商社の役割を果たしている。同社は、原木の加工を行い、床材、家具、小物などのストーリー性の高い製品を製作し、インターネットショッピングサイト「ニシアワー」等を通じて全国に販売することで、外需を獲得するなど、地域の活性化に貢献している。こうした活動を経て、村には、全国から若年層が集まり、木製の保育家具・遊具制作、家具・空間デザインを手掛ける工房、古民家を利用した宿泊施設など、様々な分野で起業がすすみ、また相互に連携し合うことで「西粟倉」ブランドの構築にも寄与している。

2007年から2012年までに、Iターン者は50名、また、60名以上の新規雇用が創出されるなど、地域活性化に成功した自治体といえる。

西粟倉の森

事例2-2-6. 丸真食品株式会社

地域の農水産品を活用し、地域ブランドの確立に取り組んでいる企業

茨城県常陸大宮市の丸真食品株式会社(従業員40名、資本金1,000万円)は、地域特産品である納豆を製造・販売している企業である。

主力商品は、茨城県産の極小小粒大豆を使用した納豆を茨城県の久慈川を流れる小舟をヒントにした舟形の容器に入れた「舟納豆」であり、茨城納豆のブランド化に貢献している。

また同社は、2006年より地域の大豆農家が栽培する「黒大豆小粒」を利用した商品の開発を開始し、2010年には、地域の黒大豆生産農家と協力して農商工連携の事業認定を受け、舟形容器の新商品である「黒船」を完成させた。

「黒船」は、黒大豆を使用した納豆が珍しかったこともあり、販売開始直後から売行きは好調であった。しかしながら、黒大豆農家が増産に対応できず、提携農家を増やすこともできなかったため、「黒船」は特注品的な存在になってしまった。そこで、同社は、自ら農業法人を設立し原材料である黒大豆小粒の生産に取り組むこととした。生産農家からの仕入に加えて自社で生産を行うことで、原材料の仕入を安定させ、「舟納豆」に次ぐ、新たな茨城納豆のブランドとして「黒大豆納豆」の製造・販売に注力している。

同社社長の三次美知子(みつぎみちこ)氏は、「今後も、地元の農家と協力するなど地域を巻き込みながら、特産品である黒大豆等を活用した商品開発を行うことで、茨城の味である「納豆」を地域の特産品として全国へ販売するなど、地域一体となって、茨城県を盛り上げていきたい。」と語っている。

同社の三次美知子社長

次に、地域産業資源の都道府県の指定状況及び事業計画の認定状況を見ていく。第2-2-22図は、都道府県が地域資源に指定している件数の内訳を示したものである。これを見ると、観光資源の指定件数が約5割、農水産物が約3割、鉱工業品が約2割であり、観光資源が最も多いことが分かる。

第2-2-22図 都道府県が地域産業資源として指定した件数
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他方、第2-2-23図は、中小企業地域産業資源活用促進法に基づく事業計画の認定件数の推移を示したものである。これを見ると、中小企業地域産業資源活用促進法が施行された2007年度から2009年度までは事業計画の認定件数が年間200〜300件推移するなど多かったが、近年では、年間90〜120件程度で推移していることが分かる。

第2-2-23図 事業計画の認定件数の推移
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また、地域産業資源の分類ごとに認定状況を見ると、第2-2-22図で見たように都道府県が地域産業資源として指定した件数としては観光資源が49%を占めているのに対して、事業計画として認定を受けた件数の割合は7%にとどまっている。したがって、観光資源については、今後さらなる活用の余地があるといえるだろう。

さらに、事業計画の認定は、複数の中小企業・小規模事業者によるによる共同申請も可能となっている。第2-2-24図は、現在までに地域資源認定を受けた事業計画の認定者数別の件数を示したものである。これを見ると、現在までに事業計画の認定を受けた1,214件については、個者による認定がほとんど(約95%)で、共同申請による認定件数は58件と1割にも満たないことが分かる。

第2-2-24図 事業計画の認定者数別件数
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個者に比べ、複数の中小企業・小規模事業者が連携して地域資源を活用した取組の方が、地域経済への波及効果が期待できる。そのため、今後は、地域活性化のため、複数の中小企業・小規模事業者が連携して地域資源を活用することを促していくことが一つの方向性といえるだろう。

以上、第2章では、地域の抱える、「人口減少」、「少子高齢化」、「商店街・繁華街の衰退」について分析を行った上で、そのような地域が抱える課題を解決する切り札としての「地域資源」について見てきた。

「人口減少」、「少子高齢化」、「商店街・繁華街の衰退」などに悩む地域であっても、県全体で若者を誘致するような取組や商店街の活性化を目指して独自の取組を行うことで、地域を活性化させることは可能である。また、観光資源等の地域資源をうまく活用することも、地域活性化の「鍵」といえよう。

以下では、地域資源、とりわけ活用の余地のある「観光資源」を活用して地域活性化を果たした事例を紹介する。

事例2-2-7. 青森県南津軽郡田舎館村

田んぼをアートとして活用することで、村おこしに成功した村

青森県南津軽郡田舎館村は、人口約8,200人の津軽平野南部に位置する村である。同村は、稲作を中心に、野菜やりんごなど農業を産業の中心として発展してきた。ピーク時の人口は、10,000人を超えていたが、その後、産業構造の変化などにより、人口が減少、少子高齢化も進展していた。

同村では、衰退していく村を活性化させるため、「村おこし推進協議会20」が、1993年より地域の名産である稲を利用した「田んぼアート21」を役場裏の田んぼを利用して開始した。

当初は、ノウハウもないため苦戦したが、何年か続けるうちに技術や広報戦略も向上してきた。2012年からは2会場で開催し、2013年の観光客数は約25万人を記録するなど、確実に効果は出てきている。「田んぼアート」は海外メディアでも取り上げられるなどしており、外国人観光客も多い。

また、農業に関する普及活動にも力を入れており、「田んぼアート」に係る田植え・稲刈り体験も行っている。

2013年には、「田んぼアート」駅も開業。アクセスも向上し、更なる集客を目指している。

20 1988年に立ち上げた、村おこしのための協議会。田舎館村役場、田舎館村商工会、農協が共同で運営。会長は、田舎館村の村長が務める。

21 主要産業が稲作農業である青森県田舎館村が村おこしを目的に1993年に開始したのが最初。田んぼを大きなキャンバスに見立て、「現代米(緑の稲)」と「古代米(紫と黄色の稲)」という色の違う米を混ぜて、巨大な絵を作る活動。

2005年度作品「歌撰恋之部・深く忍恋」・2012年度作品「七福神」

事例2-2-8. 香川県香川郡直島町

現代アートを活かして、域外からの観光客を獲得している島

香川県香川郡直島町は、瀬戸内海に浮かぶ直島を中心とした27の島々で構成される町で、人口約3,200人の小さな町である。そのような小さな町が、近年観光ビジネスに成功した町として注目を集めている。

元々、直島は観光地ではなかったが、1992年のホテル・美術館である「ベネッセハウス」のオープンなどで、観光地への歩みを進めた。当初は、住民の理解も得られにくかったが、その後、作品設置を住民参加型イベントの形にしたり、住宅地を舞台に企画展を開いたりすることで、来訪者やスタッフ、作家と住民の交流が生まれ、次第に住民の理解を得られるようになっていった。

直島町でしか見られない古民家を改修したアートなどは、国内外からの注目を集め、観光客が急増したが、直島町では、増加する観光客に対応した宿泊、飲食、交通等が十分に整備されていなかった。それが、香川県や直島町の働きかけによって、新たに観光協会が設立され、観光客受入れのための取組を開始したことで状況が一変した。

まず、宿泊については、高齢化や人口減少により増えていた空き家を、飲食店や民宿に利活用することを町民に提案した。施設改修費のみの負担で、新たに始められる低投資型ビジネスとして、民宿が町内に増えていった。民宿の中には、料理を提供しない宿泊特化タイプが多かったため、飲食店を増やすことが課題となったが、Jターン、Iターン者のカフェの開業や地元の若手経営者の第二創業などで、飲食店も徐々に増えていった。

次に、交通については、町営路線バスを町内の観光施設を回るルートで運行することとし、観光客の交通利便性を向上させた。

このほか、観光協会では、特産品開発を主導し、天日塩を製造する工場を整備した。現在では、町内外で製造する土産物用の原材料として供給するほか、県内外の百貨店での販売も実現している。

また、同協会6名のスタッフのうち5名は、外国人観光客の案内をするために英語での対応が可能であり、ホスピタリティの向上にも寄与している。

以上のように、直島町では、「現代アート」という資源を起爆剤に、島内住民、町・町内事業者や地域資源を結び付け、観光客向けのインフラやソフトを整備したことで、1992年には5万人に満たなかった観光客等入込数は、2013年には70万人を超えるなど、離島の活性化に成果を上げている。

草間彌生「赤かぼちゃ」2006年 直島・宮浦港緑地

第2部では、中小企業・小規模事業者が直面する人口減少・少子高齢化、国際化の進展、情報化の進展、就業構造の変化などの経済・社会構造の変化及び地域経済が抱える課題、地域活性化の「切り札」としての地域資源の活用について概観してきた。

以上で見てきたような、経済・社会構造の変化は中小企業・小規模事業者に多大な影響を与えると考えられる。また、地域が抱える課題は中小企業・小規模事業者にとっても極めて深刻な問題である。

中小企業・小規模事業者はこのような外部環境の変化や課題を十分に踏まえた上で、中長期的な経営戦略を立て、実行していく必要があるだろう。

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