第2部 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者 

第2節 経営課題とITの活用

第2-4-6図は、重視する経営課題を示したものである。7割超の企業が、「コストの削減、業務効率化」を重視しており、最も多い。次いで、「営業力・販売力の維持・強化」や「新規顧客の獲得」を経営課題として重視する企業が多い。

第2-4-6図 中小企業の重視する経営課題(複数回答)
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第2-4-7図は、経営課題として重視している企業の割合と、ITを導入した企業の割合の差を示したものである6。数値が大きくなるほど、経営課題として重視しているものの、ITを導入していない企業が多いことを示している。数値を見ると、小規模事業者、中規模企業共に、「コストの削減、業務効率化」、「営業力・販売力の維持・強化」で特に大きい。経営課題として重視しているものの、ITを導入していない企業が多いことが分かる。

また、中規模企業に比べて、小規模事業者は、いずれの経営課題でも、ITを導入していない傾向が高くなっている。

6 規模別の各経営課題の重視している割合、ITを導入した割合については付注2-4-1を参照。
第2-4-7図 規模別の経営課題として重視している企業の割合とIT を導入した企業の割合の差
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第2-4-8図は、ITの活用が必要と考える企業の割合とITを導入した企業の割合を、規模別に示したものである。

中規模企業の5割近くが、企業全体での総合評価として、経営課題の解決のために「ITを導入した」と回答している一方、小規模事業者では約3割にとどまる。また、中規模企業の8割近くが、経営課題の解決に「ITの活用が必要と考えている」と回答している一方、小規模事業者では約6割と低くなっており、必要と考えていない企業が多いことが分かる。

ITの活用が必要と考えている企業のうち、導入した企業の割合も、中規模企業に比べて、小規模事業者は低い。企業全体での総合評価では、中規模企業のそれは約6割である一方、小規模事業者では5割を下回っている。

第2-4-8図 規模別のIT の活用が必要と考えている企業の割合とIT を導入した企業の割合(企業全体での総合評価)
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第2-4-9図、第2-4-10図は、各経営課題に対して、解決するためにITの活用が必要と考えている企業の割合と、ITを導入した企業の割合を、小規模事業者と中規模企業に分けて集計したものである。

小規模事業者と中規模企業の2つの図を比較すると、いずれの経営課題でも、中規模企業の方が、ITの活用を必要と考えている企業が多く、また、ITを導入した企業も多いことが分かる。

詳細に見ると、ITの活用が必要と考えている企業の割合は、「コストの削減、業務効率化」では、小規模事業者で7割弱、中規模企業で9割弱である。次いで、「営業力・販売力の維持・強化」、「新規顧客の獲得」の割合が高い。

「コストの削減、業務効率化」について、ITを導入した企業の割合は、小規模事業者で3割強、中規模企業で6割弱である。また、ITの活用が必要と考える企業のうち、導入した企業の割合は、小規模事業者で約5割、中規模企業で7割弱となっている。

第2-4-9図 経営課題別のIT の活用が必要と考えている企業の割合とIT を導入した企業の割合(小規模事業者)
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第2-4-10図 経営課題別のIT の活用が必要と考えている企業の割合とIT を導入した企業の割合(中規模企業)
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コラム2-4-2

中小企業IT経営力大賞

「中小企業IT経営力大賞」とは、経済産業省が関係機関の共催・協力のもとに主催する、2007年度に創設された表彰制度である。優れたIT経営(ITを活用した企業経営、新商品・新サービスの開発、企業間連携によるイノベーション創出)を実現し、かつ他の中小企業がIT経営に取り組む際に、参考となるような中小企業や組織に贈られる。

IT経営の実践が一定以上の水準と認められる企業・組織をIT経営実践認定企業・組織として認定し、中でも更に優れたものを、大賞や優秀賞等として選出している7

中小企業IT 経営力大賞2013記念式典での集合写真

中小企業IT経営力大賞2013記念式典での集合写真

7 受賞した企業の事例等は、ポータルサイト「経済産業省IT経営ポータル(http://www.it-keiei.go.jp/index.html)」で見ることができる。

以下、生産、在庫管理等で、主に企業内部でITを活用し、経営課題に対応した企業の事例を示す。

事例2-4-4 梶フエルト工業株式会社

ITの活用により効率的な多品種少量生産対応を実現している企業

東京都墨田区の梶フエルト工業株式会社(従業員27名、資本金1,080万円)は、フエルト製品を加工・製造する企業である。同社は、3千を超える多品種の加工への対応が強みであり、売上は増加傾向にある。価格競争になりにくく、受注の安定にもつながるため、特に小ロット対応に力を入れている。

同社では受注・生産・在庫の情報管理を一元化するシステムを構築し、多品種少量生産への対応を効率的に行っている。受注データを入力すると、材料、在庫場所、加工方法、生産数量等が記載された加工指示書が加工機械ごとに発行され、従業員はそれを確認して作業し、作業後、材料使用量や問題点等を書き込み、事務所に提出する。

当該システムは、同社の梶朋史社長がパソコン用データベースソフトを使って、自ら作成したものである。パッケージソフトでは、業務に合わせた機能の変更や追加が難しく、修正にもコストが掛かった。在庫管理を徹底するため、加工が終わるごとに商品コードを付与し、仕掛品の状態まで把握するなど、梶社長が考案した工夫が随所に見られ、生産性の向上に大きく貢献している。

梶社長は、新しい技術も積極的に活用している。各受注の加工図面について、以前は紙に印刷したものを使っていたため、古い図面と顧客の要望で変更した新しい図面とを取り違え、不良品を出してしまうことがあった。現在では、タブレット型端末と無線LANの活用により、加工現場で社内のサーバから最新図面を参照する仕組みを整え、取り違えを防いでいる。

「ITを活用するためには、経営者が自社に必要なITが何かを考え、それに合ったものを探す必要がある。今はインターネットで様々な情報が得られるし、やるべきこと、やりたいことが分かっていればシステムづくりも難しくない。システムは一度作れば、作業は楽になるし、手作業でのミスもなくなる。難しいという先入観に捉われて避けていると、ITの導入は進まない。FAXサーバを導入するなど、取り組みやすいところから、徐々に取り組んでいくことが大事ではないかと思う。」と梶社長は語る。

タブレット型端末の利用風景

タブレット型端末の利用風景

事例2-4-5 遠赤青汁株式会社

農商工連携に取り組み、CIO8がITの活用を積極的に進める企業

愛媛県東温市の遠赤青汁株式会社(従業員29名、資本金4,500万円)は青汁製品を製造・販売する企業である。関係会社で原材料のケールを有機栽培することにより、栽培、加工、販売まで一貫した対応ができる体制となっている。

同社では、顧客のクレームに対して、迅速に回答できる体制の整備が経営課題であった。それまで、農場では有機JAS規格の認定9のための栽培記録、工場では製造記録、事務所では顧客情報が、それぞれ管理されていた。同社で、インターネットでの通信販売を担当していた現在CIOの渡部一恵氏は、これを社内で連携させ共有化できないかと考え、取組を進めることとなった。まず、「クレームを受けた製品が、どこで栽培され、いつ加工されたかといった情報を、24時間以内に得られること」と具体的な目標を定めた。もともと農場の記録を管理していたことに加え、導入の目的が明確であったため、順調に取組を進めることができたという。

情報の連携が進み、クレームが発生してもすぐに栽培記録等を確認し、素早く情報を顧客に提供できる体制ができた。新規顧客からの質問やクレームにも迅速に対応できる情報管理体制があることが、農商工連携等で連携を組む他の事業者からの信用を高め、その結果、大口の取引の獲得にもつながっている。また、ITを基盤に、アジアの富裕層の増加や、欧米の健康志向の高まりによる需要を取り込むため、同社は海外への販売を視野に入れている。既に、台湾の百貨店で取扱いを開始し、更なる海外展開にも力を入れる。

同社は、こうした取組が評価され、2008年度から5年連続でIT経営実践認定企業10に選ばれている。認定後、渡部CIOは、自社の取組を社外に説明できる必要があると考えた。そこで、経営の視点からのITの活用を本格的に勉強するなど、自己研鑽に努め、同社のITの取組に大きく貢献している。

ケール農場の作業風景

ケール農場の作業風景

8 CIO(Chief Information Officer、情報システム統括役員)とは、企業におけるITの導入・活用に関する全ての最終責任を負っている役員をいう。

9 有機食品のJAS規格に適合した生産が行われていることを認定されることで、「有機JASマーク」を使用できる。「有機JASマーク」がない農産物と農産物加工食品では、「有機」、「オーガニック」等の名称の表示や、これと紛らわしい表示をすることができない。

10 前掲コラム2-4-2参照。

以下は、ITを活用して企業の外部との連携も行い、経営課題に対応している事例である。

事例2-4-6 田中精工株式会社

協力会社と連携し、生産管理を効率化するシステムを独自開発したものづくり企業

京都府宇治市の田中精工株式会社(従業員94名、資本金4,000万円)は、自動車、電子機器等の小型精密部品を鋳造する企業である。金型の設計、製造から鋳造品の表面加工、検査等まで、外注先の協力会社と連携した一貫生産を強みとしている。

同社は、大手メーカーとの受発注を電子化して行うことに加え、協力会社との間でも受発注、工程進捗等の生産管理情報をやり取りする生産管理システムを開発し、生産性や品質の向上に取り組んでいる。同システムは、従来から利用していた社内システムの一部を改良したもので、協力会社は、インターネットを通じてシステムを利用できる。また、システム内のデータは、公開領域の設定ができるため、協力会社は、同社以外から受注した仕事を公開せずに管理できる。

協力会社の状況やニーズは多様であり、協力会社も活用できるシステムとするためには、個別にカスタマイズし、段階的に利用できる仕組みが必要であった。システムの開発に当たって、協力会社と協議会を設立し、システムの活用が協力会社自身の生産性の向上につながることを説明するとともに、協力会社の意見や要望を積極的に取り入れた。このことで、協力会社の主体的な参加を促すことができた。

2012年には、12の協力会社が同システムを活用しており、管理業務を電子化したことで生産性が向上し、同社の粗利益率は改善している。リードタイムの短縮や協力会社での不良の発生が即時に把握できるため、販売先からの信頼が着実に高まっていると感じている。また、同社は、2009年度に中小企業IT経営力大賞を受賞し、その後、同システムを活用した協力会社2社も、優秀賞やIT経営実践認定企業に選ばれた。

同社では、生産の管理業務以外にも、ITを積極活用している。例えば、製造業にとって重要な課題である省電力化のために、電力消費量の多いコンプレッサーの電力消費量と空気圧のデータを収集し、節電効果が得られる最適な運転条件を検討している。「ものづくり力は、技術力と管理能力の掛け合わせ。ITを、営業、管理、生産の現場同士を融合するための道具として最大限に活用することが、新たな経営革新につながる可能性がある。」と同社総務部長の坂本栄造氏は語る。

同社が製造する小型精密部品

同社が製造する小型精密部品

事例2-4-7 会宝産業株式会社

中古自動車部品の需要者・供給者の情報共有で取引方法を変革した企業

石川県金沢市の会宝産業株式会社(従業員78名、資本金5,700万円)は、使用済自動車の解体等の自動車リサイクル事業や、中古自動車部品の販売事業を手掛ける企業である。同社では、輸出が売上の約7割を占めており、その取引先は、71の国・地域に及ぶ。

同社の国内外との幅広い取引を支えているのが、「KRA(Kaiho Recycler’s Alliance)システム」と呼ばれる中古自動車部品情報管理システムである。このシステムでは、使用済自動車の査定から、仕入、生産、販売までの過程や、在庫、品質、原価といった部品の情報を一元的に把握し、管理することができる。情報管理を進めることで、需要側と供給側の交渉で、部品一山の価格を決めていた従来の取引方法を変え、適切な仕入価格・販売価格の設定が可能となった。その結果、部品の購入事業者だけではなく、供給事業者からも信頼が得られている。

国内外の取引先もこのシステムを導入することで、同様の管理を行うことができる。システムを導入した取引先とは、部品在庫の共有や、統一された品質基準の利用をすることができ、関係を強めている。

また、人気の高い部品は需要が多く、調達力を高めることが重要となるが、同社では、国内の自動車リサイクル業者と連携し、対応している。同社が、輸出手続や代金回収を担い、提携先は、部品の調達、品質確保に注力することで、連携の効果を上げている。

現在は、社内サーバ内の管理システムに、システム参加者が、インターネット経由でアクセスしているが、今後はクラウド化して、運営コストを下げていくことが検討されている。

中古部品の倉庫

中古部品の倉庫

事例2-4-8 日本ローカルネットワークシステム協同組合連合会

ネットワークシステムで運送を効率化する中小運送事業者のための取組

日本ローカルネットワークシステム協同組合連合会(本部・大阪府大阪市)は、1,600超の中小運送事業者が所属する122の協同組合で構成される全国規模の連合組織である。1990年以降の運送区域等の規制緩和により、競争が厳しくなることが懸念されたことを背景に、大阪府、兵庫県の運送事業者により、1991年に設立された。

同会は、全国の中小運送事業者が、仕事を融通し合い、運送を効率化する求車求荷システムを運営している。顧客から問い合わせがあった仕事に対応するため、引き受ける他社のトラックを求める(求車)荷物の情報、復路で運ぶ荷物が少ないなどによって、荷物を求める(求荷)トラックの情報がリアルタイムで表示され、中小運送事業者は、このシステムの利用により、空荷トラックを減らすことが可能となった。

同会では、運送事業者間の連携を円滑にするための取組も行っている。仕事の融通のためには、事業者間の信頼関係の構築が必要不可欠であり、研修や交流会での情報交換等の機会を設けている。

荷物積込みの作業風景

荷物積込みの作業風景

コラム2-4-3

企業間の連携とIT

ITの活用によって、企業内の経営課題の解決のみならず、企業間の連携や新しいビジネスの創造が促進される可能性がある。これらによりイノベーションが起こり、経済に新しい活力をもたらすことが期待される。

中小企業・小規模事業者の成長にとって、各段階の経営課題・相談ニーズに応じたきめ細かく対応できる経営支援体制の再構築が必要となっている。そのため、政府では、複数の業種の中小企業・小規模事業者の連携による、個社単位では成し得ないビジネスの創造を目標に、中小企業・小規模事業者ビジネス創造等支援事業を進めることにしている。その中で、100万以上の中小企業・小規模事業者や起業を目指す者と、1万以上の専門家等が参画し、時間や場所に捉われずに自由に、経営・起業に関する情報交換や相談等ができるITシステムを構築していく予定である。

中小企業・小規模事業者ビジネス創造等支援事業 平成25年度予算48億円

○ITクラウドを活用したシステム(支援ポータル)を開発・運営し、以下の4つの機能を提供:

〔1〕中小企業・小規模事業者や専門家等支援者の間でのコミュニケーション・コミュニティ形成、中小企業・小規模事業者同士あるいは中小企業・小規模事業者と専門家等とのマッチング

〔2〕中小企業向けの支援情報の提供、支援施策の申請受付

〔3〕地域での共同受発注システム等、中小企業・小規模事業者間の業務連携支援

〔4〕中小会計要領に基づく財務データ管理、ビッグデータ活用による高度な経営分析等の経営改革支援

○また、中小企業・小規模事業者の高度な経営課題等の相談に対応するため、専門家派遣を実施。

○こうした支援を通じて、各地域における膝詰め相談等を実現する地域の支援ネットワークの構築も促していく。

中小企業・小規模事業者ビジネス創造等支援事業平成25年度予算48億円
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