第2部 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者 

2 ITの導入の状況

第2-4-2図は、規模別・利用形態別に、ITの導入の状況を2007年と2012年で比較したものである。小規模事業者、中規模企業では、いずれの利用形態でも「実施している」と回答する企業の割合が、2007年に比べて高くなり、ITの導入がこの期間で着実に進んでいることが分かる。また、小規模事業者と中規模企業の導入の差には縮小傾向が見られるが、自社ホームページの開設等、小規模事業者のITの導入が、規模の大きい企業に比べて進んでいない状況も見られる。

第2-4-2図 規模別・利用形態別のIT の導入の状況(2007 年、2012年)
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コラム2-4-1

ホームページの活用

前掲第2-4-2図によれば、小規模事業者で5割弱、中規模企業で約8割が自社ホームページを開設している。中小企業・小規模事業者はホームページをどのように活用しているのだろうか。

小規模事業者におけるホームページの開設の有無と販売先数の変化を見ると、ホームページを開設していない事業者よりも、開設している事業者の方が、販売先数が「大幅に増加した」、「やや増加した」と回答する事業者が多いことが分かる。ホームページの開設が、販売先数の増加につながっていることが確認できる。

小規模事業者の自社ホームページの開設の有無と販売先数の変化

小規模事業者の自社ホームページの開設の有無と販売先数の変化
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規模別のホームページの更新頻度を見ると、小規模事業者、中規模企業共に、ホームページの更新頻度は「数か月に1回」以下の企業が多く、更新頻度が高くない企業が、多いことが分かる。

規模別のホームページの更新頻度

規模別のホームページの更新頻度
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また、規模別のホームページの更新の担当者を見ると、ホームページの更新の担当者が、「経営者」、「経営者の家族・親族」である企業は、小規模事業者では4割を超えている。多くの小規模事業者には、専門性のある担当者がいない可能性がある。

規模別のホームページの更新の担当者

規模別のホームページの更新の担当者
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ホームページの開設については、デザインの制約はあるものの、あらかじめ用意されたものを組み合わせて、無料でホームページを作成することができるサービスが出てくるなど、コストは低くなっている。こうしたサービスの活用を検討する企業が増えることも、自社ホームページの開設の促進につながると考えられる。ホームページの活用は、商圏が限られる地域の小規模事業者にとって、その制約を乗り越える手段となり得ることから、一層の活用が期待される。

事例2-4-1 株式会社トリプルライク

ホームページの活用により、全国展開を実現した地域の飲食店

大分県日出町の株式会社トリプルライク(従業員4名、資本金300万円)は、24歳のときに料理の修行を始めた同社の三好晋輔社長が、2002年に創業した、飲食店を運営する企業である。カレーやオムライス、ハンバーグ等を提供している。

素材や製法にこだわった同社の料理は、顧客から高い評価を得ていたが、人口の多い都市部から遠い場所に店舗があり、売上が伸び悩んでいた。そこで、売上の拡大と新規顧客の獲得のため、インターネットを通じた、自社のホームページでの通信販売に、2009年から取り組んだ。

通信販売に取り組む前に、三好社長は、大分県商工会連合会主催の通信販売に関するセミナーに参加した。セミナーを通じて基礎から勉強し、現在も情報交換をしている他の受講者や、助言を受けている講師と知り合うことができた。

通信販売のホームページは、テンプレートを利用し、社長自身で作成した。それまでホームページを作成した経験はなかったが、説明書を読み、業者に問い合わせをしながら作り上げた。作成には2か月程度掛かった。ホームページの更新、写真撮影等は、現在も全て社長が行っている。「人に任せても良いのだが、自分でやりたいという気持ちが強い。」と三好社長は語る。

通信販売を開始した当初、売上は思わしくなかったものの、ブログやメールマガジンで情報を発信することで、少しずつ売上が増えていった。事業が大きく拡大したのは、2010年であった。初めは、同社のホームページを見た地元のテレビ局の番組で、その後、全国放送の番組でも取り上げられたことがきっかけだった。

番組の放送前、注文の量が予測できなかったため、同社は予約を受け付けることにした。放送まで1週間しかない中で、予約を管理するシステムを開発する必要があった。そこで、情報システム会社に委託し、柔軟なシステム構築が可能なデータベースソフトを使い、必要な機能から順次構築し、運用しながらシステム開発を行った。その結果、放送日までに予約管理システムの構築とサーバの強化を行うことができ、当日の多量の注文への対応が可能となった。

インターネットでの通信販売を始めてから、放送によって知名度が大きく向上したことで、新規顧客を獲得することができ、売上は大幅に増加している。

同社が提供するハンバーグカレー

同社が提供するハンバーグカレー

第2-4-3図は、規模別・業務領域別にITの導入の状況を見たものである。小規模事業者、中規模企業共に、「財務・会計」、「人事・給与管理」の業務領域で、ITを導入していると回答する企業が多い。一方で、「生産」、「物流」等の業務領域では、大企業と比べて、ITを導入している企業の割合の差は大きくなっている。

第2-4-3図 規模別・業務領域別のIT の導入の状況
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また、第2-4-4図により、業務領域別にITの導入の方法を見ると、「生産」や「在庫管理」の業務領域で「自社で開発」、「オーダーメイド」で導入した企業の割合が高くなっている。一方、「財務・会計」、「人事・給与管理」の業務領域では、「パッケージソフト」で導入したと回答する企業の割合が高い。

第2-4-4図 業務領域別のIT の導入の方法
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これらの状況を見ると、パッケージソフトでのITの導入の割合が高い業務領域では、小規模事業者、中規模企業もITの導入が進んでいる傾向があることが分かる。他社と差別化され、競争力の源泉となる業務領域等、自社開発やオーダーメイドでのITの導入が必要な分野でのITの活用が重要だが、それらの分野ほど、規模別の格差が大きくなっていることに留意が必要である。

第2-4-5図は、スマートフォン、タブレット型端末等、新しい情報技術の導入の状況を見たものである。小規模事業者、中規模企業は、総じて大企業よりも利用が少ないが、小規模事業者と中規模企業で比べると、利用している割合はそれほど大きな差はない。他方、小規模事業者では、スマートフォンやタブレット型端末について「内容が分からない・知らない」と回答する割合が1割に上っている。

第2-4-5図 規模別の新しい情報技術の導入の状況
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以下の事例のように、新しい情報技術を活用している企業が見られる。発展する情報技術を更に活用することが期待される。

事例2-4-2 向洋電機土木株式会社

工事作業現場と本社の情報共有をITで効率化し、生産性を向上させた企業

神奈川県横浜市の向洋電機土木株式会社(従業員27名、資本金3,700万円)は、建物、橋等の構造物を中心とした、屋内外の照明関係設備の設計・施工を行う企業である。

建設工事業務は、施工現場が遠方になることも多い。こうした場合、打合せのため本社に戻ってくると時間や費用が掛かり、また、長時間の移動により従業員も疲労する。このため、業務内容が多様化し、従業員の育成が必要であるにもかかわらず、生産性が向上せず、土日を含めた残業が多く見られる状況であった。同社では、こうした経営課題への対応を目的として、テレワーク4の仕組み等、ITの導入が進められてきた。

ITの導入に当たっては、初期費用や運用費用が大きくなることを避けるため、無料で利用できるソフトウェアを活用して、打合せ、工事進捗管理、資材管理、仕様書作成等のシステムを自社で構築した。システムの構築により、社内、現場事務所、自宅等で利用できるテレワークの仕組みを整えた。

情報セキュリティ対策を十分に実施するためには、大きな投資も必要だが、5年程度の中期的なプランを作成し、徐々に進めている。現状では、情報漏えいを防ぐため、パソコンを含め個人所有の端末の業務利用を認めない代わりに、同社が携帯端末を支給し、通信費を負担している。

現在のシステムを導入した際には、自分たちでシステムを構築すること以外にも、全従業員に新しい仕組みを使ってもらうことに苦労があったが、同社のIT担当者が各従業員と話をして理解を得た。「会社の規模が大きくないので、一人一人と話合いができ、その結果、ITの導入の効果を高めることができた。」とIT担当者は語る。

システムの導入で生産性は約2倍に向上し、残業時間も9割削減されている。残業が減り、従業員のワーク・ライフ・バランスが改善するとともに、従業員が資格取得に取り組む時間が確保され、従業員のスキル向上にもつながっている。有資格者の増加で経営事項審査5の評点が高まることになり、同社の受注増にも結び付いているという。

同社が施工した照明設備

同社が施工した照明設備

4 ITを活用した、場所と時間に捉われない柔軟な働き方のこと。

5 経営事項審査とは、公共性のある施設又は工作物に関する建設工事を、発注者から直接請け負う建設業者が受ける審査である。経営状況と経営規模、技術的能力その他の客観的事項について評価される。

事例2-4-3 カモ井加工紙株式会社

個人向けの新しい製品の販売のため、ホームページやSNSを活用している企業

岡山県倉敷市のカモ井加工紙株式会社(従業員202名、資本金2,400万円)は、建築現場や車両塗装で用いられる、工業用の粘着テープを製造・販売する企業である。

同社で取り扱う主な粘着テープは、建設現場等で塗装を行う際、必要箇所以外に塗料が付かないように、塗装面周辺に貼られるものであった。しかし、同社では工業用の粘着テープを、文具や装飾等に使っていた女性顧客のアイディアを取り入れることで、封筒やノート、紙コップ等の日用品を彩る、色彩豊かなデザインの文具雑貨用のテープの販売を2008年に始めた。

同社では、それまでは企業向けが主であったが、個人向けに文具雑貨用テープを販売するため、ホームページやSNSを活用した。ときには、「売り切れていて残念。」、「イベントのときの対応が悪かった。」等の厳しいコメントが書き込まれることがあるが、このような評価を真摯に受け止め、業務の改善に役立てている。また、サイトで、顧客が同社の製品を使った作品の写真を投稿するなど、顧客同士で新たな使い方のアイディアを共有し、互いに交流することで、同社の製品を口コミで広げている。

「ITによって事業展開が加速されていることを強く感じた。ITがなくても、人づてに人気が広がったかもしれないが、たった5年でここまでの規模の事業になったのは、ITのおかげだった。」と同社の谷口幸生専務は語る。現在、大手SNS上では3万人以上の同社の文具雑貨用テープの国内外のファンがおり、様々な言語でのコメントが寄せられている。製品は、約20の国・地域で販売され、その売上も増加しており、文具雑貨用のテープは同社を支える事業の一つになっている。

文具雑貨用テープ「Mt」

文具雑貨用テープ「Mt」

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