第2部 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者 

第4節 安定・拡大期における起業・事業運営上の課題

最後に、第2-1-19図により、安定・拡大期における課題を見ていく。

この段階では、「資金調達」を課題とする割合は低下する一方で、「新たな製品・商品・サービスの開発」を課題と回答する割合が、特にグローバル成長型において大きく上昇し、「質の高い人材の確保」、「販路開拓・マーケティング」、「製品・商品・サービスの高付加価値化」と共に、上位を占めている。

この段階においては、規模拡大に伴う業務量の増大により、人材確保を課題とする起業家の割合は、更に上昇している。また、事業化の見通しが付いた安定・拡大期には、事業として成り立つかどうかが不透明だった成長初期よりも、後発企業による、更に多くの参入が予見される。

このため、安定・拡大期の起業家、特にグローバル成長型の起業家は、後発企業との競争に打ち勝ち、事業の安定化を図るため、既存の製品・商品・サービスに頼るだけでなく、新たな製品・商品・サービスの開発により、新たな市場を開拓する必要があると考えていることが分かる。

第2-1-19図 安定・拡大期における起業形態別の起業・事業運営上の課題(複数回答)
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では、安定・拡大期において、社内で必要となる人材が、成長初期と比較してどのように変化しているのかを、見ることとする。

安定・拡大期においては、必要な社内人材として、成長初期より割合の高かった「経営者を補佐する人材」、「販路開拓ができる人材」、「製品・サービスで高い技術を持つ人材」に加え、回答割合が大きく上昇した「後継者候補となる人材」が上位を占めている。

地域需要創出型では、「後継者候補となる人材」と回答する企業の割合が最も高くなっている。前掲第2-1-6図で見たように、地域需要創出型の起業家の起業時における平均年齢は、40代半ばである。起業から5〜10年を経過した安定・拡大期では、50代以上の経営者が多くなることが考えられ、事業承継が現実的な課題となっている様子がうかがえる19

また、グローバル成長型では、「企画・マーケティングができる人材」と回答する割合が大きく上昇しており、課題となっている新製品開発やマーケティングを行うための人材を求めていることが分かる(第2-1-20図)。

19 中小企業の後継者の選定・養成の現状や課題については、第3章で触れる。
第2-1-20図 安定・拡大期における起業形態別の必要となった社内人材(複数回答)
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以上、各段階において変化する課題について見てきた。

萌芽期には手続や資金調達が大きな課題となっていたが、その後の段階では、人材確保が最大の課題となっており、最も必要と感じる起業支援施策としても、人材確保を挙げる起業家が最も多い(第2-1-21図)。

第2-1-21図 起業形態別の起業家が必要と感じる起業支援施策
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一口に人材といっても、起業形態や起業後の発展・成長段階により、必要となる人材は、直面している課題によって変化するため、スタートアップ企業は様々な人材が必要となる。

こうした中、学生インターンシップや、民間の起業支援団体等を活用し、各段階で直面する課題を乗り越える企業も存在する。知名度や資金が不足し、必要な人材を社内で確保することが困難なスタートアップ企業にとって、社外の人材は、それぞれの発展・成長段階で直面する課題を克服する上で、重要な役割を果たす可能性があると考えられる。

以下では、知名度の低い企業の採用活動を支援する事例や、学生インターンシップを活用して人材を確保した事例、民間支援団体の事例を紹介する。

事例2-1-9 ウォンテッド株式会社

ソーシャルネットワークの力を活用し、企業の採用活動を支援する女性起業家

東京都渋谷区のウォンテッド株式会社(従業員7名、資本金3,650万円)は、SNS20を活用し、小さくて知名度は低いが、魅力的な企業の採用活動を支援する企業である。

同社社長の仲暁子氏は、SNSの運営会社に勤務しながら、2010年に同社を設立した。仲社長は、SNSの利点として、情報発信が口コミであるために情報の信頼度が高まること、多大な費用を掛けずに情報発信ができることを知り、現在の事業を構想した。同社のサービスは、知名度の高い先輩起業家に採用してもらったこと等により、2013年3月末時点では、1,012社の企業で利用されている。

日本語と英語で同時にサービス開発を行う同社は、起業当初から海外市場を視野に入れており、仲社長は、「海外市場、特にアジアを目指しており、グローバル市場から利益を得られる企業になりたい。」と話す。

同社の運営する採用活動支援サイト「ウォンテッドリー」

同社の運営する採用活動支援サイト「ウォンテッドリー」

20 SNSとは、「Social Networking Service(Site)の略。インターネット上で友人を紹介しあって、個人間の交流を支援するサービス(サイト)。会員は自身のプロフィール、日記、知人・友人関係等を、ネット全体、会員全体、特定のグループ、コミュニティ等を選択して公開できるほか、SNS上での知人・友人等の日記、投稿等を閲覧したり、コメントしたり、メッセージを送ったりすることができる。」(出典:総務省「平成24年版情報通信白書」)

事例2-1-10 ケアプロ株式会社

学生インターンシップや民間の支援団体を活用し、低価格健診というニューサービスで事業展開する若手起業家

東京都中野区のケアプロ株式会社(従業員15名、資本金1,650万円)は、低価格の健診サービス(健康診査)を提供する企業である。

高校生時代に起業家を志した同社社長の川添高志氏は、大学卒業後、経営コンサルティング会社で1年間経営を学び、その後、事業化の可能性を感じていた予防医療の分野を学ぶため、大学病院の糖尿病代謝内科病棟に勤務した。そこで、川添社長は、入院患者の多くが、健康診断の未受診による入院を後悔していることを知り、利用者自身の自己採血による血糖値や中性脂肪の簡易測定という、ビジネスモデルを考案した。その後、ビジネスプランコンテスト、勉強会等を通じてビジネスモデルを精緻化させた川添社長は、「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する。」ことを使命として、2007年に起業し、2008年に1号店を開店した。

社会的意義と利益獲得の両立を目指す同社は、起業後の様々な課題に対応するため、社外の人材や組織を活用した。

起業当初、人材確保が困難だった同社は、将来の新卒採用を視野に入れて、インターンシップやアルバイトにより、学生を受け入れた。その後、インターンシップを経験した5人が同社に入社し、現在では、新規事業の開発等を担っており、同社の成長に不可欠な存在となっている。

また、起業後3年目には、同社は、相次いで出店した新店舗の不振により、大幅な赤字に直面し、事業見直しのため、後述の事例2-1-11(特定非営利活動法人ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京)からの支援を受け入れた。業務のマニュアル作成や社内の会議体の構築、経営戦略の立案、新たな検査機器の購入のための増資等の支援を受け、同社は再び黒字化を達成した。

同社の事業ノウハウは他地域展開が可能と考える川添社長は、今後の事業展望として、「NPO法人等へのフランチャイズ方式により事業ノウハウを伝え、サービスを広めていきたい。」と語る。

ドラッグストア内での低価格健診の様子

ドラッグストア内での低価格健診の様子

事例2-1-11 特定非営利活動法人ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京

社会人の専門性を活かし、社会的企業を経営面・資金面の両面から支援する法人

東京都千代田区の特定非営利活動法人ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京は、社会的課題の解決に取り組む革新的な事業を行う起業家等を支援する法人である。

同法人には、ソーシャルビジネス21に高い関心を持った社会人が、パートナーとして登録されている。現在、100名近くの社会人がパートナー登録を行っており、その職種は、広範囲に及んでいる。支援先となる起業家等の選定は、パートナー全員の投票によって行われ、様々な経営課題を抱える支援先に対して、各パートナーの専門性を活かし、最長2年間の経営支援を行っている。

同法人では、さらに、支援先の事業計画を評価した上で、パートナーの会費等を原資として、出資や助成金等の資金支援を行っている。

同法人代表理事の岡本拓也氏は、「日本国内の金融環境は、多様な起業家を育てる機能を発揮できていない。社会的意義と収益性を両立させる事業への投資が拡大していくような仕組みを構築することで、資金の流れを変えることに貢献したい。」と考えている。

今後、起業家が直面する人材不足や資金不足という課題に対して、同法人のような民間の起業支援団体が、大きな役割を果たすことが期待される。

21 ソーシャルビジネスとは、社会的課題を解決するために、ビジネスの手法を用いて取り組むものであり、ソーシャルビジネス研究会報告書(2008年4月)では、〔1〕社会性、〔2〕事業性、〔3〕革新性の要件を満たす主体を、ソーシャルビジネスとして捉えている。

以上、本章では、起業の準備段階から経営の安定までに生じる課題が、起業の形態によって異なること、また、発展・成長の段階に応じて変化することを見てきた。

こうした課題に対応するため、政府が講じている具体的な支援施策を整理したものが、第2-1-22図である。

第2-1-22図 起業・創業に関する主な具体的施策

コラム2-1-3

中小企業・小規模事業者人材対策事業

前掲第2-1-21図で示したように、人材確保の支援は、非常に重要と考えられている。一方、魅力ある中小企業・小規模事業者を知らず、就職できていない新卒者や留学生、育児等で退職し、再就職を希望する相当数の人材が存在している。

こうした中、中小企業庁は、職場実習を通じた中小企業・小規模事業者と人材等のマッチングのほか、地域特性に応じて大学等との日常的な顔が見える関係づくりから、マッチング、新卒者の採用・定着までを一貫して支援することで、地域における中小企業・小規模事業者の将来を担う人材の確保・定着・育成を行い、我が国経済や地域の産業・雇用を支える中小企業・小規模事業者の経営力強化を目指している。

○予算 平成24年度補正予算額 281.8億円

1.新卒者就職応援プロジェクト

新卒者等及び平成22年3月以降に大学等を卒業した未就職者に対し、中小企業・小規模事業者の事業現場で働く上で必要な技能・技術・ノウハウを習得する機会を提供するため、中小企業・小規模事業者で実施する職場実習を支援する。

2.中小企業新戦力発掘プロジェクト

育児等で一度、退職し、再就職を希望する女性等(新戦力)に対し、職場経験のブランクを埋める機会を提供するために、中小企業・小規模事業者で実施する職場実習を支援する。

3.地域中小企業の人材確保・定着支援事業

中小企業・小規模事業者が優秀な人材を確保していくため、地域の中小企業団体と大学等が連携し、中小企業・小規模事業者と学生の日常的に顔が見える関係構築から両者のマッチング、新卒者等の採用・定着までを一貫して支援する。

支援の流れ

コラム2-1-4

新事業創出のための目利き・支援人材育成等事業

グローバル成長型の企業が大きく成長する可能性を高めるには、萌芽期・成長初期の段階でトップクラスの専門家が適切なハンズオン支援を実施することが必要と考えられる。そのため、新事業創出を支える優秀な支援人材を育成するとともに、支援者のネットワークを形成し、成長する新事業の創出を促進することが重要である。

経済産業省では、起業家、大企業、ベンチャーキャピタル、コンサルタント、弁護士、会計士等で支援プラットフォームを形成し、親委員会で支援方針を決定した上で、ワーキンググループで個別案件をモデル事業として支援し、次の成長ステージ(事業会社との提携、ベンチャーキャピタル投資、公的機関出資等)につなげるとともに、本事業を通じて得られたハンズオン支援の成功事例やノウハウの周知等を行う。

ネットワークのイメージ

スタートアップ企業が、経営の不安定な時期を乗り越え、撤退することなく、発展・成長するためには、当初のビジネスモデルに固執せず、工夫を重ね、人材を確保・育成し、社外人材を活用することにより、組織の自己変革を図り、それぞれの段階で発生する課題を克服し続ける必要がある。

しかし、そうして幾多の淘汰を乗り越え、競争力を高めたスタートアップ企業は、地域経済の活性化や国外市場の開拓において、大きな役割を果たすであろう。

コラム2-1-5

業種別の起業・創業の特徴と課題

起業の姿は、事業の経営方針や今後の目指す市場だけでなく、選択する事業分野によっても、様々な特徴を有し、異なる側面を持つと考えられる。本コラムでは、業種別に、起業の特徴や課題を見ることとする。

まず、業種別に、それぞれの起業家の特徴を見ていく。

下図は、地域需要創出型及びグローバル成長型のスタートアップ企業全体に占める各業種の割合を、アンケートに回答した企業全体に占める各業種の割合を1として、業種別に比較したものである。これを見ると、アンケートに回答した起業家全体と比較して、地域需要創出型においては、建設業や医療、福祉の分野で起業する割合が高く、グローバル成長型においては、情報通信業、専門・技術サービス業等の分野で起業する割合が高くなっている。

起業形態別の業種割合の比較

起業形態別の業種割合の比較
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起業家の事業経営方針を業種別に示したものを見ると、業種により差があるものの、総じて、規模の拡大より、事業の安定継続を優先したいと考える起業家が多い。

業種別の起業家の事業経営方針

業種別の起業家の事業経営方針
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業種別に女性起業家の割合を見ると、医療、福祉や生活関連サービス業、娯楽業、教育、学習支援業の分野において、女性起業家の割合が高くなっている。

業種別の女性起業家割合の比較

業種別の女性起業家割合の比較
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次に、成長初期及び安定・拡大期における代表的な課題を、業種別に見ていく。

成長初期及び安定・拡大期は、前掲第2-1-16図及び前掲第2-1-19図のとおり、人材確保が最大の課題となっている。また、成長初期において、必要となった社内人材は、「経営者を補佐する人材」と回答する起業家が、高い割合となっており(前掲第2-1-17図)、安定・拡大期においては、これに加え、「後継者候補となる人材」と回答する起業家が高い割合となっている(前掲第2-1-20図)。

そこで、成長初期において、「経営者を補佐する人材」が必要と回答している起業家を業種別に見ると、運輸業や医療、福祉の分野で高い割合となっている一方で、情報通信業の分野では低い割合となっており、業種によって差があることが分かる。

成長初期において経営者を補佐する人材が必要となった起業家の業種別割合

成長初期において経営者を補佐する人材が必要となった起業家の業種別割合
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また、安定・拡大期において、同様に、「経営者を補佐する人材」が必要と回答している起業家を業種別に見ると、成長初期と比べて、全般的に割合が上昇し、業種による差は小さくなっているものの、依然として業種によるばらつきが生じている。

安定・拡大期において経営者を補佐する人材が必要となった起業家の業種別割合

安定・拡大期において経営者を補佐する人材が必要となった起業家の業種別割合
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さらに、安定・拡大期において、「後継者候補となる人材」が必要と回答している起業家を業種別に見ると、運輸業や医療、福祉の分野で高い割合となっている一方で、情報通信業の分野では低い割合となっており、業種によって差があることが分かる。

安定・拡大期において後継者候補となる人材が必要となった起業家の業種別割合

安定・拡大期において後継者候補となる人材が必要となった起業家の業種別割合
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成長初期及び安定・拡大期において、必要となった社内人材の上位を、業種別に見てみる。

成長初期では、多くの業種で、「経営者を補佐する人材」が必要と回答する起業家の割合が最も高くなる一方、製造業、情報通信業、専門・技術サービス業では「製品・サービスで高い技術を持つ人材」が、卸売業、小売業では「販路開拓ができる人材」が、最も高くなっており、業種によって、必要となる人材が異なることが分かる。

成長初期における業種別の必要となった社内人材(複数回答)

成長初期における業種別の必要となった社内人材(複数回答)

安定・拡大期では、成長初期と同様、多くの業種で、「経営者を補佐する人材」が必要と回答する起業家の割合が最も高くなる一方、建設業、運輸業では、「後継者候補となる人材」が最も高くなっており、他の業種を見ても、後継者候補となる人材を必要と考える起業家の割合が高くなっている。

安定・拡大期における業種別の必要となった社内人材(複数回答)

安定・拡大期における業種別の必要となった社内人材(複数回答)

さらに、業種別に、起業支援施策として人材確保の支援が必要と感じる起業家の割合を見ると、全般的に高く、医療、福祉や宿泊業、飲食サービス業、情報通信業の分野で、特に高くなっている。

起業支援施策として人材確保支援が必要と考える起業家の業種別割合

起業支援施策として人材確保支援が必要と考える起業家の業種別割合
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コラム2-1-6

再起業の際の取組

起業時及び起業後の課題に対する支援を整備することは、起業のリスクを低減させ、起業しやすい環境を整えることにつながる。また、様々な事情により、事業がうまくいかずに、一度撤退した起業家が再び挑戦することができる環境を整えることも、リスク低減のためには、重要である。

ここでは、再起業時の障害を分析し、再起業時に必要となる支援を見ていくこととしたい。

「以前にも起業の経験があるが、うまくいかなかった」と回答した起業家が、今回の起業(再起業)の際に、障害となったことを見ると、約7割の起業家が、再起業時に障害があったと回答している。

具体的な障害として、約6割が「資金調達が難しかった」と回答しており、再起業時には、資金調達が最大の障害となっていることが分かる。

今回の起業(再起業)の障害

今回の起業(再起業)の障害
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再起業で「資金調達が難しかった」と回答した起業家に具体的な状況を聞いてみたのが、以下である。こうした起業家側からの声を見ただけでは、以前の事業の状況が資金調達の困難さに影響を与えているかどうかを知ることは難しいが、再起業が起業初期と同様の資金調達の問題に直面していることには、違いないといえる。

再起業してうまくいくために必要なことを見ると、「これまでの知識・経験・ノウハウを活かす」と回答した割合が最も高い。以下の事例のように、既存の知識・経験・ノウハウを活かしつつ、新たな取組を行うことが、再起業で成功するために、重要であることが分かる。

再起業してうまくいくために必要なこと(複数回答)

再起業してうまくいくために必要なこと(複数回答)
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事例2-1-12 株式会社TAMU

開発した新製品を事業に加え、倒産した家業の従業員と共に再起業を果たした企業

愛媛県松山市の株式会社TAMU(従業員17名、資本金1,000万円)は、包装容器等に用いられる紙箱の企画、開発、製造、販売等を行う企業である。

同社社長の田村克彦氏は、義兄が経営する、紙箱製造企業に勤務していた。1912年に創業された同社前身のその会社は、従業員100名超を有する、業界内では西日本でも有数の紙箱製造会社であったが、多大な設備投資や受注の減少等により、創業90年目の2002年に倒産し、多くの社員が失業した。田村社長は、彼らの持つ紙箱づくりの高い技術やノウハウを無くしてはいけないとの思いから、2003年、4名の技術者と共に、新会社として、同社を起業した。

しかし、再起業時は、資金調達と販路開拓に非常に苦労した。

資金調達については、金融機関からの調達が困難であったため、親族等の資金援助や信用保証協会を活用した。販路開拓については、倒産により迷惑を掛けた取引先へのお詫びから始めた。既存顧客の多くは既に、新たな取引先を持っていたが、技術者と一緒に回り続け、取引復活に努めた。

また、倒産前の事業内容だけでは行き詰まると考えていた田村社長は、付加価値の高い新製品を事業に加えることで同業他社と差別化を図ることが必要と考え、全国でも取扱いの少ない丸型の紙箱に特化した新製品開発に取り組んだ。90年の歴史を有する前身会社の紙箱づくりの技術を活かして開発した包装箱「紙ダル」は、300kgの荷重にも潰れない強度や仕上がりの美しさが高く評価され、全国の有名菓子店や果物店等の新たな顧客獲得に成功した。また、「紙ダル」製法を用いてできた紙製ゴミ箱「トラッシュポット」は、循環型社会に適合したリサイクル可能なデザイン性の高いゴミ箱として注目され、2008年にグッドデザイン・中小企業庁長官賞を受賞し、2011年には、日本のグッドデザイン賞受賞作品をインドで展示した「Japanese Good Design Exhibition」にて紹介され、高い評価を得た。

田村社長は、「新会社設立後の5年目頃までは、資金調達と販路拡大が課題であったが、今後は更なる新製品開発や研究開発と、技術継承者の育成が課題。」と語る。

2008年にグッドデザイン・中小企業庁長官賞を受賞した「トラッシュポット」

2008年にグッドデザイン・中小企業庁長官賞を受賞した「トラッシュポット」

事例2-1-13 有限会社六郷アズーリファーム

新たに取り組んだ養液栽培事業等を通じ、大震災からの地域再生を進める企業

宮城県仙台市の有限会社六郷アズーリファーム(従業員3名、資本金3,650万円)は、ラジコンヘリによる農薬散布、地場野菜の輸送・販売等の農業関連業務に取り組む企業である。

同社社長の菊地守氏は、同市若林区井土浜地区で農業を営みながら、ラジコンヘリの免許資格を活かして、2004年に同社を起業した。その後、農薬散布の期間以外にも行える業務として、大手スーパー内の野菜売場に直販形式で地元・井土浜地区の野菜を並べる事業に取り組み、各店舗の売上状況を把握し、店舗ごとに異なる顧客特性を踏まえたきめ細やかな品ぞろえで、安定した事業収入を確保した。

しかし、2011年、東日本大震災により、同地区は甚大な津波被害を受け、農業継続は困難となった。

そのような状況下、大手外食チェーンが、津波の塩害により土地利用型農業の再生が困難な被災地で、トマトを中心とした養液栽培施設を建設し、地元農家を研修生として受け入れる復興支援事業を計画した。地元パートナーとして、同社に白羽の矢が立ったものの、養液栽培に関するノウハウ不足から、当初は断るつもりであった。しかし、同年代の養液栽培の専門家による支援が決まり、加えて、同チェーンの復興支援への強い思いに賛同した菊地社長は、地元パートナーとしての活動を決断した。その後、同社は、これまでに培った人脈を活かし、農業委員会等の協力を得ながら、農地の集約や従業員の確保等の地域性の強い業務に取り組んでいる。

他方、同社の輸送・販売事業は、現在、まだ復旧できていない。しかし、「農業が変わり始めた途中だったのに。」と悔しがる農家仲間の思いを聞き、再起への思いを強めている。菊地社長は、既に再生プランを作成しており、「被災前よりも強い農業地域として、地元を再生させたい。」と語る。

養液栽培施設でのトマト栽培の様子

養液栽培施設でのトマト栽培の様子

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