第2部 潜在力の発揮と中小企業の役割 

3 女性の就業

 中小企業白書(2011年版)では、女性の起業と就業の関係の一例として、我が国の雇用慣行において、必ずしも就業や能力発揮の機会に恵まれてこなかった女性が、起業という選択によって、自らの活躍の場を創出していることを示した44。女性が就業する上で、女性の起業はどのような役割を果たすのであろうか。本項では、女性の起業と就業の関係を、事例をもとに探っていく。

44 中小企業白書(2011年版)p.200を参照。

■女性就業の重要性
 内閣府によれば、求職活動をしていないが、就業を希望している女性の非労働力人口は、約342万人存在すると推計されている(第2-2-53図)。女性の就業を後押しし、女性と地域や社会との関わりを深めることは、生産年齢人口が減少傾向にある我が国の労働力の確保という面だけでなく、世帯所得の増加に伴う消費活動の活発化という面でも重要である。
 
第2-2-53図 M字カーブ解消による女性の労働力人口増加の試算

第2-2-53図 M字カーブ解消による女性の労働力人口増加の試算


 第2-2-54図は、2002年から2010年までの間の男女雇用者数の増減を示している。その間、男性雇用者が約41万人減少している一方、女性雇用者は約87万人増加しており、産業別に見ると、医療・福祉、教育・学習支援業、宿泊業・飲食サービス業の分野で、女性の雇用が大きく増加している。女性の雇用増が大きいこれらの分野は、家事・育児・介護等のニーズに対応した、今後も成長が期待される分野であることから、女性の就業が果たす役割は、更に高まるであろう。女性の就業を促進することは、今後の重要な課題の一つと位置付けられる。また、女性就労の「量的拡大」のみを求めるのではなく、女性の就業促進と併行して、女性本人の働き方の選択を尊重しながらも、女性が持てる能力を発揮し、適正な処遇のもとで就労できるよう、非正規雇用から正規雇用への雇用形態間の転換促進や、企業における女性のキャリア開発、女性管理職比率の向上等を図り、女性就業の質的向上を目指すことも重要である。
 
第2-2-54図 2002〜2010年における男女別・産業別の雇用者数の増減

2002〜2010年における男女別・産業別の雇用者数の増減
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事例2-2-21 女性の職域拡大により、社内の活性化に取り組むものづくり企業

 滋賀県東近江市の株式会社寺嶋製作所(従業員130名、資本金1,800万円)は、炊飯ジャーの内釜や電気機械器具等の板金プレス加工を行う企業である。
 女性の職域拡大に取り組む前の同社の工場は、他のプレス工場と同様に、男性中心の職場であった。しかし、「ひたむきな努力」、「常にチャレンジ」を社是に掲げる同社の寺嶋嘉孝社長は、約10年前から安全性の高い機械設備を導入することにより、生産ラインでも女性が活躍できるよう、職場環境を整備した。また、2007年には職場の風土改革に取り組み、就業規則の見直しにより、パートから正規への転換を可能にした。
 現在、同社の工場では20名近くの女性が生産ラインに配属されている。また、生産ラインの改善提案においても、表彰される提案の多くが女性によるものとなっており、これらの提案は「省スペースでも生産効率を維持するという視点が明確。」と、寺嶋社長は語っている。さらに、プレス工場で必須となっているフォークリフトの運転についても、2名の女性が資格を取得した。
 寺嶋社長は、「女性の職域拡大により、フォークリフトの運転のような、これまで、女性がいなかった業務分野でも、女性が責任を持って自分の役割を果たせるようになり、自信が生まれた。一方、男性も、自分の職域にとどまることなく、他の仕事でも職場を良くしたいという意識に変化した。」と語っており、女性の職域拡大による相乗効果が、社内に活気をもたらしている。
 
生産ラインに従事する女性従業員
 
コラム2-2-10 女性の労働参加率と出生率

 コラム2-2-10図〔1〕は、2009年のOECD加盟24か国における女性労働力率と、合計特殊出生率の関係を示している。また、コラム2-2-10図〔2〕は、都道府県別に見た共働き率と、合計特殊出生率の関係を示している。それぞれ、両者の関係は固定的なものでなく、仕事と育児の両立支援のための環境整備等の状況により、変化し得るものであるが、最近では、所得要因も背景に、両者の間に正の相関があり、女性の社会進出が進んでいる国及び地域ほど、合計特殊出生率も高い傾向にある、との指摘もある。
 
コラム2-2-10図〔1〕 OECD加盟24か国における女性労働力率と合計特殊出生率(2009年)

コラム2-2-10図〔1〕 OECD加盟24か国における女性労働力率と合計特殊出生率(2009年)

 
コラム2-2-10図〔2〕 都道府県別の共働き率と合計特殊出生率(2010年)

コラム2-2-10図〔2〕 都道府県別の共働き率と合計特殊出生率(2010年)


 共働き率、合計特殊出生率のいずれもが全国平均を上回っている北陸3県(福井県、石川県、富山県)では、企業は付加価値を高めた経営により家計に正社員雇用を提供し、家計は企業に質の高い労働を提供し、双方を高め合う好循環を構築している。また、行政・自治体は、企業の研究開発、家計の子育てをサポートし、好循環を更に加速させている(コラム2-2-10図〔3〕)。
 
コラム2-2-10図〔3〕 北陸地方におけるダブルインカムによる価値創造モデル

コラム2-2-10図〔3〕 北陸地方におけるダブルインカムによる価値創造モデル

■女性の起業による課題の解決
 女性の就業を阻む課題として、総務省「労働力調査」により、就業希望の女性が求職しない理由を見ると、その約3割が「家事・育児のため仕事が続けられそうにない」と回答している(第2-2-55図)。また、国立社会保障・人口問題研究所が実施している「全国家庭動向調査」から、夫の家事・育児実施状況を見てみる。これによると、夫の家事遂行割合は、どの項目についても、2003年から2008年にかけて上昇しているものの、過半には達していない(第2-2-56図)。さらに、育児の分担割合を見ると、末子の年齢が低いほど、妻の育児分担割合が高く、末子が1歳未満である場合、大半の家庭において、妻の育児分担割合が8割以上と回答していることが分かる(第2-2-57図)。これらのことから、女性の就業を阻む要因として、家庭生活において家事・育児の負担が女性に偏っており、女性の就業の大きな課題となっていることが、見て取れる。
 
第2-2-55図 男女別の求職しない理由

第2-2-55図 男女別の求職しない理由
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第2-2-56図 妻から見た夫の家事遂行の割合

第2-2-56図 妻から見た夫の家事遂行の割合
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第2-2-57図 末子年齢別の妻の育児分担の割合

第2-2-57図 末子年齢別の妻の育児分担の割合
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 かかる状況のもと、前掲事例2-2-18(株式会社コラボラボ)や事例2-2-22(株式会社アクションパワー)、事例2-2-23(株式会社キャリア・マム)のように、女性起業家は、自身が抱えていた課題から、新たな需要を掘り起こし、これらの課題を解決するためのサービスを提供する分野で起業することがあると推察される。女性の起業が活発になり、これらの分野に新たな企業が生まれれば、これらの企業が提供するサービスにより、家事・育児を負担する女性が就業する際の課題が解決され、女性の社会進出の促進につながるであろう。
 また、女性が出産後、再就職した際に出てくる解決困難な課題には、子どもの病気等の日常の突発的な出来事による急な遅刻や休暇があるといわれている。これらの課題に対しては、育児休業制度の整備等による支援では対応しきれないという現状があり、職場の雰囲気づくりや上司の理解・協力等の、明文化されていないサポートが必要になると考えられる。事例2-2-22(株式会社アクションパワー)や事例2-2-24(ふじ内科クリニック)のように、女性起業家自身が結婚や出産等のライフステージに応じた課題を乗り越えている場合、女性従業員が同様の課題に直面しても、柔軟な対応により、就業を継続しやすい環境を提供することが、可能ではないかと考えられる。
 一方、女性の起業により、女性の就業が促進されれば、家事・育児等の課題解決サービス分野における需要の高まりや世帯所得の増加により、女性の起業が多い個人向けサービス分野の市場拡大が予想される。同時に、女性が就業しやすい環境が整備されることにより、女性が男性と同等の就業経験を積むようになれば、就業経験の短さに起因する経営や事業に関する知識・ノウハウ不足等の、これまで女性の起業を阻んでいた課題が解決され、就業経験を有した女性起業家の増加へとつながるであろう。
 
事例2-2-22 働く女性の支援と女性の働く場の提供を目指す女性起業家

 愛知県名古屋市の株式会社アクションパワー(従業員9名、資本金300万円)は、家事代行、ハウスクリーニング、整理収納等のサービスを提供する企業である。
 同社の大津たまみ社長は、「働く女性として自分が欲しかったサービスをシンプルにビジネス化した。」と語り、サービスを提供することで働く女性の負担を軽くするとともに、プロとして代行サービスができる女性を育成することで女性が働ける場所を広げようと考えている。
 同社では、自立して働ける女性を育成・支援するため、「お部屋のおそうじお片付けセミナー」、「整理収納おそうじ研究会」等の各種セミナー・講座を開催し、そうしたセミナー受講者を対象に「メイトシステム」と呼ぶ独自の業務委託システムを導入している。これは、メイトとして登録した受講者が将来的に代行サービス業者として独立し、同社の業務の一部を委託するシステムである。
 大津社長は、「社員もメイトも、思いを共有する女性が集まっている。全員が、それぞれの立場を身にしみて理解できる環境にあることから、子育て等で大変なときには他の社員にカバーしてもらえ、働きやすい環境となっている。」と語る。このメイトシステムは、女性特有のライフステージや個別事情に応じた柔軟な雇用調整をしやすくしており、女性が働きやすい環境を提供することにも寄与している。
 
ハウスクリーニングの様子
 
事例2-2-23 女性の起業・就業・社会参加をサポートする女性起業家

 東京都多摩市の株式会社キャリア・マム(従業員15名、資本金3,875万円)は、全国10万人の主婦会員を抱える自社サイトを活用し、企業・行政に消費者の声を届けることで、本当に売れる商品・サービスづくりを支援する企業である。
 同社の堤香苗社長は、起業前はフリーアナウンサーとして活動していた。しかし、出産後は育児に大半の時間が割かれるようになり、思うように動けなくなった。そのような経験から、主婦が主役になれる場所を創りたいと考え、育児サークル「PAO」を設立し、2000年同社を起業した。
 同社は、会員だけでなく、働きたい女性等を応援する「就労支援セミナー」の実施によりキャリア教育を行うとともに、研修を終えたSOHOワーカーに対しても自宅や自宅周辺でできる仕事を紹介することにより、主婦会員の起業・就業・社会参加をサポートしている。
 堤社長は、女性の起業に関して、「世の中に対して何かしらの不満があったが、女性ということで実現できなかった人が大勢いる。そこに仲間がいればうまく起業・事業継続できる。」と考えている。そのためには「女性起業家に対して併走してアドバイスができるコーディネーターの存在が重要であり、起業に苦労している話を聞いて適切な助言ができる実際の創業者のネットワークを形成することが必要。」と語り、意欲がありながらも、育児に追われ社会から隔絶されている女性の特徴と経験を社会に還元できる仕組みの創出を目指している。
 
就労支援セミナーで話す堤社長
 
事例2-2-24 女性のライフサイクルに配慮し、女性が働きやすい職場を目指す女性院長

 山梨県甲府市のふじ内科クリニック(従業員7名)は、がん患者等の終末期患者に対する在宅ホスピスケアを行う診療所である。
 同診療所の内藤いづみ院長は、大学卒業後勤務医として働いていたが、医師が患者より力を持っている関係に違和感を抱えていた。このため、夫の転勤を機に渡英し、ホスピスで研修を受け、帰国後に同診療所を開業した。
 内藤院長自身、子育てをしながらの起業であったため、「命に向き合う仕事である以上、働く側の人間も身体を大事にしなければならず、スタッフには家庭を犠牲にして欲しくない。」と考えている。このため、勤務している看護師、保健師、事務員等の従業員が全員女性である同診療所では、子どもの容態が急変した際等には臨機応変に対応できるよう、人員に余裕を持ったワークシェアの勤務体系を構築している。
 「経営者である自分自身が、女性のライフサイクルにおける家事・出産・育児・介護等の仕事を女性の立場から理解しているため、女性従業員が家庭や人生で困っていることが理解でき、それを解決するための的確なアドバイスや勤務体系の整備等が可能になる。」と語る内藤院長は、女性が働きやすい職場環境を作ることができるのが女性経営者のメリットであると考えている。
 
訪問診療を行う内藤院長

■女性の起業と就業の好循環
 以上、女性の起業と女性の就業の関係について言及してきたが、この関係を図示すれば第2-2-58図となる。
 
第2-2-58図 女性の起業と就業の関係

第2-2-58図 女性の起業と就業の関係


 女性起業家は、柔軟な対応力で新たな需要を掘り起こし、女性の負担となっている家事・育児等の課題を取り除くことで、女性の就業を促進する。そして、女性の社会進出が進み、これらのサービスに対する需要が増加すれば、新たな女性起業家が呼び込まれる。
 また、女性特有の課題を乗り越えて起業した女性起業家は、女性従業員が直面する特有の課題に対しても柔軟に対応し得る。女性の起業によって女性が就業しやすい環境が提供されれば、就業経験を活かした起業も更に増加するであろう。
 さらに、これらのサイクルが機能することによって女性の就業促進が進み、世帯所得の増加が進めば、女性起業家の事業展開が多い個人向けサービスの分野の市場拡大につながる可能性がある。
 長期にわたって低成長が続いている我が国においては、かかる好循環を発生させることが、女性の能力を発揮させることにより、新たな需要を掘り起こし、元気な日本を取り戻すための重要な鍵となるであろう。

 以上、本節では、現状における女性の起業の傾向や課題を分析した後、個人向けサービスの分野における女性の起業が生み出す好循環について言及した。今後、生産年齢人口の減少により、更なる内需の減少が懸念される中で、我が国の中小企業が成長を続けるためには、既存の内需を奪い合うのではなく、新たな内需を掘り起こすことが有用な取組となると考えられる。その際には、従来の男性社会の常識を打ち破り、多様化するニーズをすくい上げることで、需要を生み出す女性起業家の柔軟な姿勢は、新市場の創出を目指す全ての中小企業にとって、良い手引きとなるであろう。


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