第2部 潜在力の発揮と中小企業の役割 

1 女性起業の特長

 中小企業白書(2011年版)では、起業30の意義として、〔1〕経済の新陳代謝と新規企業の高い成長力、〔2〕雇用創出、〔3〕起業が生み出す社会の多様性、が存在することを指摘した31が、女性の起業には、どのような特長があるのだろうか。

30 起業の動向については、付注2-2-132-2-17図を参照。
31 中小企業白書(2011年版)p.186を参照。

■ニーズに応じた身近なサービスの創出
 第2-2-43図は、家計における、個人向けサービス32分野の支出割合の推移を示したものである。これを見ると、家計消費支出に占める個人向けサービス分野への支出の割合は、上昇傾向にあることが分かる。また、第2-2-44図は、総務省「就業構造基本調査33」を用いて、起業家の起業分野を男女別に比較したものである。女性起業家の起業分野を見ると、飲食店・宿泊業、教育・学習支援業、生活関連サービス業を含む個人向けの身近なサービス分野での起業の割合が、40.0%と高くなっている。これらの分野は、今後、社会が更に成熟化していく中で、成長が期待される、個人の生活を充足させるのに寄与する分野であるといえる。

32 本節では、おおむね、第2-2-44図で個人向けサービス業として示している業種で提供されるサービスをいうこととする。
33 同調査は、全国から抽出した世帯の15歳以上の世帯員を対象に実施している。数値結果は、実際の対象となった約45万世帯の約100万人(平成19年)の調査に基づき、母集団推計により調査の範囲となる人口全体について算出したものである。
 
第2-2-43図 家計(勤労者世帯)における個人向けサービス分野の支出割合の推移

第2-2-43図 家計(勤労者世帯)における個人向けサービス分野の支出割合の推移
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第2-2-44図 男女別の起業家の起業分野

第2-2-44図 男女別の起業家の起業分野
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 第2-2-45図は、男女別に見た、給与所得者数及び給与総額の推移を示したものである。給与所得者数及び給与総額は、男性ではいずれも減少傾向にあるのに対し、女性は、いずれも増加傾向にある。女性の所得拡大に伴い、女性顧客を対象とした新たな商品やサービスに対する需要が増加し、今後、女性の社会進出が更に進めば、女性の視点による商品やサービスの企画力や開発力が、より重視されるようになると推察される。女性の起業は、これらの分野のニーズに対応することで、新たな需要を掘り起こす可能性があると考えられる。
 
第2-2-45図 男女別の給与所得者数及び給与総額の推移

第2-2-45図 男女別の給与所得者数及び給与総額の推移
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事例2-2-15 子どもに夢と職業意識を与えるため、地域の大人達との出会いを提供する女性起業家

 神奈川県川崎市の特定非営利活動法人キーパーソン21(事務局スタッフ8名)は、キャリア教育プログラム「夢発見プログラム」を開発し、これまで2万人以上の子ども達にキャリア教育を行っている法人である。同プログラムは、社会人に仕事内容等を取材する「かっこいい大人ニュース」等のワークショップを通じて、子ども達が、普段は簡単に接することができない大人の仕事に触れ、生き方や職業観を学べるように構成されている。
 同法人の朝山あつこ代表理事は、長男の「高校に進学しない。」という言葉を契機に、「現代の子ども達は、地域や家庭における明確な役割がなく、大人と接する機会も少ない。そのため、自分達が何のために勉強をするのかが分からなくなっている。」と考えるようになり、「子ども達には、働く大人と出会い、夢や職業意識を持ってもらいたい。」との思いから2000年に同法人を設立した。
 「子ども達には、わくわくして動き出さずにはいられない原動力のようなものを探し出し、自分に素直に生きていってほしい。」と語る朝山代表理事は、同プログラムを経験した子ども達が夢や職業意識を獲得し、次世代の子ども達に社会への憧れや希望を与えられるようなキーパーソンになってもらいたいと考えている。
 
夢発見プログラムの実施風景
 
事例2-2-16 プロボノ34支援を受け、エシカル35ジュエリーのパイオニアとなった女性起業家

34 プロボノ(pro bono)とは、「pro bono publico」を略した英単語で「公益のために」という意味。実際には、「公益のために無償で仕事を行う」ことを指しており、ソーシャルビジネス推進研究会報告書(2011年3月)では、「企業人材や士業等の専門家によるスキルを活かした社会貢献活動」としている。
35 直訳すると、“倫理的な”、“道徳的な”という意味。エシカルジュエリーとは、環境や社会に配慮をした素材・フェアトレードやリサイクルの素材を使用したジュエリーのことを指している。

 東京都港区の株式会社HASUNA(従業員10名、資本金950万円)は、エシカルジュエリーの制作・販売を行う企業である。同社は、素材調達から生産・流通までの過程を可視化することにより、「一生に一度の結婚指輪には、誰かの不幸の上に成り立つものを使いたくない。」という社会的意識の強い女性を中心とした、若い世代の需要を掘り起こしている。
 同社の白木夏子社長は、2006年に金融業界に就職したものの、リーマン・ショックで業界全体に危機感を抱き、働きながらの起業準備期間を経て、2009年に同社を立ち上げた。学生時代に訪れたインドの鉱山での劣悪な労働環境に疑問を抱いていた白木社長にとって、ジュエリーの分野は前職とは無関係であったが、ジュエリー制作の学校で作り方を学び、技術を身につけた。また、テレビや雑誌、新聞等プレス向けの広報業務や顧客管理・在庫管理のシステム構築といった専門的な業務については、SNS(Social Networking Service)や友人の紹介で知り合った、各分野の専門家であるプロボノの方から多くの支援を受けた。同社のプロボノ登録者は、当初5名前後であったが、現在では60名にも及ぶ。
 「起業時はプロボノ元年と呼ばれていた。仕事の傍ら社会的事業に関わりたいという人が増えてきており、非常に多くの人に助けられた。」と語る白木社長は、プロボノの支援を受け、事業継続と社会的課題解決の両立を目指している。
 
HASUNA社員・インターン・プロボノメンバー
 
事例2-2-17 地元の宿泊施設と生産者をつなぐ女性起業家

 福島県会津若松市の特定非営利活動法人素材広場(従業員5名)は、県内の旅館・ホテル等の宿泊施設と農作物・工芸品等の生産者を交流会やインターネットを介してつなぐことで、県内の地産地消を推進する法人である。
 同法人の横田純子理事長は、大手旅行情報誌で営業兼ライターとして10年間勤務した後、2005年に独立し、県内の旅館に対して、集客や顧客満足度を高めるためのコンサルティングを始めた。「当時、旅館等の料理長は、県外から来ている方が多かったため、福島の食材に関する情報が不足しており、福島の食材が手に入りにくい状況であった。」と語る横田理事長は、料理長と生産者をつなぐ取組として、交流会を実施する福島県宿泊施設地産地消推進委員会を立ち上げ、この委員会を母体として2009年に同法人を設立した。
 「福島の素材を観光客に楽しんでもらうことが目的であり、食材だけでなく、お箸やお皿等テーブルの上にある素材全てが福島産となることが、究極の目標。」と語る横田理事長は、宿と生産者をつなぐことが、観光産業を中心とした地域振興に不可欠と考え、精力的に取り組んでいる。
 
地産地消イベント「会津・麗(うるわし)の食スタイル」の準備風景



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