第2部 多様性が織りなす中小企業の無限の可能性 

6.廃業に伴う費用の発生

 平成14年度『中小企業の動向に関する年次報告(2003年版中小企業白書)』においては、倒産に伴い不要設備の処分費用等が発生することを指摘した。こうした事情は倒産に限るものではなく、廃業においても当然、想定しうる。そしてもし、そうであれば、たとえ資産超過状態であっても債務の整理が進まない一つの理由となる。
 では、実際に廃業を決断した場合に、特別に費用が発生するのであろうか、発生するとすればどれくらいの費用なのであろうか。
 この点についてまず、どのような費用が必要であったのかを見てみると第2-3-85図のようになる。費用の多寡を別とすれば、廃業に当たって必要であったとする回答が最も多かったのは、廃業に伴う「登記や法手続の費用」である。これは、事業の廃業に当たっては個人事業であっても各方面に届出が必要であることの他、それらの手続に当たって税理士や行政書士、司法書士などに手続の代行を依頼していれば、その報酬が必要となることが関係していると思われる。また、従業員を雇用しており雇用保険や健康保険など社会保険の適用を受けていれば、その手続も必要となり社会保険労務士などに代行を依頼する場合もある17


17 行政書士や社会保険労務士の報酬額については、以前は各士業団体が報酬基準を示していたが、現在は廃止されている。
  なお、廃止前のある社会保険労務士会の基準表では労働・社会保険適用廃止手続の場合、被保険者数10人未満の事業所で80,000円(健康保険・厚生年金保険、労災保険・雇用保険)、10人以上の部分について1人増すごとに3,000円などとなっている。

 
第2-3-85図 廃業時に要した費用の内容
〜廃業にともなう手続の他、設備や在庫の処分に費用が必要であったという回答者が多い〜

第2-3-85図 廃業時に要した費用の内容〜廃業にともなう手続の他、設備や在庫の処分に費用が必要であったという回答者が多い〜
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 さらに、法人の場合には解散登記や清算結了登記に際して所定の費用が必要18であり、また手続を司法書士などに依頼した場合には、別途報酬が必要19となる。債務の整理を弁護士などに依頼した場合には、その報酬20も必要となる。こうしたことを踏まえると、費用として廃業に伴う「登記や法手続の費用」が最も多くなったのは予想される結果である。


18 株式会社の場合、会社の解散の登記に3万円、清算人の登記に9千円、清算結了の登記に2千円の登録免許税が必要となる。
19 社会保険労務士等と同様に報酬基準は廃止されているが、現在は5万円前後から会社の規模や手数に応じて増減額するとしている場合が多い。
20 日本弁護士連合会の報酬等基準規定によれば、事業者の任意整理事件の場合、着手金として50万円以上の他、終了時に配当原資に応じた報酬を受けるものとしている。(日本弁護士連合会ホームページより)

 次に多かったのが「設備の処分費用」である。事業で使用していた設備については、中古品として流通市場が存在しているものについては売却も可能であろう。しかし、流通市場が存在しない場合や汎用性の低い特殊な設備を利用している場合、また老朽化などが進んでいる場合には廃棄せざるを得ず、その廃棄のための費用が必要となっている実態が分かる。
 また、いわゆる閉店セールなどに代表されるような「在庫の原価割れ販売」を行ったとする回答も目立った。
 このように、事業を継続している間には必要ではなかった様々な費用が、廃業に伴って顕在化してくるわけである。
 では、廃業費用の多寡には、どのような要因が影響を与えているのであろうか。
 まず考えられるのが、事業規模による影響である。事業規模が大きくなれば、使用している設備も多くなり、また在庫等の資産も多くなると考えられることから、廃業費用は事業規模によって大きく異なると考えられる。そこで、廃業時の従業員企業規模と廃業費用の総額を見たのが、第2-3-86図である。これによれば、従業員規模が大きくなるほど廃業費用が高額になる傾向が見られ、規模が大きい企業ほど、撤退の費用面でのハードルが高いことが分かる。

 
第2-3-86図 廃業費用総額(廃業時の従業員規模別)
〜従業員規模が大きな企業ほど廃業費用も多くなる傾向にある〜

第2-3-86図 廃業費用総額(廃業時の従業員規模別)〜従業員規模が大きな企業ほど廃業費用も多くなる傾向にある〜
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 次に考えられるのが、業種による影響である。
 業種ごとに設備や在庫の多寡が異なると思われることから、廃業費用の総額も異なると考えられる。そこで業種別に廃業費用を見たのが第2-3-87図である。ここから分かるように、建設業において廃業費用が他業種に比べて顕著に低かった。その理由として、建設業では必要な時だけ、短期で設備を借用するレンタルが普及していることも一因と考えられる。例えば、建設機械の2002年度国内出荷金額を見ると内需の31.9%はリース・レンタル業向け21であり、建設機械の多くがリース・レンタルを通じて使用されていることがうかがわれる。また、経済産業省が平成14年に実施した「特定サービス産業実態調査報告書(物品賃貸業編)」を見ると、建設業においてリース・レンタルのうち特にレンタルが多用されている実態が明らかになる。すなわち、長期間の貸与を前提とするリース全体の年間契約高に土木・建設機械が占める割合は2.7%(平成14年)に過ぎないのに対して、短期間の貸与であるレンタルでは土木・建設機械がレンタル全体の年間売上高の57.1%(平成14年)を占めている。


21 (社)日本建設機械工業会ホームページより

 
第2-3-87図 業種と廃業費用の関係
〜廃業費用は業種ごとに明確な特徴は見出せなかった〜

第2-3-87図 業種と廃業費用の関係〜廃業費用は業種ごとに明確な特徴は見出せなかった〜
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 レンタルは、設備を必要な時だけ、低額の費用で調達可能であり初期投資が少なくて済むことや、不要になれば返却可能であることから、参入退出に関するコストの低廉化をもたらしている可能性がある。

 

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